暗号資産取引の利益は原則として雑所得に区分される。所得区分は税額計算・経費範囲・損益通算の可否を決定するため、申告の最も重要な出発点である。
- 理由① 所得税法は所得を10種類に分類しており、暗号資産の売買益は「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」として雑所得に該当する。一時所得(懸賞金等の一時的な所得)には該当しないため、50万円の特別控除や2分の1課税は適用されない。
- 理由② 雑所得は他の所得との損益通算が不可、繰越控除も不可という最も不利な所得区分である。暗号資産の利益がなぜ雑所得とされるかの根拠を理解しておくことが、事業所得への区分変更や将来の制度改正の影響を判断する土台となる。
- 条件 収入金額が300万円超かつ帳簿書類を保存している場合は事業所得に該当し得る。事業所得であれば損益通算・青色申告特別控除(最大65万円)・繰越控除3年が使えるため、一定規模以上のトレーダーは所得区分の検討が節税の鍵となる。
所得税法第35条 / 国税庁FAQ 2-2
この記事でわかること
- 所得税法上の10種類の所得の全体像と、暗号資産に関係する4つの所得区分
- 一時所得の定義・特別控除・2分の1課税の仕組みと、暗号資産取引で一時所得になるケース
- 雑所得の定義と、「業務に係る雑所得」「その他雑所得」の違い(必要経費の範囲・帳簿義務)
- 国税庁FAQ 2-2における300万円基準と帳簿保存要件
- マイニング所得が雑所得とされた国税不服審判所の裁決事例
所得税法上の10種類の所得
【結論】所得税法は所得を10種類に分類し、種類ごとに計算方法・控除額・課税方式が異なる。暗号資産取引との関係では、事業所得・譲渡所得・一時所得・雑所得の4つを理解しておく必要がある(所得税法第27条・第33条・第34条・第35条)。
所得税法は、個人の所得をその性質に応じて次の10種類に分類している。
| 所得の種類 | 具体例 |
|---|---|
| ①利子所得 | 銀行預金の利子 |
| ②配当所得 | 株式の配当金 |
| ③不動産所得 | 家や土地の賃貸料収入 |
| ④事業所得 | 個人商店・士業等に係る事業収入 |
| ⑤給与所得 | 勤め先から支払われる給与 |
| ⑥退職所得 | 勤め先から支払われる退職金 |
| ⑦山林所得 | 伐採した山林の譲渡収入 |
| ⑧譲渡所得 | 不動産・株式・美術品等の譲渡収入 |
| ⑨一時所得 | 懸賞金・競馬の払戻金・法人からの金品の贈与等 |
| ⑩雑所得 | 他の9種類のいずれにも該当しないもの |
所得の種類によって実務上の取扱いが大きく異なる。例えば、事業所得・不動産所得・山林所得は所定の帳簿書類を作成等することで青色申告の適用を受けられるが、雑所得では受けられない(所得税法第143条)。また利子所得には必要経費の控除が認められないなど、各所得に固有のルールがある。
暗号資産取引との関係では、少なくとも以下の4つの所得区分の違いを理解しておくことが重要である。
| 所得区分 | 暗号資産との関係 | 詳細解説 |
|---|---|---|
| 事業所得 | 暗号資産トレードを事業として行う場合 | 第2回で解説 |
| 譲渡所得 | NFTの二次流通等、資産の譲渡に該当する場合 | 第3回で解説 |
| 一時所得 | エアドロップの無償取得等、一時的・偶発的な利益 | 本記事で解説 |
| 雑所得 | 上記いずれにも該当しない暗号資産取引(原則) | 本記事で解説 |
事業所得や雑所得は、所得(収入)を稼ぐ活動を行っている点が共通する。稼ぐための活動に焦点を当てると、収入金額の範囲は比較的広くなり、その稼ぐための必要経費の範囲も広くなる。ただし、収入を稼ぐための支出ではない消費、つまり個人的な満足や利益のために支出したものは、必要経費にならない。
暗号資産取引の所得区分の原則:雑所得
【結論】暗号資産取引により生じた利益について、国税庁は原則として雑所得に該当するという立場である(国税庁FAQ 2-2)。売却だけでなく、暗号資産同士の交換、商品購入への充当、マイニング報酬等も課税対象に含まれる(所得税法第36条第1項)。
| 条件 | 所得区分 |
|---|---|
| 原則(収入金額300万円以下等) | 雑所得(その他雑所得) |
| 収入金額300万円超 + 帳簿書類の保存あり | 原則として事業所得 |
| 収入金額300万円超 + 帳簿書類の保存なし | 原則として雑所得(業務に係る雑所得) |
なお、事業所得者が事業用資産として暗号資産を保有し、棚卸資産等の購入の決済手段として暗号資産を使用した場合、その使用による所得は事業付随収入として事業所得に該当する。
注意:300万円基準はあくまで形式基準であり、帳簿書類を保存していても営利性が認められない場合は、事業所得に該当するかどうか個別に判断される点に注意が必要である。事業所得の判断基準(反復継続性・独立性等)の詳細は、暗号資産の所得区分【第2回】|事業所得の判断基準と実務上の留意点で解説する。
一時所得の定義と暗号資産への適用
【結論】一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で、労務や資産の譲渡の対価としての性質を有しないものである(所得税法第34条第1項)。暗号資産取引では、エアドロップの無償取得や、法人からの暗号資産の贈与が一時所得に該当し得る。
一時所得の3つの要件
- 利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得のいずれにも該当しないこと
- 営利を目的とする継続的行為から生じた所得でないこと(一時的・偶発的であること)
