法人の暗号資産信用取引は、決済時の損益計上に加え、期末に未決済ポジションがあれば「みなし決済損益額」の計上と翌期の洗替処理が必要となる。
- 理由① 決済時は売付価額と買付価額の差額を損益計上する。ここまでは個人と同じだが、法人は期末時点の未決済ポジションについて「その時点で決済したとみなす」損益額の計上が義務づけられている。含み益・含み損の両方が期末に強制認識される。
- 理由② みなし決済損益額は翌事業年度の期首に洗替処理(前期計上額の反対仕訳)を行う。実際には決済していないため、毎期末の計上と翌期首の戻入れが繰り返される構造であり、経理処理の負担と資金繰りへの影響を理解しておく必要がある。
- 条件 暗号資産FX・先物取引は信用取引ではなく「デリバティブ取引」に該当し、適用条文が異なる。ただし期末のみなし決済・洗替処理の基本構造は同じである。取引の法的分類を誤ると申告書の記載箇所や別表の選択を間違えるため、信用取引とデリバティブ取引の区別が前提となる。
法人税法第61条 / 法人税法施行令第118条の12
この記事でわかること
- 法人の暗号資産信用取引における損益の計算方法と計上時期
- 期末未決済ポジションの「みなし決済損益額」の計算式と具体例
- 翌期首の洗替処理の方法
- 現引き・現渡しによる決済の課税関係
- 両建てポジションを用いた場合の実務上の注意点
信用取引の損益計算と計上時期
【結論】暗号資産信用取引の損益は「売付価額 − 買付価額」で計算し、譲渡原価は個別法による。計上時期は決済の約定日であるが、信用売り→買付け決済の場合は決済の買付け契約日となる(法人税法第61条、法人税法施行規則第26条の9、法人税基本通達2-1-21の14)。
暗号資産信用取引とは、暗号資産交換業者から暗号資産または金銭の貸付け(信用の供与)を受けて行う暗号資産の売買である。手持ちの資金以上の取引が可能になる点は暗号資産FXと似ているが、信用取引は実際に暗号資産の現物を借りて売買する点が異なる。暗号資産FX(差金決済取引)は現物の受渡しを伴わず差額のみを決済するデリバティブ取引であり、税務上の適用条文も異なる(信用取引=法人税法第61条、FX=法人税法第61条の5)。
損益の計算方法
暗号資産信用取引の損益は以下のとおり計算する。
| 取引パターン | 計算式 |
|---|---|
| 信用売り(売建) | 売付価額 − 買付価額(決済時) |
| 信用買い(買建) | 売付価額(決済時) − 買付価額 |
売付価額の範囲
売付価額には、暗号資産交換業者から支払を受ける金利に相当する額を含める。また、継続適用を条件として、金利相当額を発生に応じて収益又は費用として益金又は損金に算入することも可能である(売買委託手数料は除く)。
具体例:信用売りの決済
| 日付 | 取引内容 |
|---|---|
| 2022年8月1日 | 300万円を証拠金として預け入れ。2BTC(1BTC=300万円)を600万円で売付け |
| 2023年1月1日 | 2BTC(1BTC=200万円)を400万円で買付け、返済 |
(300万円 × 2BTC)−(200万円 × 2BTC)= 200万円
売付価額:600万円 / 買付価額:400万円
具体例:信用買いの決済
| 日付 | 取引内容 |
|---|---|
| 2023年1月1日 | 200万円を証拠金として預け入れ、2BTC(1BTC=200万円)を400万円で買付け |
| 2023年2月1日 | 2BTC(1BTC=300万円)を600万円で売付け、返済 |
(300万円 × 2BTC)−(200万円 × 2BTC)= 200万円
期末未決済ポジションのみなし決済損益額
【結論】事業年度終了時に未決済の信用取引がある場合、期末時点で決済したものとみなしてみなし決済損益額を計算し、益金又は損金に算入する。翌事業年度の期首に洗替処理(逆仕訳)を行う(法人税法第61条第7項、法人税法施行令第118条の12)。
計算式
| ポジション | みなし決済損益額の計算式 |
|---|---|
| 売りポジション(売建) | 売付けに係る対価の額 −(期末時価評価額 × 数量) |
| 買いポジション(買建) | (期末時価評価額 × 数量)− 買付けに係る対価の額 |
具体例:売りポジションの期末評価
(300万円 × 2BTC)−(380万円 × 2BTC)= △160万円
