暗号資産法人の収益計上時期と計上額|約定日基準

結論

法人の暗号資産の譲渡損益は「約定日基準」で計上する。取引所で売り注文が成立した日の属する事業年度に益金または損金を算入する。

  • 理由① 法人税法第61条に基づき、譲渡損益は「その譲渡に係る契約をした日」に認識する。送金や入金の完了日ではなく、売買契約が成立した時点が基準となる。
  • 理由② 個人(所得税)は「引渡日基準」が原則であるのに対し、法人は「約定日基準」が原則。同じ取引でも個人と法人で計上時期がズレる場合があり、法人成りや個人への払出し時に特に注意が必要。

法人税法第61条 / 国税庁FAQ 3-1-1

この記事でわかること

  • 法人の暗号資産譲渡損益が「約定日基準」で計上される根拠
  • 個人(所得税)の計上時期との違い
  • 譲渡損益の「計上額」(譲渡原価)の算定方法
  • 信用取引における計上時期の特殊ルール
  • 条件付き契約など実務上の注意点
目次

法人の譲渡損益の計上時期|約定日基準の原則

【結論】法人が暗号資産を売却等した場合、その譲渡損益は「売却等に係る契約をした日(約定日)」の属する事業年度に計上する。これは国税庁FAQ 3-1-1で明示されており、根拠条文は法人税法第61条である。

法人税の課税対象は「当該事業年度の」所得金額であり、時間的な限定が付されている(法人税法第21条)。各事業年度の所得金額を正しく算定するには、収益や原価・費用・損失を「いつの事業年度で計上するのか」を正確に決定する必要がある。

一般的な資産の販売等に係る収益は、原則として「引渡し又は役務の提供の時」に計上する(法人税法第22条の2第1項)。しかし、暗号資産の譲渡損益については、国税庁FAQが個別に「約定日基準」を示している。暗号資産取引においては、取引所での注文成立(約定)から実際のブロックチェーン上の移転(引渡し)までにタイムラグが生じることがある。約定日基準では、注文が成立した時点で損益を認識するため、引渡しの完了を待つ必要はない。

項目 内容
計上基準 約定日基準(契約をした日)
根拠条文 法人税法第61条
FAQの出典 国税庁FAQ 3-1-1
対象となる損益 暗号資産の譲渡に係る益金・損金

関係法令:法人税法第61条、第21条、第22条の2第1項

個人(所得税)との計上時期の違い

【結論】個人の所得税では「引渡しがあった日」が原則であり、選択により「契約をした日(約定日)」も認められる。法人の約定日一本とは異なる二重構造である(国税庁FAQ 2-1、所得税法第35条・第36条)。

個人の暗号資産取引に係る所得は原則として雑所得に分類される。雑所得(その他雑所得)の収入すべき時期は、その収入の態様に類似する他の所得の収入すべき時期に準じて判定するとされており、暗号資産の場合は「資産の譲渡による所得の収入すべき時期」に準じる。その結果、個人では次の二択となる。

区分 計上時期 備考
原則 引渡しがあった日 暗号資産が移転した時点
選択 契約をした日(約定日) 売買注文が成立した時点

法人と個人で異なるポイントを整理する。

比較軸 法人(法人税) 個人(所得税)
原則的な基準 約定日(契約日) 引渡日
例外(特例) 継続適用により引渡日も可 選択により約定日も可
根拠FAQ 3-1-1 2-1
根拠条文 法法61 / 法基通2-1-21の12 所法35,36 / 所基通達36-12,36-14

個人が暗号資産取引を行っていた者が法人化した場合、計上時期の基準が変わる。個人時代に引渡日基準を採用していた場合、法人化後は自動的に約定日基準に切り替わるため、事業年度をまたぐ取引の処理に注意が必要である。

関係法令:所得税法第35条、第36条 / 所得税基本通達36-12、36-14 / 法人税法第61条

譲渡損益の「計上額」の算定

【結論】法人の暗号資産の譲渡損益の計上額は「譲渡価額 − 譲渡原価」で算定する。譲渡原価は「1単位当たりの帳簿価額 × 譲渡数量」であり、法定評価方法は移動平均法である(国税庁FAQ 3-1-2、法人税法施行令第118条の6)。

法人が暗号資産を譲渡した場合の譲渡損益は、以下の計算式で算定する。

譲渡損益 = 譲渡価額 −(1単位当たりの帳簿価額 × 譲渡数量)

ここで重要なのが「1単位当たりの帳簿価額」の計算方法である。法人の法定評価方法は移動平均法であり、個人の法定評価方法(総平均法)とは異なる。届出により総平均法に変更することも可能である。

