暗号資産の売買益は原則として雑所得であり、譲渡所得には該当しない。50万円の特別控除や長期保有の2分の1課税は適用されない。
- 理由① 国税庁は暗号資産を「譲渡所得の基因となる資産」に該当しないと解しており、国会答弁(平成31年)でもこの立場が示されている。暗号資産は支払手段としての性質を持つため、値上がり益を期待して保有する「資産」とは区分される考え方に基づく。
- 理由② 譲渡所得が認められれば50万円の特別控除と5年超保有の2分の1課税が使える。この優遇措置の有無が税額に直結するため所得区分の争いは大きいが、現時点で暗号資産の売買益を譲渡所得として申告することは認められない立場が確立している。
- 条件 NFTの二次流通(転売)は「デジタルアートの閲覧に関する権利」の譲渡として譲渡所得に該当し得る。同じブロックチェーン上の資産でも、暗号資産(FT)とNFTでは所得区分が異なる。NFT転売者にとっては譲渡所得の優遇が適用される点で、暗号資産トレーダーより税制上有利。
所得税法第33条 / 平成31年国会答弁 / 国税庁NFT FAQ 問4 / タックスアンサーNo.1525-2
この記事でわかること
- 暗号資産が譲渡所得に該当しない理由(国税庁の法的根拠と国会答弁)
- NFTが譲渡所得になる場合・ならない場合の判断基準(一次流通vs二次流通)
- 譲渡所得の計算方法(特別控除50万円・長期2分の1課税の適用要件)
- 4つの所得区分(事業・譲渡・一時・雑)の税制上の違いを比較表で整理
- 所得区分の違いが実際の税額にどれだけ影響するか
暗号資産が「譲渡所得」に該当しない理由
【結論】国税庁は、暗号資産は資金決済法上「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値」であり、支払手段に類する性質を持つため、「資産の値上がりによる増加益」とは性質を異にすると解している。したがって、所得税法第33条の「譲渡所得の基因となる資産」には該当しない(平成31年国会答弁)。
譲渡所得の基本的な仕組み
譲渡所得とは「資産の譲渡による所得」である(所得税法第33条第1項)。この課税の趣旨は、資産の値上がりにより所有者に帰属する増加益(キャピタル・ゲイン)を、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に清算して課税することにある。
つまり、譲渡所得が成立するには「譲渡所得の基因となる資産」に該当することが前提条件となる。暗号資産がこの前提条件を満たすかどうかが論点である。
国税庁の見解:「譲渡所得の基因となる資産」に該当しない
平成31年の国会答弁において、政府は以下の見解を示した。
暗号資産は資金決済法上「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値」と規定されており、消費税法上も支払手段に類するものとして位置付けられている。このため、暗号資産の譲渡益は「資産の値上がりによる増加益」とは性質を異にする。暗号資産は「資産」ではあるものの、「譲渡所得の基因となる資産」には該当しない。
この見解により、暗号資産の売買益は譲渡所得ではなく雑所得(または事業所得)として取り扱われている。
MONAコインの答弁書:複合的価値を持つ暗号資産でも同様
令和4年の国会答弁では、MONAコイン(モナコイン)について「支払手段としての性質のほかに、資産の価値の増加益が生じる性質があるとしても、当該性質については、一般に独立した経済的価値が認められて取引の対象にされているとは考えていない」との見解が示された。
この答弁から、暗号資産が「複合的な価値」を持つ場合でも、資産価値の増加益の性質が独立して取引対象になっていない限り、譲渡所得は認められないという基準が読み取れる。現時点では、譲渡所得の基因となる資産に該当する暗号資産は存在しないというのが国税庁の立場である。
関係法令:所得税法第33条第1項 / 資金決済法第2条第14項
税制改正により譲渡所得に該当しても優遇措置は受けれない
令和8年度の税制改正により、総合課税の譲渡所得の基因となる暗号資産については譲渡所得の各種優遇措置が受けられないことになった。
- 最大の50万円特別控除 → 適用なし
- 長期譲渡所得の2分の1課税 → 適用なし
- 損益通算 → 適用なし
よって、仮に暗号資産が譲渡所得に該当したとしても暗号資産を譲渡所得とするメリットは少ない。 ※「譲渡所得の基因となる資産」という用語が所得税法上には存在することから、「譲渡所得の基因となる暗号資産」というワードは暗号資産の中でも譲渡所得に該当するものだけを指すものと考えられる。
関係資料:令和8年度与党税制改正大綱52頁
NFTの所得区分:一次流通と二次流通の違い
【結論】NFTの譲渡による所得は、譲渡所得・事業所得・雑所得のいずれかに該当する。一次流通(NFT組成→譲渡)は「権利の設定」として雑所得(又は事業所得)、二次流通(購入NFT→転売)は「権利の譲渡」として譲渡所得に該当し得る(NFT FAQ問1・問4、タックスアンサーNo.1525-2)。
暗号資産とNFTで所得区分の扱いが異なる点は極めて重要である。国税庁のタックスアンサーNo.1525-2は、NFTの譲渡所得該当性を明確に認めている。なお、当記事におけるNFTはいわゆるデジタルアートを紐づけたNFTを前提とするため、それ以外のものを紐づけている場合は別途検討が必要である。
