令和4年の所得税基本通達改正により、雑所得は「業務に係る雑所得」と「その他雑所得」に明確に区分され、収入金額300万円と帳簿保存の2軸で判定される。暗号資産は「その他雑所得」の典型例として位置づけられており、所得区分の違いは経費範囲と申告義務に直結する。
- 理由① 令和4年8月の当初案は「収入金額300万円以下の副業は一律で雑所得」としていたが、パブリックコメントで7,000件超の反対意見が寄せられ、「帳簿保存の有無」を加えた2軸の判定基準に修正された。この経緯を理解しないと、現行の判定基準の意味が正確に把握できない。
- 理由② 国税庁は暗号資産を「資産の値上がり益が生じないと認められる資産」として、その他雑所得の典型例に分類している。これは暗号資産が譲渡所得の基因とならない資産であるという税務上の整理に基づくものである。
- 条件 300万円・帳簿保存の基準はあくまで通達上の目安であり、法律そのものではない。事業所得と認められるかは最終的に社会通念上の総合判断であり、帳簿があっても事業所得にならないケースがある点に注意が必要である。
所得税基本通達35-1・35-2 / 国税庁FAQ 2-2 / 令和4年10月7日付課個2-21ほか2課共同「所得税基本通達の制定についての一部改正」
この記事でわかること
- 令和4年通達改正の背景と「副業300万円問題」の経緯
- 当初案からパブリックコメントを経て現行基準に至るまでの変遷
- 暗号資産が「その他雑所得」に分類される法的根拠
- 帳簿保存があっても事業所得にならない2つの例外
- 通達による形式的判定と法律上の実質判定の緊張関係
通達改正の背景|副業300万円問題
【結論】令和4年の所得税基本通達改正(所基通35-1・35-2)は、副業所得の区分基準を明確化するために行われた。当初案は「300万円以下は一律雑所得」という機械的基準だったが、パブリックコメントで7,000件超の意見が寄せられ、帳簿保存要件を加える形に修正された。
改正前の問題
改正前は、副業所得が事業所得と雑所得のどちらに該当するかの明確な基準がなかった。事業所得であれば損益通算や青色申告特別控除が使えるため、実態が副業であるにもかかわらず事業所得として申告し、給与所得と損益通算して税額を圧縮するケースが問題視されていた。
当初案と修正の経緯
令和4年8月、国税庁は「収入金額が300万円以下の副業は原則として雑所得」とする通達改正案を公表した。これに対し、パブリックコメントで7,000件超の意見が集まり、「金額だけで機械的に判定するのは不合理」「小規模でも事業として行っているケースがある」などの批判が寄せられた。
この結果、令和4年10月7日付で公表された最終版では、金額基準に加えて「帳簿書類の保存の有無」が判定要素に追加され、現行の2軸による判定基準が成立した。
| 収入金額 | 帳簿書類の保存あり | 帳簿書類の保存なし |
|---|---|---|
| 300万円超 | おおむね事業所得 | おおむね業務に係る雑所得 |
| 300万円以下 | 業務に係る雑所得(資産の譲渡は譲渡所得またはその他雑所得) | |
(出典)国税庁「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」を基に作成
上記は副業所得全般の区分イメージである。暗号資産の売買はカッコ内の「資産の譲渡」に該当するため、300万円以下の場合は「その他雑所得」に区分される。「業務に係る雑所得」ではない点に注意が必要である。営利を目的として継続的に行う暗号資産の売買で収入金額が300万円を超える場合に、はじめて「業務に係る雑所得」または「事業所得」の判定に進む。
(出典)国税庁「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」を基に作成
上記は通達解説が示す一般的な区分であり、暗号資産に特化した適用は国税庁FAQ 2-2で整理されている。FAQ 2-2では、暗号資産取引の所得は原則として「その他雑所得」に該当するとしたうえで、収入金額300万円超かつ帳簿保存がある場合は「原則として事業所得」としている。300万円基準の実務的な適用方法や判断の注意点は「暗号資産の所得区分【第2回】|事業所得の判断基準と実務上の留意点」で詳しく解説している。
ここでいう「300万円」は収入金額(売上)であり、経費を差し引いた後の所得(利益)ではない。暗号資産の場合、1年間の売却収入の総額が基準となる。
暗号資産はなぜ「その他雑所得」なのか
【結論】国税庁は、暗号資産を「資産の値上がり益が生じないと認められる資産」として、譲渡所得の基因とならない資産に分類している。そのため暗号資産の譲渡から生ずる所得は、原則として「その他雑所得」に該当する。
