借入の税務処理(前編)|取得原価の決定と基本仕訳

借入の税務処理とは、暗号資産(仮想通貨)を借り入れた場合の、法人税務上の会計処理である。借入時の取得原価の決定方法、期末時価評価の要否、返済時の損益計算が主な論点となる。

結論

借入時の取得原価は「借入時の時価」で資産・負債を同額計上する。借入暗号資産をそのまま保有している場合、期末評価損益は益金・損金に算入しない。

  • 理由① 借入暗号資産は借入直後から自由に処分できる。120,000円相当のUSDCを手元で使える状態にあり、取得原価は客観的時価で確定させるのが経済実態に合致する。取得原価を0円とするB方式では、売却時に全額が益金となり課税タイミングが歪む。
  • 理由② 借入暗号資産は返還義務を負う金銭債務類似の性質であり、価格変動リスクを法人が負うとはいえない。「自己の計算において有する」に該当しないため、期末の評価損益は税務上の所得に算入しない。会計上評価替えした場合は別表四で調整する。
  • 条件 借入暗号資産を他の暗号資産に交換した場合は、単純な借入状態ではなく「信用取引」に転化する。未決済ポジションが発生し、期末みなし決済の対象となるため、上記の「評価しない」原則は適用されなくなる。

法人税法第22条第2項・第4項 / 国税庁FAQ3-1-8・FAQ3-1-14

目次

この記事でわかること

  • DeFi借入時の取得原価の決め方(A方式とB方式の比較)
  • 借入暗号資産の期末時価評価の要否とその根拠
  • 返済時の仕訳と損益計算の全ステップ
  • 利息支払の税務処理(暗号資産で支払う場合の売却損益)
  • 借入暗号資産を他の暗号資産に交換した場合の信用取引化

DeFi借入時の取得原価|A方式(時価)とB方式(0円)

【結論】借入時の取得原価は、借入時の時価を用いるA方式が推奨される。経済実態としてDEXから借り入れた暗号資産は即座に自由処分可能であり、取得原価は客観的時価で確定させる必要がある(法人税法第22条第2項)。

DeFiで暗号資産を借り入れた場合、最初の論点は「借入暗号資産(資産側)と借入暗号資産(負債側)の帳簿価額をいくらで計上するか」である。実務上よく出るのは次の2方式である。

A方式:取得原価=借入時時価(推奨)

借入時点で「資産(暗号資産)」と「返済義務(同種同量)」が同額で発生しているという整理に基づく。

以下の共通前提で仕訳を確認する。

前提条件

  • 株式会社甲(法人)
  • 借入:1,000USDC
  • 借入時の時価:120円/USDC(120,000円)
  • 期末の時価:180円/USDC(180,000円)
  • 返済時の時価:160円/USDC(160,000円)

A方式の借入時仕訳

借方金額貸方金額
暗号資産(USDC)120,000借入暗号資産120,000

所得:0(資産・負債が同額で発生)

A方式の根拠は以下のとおりである。

(1)経済実態との整合

借入暗号資産は借入直後から自由に処分できる。120,000円相当のUSDCを手元で自由に使える状態にあり、取得原価は客観的時価で計上するのが経済実態に合致する。

(2)法人税法第22条第2項

借入そのものは益金を生じないが、将来の譲渡時や返済時に損益計算を行うための基礎(取得原価)を確定させる必要がある。時価を基準にすることで、各期間の損益が過度にブレない安定的な設計となる。

B方式:取得原価=0円

「借入は自分の資産増加ではない」という発想を徹底すると、資産・負債ともに0円で計上する方式になる。

B方式の借入時仕訳

借方金額貸方金額
暗号資産(USDC)0借入暗号資産0

所得:0

システム実装は楽だが、以下の問題がある。

B方式の問題点

  1. 実質価値との乖離 — 実際には120,000円相当のUSDCを自由に使える状態であり、帳簿上0円は実態説明力が弱い
  2. 売却時に過大益金 — 借入USDCを150円で何かに使った場合、A方式なら差額30,000円の売却益だが、B方式では150,000円が全額益金となる。課税タイミングが歪む
  3. 期末評価のピーキー問題 — B方式で資産側のみ時価評価すると180,000円の評価益が計上される。A方式なら60,000円で済む。損益の振れ幅が極端に大きくなる
  4. 信用取引整理との不整合 — 借入暗号資産を他の暗号資産に交換した場合の信用取引処理(後編で解説)と論理的に接続できない

