暗号資産担保型(cETH型)の完全仕訳フローを売買型・預入型それぞれで追跡する。売買型は供給時に含み益を実現し、償還時に受取時価とcETH簿価の差額で一括精算する。預入型は供給時に課税せず、償還時は元本を簿価で引き継ぎ、利息(数量増加分)のみ課税する。最終累計損益は元本ETHを売却した時点で一致する。
- 理由① 売買型は「暗号資産とcETHの交換」として供給時に含み益を実現するため、償還時の損益は「受取時価−cETH簿価(時価取得)」に限られる。利息を含む数量増減は差額に内包され、分解せず一括処理する。
- 理由② 預入型は「預けたものが戻ってきただけ」であるため、元本は取得原価を引き継ぎ、利息(数量増加分)のみ受取利息として益金算入する。元本の含み益は償還時に実現せず、将来ETHを売却した時に初めて課税される。ステーキングの預入・引出処理と同じロジックである。
- 条件 本中編は暗号資産担保型に集中する。NFT担保型の完全仕訳フロー(預入→借入→期末→返済→NFT返還)と方式選択の最終基準は後編で扱う。
法人税法第22条第2項・第4項 / 法人税法第61条の5
この記事でわかること
- 暗号資産担保型の完全仕訳フロー(供給→期末→償還の全ステップ、売買型・預入型それぞれ)
- 償還時の確定仕訳(利益ケース・損失ケース)
- 売買型と預入型の利息処理の違い(差額一括 vs 利息分離)
- 債権トークン売却時の「みなし償還」処理
- 売買型と預入型の最終損益一致の検証
注意:債権トークンの税務処理について、現時点で国税庁からの公式見解やアナウンスは存在しない。本記事の整理はカオーリア会計事務所による検討に基づくものであり、税務調査において異なる見解が示される可能性がある。また、本記事は法人税法を前提に解説しているが、期末時価評価を除き、個人(所得税)の場合でも結論は概ね同様である。
前提条件|共通数値例
【結論】前編と同一の数値例に期末・償還条件を追加し、供給→期末→償還の全ステップを売買型・預入型それぞれで追跡する。
- 1ETH(取得原価150,000円、供給時時価200,000円)を担保差入
- 1cETH(供給時時価180,000円)を取得
- 期末時価:ETH 300,000円、cETH 250,000円
- 償還時に1.1ETH(時価400,000円/ETH)を回収(0.1ETHは利息相当分)
ステップ1:ETH供給→cETH受領(前編再掲)
【結論】売買型は供給時に含み益30,000円を実現し、預入型は簿価振替で課税しない。ここから期末・償還の仕訳へ展開する。
売買型
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 債権トークン(cETH) | 180,000 | 暗号資産(ETH) | 150,000 |
| 暗号資産売却益 | 30,000 |
所得:+30,000。cETH簿価=供給時時価180,000円。
預入型
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 債権トークン(cETH) | 150,000 | 暗号資産(ETH) | 150,000 |
所得:0。cETH簿価=ETH取得原価150,000円。
ステップ2:期末処理【法人のみ】
【結論】売買型はcETHの市場有無で期末評価が分岐する。預入型はプロトコルに預けた暗号資産を「自己の計算において有する暗号資産」として時価評価する(FAQ3-1-6の考え方と同様)。いずれの方式でも法人は含み益課税を免れない。
売買型の期末評価
cETH簿価180,000円に対し、期末時価250,000円の場合。cETHに活発な市場がある場合は時価評価の対象となる。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 債権トークン(cETH) | 70,000 | 暗号資産評価益 | 70,000 |
翌期首に洗替処理を行う。cETHに活発な市場がない場合は原価据置(仕訳なし)。供給時に含み益30,000円を既に実現済みのため、期末評価の追加影響は限定的である。
預入型の期末評価
プロトコルに預けた暗号資産を「自己の計算において有する暗号資産」として時価評価する(FAQ3-1-6の考え方と同様)。各シナリオ別の期末時価評価の判定基準は「暗号資産法人の期末時価評価」で解説している。ETHの供給時簿価150,000円に対し、期末時価300,000円の場合。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産評価損益 | 150,000 | 暗号資産評価益 | 150,000 |
翌期首に洗替処理を行う。預入型を採用しても期末の含み益課税は免れない。
個人(所得税)にはそもそも暗号資産の期末時価評価制度がないため、期末評価は不要である。
ステップ3:償還|利益ケース
【結論】売買型は受取時価とcETH簿価の差額で一括精算する。預入型は「預けたものが戻ってきただけ」であるため、元本1ETHは取得原価を引き継ぎ、利息0.1ETHのみ受取利息として課税する。
償還条件
- 償還時に1.1ETH(時価400,000円/ETH)を回収
- 受取時価:1.1ETH×400,000円=440,000円
- うち元本1ETH、利息0.1ETH
売買型の仕訳
