借入の税務処理(中編)|借入暗号資産でモノ・サービスを購入した場合

結論

借入暗号資産でモノ・サービスを購入した場合、「借入暗号資産の処分」として譲渡損益を認識する。取得原価は借入時の時価(前編で確立したA方式)であり、使用時に簿価と時価の差額が譲渡益となる。

  • 理由① A方式(取得原価=借入時時価)では、使用時に簿価と時価の差額のみが譲渡益となる。1,000USDT全額充当の場合、譲渡益は30,000円にとどまり、経済実態に合致する。
  • 理由② 使用後は資産がゼロ(または残存分のみ)で負債が残る。この「負債のみ」の状態で期末を迎えると、負債側の評価損が発生する。期末評価は洗替処理を行い、翌期に中立化する。
  • 条件 一部充当の場合、未使用分の借入暗号資産は「借入のまま保有」の状態であり、前編で解説した期末評価の原則(FAQ3-1-8に基づく評価損益不算入)が引き続き適用される。使用済み分と未使用分を分離管理する必要がある。

法人税法第22条第2項・第4項 / 国税庁FAQ3-1-8

この記事でわかること

  • 借入暗号資産を全額モノ・サービスに充当した場合の仕訳
  • 一部のみ充当した場合の仕訳と、未使用分の期末処理
  • 使用後に「負債のみ」が残る状態の期末評価と期首洗替
  • 返済時の仕訳と最終経済結果の整合確認

注意:暗号資産の借入の税務処理について、現時点で国税庁からの公式見解やアナウンスは存在しない。本記事の整理はあくまでもカオーリア会計事務所による検討であり、税務調査において異なる見解が示される可能性がある。また、本記事は法人税法を前提に解説しているが、期末時価評価を除き、個人(所得税)の場合でも結論は概ね同様である。

目次

全額充当ケース|借入USDTをすべてモノ・サービスに使用

【結論】借入暗号資産を全額モノ・サービスに充当した場合、「暗号資産の処分」として譲渡損益を認識する。簿価(借入時時価)と使用時時価の差額のみが譲渡益となり、経済実態に合致する(法人税法第22条第2項)。

前編で確立したA方式(取得原価=借入時時価)に基づく。前提条件は前編と同じ数値セットを使用する。

前提条件

  • 株式会社甲(法人)
  • 借入:1,000USDT
  • 借入時の時価:120円/USDT(120,000円)
  • サロン参加費支払時の時価:150円/USDT
  • 期末の時価:180円/USDT
  • 返済用USDT購入時の時価:200円/USDT
  • 返済時の時価:160円/USDT

ステップ1:借入時

借方金額貸方金額
暗号資産(USDT)120,000借入暗号資産120,000

所得:0

ステップ2:1,000USDTを情報サロン参加費に全額充当(時価150円)

支払額:150円×1,000USDT=150,000円

借方金額貸方金額
雑費150,000暗号資産(USDT)120,000
暗号資産売却益30,000

所得:+30,000(簿価120,000と使用時時価150,000の差額)

経済実態は「借入暗号資産の処分」であり、簿価との差額だけが損益要素となる。借入時の時価120,000円から使用時の時価150,000円に上昇した分の30,000円を売却益として認識する。暗号資産でモノ・サービスを購入した場合の基本的な課税関係(決済=譲渡)は「暗号資産の損益計算の基本」で解説している。

一部充当ケース|借入USDTの800枚をモノ・サービスに使用

【結論】一部のみ充当した場合、使用分は全額充当と同じ「暗号資産の処分」として処理する。未使用の200USDTは「借入のまま保有」の状態であり、期末評価の取扱いが使用済み分と異なる(国税庁FAQ3-1-8)。

前提条件

前提条件は全額充当ケースと同一。ただし使用量は800USDT、残存200USDTとする。

ステップ1:借入時

全額充当と同じ。暗号資産120,000 / 借入暗号資産120,000。

ステップ2:800USDTをサロン参加費に充当(時価150円)

支払額:150円×800USDT=120,000円

簿価:120円×800USDT=96,000円

借方金額貸方金額
雑費120,000暗号資産(USDT)96,000
暗号資産売却益24,000

所得:+24,000

使用後の残高状態は以下のとおりである。

項目数量簿価
暗号資産(USDT)200枚24,000(120円×200)
借入暗号資産(負債)1,000枚120,000

期末処理|負債が資産を超過する状態の評価

【結論】使用後に「資産ゼロ・負債のみ」または「資産<負債」の状態で期末を迎えた場合、負債の評価損が発生する。翌期首に洗替を行い中立化する。

なお、個人(所得税)にはそもそも暗号資産の期末時価評価制度がないため、期末評価は不要である。

全額充当の期末(資産ゼロ・負債のみ)

借入USDTを全額使用済みのため、期末時点の残高は以下のとおりである。

  • 暗号資産(資産):0
  • 借入暗号資産(負債):1,000枚

期末仕訳(USDT 180円)

