暗号資産の損益計算は「収入金額−譲渡原価−経費」の算式が基本。無料取得以外で課税が発生するのは売却・交換・決済の3パターンのみであり、保有しているだけでは課税されない。
- 理由① キャピタルゲイン・ロスが確定するタイミングは資産が自分の所有物でなくった時点である。ウォレット間の送金や取引所への入出金は課税イベントに該当しないため、すべての移動が課税対象になるわけではない。
- 理由② 譲渡原価の計算方法は移動平均法と総平均法の2つがある。個人の法定評価方法は総平均法であり、届出なしで自動適用される。どちらを選択するかで同じ取引でも所得金額が変わるため、評価方法の理解が正確な損益計算の前提となる。
- 条件 個人が保有しているだけでは課税されないが、法人は期末時価評価により保有中の含み益にも課税される。「保有=非課税」が成り立つのは個人に限った話であり、法人は別ルールとなる点に注意が必要。
所得税法第36条第1項
この記事でわかること
- 暗号資産の損益計算の基本算式と3つの課税パターン
- パターンごとの具体的な計算例(国税庁FAQ・共著書籍の事例)
- 譲渡原価の計算の仕組みと評価方法の選定
- 暗号資産同士の交換で損失が出た場合の取扱い
- 損益計算で間違えやすい実務上の注意点
損益計算の基本算式
【結論】暗号資産の所得金額は「収入金額 - 譲渡原価 - 手数料等の経費」で計算する。譲渡原価は「1単位当たりの取得価額 × 譲渡した数量」で算出し、1単位当たりの取得価額は総平均法または移動平均法で計算する(所得税法第48条の2第1項)。
暗号資産の損益計算は、以下の算式が基本となる。
所得金額 = 収入金額(譲渡価額)- 譲渡原価 - 手数料等の経費
この算式を構成する3つの要素は次のとおりである。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 収入金額 | 日本円で受け取った金額、または受け取った暗号資産・商品等の取得時点の時価 |
| 譲渡原価 | 1単位当たりの取得価額 × 譲渡した暗号資産の数量 |
| 手数料等の経費 | 売買手数料、送金手数料など取引に直接要した費用 |
ここで最も重要なのは「1単位当たりの取得価額」の算定である。暗号資産は同じ銘柄を複数回に分けて異なる価格で購入することが多いため、売却時にどの価格を取得価額とするかが問題になる。この計算には「総平均法」と「移動平均法」の2種類がある(詳細は後述および「総平均法と移動平均法の違い|届出・変更手続きと有利不利」を参照)。
なお、暗号資産を保有しているだけでは課税イベントは発生しない。2017年に購入したBTCを2022年まで一切動かさなければ、その間にどれだけ値上がりしていても所得計算は不要である。課税が発生するのは、次に説明する3つのパターンのいずれかに該当した時点である。
パターン①:日本円で売却した場合
【結論】暗号資産を日本円に売却した場合、受け取った日本円が収入金額となり、そこから譲渡原価を差し引いた金額が所得となる。これが最も基本的な課税パターンである(所得税法第36条第1項、国税庁FAQ 1-1)。
計算例
- 2018年5月1日:200万円で2BTC購入(1BTC=100万円)
- 2022年4月1日:0.5BTCを250万円で売却(1BTC=500万円)
250万円 −(200万円 ÷ 2BTC)× 0.5BTC = 200万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| ①収入金額 | 250万円 |
| ②1単位当たりの取得価額 | 100万円(200万円÷2BTC) |
| ③譲渡数量 | 0.5BTC |
| ④譲渡原価(②×③) | 50万円 |
| ⑤所得金額(①−④) | 200万円 |
100万円で取得した暗号資産が500万円に値上がりした状態で0.5BTC分を売却したため、200万円の利益が生じている。この事例で注目すべきは、2018年の購入から2022年の売却までの間、BTCに大幅な値動きがあったにもかかわらず、売却するまで一切課税されていない点である。
関係法令:所得税法第36条、第37条、第48条の2 / 所得税法施行令第119条の2、第119条の5
パターン②:暗号資産同士を交換した場合
【結論】暗号資産同士の交換も課税イベントである。手放した暗号資産を「売却」し、その代金で別の暗号資産を「購入」したものと同じ扱いになる。収入金額は新たに受け取った暗号資産の取得時点の時価を日本円に換算した金額である(所得税法第36条第2項、国税庁FAQ 1-3)。
日本では、税額の計算の単位は日本円である。暗号資産で収入した場合は、その取得時点の時価を日本円に換算して収入金額を算定する必要がある。
計算例(利益が出るケース)
- 2021年1月1日:200万円で10万ADA購入(1ADA=20円)