期末に160万円を損金算入し、翌事業年度の期首に160万円を益金算入する(洗替処理)。
具体例:買いポジションの期末評価
(380万円 × 2BTC)−(200万円 × 2BTC)= 360万円
期末に360万円を益金算入し、翌事業年度の期首に360万円を損金算入する(洗替処理)。
現引き・現渡しによる決済
【結論】現引きと現渡しは処理が異なる。現引き(信用買いの現物受取)は取得時の暗号資産の時価と買付け対価の差額を益金又は損金に算入する(法人税法第61条第9項)。現渡し(信用売りの現物引渡し)は売付け対価の額から引き渡した手持ちの暗号資産の帳簿価額(譲渡原価)を差し引いた金額を譲渡損益として認識し、決済に係る約定が成立した日に計上する(法人税基本通達2-1-21の14)。
現引きとは、信用買い(借入資金で暗号資産を購入)したポジションを差金決済せず、代金を支払って暗号資産の現物を実際に受け取ることで決済する方法である。現渡しとは、信用売り(借りた暗号資産を売却)したポジションを差金決済せず、手持ちの暗号資産の現物を引き渡すことで決済する方法である。
| 決済方法 | 損益の計算 | 根拠 |
|---|---|---|
| 現引き(信用買いの現物受取) | 暗号資産の時価 − 買付け対価の額 | 法人税法第61条第9項 |
| 現渡し(信用売りの現物引渡し) | 売付け対価の額 − 引渡した暗号資産の帳簿価額(譲渡原価) | 法人税基本通達2-1-21の14 |
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
実務上の注意点
【結論】暗号資産の信用取引を行う法人は、①期末未決済ポジションの含み損益資料の取得、②証拠金の会計処理方法の選択、③両建てポジションの有無確認の3点が重要である(国税庁FAQ 3-1-12〜14)。
期末時点で未決済ポジションがある場合、含み損益を正確に把握するため、取引画面のスクリーンショット等の資料を取得する必要がある。
信用取引とデリバティブ取引の区別
暗号資産信用取引は法人税法第61条の適用対象であり、暗号資産FX取引・先物取引は法人税法第61条の5のデリバティブ取引に該当する。いずれも期末未決済ポジションについてみなし決済損益額を算出し、翌期に洗替処理を行う点は共通する。
レバレッジトークンの取扱い
レバレッジトークンとは、特定の暗号資産の価格変動に対して2倍・3倍などのレバレッジをかけた値動きをするよう設計されたトークンである。証拠金を預けてポジションを建てる信用取引やFXとは異なり、トークン自体を現物として売買する形式をとる。
レバレッジトークンが資金決済法上の暗号資産に該当するかは議論があるが、雑所得に該当する可能性が高く、暗号資産との損益通算が実務上行われることが多い。
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産の信用取引とFX取引は同じですか?
異なる。暗号資産信用取引は法人税法第61条、暗号資産FX・先物取引は法人税法第61条の5のデリバティブ取引である(国税庁FAQ 3-1-12)。
Q2. 強制決済(ロスカット)はどう処理しますか?
(200万円 × 2BTC)−(300万円 × 2BTC)= △200万円
通常の決済と同様に損益を認識する。
Q3. みなし決済損益額を計上した翌期に決済した場合は?
二重計上にはならない。翌期首に洗替処理を行うため、実際の決済時には正しい損益のみが計上される(法人税法施行令第118条の12第1項)。
Q4. 法人の信用取引損失は他所得と通算できますか?
通算できる。法人税では所得区分がなく、全所得を合算して課税所得を計算する(法人税法第22条)。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
関連記事・サービスページ
関連記事
専門の税理士に依頼する場合
暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 法人税法第22条(所得の金額の計算)
- 法人税法第61条(暗号資産信用取引)
- 法人税法第61条第8項・第10項
- 法人税法第61条の5(デリバティブ取引)
- 法人税法施行令第118条の6、第118条の12
- 法人税法施行規則第26条の9、第26条の12
- 法人税基本通達2-1-21の14、2-3-62
