法人が期末に保有する暗号資産は、活発な市場が存在し、かつ特定譲渡制限付・特定自己発行に該当しない場合、時価法により評価した金額と帳簿価額との差額を益金または損金に算入する。DEX上の暗号資産、ステーキングでロックアップ中の暗号資産、貸付中の暗号資産もこの対象となる。
- 理由① DEXはAMM(自動マーケットメイカー)により交換比率が公表され随時交換取引が可能であるため、市場の範囲に含まれる。3要件を満たせば期末時価評価の対象となる。
- 理由② ステーキングのロックアップ中でも報酬を得ることが可能であり、価格変動リスクを法人が負うため「自己の計算において有する」暗号資産に該当する。貸付中の暗号資産も同様の理由で時価評価の対象となる。
- 条件 借入暗号資産は返還義務を負い価格変動リスクを法人が負わないため、「自己の計算において有する」とはいえず、評価損益の益金・損金算入は不要である。
法人税法第61条第2項 / 法人税法施行令第118条の7
この記事でわかること
- DEX(分散型取引所)の暗号資産が時価評価対象となる理由
- ステーキングのロックアップ中でも時価評価が必要な理由
- 貸付暗号資産と借入暗号資産の期末評価の違い
- 暗号資産FX未決済ポジションの期末処理と洗替
- 借入暗号資産の帳簿計上方法(2パターン)
期末時価評価の対象判定
【結論】期末時価評価の対象は、活発な市場が存在する暗号資産のうち、特定譲渡制限付暗号資産と特定自己発行暗号資産を除いたものである(法人税法第61条第2項、法人税法施行令第118条の7)。
4分類の全体像・活発な市場の3要件・時価評価金額の計算方法は「法人の暗号資産税務ガイド|期末時価評価と4分類」を参照。
本記事では、DEX・ステーキング・貸付・借入など、個別の取引形態ごとに時価評価の対象となるかの判定と実務上の論点を解説する。
DEX(分散型取引所)の暗号資産
【結論】DEXで取引される暗号資産も、活発な市場が存在する暗号資産に該当しうる。DEXは自動マーケットメイカー(AMM)により交換比率が公表され随時交換取引が可能であるため、市場の範囲に含まれる(国税庁FAQ 3-1-5)。
DEXには中央管理者が存在しないが、AMMにより現時点の暗号資産の交換比率が明らかにされ、その交換比率に基づき随時交換取引が行われている。このため、法人税における「市場」の範囲に含まれると解される。
DEX上の暗号資産が期末時価評価の対象となるための条件は以下のとおり。
- DEXで公表される交換比率が、他の暗号資産取引所で公表される交換比率と著しく異ならないこと
- DEXにおいて継続的に暗号資産の交換取引が成立していること
- 活発な市場の3要件(①②③)をすべて満たすこと
DEXの時価評価金額の計算
DEXの場合、通常は以下の算式で期末時価評価金額を計算する。
期末時価評価金額 = DEXが公表した事業年度終了日の最終交換比率 × 他の活発な市場が存在する暗号資産の最終売買価格 × 数量
例えば、トークンAがDEX上でETH建てのみで取引されている場合、事業年度終了日のトークンA/ETH交換比率に、ETHの最終売買価格(円建て)を乗じて評価金額を算出する。
注意:事業年度終了の日において、たまたま取引が成立しておらず公表された「最終交換比率」がない場合には、同日前の最も近い日における最終交換比率を使用する(国税庁FAQ 3-1-5 注2)。
ステーキングのロックアップと期末時価評価
【結論】ステーキングのためにロックアップした暗号資産は、期末時価評価の対象である。ロックアップ中でもステーキング報酬を得ることが可能であり、価格変動リスクを法人が負うため、自己の計算において暗号資産を有すると判断される(国税庁FAQ 3-1-6)。
ロックアップにより物理的に譲渡できない状態にあっても、以下の理由から「自己の計算において有する」と認められ、時価評価が必要となる。
- ロックアップ期間中にステーキング報酬を得ることが可能である
- 保有する暗号資産の将来的な価格変動リスク等を法人が負っている