一次流通と二次流通の区分
| 取引類型 | 法的性質 | 所得区分 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 一次流通(NFT組成→第三者に譲渡) | デジタルアートの閲覧に関する権利の設定 | 雑所得(又は事業所得) | NFT FAQ問1 |
| 二次流通(購入NFT→第三者に転売) | 閲覧権利の譲渡 | 譲渡所得(原則) | NFT FAQ問4 |
一次流通が「譲渡」ではなく「権利の設定」とされる点がポイントである。アーティストやクリエイターがデジタル作品をNFT化して販売する場合は、そもそも権利を新たに設定する行為であるため、譲渡所得の対象とならない。
二次流通でも譲渡所得にならないケース
NFT FAQ問4は、二次流通であっても以下のケースでは譲渡所得に該当しないとしている。
- 棚卸資産の譲渡に該当する場合:NFT販売業者が在庫として保有するNFTの譲渡は、譲渡所得から除かれる(所得税法第33条第2項)
- 営利を目的として継続的に行われている場合:反復継続的にNFTを転売している場合は、雑所得または事業所得に区分される
逆に言えば、一般の個人(コレクター等)が購入したNFTを転売する場合は、譲渡所得になることも珍しくない。
NFTの譲渡所得が認められることの意味
NFTに譲渡所得が認められることには、メリットとデメリットの両面がある。
メリット:
- 50万円の特別控除が適用される
- 5年超保有の長期譲渡所得なら課税対象が2分の1になる
- 損失が出た場合、他の所得と損益通算が可能(趣味目的を除く)
デメリット:
- 必要経費の範囲が「取得費」と「譲渡費用」に限定され、雑所得や事業所得より狭い
- 趣味・娯楽・鑑賞目的のNFT(生活に通常必要でない資産)は損失の損益通算不可(所得税法第69条第2項、所得税法施行令第178条)
NFTの税金について詳しくは「NFTの税金ガイド|一次流通・二次流通の課税の違い」で解説している。
譲渡所得の計算方法
【結論】NFTの二次流通など譲渡所得に該当する場合、計算式は「譲渡収入−取得費−譲渡費用−特別控除額(最大50万円)」となる。さらに所有期間が5年を超える長期譲渡所得の場合、課税対象が2分の1に減額される(所得税法第33条第3項・第4項、第22条第2項第2号)。
譲渡所得の計算式
譲渡所得の金額 = 譲渡収入 − 取得費 − 譲渡費用 − 特別控除額(最大50万円)
特別控除額は、譲渡益(譲渡収入から取得費・譲渡費用を差し引いた金額)が50万円以下の場合は、その金額までしか控除できない。つまり、譲渡益が50万円以下であれば課税対象はゼロになる。
短期譲渡所得と長期譲渡所得
| 区分 | 所有期間 | 課税方法 |
|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 取得の日以後5年以内の譲渡 | 譲渡所得の金額の全額が総合課税の対象 |
| 長期譲渡所得 | 取得の日以後5年を超えて所有した資産の譲渡 | 譲渡所得の金額の2分の1が総合課税の対象 |
計算例:NFTを二次流通で売却した場合
前提条件:
- NFT購入価額(取得費):80万円
- NFT売却価額(譲渡収入):200万円
- 譲渡費用(ガス代等):2万円
- 所有期間:6年(長期譲渡所得に該当)
計算:
| ステップ | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| ①譲渡益 | 200万円 − 80万円 − 2万円 | 118万円 |
| ②特別控除後 | 118万円 − 50万円 | 68万円 |
| ③長期2分の1 | 68万円 × 1/2 | 34万円 |
この34万円が他の所得と合算され、超過累進税率(5%〜45%)が適用される。仮に同じ取引が雑所得に区分された場合、課税対象は118万円(特別控除なし・2分の1なし)となり、税額に大きな差が出る。
損益通算の可否
譲渡所得で損失が出た場合、原則として給与所得等の他の所得と損益通算が可能である(所得税法第69条第1項)。ただし、そのNFTが「主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有していたもの」に該当する場合は、他の所得との損益通算はできない(総合譲渡所得内での通算のみ可能)。
損益通算の詳細は「暗号資産の損失は損益通算できる?|雑所得内通算と繰越」で解説している。
所得区分による税制上の違い:4区分比較表
【結論】暗号資産・NFTに関連する4つの所得区分(事業・譲渡・一時・雑)は、特別控除・損益通算・繰越控除・必要経費の範囲がそれぞれ異なり、同じ利益額でも所得区分によって最終的な税額に大きな差が出る(所得税法第27条、第33条、第34条、第35条)。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
4区分の税制比較表
| 項目 | 事業所得 | 譲渡所得 | 一時所得 | 雑所得 |
|---|---|---|---|---|
| 特別控除 | なし(青色控除は別途) | 50万円 | 50万円 | なし |