所得税法上、資産の譲渡による所得は原則として譲渡所得に該当する。しかし国税庁は通達の解説において、金銭債権、外国通貨、暗号資産などを「資産の値上がり益が生じないと認められる資産」として譲渡所得の基因とならない資産に位置づけている。この整理に基づき、暗号資産の譲渡から生ずる所得は「その他雑所得」として扱われる。
一方、業務に係る雑所得は事業所得と関係が深い区分であり、その所得を得るための活動の規模によって判定される。営利を目的として継続的に行う暗号資産の売買であれば業務に係る雑所得に該当し得るが、事業的規模と認められる場合は事業所得に区分される。
暗号資産が譲渡所得に該当しない理由の詳細(平成31年国会答弁、MONAコインの答弁書、令和8年度税制改正大綱の影響)は「暗号資産の所得区分【第3回】|譲渡所得・雑所得の境界と計算方法」で解説している。
帳簿保存があっても事業所得にならない2つのケース
【結論】帳簿書類を保存していても、①収入金額が僅少と認められる場合、②営利性が認められない場合には、事業所得ではなく個別判断となる。
| 例外 | 該当する場合の目安 |
|---|---|
| ①収入金額が僅少 | 例年(おおむね3年程度)300万円以下で、かつ主たる収入に対する割合が10%未満 |
| ②営利性が認められない | 例年赤字で、かつ赤字を解消するための取組み(営業活動等)を実施していない |
暗号資産トレーダーの場合、帳簿をつけて300万円超の売上があったとしても、例年赤字が続き相場の回復を待つだけで積極的なトレード戦略の見直し等を行っていない場合は、②に該当し事業所得として認められない可能性がある。
実際の裁決事例でも、形式的に設備を備えていても意思決定権限やリスク負担の実態がなければ事業所得が否認されている。マイニング所得やFX取引に関する裁決事例の詳細は「暗号資産の所得区分【第2回】|事業所得の判断基準と実務上の留意点」で解説している。
通達と法律の緊張関係|形式判定の限界
【結論】300万円基準と帳簿保存要件はあくまで通達上の運用目安であり、法律上の事業所得の判定は個別の事実関係に基づく総合判断である。通達の基準を形式的・一律に適用することには法的根拠の面で難点がある。
事業所得と認められるかどうかは、最終的にはその所得を得るための活動が社会通念上事業と称するに至る程度で行われているかどうかで判定される。国税庁はこの判定にあたって、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における企画遂行性の有無、精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、取引の目的、職歴・社会的地位・生活状況の7要素を総合勘案するとしている。各要素の具体的な判断基準と暗号資産取引への当てはめは「暗号資産の所得区分【第2回】|事業所得の判断基準と実務上の留意点」で詳しく解説している。
つまり、通達の図表に形式的にあてはめて「300万円超+帳簿あり=事業所得」と機械的に結論づけることはできない。逆に、300万円以下であっても上記の諸要素を満たす場合には事業所得と認められる余地がある。通達はあくまで執行の目安であり、最終的な判定は個別の事実関係に基づく総合判断となる可能性が残されている。
所得区分で変わる経費範囲と申告義務
【結論】所得区分の違いは、必要経費に算入できる範囲と、申告時の書類義務に直結する。
経費範囲の違い
所得税法第37条第1項は、必要経費を①「総収入金額を得るため直接に要した費用」と②「販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」の2つに区分している。その他雑所得では②が認められず、経費の範囲が大幅に狭まる。具体的にどの支出が経費になるかは「暗号資産の必要経費まとめ|経費にできるもの・できないもの」で詳しく解説している。
| 所得区分 | ①直接要した費用 | ②業務について生じた費用 |
|---|---|---|
| 事業所得 | ○ | ○ |
| 業務に係る雑所得 | ○ | ○ |
| その他雑所得 | ○ | × |
上記は所得税法第37条の構造(直接費用と間接費用)に着目した比較である。譲渡所得・一時所得を含む4区分の税制上の違い(特別控除・損益通算・繰越控除等)については「暗号資産の所得区分【第3回】|譲渡所得・雑所得の境界と計算方法」の比較表で整理している。
申告義務の違い
| 義務 | 事業所得 | 業務に係る雑所得 | その他雑所得 |
|---|---|---|---|
| 収支内訳書の添付 | ○(必須) | ○(一定要件下) | × |
| 現金預金取引等関係書類の保存 | ○(必須) | ○(一定要件下) | × |