結論として、A方式(取得原価=借入時時価)を採用する。 以降の仕訳はすべてA方式で記述する。

期末時価評価の要否|「借入のみ保有」は評価しない

【結論】借入暗号資産をそのまま保有している場合、税務上は原則として評価損益を益金・損金に算入しない。返還を要する借入暗号資産は価格変動リスクを法人が負うとはいえず、「自己の計算において有する」とは認められない(国税庁FAQ3-1-8、法人税法第61条)。

期末を迎えた時点で、借入暗号資産をそのまま保有し続けている場合の処理を確認する。

税務上の原則:評価損益は算入しない

国税庁FAQ3-1-8は、借入暗号資産について以下のように整理している。

  • 借入暗号資産の処分権を有するため「有する」に該当しうる
  • しかし返還を要するため、価格変動リスクを法人が負わない
  • よって「自己の計算において有する」とはいえない
  • 時価法による評価額の算定は必要だが、評価損益の益金・損金算入は不要

借入暗号資産は同種同量の返還義務を負う金銭債務類似の性質であり、未実現の価格変動を損益に反映する実現主義の趣旨からも、期末課税は行わないことが整合的である(法人税法第22条第4項)。

会計上の処理と税務調整

会計上は資産・負債ともに時価評価を行い、P/Lの表示を整えるケースがある。

会計上の期末仕訳(参考)

借方金額貸方金額
暗号資産(USDC)60,000暗号資産評価益60,000
暗号資産評価損60,000借入暗号資産60,000

資産の評価益60,000円(180,000−120,000)と負債の評価損60,000円が相殺され、会計上の損益は0となる。

ただし税務上は借入側の評価損益を算入しない設計であるため、会計上で評価替えを行った場合は別表四で加算・減算の調整が必要となる。

状態別の期末処理まとめ

借入暗号資産の状態税務上の期末評価
借入したまま保有評価損益は算入しない
借入後に他の暗号資産に交換済み信用取引として評価対象(後編で解説)

返済時の仕訳|元本返済と利息支払

【結論】元本返済は資産と負債の対応消去で残高をゼロにする。利息を暗号資産で支払う場合、購入→支払の過程で暗号資産の譲渡損益が発生する(法人税法第22条第2項)。

元本返済(1,000USDCを返済、返済時の時価160円)

A方式では借入時に120,000円で資産・負債を計上している。返済時には資産と借入暗号資産を対応消去し、残高をゼロにする。

返済で手放すUSDCの時価は160,000円(160円×1,000USDC)だが、帳簿上は借入時の120,000円で計上されている。この差額40,000円の取扱いがポイントとなる。

元本返済の整理

借入暗号資産(負債)120,000円と暗号資産(資産)120,000円を同時に消去する。返済時の時価との差額は、借入暗号資産の評価問題であり、FAQ3-1-8に基づいて損益算入しない

なお、返済前に期末評価で会計上の時価調整を行っている場合は、洗替後に返済仕訳を行う。洗替の仕訳は期末仕訳の逆仕訳(資産側▲60,000・負債側+60,000)で、期首損益を中立化する通常の処理である。

利息支払(10USDCを日本円で購入して支払)

利息の前提条件は以下のとおりである。

  • 利息:10USDC
  • 利息用USDC購入時の時価:100円/USDC(購入原価1,000円)
  • 利息支払時の時価:160円/USDC(支払額1,600円)

利息支払は「USDCの購入」と「USDCの支払」の2段階で処理する。

ステップ1:利息用USDCを購入

借方金額貸方金額
暗号資産(USDC)1,000現預金1,000

ステップ2:USDCで利息を支払

借方金額貸方金額
暗号資産支払利息1,600暗号資産(USDC)1,000
暗号資産売却益600

暗号資産で利息を支払う場合、購入時の取得原価1,000円と支払時の時価1,600円の差額600円が暗号資産の譲渡損益として発生する。契約上で利息と明確化されていれば、1,600円を支払利息として損金算入できる。

借入暗号資産を他の暗号資産に交換した場合

【結論】借入暗号資産を他の暗号資産に交換した時点で、単純な借入状態ではなく「信用取引」状態に転化する。その結果、未決済ポジションが発生し、期末時価評価の対象となる(国税庁FAQ3-1-14)。

