債権トークンの税務処理は「売買型(交換課税)」と「預入型(持分振替)」の2つに分類される。課税判定の3軸(同種同量返還保証・別トークン受領・処分権移転)で判定すると「争いあり」であり、双方に学術的根拠がある。実務的には売買型ベースで差し支えない。ただし、NFT担保型では債権トークンの時価が不明なため売買型・預入型とも実質同じ処理(簿価振替)となり、方式の違いが影響するのは暗号資産担保型に限られる。
- 理由① 売買型は「中間段階で別トークン(cETH等)を受領しており、暗号資産の交換(譲渡)に該当する」という理論に基づく。リキッドステーキング・流動性提供・分割型債権トークンの交換課税と同一のロジックで整合し、損益計算ソフトとの親和性も高い。
- 理由② 預入型は「プロトコルのスマートコントラクトには処分権に係る権利の帰属主体になり得る者が存在しないため処分権が移転せず、課税イベントではない」という理論に基づく。泉絢也教授(東洋大学法学部、元国税庁)が流動性提供について示した見解と同一のロジックである。
- 条件 課税判定の3軸で「争いあり」であり、双方が条文構造上成立する。債権トークン固有の論点として、借入暗号資産の評価(FAQ3-1-8)と信用取引への転換がある。中編でNFT担保型の完全仕訳フロー(預入→借入→期末→返済→返還)と期末評価の詳細を扱う。
法人税法第22条第2項・第4項 / 泉絢也「DeFiにおける暗号資産等のトークンの移転と課税」税法学589号159頁以下
この記事でわかること
- 債権トークン(cETH・aToken等)の2類型(暗号資産担保型・NFT担保型)の構造
- 売買型(交換課税型)の仕訳(暗号資産担保型・NFT担保型それぞれ)
- 預入型(持分振替型)の仕訳と処分権移転の不存在という根拠
- 課税判定の3軸による整理(リキッドステーキング・流動性提供との比較)
- 借入暗号資産の評価原則と信用取引転換のロジック
- NFT担保型では売買型・預入型で実質同じ処理になる理由
注意:債権トークンの税務処理について、現時点で国税庁からの公式見解やアナウンスは存在しない。本記事の整理はカオーリア会計事務所による検討および学術文献に基づくものであり、税務調査において異なる見解が示される可能性がある。また、本記事は法人税法を前提に解説しているが、期末時価評価を除き、個人(所得税)の場合でも結論は概ね同様である。
債権トークンの構造と根本論点
【結論】債権トークンは、法人が暗号資産またはNFTをプロトコルに差し入れ、対価として受領するトークンである。担保が暗号資産かNFTかにより税務処理の実務的帰結が大きく異なる。暗号資産担保型では売買型・預入型で課税タイミングが分岐するが、NFT担保型では債権トークンの時価が不明なため両方式とも実質同じ処理となる。
暗号資産担保型(Compound cETH型)
ETH等の暗号資産をCompound・Aave等のプロトコルに差し入れ、cETH・aETH等の債権トークン(ERC-20)を受領する。債権トークンにはDEX等で時価が存在し得る。償還時には元本+利息相当が返還される。
NFT担保型
NFTをプロトコルに差し入れ、債権トークンを受領する。債権トークンを保有していると暗号資産(ETH等)を借入可能となる。借入を返済し、債権トークンを返却することでNFTが返還される。債権トークンの時価は通常不明である。
3つの根本論点
債権トークンの税務処理を決定するうえで、以下の3点を先に整理する必要がある。
- 差入時に課税するか否か(売買型か預入型か)
- 期末に何を評価対象とするか(法人のみ)
- 借入暗号資産をそのまま保有するか、売却して信用取引に転換するか
3つ目はLP・ステーキングにはない債権トークン固有の論点である。借入暗号資産は原則として期末評価しない(FAQ3-1-8)が、売却した場合のみ信用取引に転換し未決済建玉として管理する。借入暗号資産の評価原則と信用取引への転換の詳細は「借入の税務処理(前編)」および中編で解説する。
売買型(交換課税型)の整理
【結論】売買型は担保差入を「暗号資産と債権トークンの交換」とみなし、差入時に含み益を即時実現する。法人税法第22条第2項の条文構造上は明確であり、損益計算ソフトとの親和性も高い。実務的にはこちらをベースにしても差し支えない。ただし、NFT担保型では債権トークンの時価が不明なため、結局は簿価振替処理となり預入型と同じ結果になる。
暗号資産担保型の仕訳(売買型)
1ETH(取得原価150,000円、時価200,000円)を担保差入し、1cETH(時価180,000円)を取得した場合。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 債権トークン(cETH) | 180,000 | 暗号資産(ETH) | 150,000 |
| 暗号資産売却益 | 30,000 |
所得:+30,000円。ETHの含み益を供給時に実現する。cETHの取得価額は受領時時価180,000円となる。
NFT担保型の仕訳(売買型)
NFTアート(取得価額1,000,000円)をプロトコルに差し入れ、1nDOODLE(時価不明)を取得した場合。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 債権トークン(nDOODLE) | 1,000,000 | NFT | 1,000,000 |
