債権トークン(自己発行)の税務処理(後編)|NFT担保型の仕訳フローと方式選択基準

結論

NFT担保型では、売買型・預入型とも全ステップで実質同じ処理(簿価振替)となり、方式の違いが影響しない。所得に影響するのは借入ETHの利息コストのみである。方式選択の実益は暗号資産担保型に限られ、実務的には売買型ベースで差し支えない。

  • 理由① NFT担保型では債権トークン(nDOODLE等)の時価が不明なため、売買型を適用しても交換益を認識できない。NFT預入→債権トークン受領→ETH借入→期末→返済→NFT返還の全6ステップを通じて、売買型・預入型の仕訳・損益が完全に一致する。
  • 理由② 借入暗号資産の「債務」は原則として期末評価しない(FAQ3-1-8)が、手元にある借入暗号資産そのものは通常の暗号資産として時価評価する。結果として暗号資産の評価損と借入債務の評価益が相殺され、所得影響はゼロとなる。
  • 条件 暗号資産担保型の完全仕訳フローは中編で確認済みである。本後編ではNFT担保型のフローと、暗号資産担保型・NFT担保型を総括した方式選択の最終基準を示す。

法人税法第22条第2項・第4項 / 国税庁FAQ3-1-6・FAQ3-1-8

この記事でわかること

  • NFT担保型の完全仕訳フロー(預入→借入→期末→洗替→返済→NFT返還の6ステップ)
  • 借入暗号資産の評価原則(「債務」と「手元の暗号資産」の区別)
  • NFT担保型では売買型・預入型で方式の違いが影響しないことの検証
  • 暗号資産担保型・NFT担保型を総括した方式選択の最終基準

注意:債権トークンの税務処理について、現時点で国税庁からの公式見解やアナウンスは存在しない。本記事の整理はカオーリア会計事務所による検討に基づくものであり、税務調査において異なる見解が示される可能性がある。また、本記事は法人税法を前提に解説しているが、期末時価評価を除き、個人(所得税)の場合でも結論は概ね同様である。

目次

前提条件|NFT担保型の数値例

【結論】以下の数値例でNFT担保型の全6ステップを追跡する。売買型・預入型とも全ステップで同一の仕訳・損益となることを検証する。

  • NFTアート(取得価額1,000,000円)をプロトコルに差入
  • 1nDOODLE(時価不明)を受領
  • nDOODLE保有により0.3ETH(借入時時価:1ETH=500,000円)を借入
  • 期末時価:1ETH=400,000円、nDOODLE時価不明
  • 翌期:元本0.3ETH+利息0.01ETH(返済時時価:1ETH=700,000円)を返済。利息ETHの取得原価は1ETH=300,000円
  • nDOODLE返却→NFTアート返還

NFT担保型の完全仕訳フロー

【結論】NFT担保型では、売買型・預入型とも全ステップで実質同じ処理となる。債権トークンの時価が不明であるため方式の違いが影響せず、NFT預入→ETH借入→期末→返済→NFT返還の全工程を通じて最終損益も一致する。以下では方式の区別なく統一的に処理する。

ステップ1:NFT預入→債権トークン受領

NFTアート(取得価額1,000,000円)をプロトコルに差し入れ、1nDOODLE(時価不明)を受領する。

借方金額貸方金額
債権トークン(nDOODLE)1,000,000NFT1,000,000

所得:0。nDOODLEの時価が不明のため、NFTの取得原価をそのまま引き継ぐ簿価振替。売買型・預入型いずれも同じ仕訳となる(前編で確認済み)。

ステップ2:ETH借入

nDOODLEを保有していることにより、0.3ETH(借入時時価:1ETH=500,000円)をプロトコルから借入する。nDOODLEをプロトコルに預け入れる必要はないが、ETHを返済しなければNFTとnDOODLEは交換されない。

借方金額貸方金額
暗号資産(ETH)150,000借入暗号資産(ETH)150,000

所得:0。通常の借入処理。借入した0.3ETH(=150,000円)を暗号資産として計上し、同額の借入債務を計上する。

ステップ3:期末処理

期末時価:1ETH=400,000円、nDOODLE時価不明。

手元にある暗号資産(借入した0.3ETH)は「自己の計算において有する暗号資産」として期末時価評価する(各シナリオ別の判定基準は「暗号資産法人の期末時価評価」を参照)。同時に、借入債務も同額で評価損益を計上する。

