暗号資産の損失は他の所得と損益通算できない。雑所得の損失が通算できるのは雑所得内に限られ、翌年への繰越しもできない。
- 理由① 損益通算が認められるのは不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4種類に限定されており、雑所得はこの対象に含まれない。暗号資産で数百万円の損失が出ても、給与所得や事業所得からの相殺は一切できない。
- 理由② 雑所得内での通算は可能であり、同年の他の暗号資産取引やFX取引等の雑所得同士であれば利益と損失を相殺できる。年末の損益確定時に含み損ポジションを決済して損失を実現させることで、雑所得内通算による課税圧縮が可能。
- 条件 雑所得の損失は翌年以降への繰越しが認められない。その年で使い切れなかった損失は永久に消滅する。分離課税20%が導入されれば3年間の繰越控除が可能になる見込みだが、現行法では年度内での消化が唯一の手段である。
所得税法第69条第1項 / 国税庁FAQ 2-11
この記事でわかること
- 暗号資産の損失が他の所得と損益通算できない理由(条文根拠)
- 雑所得の「内部通算」で暗号資産の損失を活用する方法
- 所得区分(雑所得・事業所得・譲渡所得)による損益通算の違い
- 相場下落時に税負担を抑える実務的な対応策
- 令和8年度税制改正で新設予定の3年繰越控除の概要
暗号資産の損失が損益通算できない理由
【結論】所得税法第69条第1項は、損益通算の対象を不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4つに限定している。暗号資産取引の所得は原則として雑所得に区分されるため、この4種類に該当せず、他の所得との損益通算は認められない(国税庁FAQ 2-11)。
所得税法は、所得を利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得・一時所得・雑所得の10種類に分類している。このうち、損益通算が認められるのは以下の4つのみである。
| 損益通算が認められる所得 | 具体例 |
|---|---|
| 不動産所得 | 賃貸マンションの赤字 |
| 事業所得 | 個人事業の赤字 |
| 山林所得 | 山林の伐採・譲渡の赤字 |
| 譲渡所得 | 不動産や株式の売却損(一定の制限あり) |
暗号資産取引の所得は、個人の場合は原則として「雑所得」に区分される(国税庁FAQ 2-2)。雑所得はこの4つに含まれないため、暗号資産取引で生じた損失を給与所得や不動産所得などと相殺することはできない。
また、雑所得の損失は翌年以降に繰り越すこともできない。株式の譲渡損失には3年間の繰越控除が認められているが、雑所得にはそのような制度がない。暗号資産取引で赤字が出ても、その赤字は当年限りで消滅する。
関係法令:所得税法第69条第1項
雑所得内での通算ルール
【結論】暗号資産の損失は他の所得区分とは通算できないが、同じ雑所得に分類される他の所得とは内部で通算(相殺)できる。副業収入や暗号資産以外の雑所得がある場合、暗号資産の損失をそれらの利益と相殺して雑所得全体の金額を減らすことが可能である(所得税法第35条)。
雑所得は「公的年金等に係る雑所得」「業務に係る雑所得」「その他の雑所得」の3つに区分されるが、これらは所得金額の計算上、内部で合算される。暗号資産取引で損失が出た場合でも、以下のような雑所得内の利益と相殺できる。
| 雑所得内で通算可能な所得の例 | 区分 |
|---|---|
| 他の暗号資産の売却益 | その他の雑所得 |
| 副業(原稿料・講演料等) | 業務に係る雑所得 |
| 公的年金等の収入 | 公的年金等に係る雑所得 |
| FX(外国為替証拠金取引)の利益 | 先物取引に係る雑所得(※) |
注意:※ 国内FXの所得の大半は申告分離課税(20.315%)であり、総合課税の暗号資産の雑所得とは課税方式が異なるため、通算可能なのは海外FXのみとなる。
具体例:暗号資産の損失と副業収入の通算
| 所得の種類 | 金額 |
|---|---|
| 暗号資産取引の損失 | △150万円 |
| 副業の原稿料(雑所得) | +200万円 |
| 雑所得の合計額 | 50万円 |
この場合、雑所得の合計額は以下のとおりである。
200万円 − 150万円 = 50万円
ただし、雑所得全体がマイナスになった場合(上記の例で暗号資産の損失が250万円だった場合)、そのマイナス分は切り捨てとなり、給与所得など他の所得から差し引くことはできない。
関係法令:所得税法第35条、第69条第1項
所得区分による損益通算の違い
【結論】暗号資産取引の所得が「事業所得」に該当する場合は、損失を他の所得と損益通算できる。ただし事業所得と認められるには、収入金額300万円超かつ帳簿書類の保存が原則として必要である(国税庁FAQ 2-2)。
暗号資産取引による所得の区分は、取引の態様や規模によって異なる。所得区分ごとの損益通算の可否を整理すると以下のとおりである。
| 所得区分 | 判定基準 | 他の所得との損益通算 | 翌年以降の繰越 |
|---|---|---|---|
| 雑所得(原則) | 収入300万円以下 or 帳簿保存なし | 不可 | 不可 |
| 事業所得 | 収入300万円超+帳簿保存+営利性あり | 可能 | 青色申告なら3年繰越可 |
| 譲渡所得(NFT二次流通等) | 資産の譲渡に該当する場合 | 一定の制限あり | 原則不可 |
事業所得に該当すれば、暗号資産取引の損失を給与所得や不動産所得と相殺(損益通算)でき、さらに青色申告を行っていれば損失を3年間繰り越すことも可能である。
ただし、暗号資産取引が事業所得と認められるためには、反復継続性・独立性・営利目的などの要件を満たす必要がある。帳簿書類を保存しているだけでは不十分であり、取引の規模や態様から「事業」と認められるかは個別に判断される。事業所得該当性の詳細は、暗号資産の所得区分【第2回】|事業所得の判断基準と実務上の留意点で解説している。