所得:0。nDOODLEの時価が不明であるため、交換益を認識できない。NFTの取得原価をそのまま債権トークンの取得価額とする簿価振替処理となり、結果は預入型と同一である。
売買型の特徴
売買型ではETH→cETHという交換取引として処理する。法人税法第22条第2項の「資産の販売その他の取引」に該当すると解する立場である。条文構造との整合が明確であり、損益計算ソフトとの親和性も高い。ただし、債権トークンの時価を取得する必要がある。cETH等の市場流通型であれば時価取得は可能だが、NFT担保型では時価算定が困難であり、売買型を適用しても結局は簿価振替処理となる。
預入型(持分振替型)の整理
【結論】預入型は担保差入を「譲渡ではなく預入」と解し、供給時に課税しない。債権トークンは償還請求権の表章として簿価を引き継ぐ。泉絢也教授が流動性提供について示した「処分権に係る権利の帰属主体になり得る者が存在しない」という見解が、プロトコルのスマートコントラクトに対しても同様に適用される。ただし、法人の場合はプロトコルに預けた暗号資産が期末時価評価の対象となるため、預入型を採用しても期末の含み益課税は免れない(国税庁FAQ3-1-6の考え方と同様)。
暗号資産担保型の仕訳(預入型)
同一前提(1ETH、取得原価150,000円、時価200,000円)の場合。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 債権トークン(cETH) | 150,000 | 暗号資産(ETH) | 150,000 |
所得:0。簿価振替であり、差入時点では損益が発生しない。償還時に初めて損益が確定する。
NFT担保型の仕訳(預入型)
同一前提(NFTアート、取得価額1,000,000円)の場合。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 債権トークン(nDOODLE) | 1,000,000 | NFT | 1,000,000 |
所得:0。売買型のNFT担保型と仕訳・所得ともに完全に同一である。
NFT担保型は方式の違いが影響しない
NFT担保型では債権トークンの時価が不明であるため、売買型を採用しても交換益を認識できず、結局は簿価振替処理となる。売買型・預入型の違いが実務上影響するのは、債権トークンの時価が取得可能な暗号資産担保型に限られる。NFT担保型の完全な取引フロー(預入→借入→期末→返済→NFT返還)は中編で数値例付きで解説する。
預入型の期末評価【法人のみ】
預入型では供給時に課税しないが、法人の期末時価評価を回避できるわけではない。プロトコルに預けた暗号資産は「自己の計算において有する暗号資産」であり、ステーキングのロックアップ中の暗号資産が期末時価評価の対象となるのと同じロジックで、期末時点の暗号資産を時価評価する(国税庁FAQ3-1-6の考え方と同様)。個人(所得税)にはそもそも暗号資産の期末時価評価制度がないため、期末評価は不要である。各シナリオ別の期末時価評価の判定基準は「暗号資産法人の期末時価評価」で解説している
3軸による課税判定
【結論】債権トークンを課税判定の3軸で整理すると、①同種同量返還保証あり②別トークン受領あり③処分権移転は争いあり、となる。この構造はリキッドステーキング(stETH等)と同一であり、売買型・預入型の双方が成立する。
| 軸 | 債権トークン | 方向 |
|---|---|---|
| ①最終的な同種同量返還保証 | あり(元本部分。cETH→ETH+利息返還が前提) | 非課税方向 |
| ②中間段階での別トークン受領 | あり(cETH・aETH・nDOODLE等を受領) | 課税方向 |
| ③処分権の移転 | 争いあり(権利の帰属主体になり得る者が存在しない→泉教授のロジックでは移転しない) | 争い |
3軸中①は非課税方向、②は課税方向、③は争いありとなるため、売買型・預入型の双方が成立する。この構造はリキッドステーキング(stETH等)と同一であり、当事務所では②「別トークン受領」かつ「そのトークンに活発な独立市場が存在する」ことから、暗号資産担保型については安全策として交換課税で処理している。
他のDeFi取引との比較
| 取引 | ①最終同種同量 | ②別トークン受領 | ③処分権移転 | 帰結 |
|---|---|---|---|---|
| ステーキング預入 | あり | なし | なし | 非課税 |
| リキッドステーキング | あり | あり(stETH等) | 争いあり | 争いあり(安全策として交換課税) |
| 債権トークン | あり | あり(cETH等) | 争いあり | 争いあり(同上) |
| 流動性提供 | なし | あり(LPトークン) | 争いあり | 争いあり(売買型ベースOK) |
債権トークンはリキッドステーキングと3軸が完全に一致する。流動性提供は①が「なし」であるため、交換課税の根拠がより強い。課税判定の3軸の詳細は「DeFiの税金ガイド|課税タイミングと計算方法」を参照。
「貸付・借入型」を主軸にしない理由
【結論】第三の整理として「担保=貸付、債権トークン=借入」という構成も理論上は可能だが、3つの理由から主軸にしない。
