暗号資産で給与支払|給与の現物支給と課税関係

結論

暗号資産で給与を支払うと「暗号資産の譲渡」と「給与の支払」の2つの課税イベントが同時に発生し、支払側・受取側の双方に税務処理が必要となる。

  • 理由① 支払側(法人)では、暗号資産の譲渡損益(時価−取得原価)の認識と、給与手当としての経費計上(支給時の時価)が同時に発生する。含み益のある暗号資産で支払えば譲渡益課税が上乗せされ、現金支給より税負担が重くなる場合がある。
  • 理由② 受取側(従業員)では、暗号資産の支給時の時価が給与所得の収入金額となり、現金支給分と合算して源泉徴収税額を計算する。従業員の取得価額はこの時価となるため、その後の売却時には時価からの値上がり分のみが課税対象となる。
  • 条件 源泉徴収税額は現金で納付する必要があるため、全額を暗号資産で支給すると源泉徴収分の現金が不足する。実務上は給与の一部を暗号資産、残りを現金で支給し、現金部分から源泉徴収する設計が前提となる。

所得税法第28条・第36条・第183条 / 国税庁FAQ 5-1

この記事でわかること

  • 暗号資産で給与を支払った場合の支払側・受取側それぞれの課税関係
  • 源泉徴収税額の具体的な計算方法
  • 送金内容不明の場合に経費計上が否認されるリスク
  • 労働基準法の通貨払い原則と暗号資産で給与を支払うための法的要件
  • 個人事業主への報酬を暗号資産で支払う場合の取扱い
目次

支払側(法人・個人事業主)の課税関係

【結論】暗号資産で給与を支払うと、支払側では暗号資産の譲渡損益(支給時の時価−取得原価)が発生し、同時に支給時の時価を給与手当として経費計上する。この処理は暗号資産を日本円に売却して給与を支払った場合と基本的に同じである(所得税法第36条、法人税法第22条、第61条)。

暗号資産で給与を支払った場合、支払側では2つの処理が同時に発生する。

処理①:暗号資産の譲渡損益

譲渡損益 = 支給時の暗号資産の時価 − 暗号資産の取得原価

暗号資産を従業員に渡す行為は、税務上は暗号資産の「譲渡」に該当する。売却やモノの購入と同じ課税ロジックである。

処理②:給与の経費計上

給与手当(経費)= 支給時の暗号資産の時価

暗号資産で支給した分の時価が、会社の給与手当として損金算入される。

計算例

譲渡損益 = 500,000円 − 300,000円 = 200,000円
給与手当(経費)= 500,000円

前提:暗号資産(1ETH)の取得原価300,000円、支給時の時価500,000円。

支払側では200,000円の譲渡利益が計上される一方、500,000円の給与が経費として計上される。なお、暗号資産の送金内容や目的が不明確な場合は経費計上が認められず、「役員貸付金」など経費にならない形で処理されるリスクがある。支給額・支給日・受取人を明確に記録することが不可欠である。

従業員側の課税関係と源泉徴収

【結論】従業員が暗号資産で給与を受け取った場合、その支給時の時価が給与所得の収入金額に算入される。源泉徴収税額は、現金支給分と暗号資産支給分(時価)を合算した金額を基に計算する(所得税法第28条、第36条、第183条、国税庁FAQ 5-1)。

計算例(FAQ 5-1に基づく)

給与支給額合計 = 200,000円 + 50,000円 = 250,000円

現金支給200,000円、暗号資産支給(時価)50,000円の場合、合計250,000円を基に源泉徴収税額を計算する。暗号資産分のみを分離して源泉計算することはできない。

源泉所得税は日本円で納付する必要があるため、暗号資産のみで給与を支払う場合は、源泉徴収分の日本円を別途確保する必要がある。また、支給日の時価で正確に源泉徴収額を算定する実務負担が生じる。

従業員が受け取った暗号資産は、受取時の時価が取得価額となる。その後売却した場合は「売却価額−取得価額」が雑所得として別途課税される(所得税法第35条)。

労働基準法の通貨払い原則と実務上の注意点

【結論】暗号資産やNFTは労働基準法上の「通貨」に含まれないため、暗号資産で賃金を支払うには労働組合等との間で労働協約を締結する必要がある(労働基準法第24条)。税務処理だけでなく、労務面での適法性確保が不可欠である。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「法人の暗号資産税務を専門の税理士に依頼する」をご覧ください。

労働基準法第24条は「賃金は通貨で直接労働者にその全額を支払わなければならない」と定める(通貨払いの原則)。ここでいう通貨は法定通貨(日本円)であり、暗号資産やNFTは含まれない。

  • 労働協約の締結: 労働組合との間で暗号資産での支給を認める協約を締結する
  • 労使協定(実務上): 労働組合がない場合は過半数代表者との書面合意が必要(実務運用は社労士への確認が望ましい)

個人事業主への報酬を暗号資産で支払う場合

【結論】個人事業主への報酬を暗号資産で支払う場合も、支払側では暗号資産の譲渡損益と報酬の経費計上が発生し、受取側では受取時の時価が事業所得または雑所得の収入金額となる。報酬の内容によっては源泉徴収義務も生じる(所得税法第204条)。

  • 支払側: 譲渡損益+外注費等の経費計上
  • 受取側: 受取時の時価を収入金額に算入
  • 源泉徴収: デザイン料・原稿料等は源泉徴収対象となる場合がある

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「法人の暗号資産税務を専門の税理士に依頼する」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 暗号資産で給与を支払うと、支払側で譲渡益が出ることがありますか?

ある。支給時の時価が取得原価を上回る場合、その差額が譲渡益となる(所得税法第36条、法人税法第22条)。下回る場合は譲渡損となる。

Q2. 従業員が暗号資産で給与を受け取った場合、確定申告は必要ですか?

原則不要である。給与所得として源泉徴収・年末調整で完結する。ただし、その後暗号資産を売却して利益が出た場合は雑所得として確定申告が必要となる(所得税法第35条)。

Q3. 暗号資産で給与を支払う場合、労働基準法上の問題はありますか?

ある。暗号資産は労働基準法第24条の通貨に該当しないため、労働協約の締結が必要である。要件を満たさない場合は同法違反となるリスクがある。

Q4. 役員報酬を暗号資産で支払った場合の取扱いは?

基本処理は同じである。ただし、役員給与は定期同額給与等の要件を満たす必要がある。暗号資産の時価変動により毎月の支給額が変動すると、損金不算入となるリスクがある(法人税法第34条)。

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関係法令

  • 所得税法第28条(給与所得)、第36条(収入金額)、第183条(源泉徴収義務)、第204条(報酬の源泉徴収)、第35条(雑所得)
  • 法人税法第22条(各事業年度の所得)、第34条(役員給与の損金不算入)、第61条(暗号資産の譲渡損益)
  • 労働基準法第24条(賃金の支払)
  • 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」5-1
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