なお、ステーキングのロックアップは、特定譲渡制限付暗号資産の「移転制限」(JVCEA規則に基づくもの)には該当しない。ブロックチェーン上での移転自体は技術的に制限されていない場合も多く、JVCEA規則に基づく制限とは性質が異なるためである。
ロックアップ中で譲渡等できない暗号資産を期末時価評価課税の対象とすることに対しては、納税資金の面から納税者に酷であるとの指摘もある。ただし、あらかじめ特定譲渡制限付暗号資産の要件を満たした上でステーキングを行えば、時価評価対象外を維持しつつ報酬を得ることが可能である。詳細は「特定譲渡制限付暗号資産とは|時価評価除外の要件」を参照。
貸付暗号資産と借入暗号資産の期末評価
【結論】貸付中の暗号資産は期末時価評価の対象であり、評価損益の計上が必要である。一方、借入暗号資産は期末時価評価の対象とはなりうるが、評価損益を益金・損金に算入する必要はない(国税庁FAQ 3-1-7、3-1-8)。
貸付暗号資産
他者に貸し付けている暗号資産は、以下の理由から「自己の計算において有する」と判断される。
- 貸付期間中に使用料を得ることができる
- 将来的な価格変動リスク等を法人が負っている
したがって、活発な市場が存在し、特定譲渡制限付暗号資産・特定自己発行暗号資産に該当しない限り、期末時価評価の対象となり、評価損益の計上が必要である。
借入暗号資産
他者から借り入れた暗号資産は、処分権を有するため法人が「有する」に該当しうるが、返還義務を負っており価格変動リスクを法人が負わないため、「自己の計算において有する」とはいえない。
結論として、時価法による評価額の算定自体は必要であるが、評価損益の益金・損金への算入は不要である。
| 保有形態 | 時価評価対象 | 評価損益の計上 |
|---|---|---|
| 通常保有 | ○ | 必要 |
| ステーキング(ロックアップ中) | ○ | 必要 |
| 貸付中 | ○ | 必要 |
| 借入中 | △(対象とはなりうる) | 不要 |
なお、借入暗号資産を譲渡した場合は暗号資産信用取引に該当し、事業年度終了時までに買い戻していなければみなし決済損益額の計上が必要となる。
実務上の注意点
【結論】暗号資産信用取引および暗号資産FXの未決済ポジションも期末評価の対象であり、それぞれの根拠規定に基づきみなし決済損益を計上した上で翌期首に洗替処理を行う必要がある。また、借入暗号資産の帳簿計上方法には実務上2つのパターンがあり、選択により譲渡原価計算と期末時価評価の損益額が異なる点に注意が必要である。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の法人税務を専門の税理士に依頼する」をご覧ください。
暗号資産信用取引及び暗号資産FXの未決済ポジション
法人が期末時点で未決済のポジションを保有している場合、それぞれ以下の方法により期末評価を行い、みなし決済損益を計上する。
- 暗号資産信用取引(現物の借入れを伴う取引):未決済の暗号資産の数量に期末時の時価評価金額を乗じた金額と、売付け・買付けに係る対価の額との差額をみなし決済損益として計上する(法人税法第61条第7項)。
- 暗号資産FX(差金決済取引):デリバティブ取引として、期末において決済したものとみなして算出した利益・損失の額をみなし決済損益として計上する(法人税法第61条の5第1項)。
当期末に計上したみなし決済損益額は、翌期首に洗替処理を行う。具体的には、前期末に評価益を計上した場合は翌期首に同額の評価損を、評価損を計上した場合は翌期首に同額の評価益を計上する。
実務上の課題として、未決済ポジションの期末時点の含み損益がわかる資料を取引所から取得できるケースは稀である。期末時点での未決済ポジションの含み損益を確認できる資料(取引画面のスクリーンショット等)を事前に取得しておく必要がある。
借入暗号資産の帳簿計上方法
借入暗号資産の帳簿価額をいくらにするかについて、実務上は2つの方法がある。