第一に、担保は自由消費を前提とする典型的消費貸借ではなく、清算条件付拘束である。消費貸借と完全に同質とは言い難い。
第二に、貸付と借入を同時計上する場合、等価測定するか、どちらを時価評価するかで測定基準が不安定になる。
第三に、貸付暗号資産の評価、借入暗号資産の評価、相殺処理と、論点が過剰に増殖し実務安定性が低下する。
以上から、本シリーズでは売買型と預入型の2方式を比較対象とする。
両方式の比較と前編結論
【結論】課税判定の3軸で債権トークンは「争いあり」であり、売買型・預入型の双方に学術的根拠がある。実務的には売買型をベースとすることに差し支えはない。リキッドステーキング・流動性提供・分割型債権トークンの交換課税と同一のロジックで一貫した処理が可能である。ただし、NFT担保型では両方式とも実質同じ処理(簿価振替)となるため、方式の違いが影響するのは暗号資産担保型に限られる。
| 項目 | 売買型 | 預入型 |
|---|---|---|
| 理論的根拠 | 別トークン受領=交換(譲渡) | 処分権移転先の不存在=課税イベントではない(泉教授) |
| 暗号資産担保型の供給時課税 | あり(含み益実現) | なし(簿価振替) |
| NFT担保型の供給時課税 | なし(時価不明→簿価振替) | なし(簿価振替) |
| 他記事との整合 | 整合的(リキッドステーキング・流動性提供・分割型と同一ロジック) | 根拠が異なる(処分権論は固有の論理) |
| ソフト整合性 | 高い(売買処理前提) | 低い(手動調整要) |
| 期末課税(法人) | 供給時に利確済み→追加影響小 | プロトコルに預けた暗号資産を時価評価→期末課税あり |
| 最終損益 | 一致 | 一致 |
当事務所の実務的スタンスとしては、売買型をベースとすることに差し支えはないと考えている。売買型は損益計算ソフトとの親和性が高く、リキッドステーキング・流動性提供・分割型債権トークン(PT/YT)の交換課税と同一のロジックで一貫した処理が可能である。預入型は泉教授の処分権論に学術的根拠があるものの、ソフト上は手動調整が必要となるケースが多い。ただし、国税庁の公式見解が出ていない以上、どちらの方式も「これが正解」とは断定できない。
NFT担保型では売買型・預入型とも簿価振替処理となり実質的に差がないため、方式選択の問題は暗号資産担保型に限定される。なお、同一事業年度内に供給と償還の両方が完了する場合は、いずれの方式でも当期の課税所得は同一となり、方式の違いが実質的に影響するのは期をまたいで債権トークンを保有する場合に限られる。
中編ではNFT担保型の完全仕訳フロー(預入→借入→期末→返済→NFT返還)と期末評価の詳細を扱い、後編で暗号資産担保型の償還・売却の確定仕訳と方式選択の最終基準を示す。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 債権トークン(cETH・aToken等)は「暗号資産」ですか?
暗号資産に該当する場合が多い。資金決済法上の定義を満たすERC-20型トークンであれば暗号資産に分類される。ただしNFT型の債権トークンは暗号資産の定義に該当しない場合がある。分類により期末評価の要否が異なる。
Q2. 流動性提供(LP)と債権トークンの税務処理は同じですか?
理論構造は共通するが、3軸の判定に違いがある。いずれも「売買型か預入型か」の二択である点は同じだが、3軸の①「最終的な同種同量返還保証」において、債権トークンは「あり(元本部分)」、流動性提供は「なし(インパーマネントロスで中身が変わる)」という違いがある。債権トークンは3軸中2つが非課税方向だが、流動性提供は2つが課税方向であり、流動性提供のほうが交換課税の根拠が強い。LPの理論整理は「流動性提供(自己発行)の税務処理(前編)」を参照。
Q3. 売買型と預入型のどちらが「正解」ですか?
現行法令上は両方とも条文構造上成立する。課税判定の3軸で「争いあり」であり、双方に学術的根拠がある。実務的には売買型がリキッドステーキング・流動性提供・分割型債権トークンとの一貫性やソフト親和性の面で扱いやすい。いずれも国税庁の公式見解ではない。
Q4. NFT担保型で売買型を選ぶ意味はありますか?
実質的にはない。NFT担保型では債権トークンの時価が不明であるため、売買型を適用しても交換益を認識できず、簿価振替処理となる。預入型と結果が同一であるため、方式選択の実益は暗号資産担保型に限られる。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 法人税法第22条第2項(益金の額)
- 法人税法第22条第4項(資産の評価益は原則益金不算入)
- 法人税法第61条の5(暗号資産の期末評価)
- 法人税法施行令第118条の7(暗号資産の期末評価方法)
- 国税庁FAQ3-1-6(ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価)
- 国税庁FAQ3-1-8(借入暗号資産の評価)
- 泉絢也「DeFiにおける暗号資産等のトークンの移転と課税」税法学589号159頁以下
- 泉絢也=SUIKA311『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務』(中央経済社、第2版)333-336頁