暗号資産(ETH)の時価評価

借方金額貸方金額
暗号資産評価損30,000暗号資産(ETH)30,000

0.3ETH×400,000円=120,000円。簿価150,000円との差額▲30,000円。

借入債務の評価

借方金額貸方金額
借入暗号資産(ETH)30,000暗号資産評価益30,000

借入債務0.3ETH×400,000円=120,000円。簿価150,000円との差額+30,000円(債務の減少=評価益)。

所得:▲30,000+30,000=0。暗号資産の評価損と借入債務の評価益が相殺され、所得影響はゼロとなる。

nDOODLEは時価不明のため評価しない。NFTは期末評価の対象外である。

ステップ4:翌期首洗替

期末の評価損益を洗い替える。

暗号資産(ETH)の洗替

借方金額貸方金額
暗号資産(ETH)30,000暗号資産評価益30,000

借入債務の洗替

借方金額貸方金額
暗号資産評価損30,000借入暗号資産(ETH)30,000

所得:0。洗替後、暗号資産(ETH)簿価は150,000円、借入債務簿価も150,000円に戻る。

ステップ5:ETH返済+利息支払

元本0.3ETH+利息0.01ETHを返済する。返済時時価:1ETH=700,000円。利息に充てるETHの取得原価は1ETH=300,000円。

元本返済

借方金額貸方金額
借入暗号資産(ETH)150,000暗号資産(ETH)150,000

所得:0。ステップ4の洗替後、暗号資産(ETH)簿価と借入債務簿価はともに150,000円(借入時帳簿価額)に戻っている。元本返済は資産と負債の対応消去であり、返済時の時価(0.3ETH×700,000円=210,000円)との差額は損益に算入しない。借入暗号資産は同種同量を返すだけであり、法人がこの価格変動から利益を得たわけでも損失を被ったわけでもないためである(FAQ3-1-8の考え方と同様。詳細は「借入の税務処理(前編)」を参照)。

利息支払

借方金額貸方金額
暗号資産支払利息7,000暗号資産(ETH)3,000
暗号資産売却益4,000

利息0.01ETH×700,000円(支払時時価)=7,000円を支払利息として計上。利息に充てたETHの取得原価0.01ETH×300,000円=3,000円との差額4,000円が暗号資産売却益となる。

ステップ5の所得:支払利息▲7,000+売却益+4,000=▲3,000円

補足(借入暗号資産の評価原則):借入暗号資産の「債務」は原則として期末評価しない(国税庁FAQ3-1-8)。借入は債務であり、法人税法第61条の5は「保有する暗号資産」を対象としているため、借入債務の評価差額を益金又は損金に算入しない。ただし、借入した暗号資産そのものを保有している場合は、その暗号資産自体が「自己の計算において有する暗号資産」として期末時価評価の対象となる(ステップ3で確認済み)。借入暗号資産を売却した場合は信用取引(空売り)と同一の処理となり、未決済建玉として管理する。詳細は「暗号資産の信用取引(売・買)の税務処理」を参照。

ステップ6:債権トークン返却→NFT返還

1nDOODLE(時価不明)をプロトコルに返却し、NFTアート(取得価額1,000,000円)が返還される。

借方金額貸方金額
NFT1,000,000債権トークン(nDOODLE)1,000,000

所得:0。nDOODLEの時価が不明であり、NFTの時価も通常は取得困難であるため、ステップ1の簿価をそのまま引き継ぐ。売買型・預入型いずれも同じ仕訳となる。

NFT担保型の全体損益まとめ

ステップ取引所得
1NFT預入→nDOODLE受領0
2ETH借入0
3期末処理0(評価損益相殺)
4翌期首洗替0
5ETH返済+利息支払▲3,000(利息コスト)
6nDOODLE返却→NFT返還0
合計▲3,000

NFT担保型の全ステップを通じて、所得に影響するのはステップ5の利息コスト(▲3,000円)のみである。NFTの含み益・含み損は一切実現しない。売買型・預入型のいずれを採用しても全ステップの仕訳・損益が完全に一致する。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