負債の評価増:1,000×(180−120)=60,000

借方金額貸方金額
暗号資産評価損60,000借入暗号資産60,000

当期所得:+30,000−60,000=▲30,000

一部充当の期末(資産200枚・負債1,000枚)

一部充当ケースでは、未使用の200USDTと借入負債1,000USDTが残る。

期末仕訳

負債の評価増:1,000×(180−120)=60,000

資産の評価増:200×(180−120)=12,000

借方金額貸方金額
暗号資産評価損60,000借入暗号資産60,000
暗号資産(USDT)12,000暗号資産評価益12,000

当期所得:+24,000−60,000+12,000=▲24,000

未使用の200USDTは「借入のまま保有」の状態であるため、前編で解説したFAQ3-1-8の原則(評価損益は益金・損金に算入しない)が適用される。したがって税務上は、200USDT分の評価益12,000円と負債の評価損のうち200USDT対応分(12,000円)は別表四で調整する。

期首洗替

翌期首に期末の評価仕訳の逆仕訳を行い、帳簿価額を評価前の取得原価に戻す。

全額充当の洗替

借方金額貸方金額
借入暗号資産60,000暗号資産評価益60,000

所得:+60,000(累計損益は使用時の確定利益+30,000に復帰)

一部充当の洗替

借方金額貸方金額
借入暗号資産60,000暗号資産評価益60,000
暗号資産評価損12,000暗号資産(USDT)12,000

所得:+60,000−12,000=+48,000(累計損益は使用時の確定利益+24,000に復帰)

洗替後、負債側は120,000円、資産側(未使用200USDT)は24,000円に戻り、翌期の取引は取得原価ベースで処理される。

返済時の仕訳|USDTを購入して返済する場合

【結論】返済用にUSDTを市場から購入し、借入を返済する。借入暗号資産(負債)と暗号資産(資産)を対応消去し、負債をゼロにする。最終累計損益は経済実態(実際のキャッシュフロー)と一致する。

全額充当ケースの返済

借入USDTを全額使用済みのため、返済用に1,000USDTを市場から購入して返済する。

ステップ1:返済用USDT購入(時価160円)

借方金額貸方金額
暗号資産(USDT)160,000現預金160,000

ステップ2:借入USDT返済

負債側の評価差額:1,000×(160−120)=40,000

借方金額貸方金額
暗号資産評価損40,000借入暗号資産40,000
借入暗号資産160,000暗号資産(USDT)160,000

返済に使用するUSDTの帳簿単価(移動平均法等による取得原価)と返済時の時価が異なる場合、その差額が譲渡損益として発生する。本例では返済用に市場から即時購入しているため簿価と時価が一致し譲渡損益は0となっているが、実務上は既に保有しているUSDTを返済に充てるケースが多い。その場合、過去の取引で積み上がった平均取得単価と返済時の時価が乖離するため、譲渡損益が発生する。

参考:既に保有しているUSDTで返済する場合

過去の取引で手元にUSDTを保有しており、その平均取得単価が返済時の時価と異なるケース。

前提条件

  • 手元USDTの平均取得単価:140円/USDT(簿価140,000円)
  • 返済時の時価:160円/USDT

返済仕訳

借方金額貸方金額
暗号資産評価損40,000借入暗号資産40,000
借入暗号資産160,000暗号資産(USDT)140,000
暗号資産売却益20,000

手元USDTの平均取得単価140円と返済時の時価160円の差額20,000円(=(160−140)×1,000USDT)が譲渡益として発生する。負債側の評価差額40,000円は即時購入のケースと同じである。

全額充当ケースの最終累計損益

ステップ所得
使用時+30,000
期末評価▲60,000
期首洗替+60,000
返済時評価差額▲40,000
最終累計▲10,000

経済実態との照合

  • サービスの取得価値:150,000円
  • 返済に要した現金:160,000円
  • 差額:▲10,000円

会計上の最終損益▲10,000円は、経済実態と一致する。

一部充当ケースの返済

未使用の200USDTが手元に残っているため、不足分の800USDTを市場から購入して返済する。

ステップ1:不足分800USDT購入(時価160円)

借方金額貸方金額
暗号資産(USDT)128,000現預金128,000

ステップ2:借入USDT 1,000枚を返済

返済するUSDTの内訳:未使用分200枚(簿価24,000円)+購入分800枚(簿価128,000円)=合計簿価152,000円

負債側の評価差額:1,000×(160−120)=40,000

借方金額貸方金額
暗号資産評価損40,000借入暗号資産40,000
借入暗号資産160,000暗号資産(USDT)152,000
暗号資産売却益8,000

未使用分200USDTの簿価24,000円に対し返済時の時価は32,000円(160円×200)であるため、差額8,000円が譲渡益として発生する。

一部充当ケースの最終累計損益

ステップ所得
使用時+24,000
期末評価(負債)▲60,000
期末評価(資産)+12,000
期首洗替+48,000
返済時評価差額▲40,000
返済時譲渡益+8,000
最終累計▲8,000