| 方法 | 帳簿価額 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| パターンA | 借入時の時価 | 帳簿上に借入暗号資産の存在を表現可能。期末評価損益が穏やかになりやすい | — |
| パターンB | 0円(取得原価なし) | — | 帳簿上で借入暗号資産の存在を確認できない。借入暗号資産で他のトークンを購入した場合に全額が利益計上される |
パターンA(借入時の時価を帳簿価額とする方法)は、企業会計基準委員会の実務対応報告第38号「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」の考え方に沿うものである。税務上の観点からも、パターンBを採用した場合は借入暗号資産を用いて他の暗号資産を購入(交換)した際に譲渡原価が0円となり、売却金額の全額が利益として計上される等、法人税法上の譲渡原価計算(移動平均法等)と実態が著しく乖離する税務リスクがある。譲渡原価を適正に計算する観点からも、パターンAの採用が強く推奨される。
よくある質問(FAQ)
Q1. DEXでしか取引されていないトークンも期末時価評価の対象になりますか?
対象となりうる。DEXは自動マーケットメイカー(AMM)により交換比率が公表される市場であり、活発な市場の3要件を満たせば期末時価評価の対象となる(国税庁FAQ 3-1-5)。
Q2. ステーキングで引き出せない状態の暗号資産も時価評価が必要ですか?
必要である。ロックアップ中でもステーキング報酬を得ることが可能であり、価格変動リスクを法人が負うため、自己の計算において有するものとして時価評価の対象となる(国税庁FAQ 3-1-6)。
Q3. 他社から借り入れた暗号資産の評価損益は益金・損金に算入する必要がありますか?
算入する必要はない。借入暗号資産は返還義務を負い、価格変動リスクを法人が負わないため、自己の計算において有するとはいえず、評価損益の益金・損金算入は不要である(国税庁FAQ 3-1-8)。
Q4. 貸し付けている暗号資産は時価評価の対象外になりますか?
対象外にならない。貸付期間中に使用料を得ることができ、価格変動リスクを法人が負うため、自己の計算において有するものとして時価評価の対象となる(国税庁FAQ 3-1-7)。
Q5. 現物の暗号資産の期末時価評価損益は翌期にどう処理しますか?
翌期首に洗替処理を行う。前期末に計上した評価損益額と同額を、反対の損益として翌期首に計上する。評価益を計上していた場合は評価損を、評価損を計上していた場合は評価益を翌期首に計上する(法人税法施行令第118条の10)。なお、暗号資産信用取引の洗替は施行令第118条の12、暗号資産FX(デリバティブ)の洗替は施行令第120条がそれぞれ根拠となる。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の法人税務を専門の税理士に依頼する」をご覧ください。
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関係法令
- 法人税法第61条第2項・第3項(暗号資産の期末時価評価)
- 法人税法第61条第7項(暗号資産信用取引のみなし決済)
- 法人税法第61条第10項(洗替処理)
- 法人税法第61条の5第1項(デリバティブ取引のみなし決済)
- 法人税法施行令第118条の7(市場暗号資産等の範囲・4分類)
- 法人税法施行令第118条の8(時価評価金額の計算)
- 法人税法施行令第118条の10(現物暗号資産の洗替処理)
- 法人税法施行令第118条の12(暗号資産信用取引のみなし決済損益額・洗替処理)
- 法人税法施行令第120条(デリバティブ取引のみなし決済損益額・洗替処理)
- 企業会計基準委員会 実務対応報告第38号(暗号資産の会計処理)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(法人税関係)」(FAQ)3-1-3〜3-1-8、3-1-12
