暗号資産の損失は繰り越せる?|分離課税化後の3年繰越控除

結論

改正所得税法(令和8年3月31日成立)により、暗号資産の損失を翌年以後3年間繰り越し、将来の利益と相殺できるようになった。現行法ではできなかった損失繰越が、分離課税化とセットで導入された。

  • 理由① 現行法では暗号資産の利益は雑所得に区分され、雑所得内での損益通算しかできない。年間収支がマイナスでも翌年に繰り越せず、損失は切り捨てとなっている。
  • 理由② 改正後は20%の分離課税が適用され、「特定暗号資産」の現物取引・デリバティブ取引の両方で生じた譲渡損失が3年間の繰越控除の対象となる。株式の譲渡損失と同様の仕組みが暗号資産にも導入された。
  • 条件 改正所得税法は令和8年3月31日に成立・公布済みだが、適用開始は金商法改正の施行翌年1月1日以降である。繰越控除の適用には、損失が生じた年の確定申告書の提出と、その後の連年提出が必要である。また繰越控除の対象は分離課税ルートの損失に限られる。

所得税法等の一部を改正する法律(令和8年3月31日成立)/ 所得税法第69条第1項 / 国税庁FAQ 2-11

この記事でわかること

  • 現行法における暗号資産の損失の取扱い(損益通算・繰越控除の制限)
  • 改正後の損失繰越控除の仕組みと3つの要件
  • 現物取引とデリバティブ取引それぞれの取扱い
  • 「特定暗号資産」に該当しない暗号資産の損失の扱い(三重の制限)
  • 株式の利益と暗号資産の損失は相殺できるか
  • 改正の施行時期と現時点での留意事項
目次

現行法の損失の取扱い|繰越控除も損益通算もできない

【結論】現行法では、暗号資産取引の損失は他の所得との損益通算ができず、翌年以降への繰越控除もできない。暗号資産の所得は原則として雑所得に分類され、雑所得の損失は損益通算の対象外である(所得税法第69条第1項・国税庁FAQ 2-11)。

現行法における暗号資産の損失の取扱いを、株式・FXと比較すると以下のとおりである。

取引の種類 課税方法 損益通算 損失繰越
上場株式等 分離課税(20.315%) 上場株式等の譲渡所得内で可能 3年間繰越可能
FX(先物取引) 分離課税(20.315%) 先物取引に係る雑所得等内で可能 3年間繰越可能
暗号資産(現行法) 総合課税(最大55%) 雑所得内通算のみ 不可

暗号資産は価格変動が極めて激しい投資商品である。バブル期に多額の利益を得た翌年に相場が暴落し、大幅な損失を出す投資家が多い。現行法ではこの損失を翌年に繰り越すことができないため、例えば「令和6年に500万円の利益→令和7年に300万円の損失」というケースでは、令和6年の500万円には全額課税され、令和7年の300万円の損失は切り捨てられる。

この不均衡が、暗号資産投資家にとって大きな税負担となってきた。

改正後の損失繰越控除|3年間の繰越が可能に(法律成立済み)

【結論】改正所得税法(令和8年3月31日成立)により、「特定暗号資産」の譲渡損失は翌年以後3年間にわたって繰越控除が可能となった。分離課税化(税率20%)とセットで導入され、暗号資産の税負担が株式やFXと同等の水準に近づく。

損失繰越控除の3つの要件

改正法で規定された繰越控除の適用には、以下の3要件を満たす必要がある。

要件 内容
①確定申告書の提出 損失が生じた年分の確定申告書を提出すること
②連年提出 その後の年分についても連続して確定申告書を提出すること
③分離課税ルートの損失であること 繰越控除の対象は特定暗号資産の取引(分離課税ルート)で生じた損失に限られる。総合課税ルートで生じた損失は対象外

「特定暗号資産」とは、金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等に限定される。国内の登録取引所で取引される主要な暗号資産が該当する見込みであるが、具体的な範囲は金融商品取引法の改正内容次第である。

重要:繰越控除の適用範囲は特定暗号資産の取引内に限られ、株式等の利益と暗号資産の損失を相殺することはできない。暗号資産同士の通算のみが認められる。

計算例|3年間の繰越控除の効果

以下の取引を前提に、現行法と改正後の税額を比較する。

暗号資産の損益
1年目 ▲500万円(損失)
2年目 +200万円(利益)
3年目 +400万円(利益)

【現行法の場合】

損益 課税対象額 概算税額(税率30%想定)
1年目 ▲500万円 0円(損失切捨て) 0円
2年目 +200万円 200万円 約60万円
3年目 +400万円 400万円 約120万円
3年間合計 600万円 約180万円