関係法令:所得税法第27条、第35条、第69条第1項 / 所得税基本通達35-1、35-2
相場下落時の実務対応
【結論】暗号資産は価格変動が激しく、年中に利益を確定していても年末にかけて相場が暴落し、納税資金を工面できなくなるケースが多発する。年内に納税資金の確保と含み損の損切りを計画的に行うことが、税負担を抑える最も有効な実務対応である。
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暗号資産投資では、以下のようなケースが頻発する。
- 夏ごろに暗号資産同士の交換(課税イベント)で大きな利益を確定
- 年末から確定申告期(翌年3月)にかけて相場が暴落
- 納税のために日本円に換金しようとしたが、想定以上に低い金額でしか換金できない
- 納税資金が不足する
このリスクに対する実務的な対策は2つある。
対策①:年末までに納税資金分を日本円に換金しておく
利益が確定した時点で、見込みの税額分をあらかじめ日本円に交換しておく。この換金自体も課税イベントとなるが、納税資金を確保するために必要な措置である。
対策②:含み損の損切りで利益と相殺する
含み損を抱えている暗号資産がある場合、年内に売却して損失を確定させ、同じ雑所得内の利益と相殺する。日本では累進税率を採用しているため、利益が大きいほど税率が上がる。含み損はなるべくその年の雑所得の利益の範囲内で計上したほうが、長期的に税負担を抑えることができる。
ただし、過度な損切りは再投資できる資金の減少を招く。自身の資金繰りを踏まえた慎重な判断が必要である。
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令和8年度税制改正による変更予定
【結論】令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日)により、「特定暗号資産」の取引で生じた損失は翌年以後3年間の繰越控除が可能となる見込みである。ただし、金商法改正の成立が前提であり、施行時期は未確定である。
現行法では暗号資産(雑所得)の損失は繰り越しができないが、分離課税化に伴い、損失の取扱いが大きく変わる予定である。
| 項目 | 現行法 | 改正後(予定) |
|---|---|---|
| 課税方式 | 総合課税(最大55.945%) | 申告分離課税(20%) |
| 損益通算 | 雑所得内のみ | 特定暗号資産同士で通算 |
| 損失の繰越 | 不可 | 3年間の繰越控除が可能 |
| 対象 | — | 特定暗号資産(金商法登録業者での取引に限定) |
注意すべきポイント
- 大綱段階であり法律は未成立:金融商品取引法の改正が国会で成立することが前提。施行時期は金商法改正の施行日の属する年の翌年1月1日以降。
- 「特定暗号資産」に限定:金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等に限られ、DEXやDeFiプロトコルで直接取引する場合が含まれるかは現時点で不明。
- 特定暗号資産以外の制限強化:特定暗号資産に該当しない暗号資産については、譲渡所得の特別控除(50万円)の不適用、長期譲渡所得1/2措置の不適用、他の総合課税所得との損益通算の不適用が規定されている。
関係法令:令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日・自民党/日本維新の会)
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産で損失が出ました。確定申告は必要ですか?
原則として不要である。雑所得がマイナスの場合、他の所得と相殺できないため、損失のみで申告する実益はない。ただし、給与所得以外に他の雑所得(副業等)がある場合は、暗号資産の損失と通算した結果で申告が必要になることがある。
Q2. 暗号資産の損失は株式の損失と通算できますか?
通算できない。暗号資産の雑所得と株式の譲渡所得は所得区分が異なるため、相互に損益通算はできない(所得税法第69条第1項)。株式の譲渡損失は株式・投信等の譲渡益や配当所得とのみ通算可能であり、暗号資産の所得は対象外である。
Q3. 暗号資産取引を事業所得にすれば損益通算できるのですか?
事業所得と認められれば可能である。ただし、事業所得の判定には収入金額300万円超・帳簿保存に加え、営利性・反復継続性などの実質的な要件が必要である(国税庁FAQ 2-2)。安易に事業所得として申告すると、税務調査で否認されるリスクがある。
Q4. 分離課税になったら暗号資産の損失を繰り越せるようになりますか?
令和8年度税制改正大綱では、特定暗号資産の損失について3年間の繰越控除が新設される予定である。ただし、金商法改正の成立が前提であり、施行時期は未確定である。また、対象は「特定暗号資産」に限定され、すべての暗号資産が対象になるわけではない。
Q5. 含み損がある暗号資産を年末に売却して利益と相殺する方法は有効ですか?
有効である。含み損を年内に実現させて同じ雑所得内の利益と相殺すれば、課税対象額を減らせる。ただし、売却によって再投資できる資金が減少するため、資金繰りを踏まえた判断が必要である。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第69条第1項(損益通算)
- 所得税法第35条(雑所得)
- 所得税法第27条(事業所得)
- 所得税基本通達35-1、35-2
- 国税庁FAQ 2-2、2-11
- 令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日)