実現損益:440,000−180,000=+260,000円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産(ETH) | 440,000 | 債権トークン(cETH) | 180,000 |
| 債権トークン償還益 | 260,000 |
受領した1.1ETHの取得原価は440,000円(受領時時価、1ETHあたり400,000円)。
累計所得:供給時+30,000+償還時+260,000=+290,000円
預入型の仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産(ETH) | 150,000 | 債権トークン(cETH) | 150,000 |
| 暗号資産(ETH) | 40,000 | 受取利息 | 40,000 |
元本1ETHは取得原価150,000円を引き継ぐ。利息0.1ETH×400,000円=40,000円を受取利息として益金算入する。元本部分の含み益(時価400,000円−取得原価150,000円=250,000円)は償還時に実現せず、将来ETHを売却した時に初めて課税される。ステーキングの預入・引出処理と同じロジックである。
受領した1.1ETHの取得原価内訳:元本1ETH=150,000円(引継ぎ)、利息0.1ETH=40,000円(受取時時価)。
累計所得:供給時0+償還時+40,000=+40,000円(元本含み益250,000円は未実現)
ステップ3(別パターン):償還|損失ケース
【結論】元本より少ない数量しか返還されない場合、売買型は受取時価とcETH簿価の差額を損失計上する。預入型は返還されない元本分の簿価のみを損失計上し、返ってきたETHの取得原価は元の1ETHあたり単価を維持する。
償還条件(大幅損失ケース)
- 償還時に0.9ETH(時価100,000円/ETH)を回収
- 受取時価:0.9ETH×100,000円=90,000円
- 元本1ETHに対し0.1ETH減少(利息なし)
売買型の仕訳
実現損益:90,000−180,000=▲90,000円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産(ETH) | 90,000 | 債権トークン(cETH) | 180,000 |
| 債権トークン償還損 | 90,000 |
累計所得:供給時+30,000+償還時▲90,000=▲60,000円
預入型の仕訳
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産(ETH) | 135,000 | 債権トークン(cETH) | 150,000 |
| 債権トークン償還損 | 15,000 |
元本1ETH(簿価150,000円)に対し0.9ETHしか返還されないため、返還されない0.1ETH分の簿価15,000円を損失計上する。返ってきた0.9ETHの取得原価は135,000円(1ETHあたり150,000円を維持)。0.9ETHの含み損(時価90,000円−簿価135,000円=▲45,000円)は償還時に実現せず、将来ETHを売却した時に初めて課税される。
累計所得:供給時0+償還時▲15,000=▲15,000円(元本含み損45,000円は未実現)
利息処理の方式別比較
【結論】売買型と預入型で利息の認識方法が異なる。売買型は受取時価とcETH簿価の差額に利息が内包されるため一括処理する。預入型は元本を簿価引継ぎするため、利息(数量増加分)のみを分離して受取利息として課税する。
| 項目 | 売買型 | 預入型 |
|---|---|---|
| 利息の認識 | 差額に内包(一括処理) | 数量増加分を分離して受取利息計上 |
| 元本の取得原価 | 受領時時価(1ETHあたり400,000円) | 供給時の取得原価を引継ぎ(1ETHあたり150,000円) |
| 含み益の実現時期 | 償還時に一括実現 | 将来ETH売却時に実現 |
売買型では、1ETH差入に対し1.1ETHを回収した場合の利息0.1ETHは、償還益260,000円の中に含まれている。差額一括処理が可能なのは、供給時にETHの含み益を既に実現しcETH簿価が時価ベースであるためである。
預入型では、「預けたものが戻ってきただけ」であるため元本1ETHの取得原価をそのまま引き継ぐ。利息0.1ETH×400,000円=40,000円のみが新たに発生した経済的利益として益金算入される。この整理はステーキングの預入・引出と同じロジックであり、貸付の返還処理(「借入の税務処理(前編)」参照)とも整合する。
いずれの方式でも、ブロック単位での逐次認識は実務上困難であるため、償還時に一括で処理する。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
債権トークン売却時の処理|みなし償還
【結論】債権トークンを第三者に売却した場合は、売却価額と帳簿価額の差額が実現損益となる。売却は預入ポジション自体の処分であるため、売買型・預入型いずれも「売却価額−cETH簿価」で計算し、この場合は累計損益が即座に一致する。
売却条件
- 1cETHを410,000円で売却し、4,100USDC(1USDC=100円)を受領
売買型の仕訳
実現損益:410,000−180,000=+230,000円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産(USDC) | 410,000 | 債権トークン(cETH) | 180,000 |