※現行法の税率は総合課税のため他の所得と合算。ここでは比較のため所得税・住民税合計30%で簡略計算。

【改正後の場合】

損益 繰越損失残高 課税対象額 税額(税率20%)
1年目 ▲500万円 500万円 0円 0円
2年目 +200万円 300万円(500−200) 0円 0円
3年目 +400万円 0円(300−400) 100万円 20万円
3年間合計 100万円 20万円

改正後は、1年目の500万円の損失を2年目・3年目の利益と相殺できるため、3年間の課税対象額は100万円、税額は20万円となる。現行法と比較して約160万円の税負担軽減となる。

デリバティブ取引の損失繰越

【結論】暗号資産のデリバティブ取引についても、損失の3年間繰越控除が可能となる。改正法では、「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」および「先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除」の適用対象に「暗号資産デリバティブ取引」を追加することが規定された(改正所得税法・租税特別措置法第41条の14)。

現行法では、暗号資産の証拠金取引(レバレッジ取引)は既に先物取引に係る雑所得等として分離課税(20.315%)の対象であるが(国税庁FAQ 2-12)、改正後はさらに損失繰越控除の適用対象に追加される。

これにより、例えば「ロスカットで大きな損失を出した翌年に利益が出た」というケースでも、前年の損失を差し引いて税額を計算できるようになる。

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「特定暗号資産」に該当しない暗号資産の制限強化(三重の制限)

【結論】特定暗号資産に該当しない暗号資産は、所得区分にかかわらず、50万円特別控除・長期譲渡所得の2分の1課税・他の所得との損益通算が適用されない(改正所得税法)。なお、「譲渡所得の基因となる暗号資産」という文言は既存の法律用語の引用であり、所得区分が一律に変更されたものではない。

特定暗号資産に該当しない暗号資産(総合課税が維持される暗号資産)は雑所得だが、支払手段に該当しないトークン設計がされた場合などで譲渡所得に該当する暗号資産が生じた場合についても、以下の三重の制限が新たに設けられ、雑所得に該当する暗号資産と同様の扱いとなる。

制限内容 影響
①譲渡所得の特別控除額(50万円)を控除しない 少額の利益にも課税
②5年超保有の長期譲渡所得1/2措置を適用しない 長期保有の優遇なし
③他の総合課税所得との損益通算を適用しない 損失の救済なし

なお、改正法に記載された「譲渡所得の基因となる暗号資産」という文言は、所得税法の既存の法律用語(第38条、第59条等)を引用したものであり、「すべての暗号資産の所得区分が自動的に譲渡所得に変わった」わけではない点に注意が必要である。

関係法令:改正所得税法 / 租税特別措置法第41条の14

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よくある質問(FAQ)

Q1. 現行法で暗号資産の損失を翌年に繰り越すことはできますか?

できない。 現行法では暗号資産の所得は原則として雑所得に分類され、雑所得の損失は他の所得との損益通算も翌年以降への繰越控除もできない(所得税法第69条第1項・国税庁FAQ 2-11)。

Q2. 損失繰越控除を受けるために確定申告は必要ですか?

必要である。 改正法では、損失が生じた年の確定申告書の提出と、その後の連年提出が要件とされている。利益がなく税額がゼロの年であっても、繰越控除を維持するためには確定申告書を提出し続ける必要がある。

Q3. 暗号資産の損失を株式の利益と相殺できるようになりますか?

できない。 改正所得税法においても、暗号資産の損失繰越控除の対象は暗号資産取引の利益に限られる。株式やFXの利益との損益通算(金融所得課税の一体化)については、改正法で「デリバティブ取引に係る金融所得課税の更なる一体化」が検討事項として記載されているが、具体的な措置は盛り込まれていない。

Q4. いつから損失繰越控除が使えるようになりますか?

金商法改正の施行翌年1月1日以降である。 改正所得税法は令和8年3月31日に成立・公布済みだが、分離課税の適用開始は金商法改正の施行に連動する。金商法改正案が2026年通常国会で成立し2027年に施行された場合、2028年1月1日以降の取引分から適用される見通しである。施行前の年に生じた損失を遡って繰り越すことはできない。

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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。

参考文献

関係法令

  • 所得税法第69条第1項(損益通算)
  • 所得税法第35条(雑所得)
  • 租税特別措置法第41条の14(先物取引に係る雑所得等の課税の特例)
  • 所得税法等の一部を改正する法律(令和8年3月31日成立・同日公布・4月1日施行)
  • 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」2-11、2-12
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