経済実態との照合

  • サービスの取得価値:120,000円(800USDT×150円)
  • 返済に要した現金:128,000円(800USDT×160円)
  • 差額:▲8,000円

会計上の最終損益▲8,000円は、経済実態と一致する。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

実務上の注意点

【結論】借入暗号資産をモノ・サービスに使用する際は、①経費科目の正確な区分、②一部充当時の使用済み分と未使用分の分離管理が特に重要である。損益計算ソフトとの乖離・借入ロットの個別管理・別表四の調整方法については前編を参照。

経費科目は使途に応じて正確に区分する

借入暗号資産の使途がモノ・サービスの購入であれば、仕訳の借方は使途に応じた適切な経費科目を選択する。情報サロン参加費であれば研修費・雑費、広告であれば広告宣伝費、ソフトウェアであれば無形固定資産等となる。「暗号資産で支払った」という支払手段の特殊性に惑わされず、通常の経費処理と同じ判断基準で科目を選ぶ。

一部充当時の分離管理

1,000USDTのうち800枚を使用し200枚が残った場合、使用済み分と未使用分で期末の税務処理が異なる。使用済み分は確定損益であり、未使用分はFAQ3-1-8に基づく評価損益不算入の対象となる。この分離管理を怠ると、別表四の調整が不正確になる。

参考:プロトコルを介さない貸借でETHにより代物弁済する場合

個人間・法人間の貸借契約において、貸し手の合意のもとUSDTの代わりにETHで返済する場合、税務上は「代物弁済」として処理する。ETHを時価で譲渡し、その対価でUSDT返済義務を消滅させたものとみなす。

前提条件

  • USDT借入負債:1,000USDT(簿価120,000円)
  • 返済に充てるETH:1ETH(簿価150,000円)
  • 返済時の時価:1ETH=160,000円、1USDT=160円

代物弁済の仕訳

借方金額貸方金額
暗号資産評価損40,000借入暗号資産40,000
借入暗号資産160,000暗号資産(ETH)150,000
暗号資産売却益10,000

ETHの譲渡益10,000円(時価160,000−簿価150,000)と、負債側の評価差額40,000円が同時に発生する。DeFiプロトコル経由の場合はスワップ+返済の2処理に分かれるが、代物弁済の場合は1つの仕訳で完結する点が異なる。

借入シリーズ共通の実務上の注意点(損益計算ソフトとの乖離、借入ロットの個別管理、DeFi特有の注意点、同族間取引の時価乖離リスク、別表四の調整)については「借入の税務処理(前編)|取得原価の決定と基本仕訳」を参照。

よくある質問(FAQ)

Q1. 借入暗号資産で経費を支払った場合、経費は全額損金になりますか?

当事務所の見解ではなる。経費の損金算入額は支払時の暗号資産の時価であり、借入かどうかは経費側の処理に影響しないと考える(法人税法第22条第3項)。ただし暗号資産側で譲渡損益が別途発生する。国税庁から借入暗号資産の使用に関する公式見解は出ていない。

Q2. 借入暗号資産の一部だけ使用した場合、残りの評価はどうなりますか?

未使用分は「借入のまま保有」であり、税務上は評価損益を算入しないと考える。使用済み分と未使用分を分離管理し、別表四で適切に調整する(国税庁FAQ3-1-8)。

Q3. NFTやDeFiサービスの購入でも同じ処理ですか?

同じである。借入暗号資産をNFT・役務提供・広告費・会費等に充当しても、本質は「借入暗号資産の処分」である。借方の経費科目が変わるだけで、暗号資産側の処理ロジックは共通する。

Q4. 返済用のUSDTを日本円ではなく、手持ちの暗号資産で調達して返済する場合は?

手持ちの暗号資産(例:ETH)をUSDTにスワップしてから返済する。DeFiプロトコルでは借入した暗号資産と同種同量での返済が原則であり、ETHで直接USDTの借入を返済することはできない。暗号資産同士の交換時の課税関係は「暗号資産の損益計算の基本」で解説している。一部プロトコル(Aave等)の「Swap and Repay」機能も、内部でETH→USDTスワップを行った上でUSDTを返済する仕組みである。税務上は、ETH→USDTスワップ時にETHの譲渡損益が発生し(簿価と交換時時価の差額)、取得したUSDTで通常どおり返済する。返済の仕訳自体は本編で解説した処理と同じである。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

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関係法令

  • 法人税法第22条第2項(益金の額)
  • 法人税法第22条第3項(損金の額)
  • 法人税法第22条第4項(資産の評価益は原則益金不算入)
  • 法人税法第61条(暗号資産の評価)
  • 国税庁FAQ3-1-8(借入暗号資産の期末時価評価)
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