| 暗号資産売却益 | 230,000 |
累計所得:供給時+30,000+売却時+230,000=+260,000円
預入型の仕訳
実現損益:410,000−150,000=+260,000円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産(USDC) | 410,000 | 債権トークン(cETH) | 150,000 |
| 暗号資産売却益 | 260,000 |
累計所得:供給時0+売却時+260,000=+260,000円
売却の場合は預入ポジション自体を第三者に処分するため、預入型でも「元本簿価引継ぎ+利息のみ課税」ではなく全額実現となる。結果として売買型と預入型の累計が即座に一致する。償還の場合と異なり、元本ETHが手元に戻らないためである。
最終損益一致の検証
【結論】売買型と預入型の最終累計損益は完全に一致する。ただし一致するタイミングが異なる。売却(みなし償還)では即座に一致するが、償還の場合は元本ETHを将来売却した時点で一致する。
償還の場合
| パターン | 売買型累計 | 預入型(償還時点) | 預入型(ETH売却後) |
|---|---|---|---|
| 利益(1.1ETH受取) | +290,000 | +40,000(利息のみ) | +40,000+250,000=+290,000 |
| 損失(0.9ETH受取) | ▲60,000 | ▲15,000(元本毀損分のみ) | ▲15,000−45,000=▲60,000 |
預入型では元本ETHの取得原価が供給時のまま据え置かれるため、元本の含み益(または含み損)は償還時に実現しない。将来ETHを売却した時に初めて含み益(損)が実現し、売買型と累計が一致する。
売却(みなし償還)の場合
| パターン | 売買型累計 | 預入型累計 |
|---|---|---|
| cETH売却(410,000円) | +30,000+230,000=+260,000 | 0+260,000=+260,000 |
売却の場合は預入ポジション自体の処分であるため、預入型でも全額実現し即座に一致する。
暗号資産担保型の全体損益まとめ(利益ケース)
| ステップ | 売買型 | 預入型 |
|---|---|---|
| 1. 供給 | +30,000 | 0 |
| 2. 期末(洗替考慮後) | 0 | 0 |
| 3. 償還 | +260,000 | +40,000(利息のみ) |
| 償還時点の合計 | +290,000 | +40,000 |
| 将来のETH売却 | ― | +250,000(元本含み益実現) |
| 最終合計 | +290,000 | +290,000 |
補足:同一事業年度内に供給と償還の両方が完了し、さらに償還で受け取ったETHも同一年度内に売却した場合は、いずれの方式でも当期の課税所得は同一となる。方式の違いが実質的に影響するのは期をまたいで債権トークンまたは元本ETHを保有する場合に限られる。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 預入型で償還時に利息と元本を分ける必要がありますか?
分ける必要がある。預入型は「預けたものが戻ってきただけ」であるため、元本は取得原価を引き継ぎ、利息(数量増加分)のみ受取利息として益金算入する。差入数量(1ETH)と回収数量(1.1ETH)の差が利息であり、区分は客観的に可能である。売買型の場合は差額一括処理で足りるため、利息を分離する必要はない。
Q2. 債権トークンの売却と償還で預入型の処理は異なりますか?
異なる。償還は「預けたETHが戻ってくる」ため元本簿価引継ぎ+利息のみ課税だが、売却は預入ポジション自体の処分であるため全額実現する。償還では元本の含み益が繰り延べられるが、売却では即座に実現する。
Q3. 利息をブロック単位で認識する方が正確ではないですか?
理論上はそのとおりだが、実務上困難である。DeFiプロトコルはブロックごとに利息を計算するが、法人がこれを逐次認識するためにはリアルタイムの残高トラッキングが必要となる。償還時一括認識は、正確性と実務可能性のバランスとして合理的な整理である。
Q4. 預入型を選ぶと課税の繰延べができますか?
元本部分の含み益は繰り延べられる。預入型では償還時に利息のみ課税され、元本の含み益は将来ETHを売却するまで実現しない。ただし法人は期末にプロトコルに預けた暗号資産を時価評価するため、期をまたぐ場合は期末評価損益が先行して発生する(翌期首に洗替)。個人の場合は期末評価がないため、純粋に売却時まで繰り延べられる。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
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- 法人税法第22条第3項(損金の額)
- 法人税法第22条第4項(資産の評価益は原則益金不算入)
- 法人税法第61条の5(暗号資産の期末評価)
- 法人税法施行令第118条の7(暗号資産の期末評価方法)
- 国税庁FAQ3-1-6(ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価)