方式選択の最終基準

【結論】課税判定の3軸で債権トークンは「争いあり」であり、売買型・預入型の双方が条文構造上成立する。実務的には売買型をベースとすることに差し支えはない。NFT担保型では両方式とも実質同じ処理となるため、方式選択の実益は暗号資産担保型に限られる。いずれの方式でも途中で処理方針を変更しないことが最重要である。

項目売買型預入型
理論的根拠別トークン受領=交換(譲渡)処分権移転先の不存在=課税イベントではない(泉教授)
暗号資産担保型の供給時課税あり(含み益実現)なし(簿価振替)
NFT担保型の供給時課税なし(時価不明→簿価振替)なし(簿価振替)
暗号資産担保型の償還時受取時価−cETH簿価で一括精算元本は簿価引継ぎ、利息のみ課税(中編で検証済み)
他記事との整合整合的(リキッドステーキング・流動性提供・分割型と同一ロジック)根拠が異なる(処分権論は固有の論理)
ソフト整合性高い(売買処理前提)低い(手動調整要)
期末課税(法人)供給時に利確済み→追加影響小プロトコルに預けた暗号資産を時価評価→期末課税あり
最終損益償還時に確定元本ETH売却時に確定(償還時は利息のみ課税)

暗号資産担保型の預入型では、償還時は利息のみ課税され元本の含み益は将来ETHを売却した時点で実現する。売買型とは課税タイミングが異なるが、最終累計損益は元本ETH売却後に一致する(中編で検証済み)。

当事務所の実務的スタンスとしては、売買型をベースとすることに差し支えはないと考えている。売買型は損益計算ソフトとの親和性が高く、リキッドステーキング・流動性提供・分割型債権トークン(PT/YT)の交換課税と同一のロジックで一貫した処理が可能である。預入型は泉教授の処分権論に学術的根拠があるものの、ソフト上は手動調整が必要となるケースが多い。ただし、国税庁の公式見解が出ていない以上、どちらの方式も「これが正解」とは断定できない。

類型別の整理

類型方式の違いの影響実務的対応
暗号資産担保型(cETH等、時価あり)あり(供給時の課税タイミングが異なる)売買型ベースが扱いやすい(中編で検証済み)
NFT担保型(nDOODLE等、時価不明)なし(全ステップで実質同じ処理)方式選択の実益がない(本後編で検証済み)

よくある質問(FAQ)

Q1. NFT担保型で売買型を選ぶ意味はありますか?

実質的にはない。NFT担保型では債権トークンの時価が不明であるため、売買型を適用しても交換益を認識できず、簿価振替処理となる。預入型と結果が同一であるため、方式選択の実益は暗号資産担保型に限られる。

Q2. NFT担保型で期末に借入ETHの評価損益が相殺されるのはなぜですか?

暗号資産の評価損と借入債務の評価益が同額で打ち消し合うためである。手元にある0.3ETHを時価評価すると評価損30,000円が発生するが、同時に借入債務0.3ETHも同額で評価すると債務の減少=評価益30,000円が発生する。結果として所得影響はゼロとなる。

Q3. 暗号資産担保型とNFT担保型で方式を分けることはできますか?

分けることが合理的である。暗号資産担保型の売買型とNFT担保型の預入型(実質的に売買型と同じ結果)を併用することは、担保の経済実態の違いに基づくため税務調査でも説明可能である。ただし同一類型内では方式を統一する必要がある。

Q4. 借入暗号資産を売却した場合はどうなりますか?

信用取引(空売り)と同一の処理となる。借入暗号資産を売却すると元の暗号資産は消滅し、返済義務のみが残る。この場合は未決済建玉として管理し、期末にみなし決済、翌期首に洗替を行う。詳細は「 暗号資産の信用取引(売・買)の税務処理|期末みなし決済と統一仕訳」を参照。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

関連記事・サービスページ

関連記事

専門の税理士に依頼する場合

暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。

関係法令

  • 法人税法第22条第2項(益金の額)
  • 法人税法第22条第3項(損金の額)
  • 法人税法第22条第4項(資産の評価益は原則益金不算入)
  • 法人税法第61条の5(暗号資産の期末評価)
  • 法人税法施行令第118条の7(暗号資産の期末評価方法)
  • 国税庁FAQ3-1-6(ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価)
  • 国税庁FAQ3-1-8(借入暗号資産の評価)
必要に応じてご共有ください
  • URLをコピーしました!
目次