- 2022年4月1日:5万ADAを6ETHで交換(1ETH=40万円)
(40万円 × 6ETH)−(200万円 ÷ 10万ADA)× 5万ADA = 140万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| ①収入金額(受取ETHの時価) | 240万円 |
| ②1単位当たりの取得価額 | 20円(200万円÷10万ADA) |
| ③譲渡数量 | 5万ADA |
| ④譲渡原価(②×③) | 100万円 |
| ⑤所得金額(①−④) | 140万円 |
計算例(損失が出るケース)
- 2021年5月1日:300万円で30BCH購入(1BCH=10万円)
- 2022年4月1日:15BCHを6,500XRPで交換(1XRP=100円)
(100円 × 6,500XRP)−(300万円 ÷ 30BCH)× 15BCH = △85万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| ①収入金額(受取XRPの時価) | 65万円 |
| ②1単位当たりの取得価額 | 10万円(300万円÷30BCH) |
| ③譲渡数量 | 15BCH |
| ④譲渡原価(②×③) | 150万円 |
| ⑤所得金額(①−④) | △85万円(損失) |
暗号資産同士の交換でも損失が生じることがある。この場合、暗号資産の売却・交換による所得が事業所得に該当する場合には他の所得と損益通算が可能だが、雑所得に該当する場合には損益通算はできない(所得税法第69条)。雑所得の範囲内(他の暗号資産取引の利益等)でのみ相殺可能である。
関係法令:所得税法第36条第2項、第69条 / 所得税法施行令第119条の2
パターン③:商品・サービスの決済に使った場合
【結論】暗号資産で商品やサービスを購入した場合も、暗号資産を「譲渡」したものとして課税される。決済時の暗号資産の時価と譲渡原価の差額が所得金額である。購入した商品・サービスが暗号資産の所得を得るための経費に該当する場合、その金額を必要経費として控除できる(所得税法第36条、第37条、国税庁FAQ 1-2)。
計算例
- 2021年6月1日:80万円で20BNB購入(1BNB=4万円)
- 2022年3月15日:10BNBで税理士に損益計算・確定申告料金45万円を支払い(1BNB=4.5万円)
(4.5万円 × 10BNB)−(80万円 ÷ 20BNB)× 10BNB = 5万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| ①収入金額(支払った暗号資産の時価) | 45万円 |
| ②1単位当たりの取得価額 | 4万円(80万円÷20BNB) |
| ③譲渡数量 | 10BNB |
| ④譲渡原価(②×③) | 40万円 |
| ⑤所得金額(①−④) | 5万円 |
第三者との取引であれば、支払った暗号資産の時価は購入した商品・サービスの価額と同等とみなされるため、収入金額には購入した商品・サービスの価額をそのまま用いることもできる。
この事例では、税理士への損益計算・確定申告料金45万円は暗号資産の所得を得るために必要な経費として認められるため、所得金額の計算上、収入金額から控除できる(所得税法第37条)。暗号資産で5万円の利益が発生するが、同時に45万円の経費が発生するため、トータルの所得は減少する。
なお、暗号資産で従業員に給与を支払った場合も同様の計算となる。給与支給時の暗号資産の時価を収入金額として所得を算定する。
関係法令:所得税法第36条、第37条 / 所得税法施行令第119条の2
譲渡原価の計算の仕組み
【結論】譲渡原価は「1単位当たりの取得価額(単価)× 譲渡数量」で算出する。この単価を求めるために、総平均法または移動平均法が用いられる(所得税法第48条の2第1項)。
所得税法第48条の2第1項は、暗号資産の譲渡原価を計算する際に「その年12月31日において有する暗号資産の価額は、その者が暗号資産について選定した評価の方法により評価した金額とする」と定めている。
この条文は、棚卸資産の評価規定(所得税法第47条)と同じ体系に乗せるため、以下の算式を前提としている。
譲渡原価 = ①前年末の在庫評価額(取得価額) + ②当年中の取得価額総額 - ③当年末の在庫評価額(取得価額)
ただし実務上は、③を差し引く操作を意識する必要はない。総平均法・移動平均法いずれも「1単位当たりの取得価額(単価)」を算出する方法であり、その単価に譲渡数量を掛ければ譲渡原価が直接求まる。①+②-③の算式と「単価×譲渡数量」で算出される金額は同じだからである。
総平均法を例にとると、単価は「(①前年末在庫+②当年取得総額)÷ 総数量」で求まる。総数量は「譲渡数量+年末保有数量」であるため、①+②から③(=単価×年末保有数量)を引いた結果は、単価×譲渡数量と一致する。