| 帳簿書類の備付け・保存 | ○(必須) | ×(ただし事業所得判定に影響) | × |
業務に係る雑所得に該当する場合、事業所得ほどの厳格な帳簿義務はないものの、収入と支出の内訳を整理して申告書に添付する必要がある。この義務を怠った場合、経費の否認リスクが高まる。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
暗号資産トレーダーへの実務的影響
【結論】多くの個人投資家の暗号資産所得は「その他雑所得」に該当する。所得区分を上げるには、収入金額300万円超の実績と帳簿保存に加え、事業の実態を備える必要がある。
本記事で解説した通達改正の枠組みを踏まえ、暗号資産トレーダーが検討すべきポイントを以下に整理する。
- 現在の所得区分を正確に把握する:暗号資産の売却収入(利益ではない)が300万円を超えているか、帳簿保存を行っているかを確認し、自身の所得区分を特定する。
- 事業所得を目指すか判断する:事業所得には青色申告特別控除や損益通算等の大きなメリットがあるが、形式要件だけでなく実質要件(営利性・反復継続性・独立性等)を満たす必要がある。事業所得の具体的な判断基準と裁決事例は「暗号資産の所得区分【第2回】|事業所得の判断基準と実務上の留意点」で解説している。
- 否認リスクを認識する:帳簿を保存して事業所得として申告しても、収入金額が僅少(300万円以下かつ主たる収入の10%未満)または営利性が認められない(例年赤字で改善努力なし)場合は、税務調査で否認される可能性がある。事業所得の否認リスクを回避するには法人化という選択肢もある(暗号資産を個人から法人へ|法人化のメリット・デメリット)。
暗号資産の所得区分について専門家の意見を聞きたい場合は「暗号資産税務のセカンドオピニオンを依頼する」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産の収入が300万円を超えれば自動的に事業所得になりますか?
ならない。300万円超かつ帳簿保存がある場合は「おおむね事業所得」とされるが、収入金額が僅少または営利性が認められない場合は個別判断となる。300万円基準は通達上の目安であり、最終的には社会通念上の総合判断である(所基通35-2、国税庁FAQ 2-2)。
Q2. 「その他雑所得」と「業務に係る雑所得」で税率は変わりますか?
税率は変わらない。いずれも総合課税の対象であり、適用される税率は同じである。違いが出るのは必要経費に算入できる範囲と申告時の書類義務である。経費範囲の違いによって課税所得が変わり、結果として税額に差が生じる。
Q3. なぜ暗号資産は「値上がり益が生じない資産」とされるのですか?
税務上の整理として、暗号資産は金銭債権や外国通貨と同じカテゴリに分類されている。国税庁の通達解説は、これらの資産の譲渡による所得は譲渡所得の基因とならないとしている。実態としては暗号資産に大きな値上がり益が生じることは周知の事実だが、税務上は所得税法の体系的整理に基づく分類であり、経済的実態とは異なる。国会答弁やMONAコインの政府見解を含めた詳細は「暗号資産の所得区分【第3回】|譲渡所得・雑所得の境界と計算方法」で解説している。
Q4. 令和4年の通達改正は法律の改正ですか?
法律の改正ではない。通達は国税庁による法令の解釈指針であり、法律そのものではない。事業所得と雑所得の区分は最終的に所得税法の規定に基づく個別判断であり、通達の基準を形式的・一律に適用することには法的根拠の面で難点が指摘されている。
Q5. 所得区分によって経費に入れられるものはどう変わりますか?
その他雑所得は直接費用のみ、業務に係る雑所得は間接費用も経費に入れられる。具体的な経費項目と判定基準は「暗号資産の必要経費まとめ|経費にできるもの・できないもの」で一覧にしている。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
関連記事・サービスページ
所得区分シリーズ
関連記事
専門の税理士に依頼する場合
暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第27条(事業所得)、第35条(雑所得)、第37条(必要経費)
- 所得税法第120条第6項(収支内訳書の添付義務)、第232条第2項(現金預金取引等関係書類の保存義務)
- 所得税基本通達35-1、35-2
- 令和4年10月7日付課個2-21ほか2課共同「所得税基本通達の制定についての一部改正」
- 国税庁「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」
- 国税庁FAQ 2-2