- 労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないこと
一時所得の税制上の優遇
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特別控除 | 一時所得額から最大50万円を減額可能(所得税法第34条第3項) |
| 課税方式 | 一律2分の1課税(所得税法第22条第2項第2号) |
| 必要経費 | 収入を得るために直接要した金額に限定(所得税法第34条第2項) |
| 損益通算 | 不可(所得税法第69条第1項) |
暗号資産取引で一時所得になるケース
- 法人から暗号資産の無償贈与を受けた場合※内容によるため、都度検討が必要。
- 参加条件のない(役務提供を伴わない)エアドロップを受け取った場合※ポイ活によるエアドロップについては多くのケースで対象外になると思われる。
雑所得の構造:「業務に係る雑所得」と「その他雑所得」
【結論】雑所得には「業務に係る雑所得」と「その他雑所得」の区分があり、「その他雑所得」は「業務に係る雑所得」よりも必要経費の範囲が狭くなる(所得税法第37条、所得税基本通達35-1、35-2)。暗号資産取引の収入金額が300万円超で帳簿保存がない場合は「業務に係る雑所得」、300万円以下の場合は「その他雑所得」に区分される。
必要経費の範囲の違い
| 区分 | 認められる必要経費 |
|---|---|
| 業務に係る雑所得 | 売上原価等 + 販売費・一般管理費等 |
| その他雑所得 | 売上原価等のみ(範囲限定) |
帳簿義務の違い
- 収支内訳書の添付義務(所得税法第120条第6項、第122条第3項)
- 現金預金取引等関係書類の保存義務(所得税法第232条第2項)
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
マイニング所得が雑所得とされた裁決事例
【結論】マイニング所得が事業所得ではなく雑所得に該当するとされた国税不服審判所の裁決事例(令和4年1月7日裁決)がある。実質的に自己の計算と危険において独立して営まれていない場合、事業所得には該当しないと判断された。
- マイニングマシンの運用を販売元会社に委託
- 仮想通貨の種別選択や停止・変更の判断権限を有しない
- 損失を負担せず、運営経費の内容も不知
以上を総合考慮し、「自己の計算と危険において独立して営まれる業務」とはいえず、事業所得ではなく雑所得に区分された。
所得区分ごとの比較表
【結論】所得区分の違いは、青色申告の可否・必要経費の範囲・損益通算の可否等に直結する。ただし、令和8年税制改正により暗号資産取引は譲渡所得であっても実質的な雑所得と同じ扱いになったの注意が必要(所得税法第69条第1項、第143条)。
| 比較項目 | 事業所得 | 譲渡所得 | 一時所得 | 雑所得 |
|---|---|---|---|---|
| 青色申告 | ○ | × | × | × |
| 必要経費の範囲 | 広い | 取得費+譲渡費用 | 直接要した金額のみ | 区分により異なる |
| 損益通算 | ○ | 一定制限あり | × | × |
| 特別控除 | — | — | 最大50万円 | — |
| 2分の1課税 | × | 長期のみ | ○ | × |
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産を保有しているだけで税金はかかりますか?
かからない。個人の場合、保有(含み益)には課税されない。課税は売却・交換等により手放した時点で発生する(所得税法第36条第1項)。法人は期末時価評価により課税される場合がある(法人税法第61条第2項)。
Q2. 暗号資産の所得はなぜ雑所得なのですか?
他の9種類のいずれにも該当しないためである。暗号資産の売買は原則として事業や譲渡所得に該当せず、消去法的に雑所得に区分される(所得税法第35条、国税庁FAQ 2-2)。
Q3. 一時所得と雑所得の違いは何ですか?
一時所得は一時的・偶発的な所得に限定される。特別控除50万円と2分の1課税の優遇があるが、必要経費の範囲が狭い(所得税法第34条)。雑所得は包括的な受け皿であり、暗号資産取引は原則雑所得である。
Q4. 300万円を超えたら自動的に事業所得になりますか?
ならない。300万円超は形式基準にすぎず、営利性・独立性等の実態判断が必要である(国税庁FAQ 2-2)。
Q5. 業務に係る雑所得とその他雑所得の違いは?
必要経費の範囲と帳簿義務が異なる。業務に係る雑所得は販売費・一般管理費も必要経費に算入可能だが、その他雑所得は限定的である(所得税法第37条)。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
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専門の税理士に依頼する場合
暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第22条第2項第2号
- 所得税法第27条
- 所得税法第33条
- 所得税法第34条第1項・第2項・第3項
- 所得税法第35条
- 所得税法第36条第1項
- 所得税法第37条
- 所得税法第69条第1項
- 所得税法第120条第6項
- 所得税法第122条第3項
- 所得税法第143条
- 所得税法第232条第2項
- 所得税法施行令第63条第12号
- 所得税法施行規則第47条の3、第102条第7項・第8項
- 所得税基本通達35-1、35-2
- 法人税法第22条、第61条第2項