評価方法の届出をしていない場合、個人は総平均法が法定評価方法となる。
| 評価方法 | 法定評価方法(届出なし) | 計算の仕組み |
|---|---|---|
| 総平均法 | 個人 | 年間の取得価額総額÷年間の取得数量合計で1単位当たりの取得価額を算出 |
| 移動平均法 | 法人 | 取得のたびに1単位当たりの取得価額を再計算 |
評価方法の届出期限は、暗号資産を新たに取得した日又は従来取得している暗号資産と種類が異なる暗号資産を取得した日の属する年分の確定申告期限(原則翌年3月15日)である。各評価方法の詳細な計算例と有利不利の比較は「総平均法と移動平均法の違い|届出・変更手続きと有利不利」で解説している。
関係法令:所得税法第48条の2 / 所得税法施行令第119条の2、第119条の5
実務上の注意点
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
【結論】損益計算で最も間違えやすいのは「暗号資産同士の交換が課税イベントである」という認識の欠落と、「取得価額の計算で複数回の購入を正しく反映できていない」の2点である。特に複数の取引所やウォレットを使い分けている場合、取引履歴の網羅的な収集が計算精度の前提条件となる。
見落としやすい課税イベント
BTC→ETHの交換やUSDTでのサーバー代の支払いは、すべて暗号資産の「譲渡」である。日本円に換金していなくても課税が発生する。DEX(分散型取引所)でのスワップも同様である。
取得価額の管理
同じ銘柄の暗号資産を複数回に分けて購入している場合、それぞれの購入価格が異なるため、1単位当たりの取得価額は単純な「最初に買った時の値段」ではない。総平均法であれば年間の全購入を平均し、移動平均法であれば購入のたびに再計算する必要がある。
取引履歴の収集
損益計算の精度は取引履歴の網羅性に依存する。取引を開始した年度からのすべての取引履歴が必要であり、複数の取引所・ウォレットを利用している場合はすべてのデータを集約する必要がある。海外取引所はタイムゾーンがUTCの場合があるため、日本標準時との差異にも注意が必要である。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産を保有しているだけで税金はかかりますか?
かからない。個人の場合、課税は売却・交換・決済時のみ発生する(所得税法第36条第1項)。保有中にどれだけ値上がりしても、手放さない限り所得は生じない。ただし法人の場合、一定の暗号資産は期末時価評価の対象となる(法人税法第61条第2項)。
Q2. 暗号資産同士を交換したときの収入金額はどう計算しますか?
受け取った暗号資産の取得時点の時価を日本円に換算した金額が収入金額となる。金銭以外の物や権利で収入した場合、その取得時の時価を収入金額に算入する(所得税法第36条第2項)。具体的には、交換した時点でのレートに受取数量を乗じて算定する。
Q3. 暗号資産の取引で損失が出た場合、他の所得と相殺できますか?
雑所得に該当する場合、他の所得との損益通算はできない。損益通算の対象は不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4種類に限定されており、雑所得は対象外である(所得税法第69条)。同じ年に生じた国外FX(くりっく365における所得は不可)の所得など、雑所得内での通算のみ可能である。
Q4. 暗号資産で給与を受け取った場合も損益計算が必要ですか?
受け取る側は給与所得として課税される。支払側(法人等)は暗号資産を譲渡したものとして、給与支給時の時価と取得価額の差額で損益を計算する。受取側にとっては給与所得であり、暗号資産の所得金額の計算ではなく給与の源泉徴収の問題となる(所得税法第28条、第183条)。ただし、受け取った暗号資産を他の何かに交換することで発生した利益は雑所得に区分される。
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関係法令
- 所得税法第36条第1項・第2項(収入金額)
- 所得税法第37条(必要経費)
- 所得税法第48条の2第1項(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)
- 所得税法第69条(損益通算)
- 所得税法施行令第119条の2(暗号資産の評価の方法)
- 所得税法施行令第119条の5(暗号資産の法定評価方法)
- 所得税基本通達35-1
- 国税庁FAQ 1-1(暗号資産を売却した場合)
- 国税庁FAQ 1-2(暗号資産で商品を購入した場合)
- 国税庁FAQ 1-3(暗号資産同士の交換を行った場合)