項目 法人 個人
法定評価方法 移動平均法 総平均法
届出による変更 総平均法へ変更可 移動平均法へ変更可
種類ごとの選定 必要(4区分) 必要(種類ごと)

また、法人の暗号資産は以下の4区分に分類され、区分ごとに評価方法を選定する。

区分 内容
特定譲渡制限付暗号資産(自己発行でないもの)
特定譲渡制限付暗号資産(自己発行のもの)
特定自己発行暗号資産
上記以外の暗号資産

この4区分は期末時価評価の対象判定にも影響するが、譲渡原価の計算自体はいずれの区分でも「1単位当たりの帳簿価額 × 譲渡数量」で統一されている。

関係法令:法人税法第61条 / 法人税法施行令第118条の6

実務上の注意点

【結論】条件付き契約の場合は約定日ではなく「条件を満たした日」が計上時期となる。また、信用取引には約定日基準の例外がある(国税庁FAQ 3-1-1、FAQ 3-1-13)。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の法人税務を専門の税理士に依頼する」をご覧ください。

条件付き契約の取扱い

法人が行う暗号資産の譲渡に関する契約に、効力発生に関する条件が付されているなど特殊な事情がある場合は、約定日ではなく、その条件を満たした日が譲渡損益の計上時期となる(国税庁FAQ 3-1-1)。たとえば、「一定の監督当局の承認を得ることを停止条件とする」契約では、承認を得た日が計上時期となる。暗号資産の大口取引やOTC取引では、こうした条件付き契約が実務上存在するため、契約書の条件を確認する必要がある。

信用取引の計上時期

暗号資産の信用取引については、通常の約定日基準と異なるルールが適用される場合がある。

取引パターン 計上時期
買付け → 売付け決済 決済の売付け契約日(約定日基準どおり)
売付け → 買付け決済 決済の買付け契約日

いずれも約定日(契約日)を基準とする点は共通である。なお、暗号資産FX取引・暗号資産先物取引は、暗号資産信用取引ではなくデリバティブ取引に分類されるため、上記とは異なる処理となる点にも留意が必要である。

期末時価評価との関係

法人の暗号資産には期末時価評価制度がある。譲渡損益の計上時期(約定日基準)と期末時価評価は独立した制度であるが、事業年度末日直前の取引については、約定日と引渡日が異なる事業年度に属する可能性がある。法人の場合は約定日基準であるため、約定日が当事業年度内であれば、引渡しが翌事業年度になっても当事業年度で損益を計上する。

関係法令:法人税法第61条 / 法人税法施行規則第26条の9 / 法人税基本通達2-1-21の14

よくある質問(FAQ)

Q1. 法人が暗号資産を売却した場合、いつの事業年度の損益になりますか?

約定日(契約をした日)の属する事業年度である。国税庁FAQ 3-1-1により、法人の暗号資産譲渡損益は約定日基準で計上する(法人税法第61条)。引渡しの完了時点ではない。

Q2. 個人の場合と計上時期は同じですか?

異なる。個人(所得税)は「引渡日」が原則であり、選択で「約定日」も可能である(国税庁FAQ 2-1、所得税法第35条・第36条)。一方、法人は「約定日」が原則であるが、継続適用を条件として例外的に「引渡日」で計上することも認められている(法人税基本通達2-1-21の12)。

Q3. 法人の暗号資産の譲渡原価は何法で計算しますか?

移動平均法が法定評価方法である。届出により総平均法に変更できる(国税庁FAQ 3-1-2、法人税法施行令第118条の6)。個人の法定評価方法が総平均法である点と逆であることに注意が必要である。

Q4. 停止条件付きの売買契約の場合はどうなりますか?

条件を満たした日が計上時期となる。約定日ではなく、停止条件が成就した日の属する事業年度で譲渡損益を計上する(国税庁FAQ 3-1-1)。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の法人税務を専門の税理士に依頼する」をご覧ください。

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関係法令

  • 法人税法第61条(暗号資産の譲渡損益)
  • 法人税法第21条(各事業年度の所得)
  • 法人税法第22条の2第1項(収益の額)
  • 法人税法施行令第118条の6(暗号資産の譲渡原価)
  • 法人税法施行規則第26条の9
  • 法人税基本通達2-1-21の12(短期売買商品等の引渡日基準の特例)
  • 法人税基本通達2-1-21の14
  • 所得税法第35条(雑所得)
  • 所得税法第36条(収入金額)
  • 所得税基本通達36-12、36-14
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