| 長期保有の優遇 | なし | 5年超で1/2課税 | 一律1/2課税 | なし |
| 損益通算 | ○(他の所得と可能) | ○(趣味目的を除く) | ×(不可) | ×(不可) |
| 繰越控除 | ○(青色で3年) | ×(なし) | ×(なし) | ×(なし) |
| 必要経費の範囲 | 広い(販売費・一般管理費含む) | 狭い(取得費・譲渡費用のみ) | 狭い(直接要した費用のみ) | 中程度(業務雑所得は販管費可、その他雑所得は直接費用のみ) |
| 青色申告特別控除 | 最大65万円 | — | — | — |
| 暗号資産の該当例 | 専業トレーダー(要件充足時) | NFT二次流通(個人) | エアドロップ等 | 暗号資産売買(原則) |
所得区分の判断フローチャート
暗号資産・NFT取引の所得区分は、以下のフローチャートで判断する。
暗号資産の場合

NFTの場合

事業所得の判断基準の詳細は「暗号資産の所得区分【第2回】|事業所得の判断基準と実務上の留意点」で解説している。
同じ利益120万円でも所得区分で税額はこう変わる
利益120万円(別に所得があり、課税所得330万円〜695万円となった税率帯を仮定:所得税率20%+住民税10%=30%)の場合の比較:
| 所得区分 | 課税対象額 | 概算税額(30%) |
|---|---|---|
| 雑所得 | 120万円 | 約36万円 |
| 事業所得(青色65万円控除あり) | 55万円 | 約16.5万円 |
| 譲渡所得(短期) | 70万円(▲50万円控除) | 約21万円 |
| 譲渡所得(長期) | 35万円(▲50万円+1/2) | 約10.5万円 |
| 一時所得 | 35万円(▲50万円+1/2) | 約10.5万円 |
雑所得と長期譲渡所得では約25万円の差が生じる。所得区分の判断は税額に直結するため、自身の取引がどの区分に該当するかを正確に把握することが重要である。
暗号資産の税率の仕組みについて詳しくは「暗号資産の税率は最大55%?|所得税・住民税と税率区分」で解説している。
よくある質問(FAQ)
Q1. ビットコインやイーサリアムの売買益が譲渡所得になる可能性はありますか?
現時点ではない。国税庁は暗号資産を「譲渡所得の基因となる資産」に該当しないと解しており、ビットコイン・イーサリアム等の暗号資産の売買益は雑所得(又は事業所得)に区分される(所得税法第33条、平成31年国会答弁)。
Q2. NFTを購入して値上がり後に売却した場合、譲渡所得で申告できますか?
要件を満たせば可能である。そのNFTが「譲渡所得の基因となる資産」に該当し、かつ営利目的の継続的譲渡でなければ、譲渡所得として申告できる(NFT FAQ問4、タックスアンサーNo.1525-2)。一般の個人コレクターがNFTを転売するケースは譲渡所得になり得る。
Q3. NFTの譲渡所得で損失が出た場合、給与所得と損益通算できますか?
趣味目的でなければ可能である。譲渡所得の損失は原則として他の所得と損益通算できる(所得税法第69条第1項)。ただし、主として趣味・娯楽・鑑賞目的で所有していたNFTの損失は損益通算不可であり、総合譲渡所得内での通算のみとなる(所得税法第69条第2項、所得税法施行令第178条)。
Q4. 暗号資産の分離課税が導入されたら、所得区分の議論はどうなりますか?
「特定暗号資産」に限り分離課税(20%)が適用される見込みである。令和8年度税制改正大綱で分離課税の導入が示されたが、対象は金商法改正後の「特定暗号資産」に限定される。大綱段階であり法律未成立のため、現時点では現行法(総合課税・雑所得原則)に基づいて申告する必要がある。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
関連記事・サービスページ
関連記事
- 暗号資産の所得区分【第1回】|所得の種類と一時所得・雑所得の考え方
- 暗号資産の所得区分【第2回】|事業所得の判断基準と実務上の留意点
- 業務に係る雑所得とその他雑所得|令和4年通達改正の経緯と判定基準
- 暗号資産の損失は損益通算できる?|雑所得内通算と繰越
- NFTクリエイターの確定申告|一次流通の所得計算と消費税
- NFTの二次流通(転売)の税金|譲渡所得と特別控除
専門の税理士に依頼する場合
暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第22条第2項第2号(総所得金額の計算:一時所得等の2分の1)
- 所得税法第27条(事業所得)
- 所得税法第33条第1項〜第4項(譲渡所得)
- 所得税法第34条(一時所得)
- 所得税法第35条(雑所得)
- 所得税法第36条(収入金額)
- 所得税法第37条(必要経費)
- 所得税法第38条(必要経費算入の時期等)
- 所得税法第69条第1項、2項(損益通算)
- 所得税法施行令第178条(生活に通常必要でない資産等の譲渡損失の扱い)
- 資金決済法第2条第14項(暗号資産の定義)
- 国税庁「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」問1・問4
- 国税庁タックスアンサーNo.1525-2
- 平成31年国会答弁(暗号資産の譲渡所得該当性)