この論点は実務上もっとも誤解が多い部分であり、後編で別通貨への交換の全ステップ仕訳を解説する。ここでは基本構造のみ確認する。

なぜ信用取引になるのか

借入暗号資産をそのまま保有している場合は、同種同量の返還義務のみが存在する。しかし、借入暗号資産を別の暗号資産に交換すると状況が変わる。

  • 借入した暗号資産は消滅(交換で手放した)
  • 別の暗号資産を保有
  • 返済義務は残存

この状態は、価格変動差額だけが純粋な損益要素となる構造であり、経済的に信用取引と同質である。

具体例

借入した1,000USDC(120円)をETHに交換(交換時150円)した場合:

  • 交換時の譲渡益:(150−120)×1,000=30,000円
  • 以後、USDCの返済義務が残るため未決済ポジションが発生
  • 期末にUSDCが180円になれば、返済義務の増加分が評価対象

信用取引への転化後の期末処理は以下のとおりである。

借方金額貸方金額
信用取引評価損益評価差額未決済差金評価差額

なお、この「借入→交換→信用取引化」の詳細な仕訳と計算例はDeFi借入の税務処理(後編)|借入暗号資産を別通貨に交換した場合で解説する。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

実務上の注意点

【結論】DeFi借入の税務処理では、①借入ロットを個別管理すること、②借換時の新旧借入の分離、③同族間取引の時価乖離リスクの3点が特に重要である。

担保の預入は課税イベントではない

DeFiでは担保(証拠金)を差し入れて借入を行う。この担保預入は所有権が移転しない預託であり、課税イベントに該当しない。返却時に時価と取得原価の差額が生じた場合は、通常の暗号資産の譲渡損益として処理する。

借入ロットは個別管理する

複数のDeFiプロトコルから借入を行った場合、借入ごとにロットを分けて管理する。特に借換(別DEXへの乗り換え)を行った場合は、旧借入の返済と新借入の発生を明確に分離する。ここを曖昧にすると、借入由来の差額が混在して後から整合が取れなくなる。

DeFi特有の注意点

DEXの借入は取引履歴の形式がプロトコルごとに異なる。借入表示があるかどうかが処理の出発点になるため、利用しているプロトコルのトランザクション記録を確認すること。

同族間取引の時価乖離リスク

役員や関連会社との間で暗号資産の貸借を行う場合、時価と乖離した条件であれば寄附金・受贈益のリスクがある。利息についても、過大利息は損金否認の対象となりうる。

よくある質問(FAQ)

Q1. DeFiで暗号資産を借りた時点で課税されますか?

されない。 借入は資産と同額の返済義務が同時に発生するため、所得は0である(法人税法第22条第2項)。取得原価は借入時の時価で計上する。

Q2. 借入暗号資産は期末に時価評価する必要がありますか?

そのまま保有している場合、税務上は評価損益を益金・損金に算入しない。 返還を要する借入暗号資産は「自己の計算において有する」とはいえないため、評価課税の対象外となる(国税庁FAQ3-1-8)。

Q3. 借入したUSDCをETHに交換した場合はどうなりますか?

交換した時点で信用取引に転化する。 借入暗号資産を別の暗号資産に交換すると、返済義務と保有資産の価格変動差額が損益要素となり、期末にみなし決済損益の計上が必要になる(国税庁FAQ3-1-14)。詳細は後編で解説する。

Q4. 取得原価をA方式ではなくB方式(0円)で処理してしまった場合、修正は必要ですか?

累計所得は最終的に一致するが、各期の損益が極端にブレるため修正が望ましい。 B方式では売却時に過大な益金が計上され、課税タイミングの歪みが生じる。特に期末評価では損益の振れ幅が著しく大きくなる。

Q5. DeFiの借入利息は損金に算入できますか?

できる。 暗号資産で利息を支払う場合、購入→支払の過程で譲渡損益が発生する点に注意が必要である。契約上で利息と明確化されていれば、支払時の時価を損金算入できる(法人税法第22条第3項)。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

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関係法令

  • 法人税法第22条第2項(益金の額)
  • 法人税法第22条第3項(損金の額)
  • 法人税法第22条第4項(資産の評価益は原則益金不算入)
  • 法人税法第61条(暗号資産の評価)
  • 法人税法施行令第118条の7(暗号資産の期末評価方法)
  • 国税庁FAQ3-1-8(借入暗号資産の期末時価評価)
  • 国税庁FAQ3-1-14(暗号資産信用取引に係るみなし決済損益額)
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