暗号資産法人の評価方法の届出・変更手続き

結論

法人の暗号資産の法定評価方法は移動平均法であり、届出をしなければ自動的に移動平均法が適用される。総平均法を選択する場合のみ届出が必要。

  • 理由① 届出期限は暗号資産を取得した日の属する事業年度の確定申告書の提出期限まで。この期限を過ぎると法定評価方法(移動平均法)が確定し、当該事業年度中の変更はできない。
  • 理由② 一度届け出た評価方法を変更するには税務署長の承認が必要であり、原則として採用後3年が経過していなければ変更申請が認められない。評価方法の選択は中長期的な判断が求められる。
  • 条件 評価方法は暗号資産の「種類」ごとに選択できる。BTCは移動平均法、ETHは総平均法といった使い分けが可能だが、管理の煩雑さとのトレードオフとなる。

法人税法施行令第118条の6第4項・第7項

この記事でわかること

  • 法人の暗号資産の法定評価方法と届出が必要なケース
  • 届出の期限・届出先・届出書の記載事項
  • 評価方法の変更に必要な承認申請の手続きと3年ルール
  • 暗号資産の「種類」と「区分」ごとの選定単位
  • 個人との制度の違い
目次

法定評価方法と届出の基本

【結論】法人が届出をしなかった場合、自動的に移動平均法が適用される。これは個人の法定評価方法が総平均法である点と逆であるため、個人から法人成りした場合は特に注意が必要である(法人税法施行令第118条の6第1項/国税庁FAQ3-1-2)。

法人が暗号資産を譲渡した場合の原価計算に用いる帳簿価額の算出方法は、移動平均法または総平均法のいずれかである。評価方法が移動平均法と総平均法に限定されているのは、暗号資産は有価証券や短期売買商品と同様に価格の変動について一般的な傾向をもっていないことから、平均単価に基づき計算を行うことが望ましいと考えられることによる(令和元年度改正解説280頁)。

項目 法人 個人
法定評価方法(届出なし) 移動平均法 総平均法
届出が必要な場合 総平均法を選択するとき 移動平均法を選択するとき
届出期限 取得日の属する事業年度の確定申告書提出期限 取得年の翌年3月15日
変更承認の申請先 所轄税務署長 所轄税務署長

なお、令和元(2019)年度の税制改正で暗号資産は棚卸資産の範囲から除外されている(法人税法第2条第20号)。暗号資産の譲渡原価の計算方法が別途定められたため、棚卸資産に固有の低価法や最終仕入原価法等を適用することはできない。

届出の手続き

暗号資産を新たに取得した場合、原則としてその取得した日の属する事業年度に係る確定申告書の提出期限までに、選択した評価方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならない(法人税法施行令第118条の6第4項・第5項)。

ただし、以下の場合は届出不要である。

  • その取得日の属する事業年度前の事業年度において、同じ種類・区分の暗号資産について既に届出をしている場合
  • 内国法人である公益法人等または人格のない社団等が収益事業以外の事業に属する暗号資産を取得した場合

種類・区分ごとの選定単位

【結論】評価方法の選定は暗号資産の「種類(BTC、ETH等)」ごと、かつ「区分(特定自己発行暗号資産か否か等)」ごとに行う。BTCは移動平均法、ETHは総平均法というように種類ごとに異なる方法を選択できる(法人税法施行令第118条の6第4項)。

法人税法上、暗号資産は以下の4区分に分類され、同一種類であっても区分が異なれば別々に帳簿価額の計算を行う(法人税法施行令第118条の6第2項)。

区分 内容 期末時価評価
特定譲渡制限付暗号資産(自己発行でないもの) 原則不要(時価法を届出した場合のみ対象)
特定譲渡制限付暗号資産(自己発行のもの) 不要
特定自己発行暗号資産 不要
上記以外の暗号資産 必要(活発な市場がある場合)

事業所別の選定

国税庁は、暗号資産の帳簿価額の算出方法について、事業所別にそれぞれ異なる方法を選定することを認めている(法人税基本通達2-3-64、5-2-12)。ただし、これは法人の「事業所」ごとに認めるものであり、単純にCEX・DEX・ウォレットごとに異なる算出方法を選定できるという意味ではない。

評価方法の変更手続き

【結論】既に選定した評価方法(届出をしなかった場合の移動平均法を含む)を変更するには、所轄税務署長の承認が必要である。申請期限は新たな方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日までで、現在の方法を採用してから原則3年を経過していなければ却下される可能性がある(法人税法施行令第118条の6第7項、同第30条)。

変更承認申請の要件

項目 内容
申請書の提出先 納税地の所轄税務署長
申請期限 新たな方法を採用しようとする事業年度開始の日の前日
記載事項 変更後の算出方法、変更理由等
相当期間(3年ルール) 現在の方法を採用してから原則3年を経過していること

却下される場合

税務署長は、以下の場合に変更申請を却下できる。

  • 現行の算出方法を採用してから相当期間(特別な理由がない限り3年)を経過していないとき
  • 変更後の方法では各事業年度の所得金額の計算が適正に行われがたいと認めるとき

みなし承認

税務署長による承認または却下の処分は、書面により通知される。事業年度終了の日等までに承認または却下の処分がなかったときは、その日において承認があったものとみなされる(法人税法施行令第30条、第118条の6第7項、法人税法施行規則第26条の8)。

実務上の注意点

【結論】評価方法の届出・変更で最も注意すべきは、法人設立初年度の届出漏れと、個人から法人成りした際の法定評価方法の違いである。届出を忘れた場合は自動的に移動平均法が適用されるため、総平均法を希望する場合は変更承認申請が必要となり、3年の待機期間が生じうる。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の法人税務を税理士に依頼する」をご覧ください。

一時的に必要な暗号資産の特例

移動平均法を適用する場合、暗号資産の「取得」の都度、平均単価を洗い替える。しかし、以下の取得は平均単価の計算に含めない(法人税法施行令第118条の6第6項)。

  • 暗号資産を購入・売却・交換する際に一時的に必要な他の暗号資産を取得する場合(例:日本円と直接交換できない暗号資産を、別の暗号資産を介して取得するとき)
  • その取得する暗号資産を自己以外の者の計算において有することとなる場合(例:暗号資産交換業者の預り暗号資産)

一時的に必要な暗号資産の譲渡原価の計算における帳簿価額は、個別法(その暗号資産の個々の取得価額をそのまま用いる方法)により算出する(法人税基本通達2-3-65)。ただし、実務上この処理を厳密に行うことは手間がかかるため、実際にはあまり貫徹されていない。

届出・変更のタイムライン例

3月決算法人(事業年度:4月1日〜3月31日)の場合:

時期 イベント
X1年6月 初めてBTCを取得
X2年5月末 X1年度の確定申告書提出期限 → 届出の期限
X2年3月31日 評価方法を変更する場合の申請期限(X3年度から変更の場合)
X5年3月31日以降 届出から3年経過 → 変更承認が得やすくなる

注意:損益計算ソフトを利用している法人が、途中で計算方法を変更した場合、ソフトによっては別途アカウントを用意する必要がでる可能性がある。

よくある質問(FAQ)

Q1. 届出をしなかった場合、どの評価方法が適用されますか?

移動平均法が適用される。法人の暗号資産の法定評価方法は移動平均法であり、届出がなければ自動的にこの方法で計算する(法人税法施行令第118条の6第1項)。個人の法定評価方法が総平均法である点と異なるため注意が必要である。

Q2. BTCとETHで異なる評価方法を選択できますか?

できる。評価方法の選定は暗号資産の種類(BTC、ETH等)および区分(特定自己発行暗号資産か否か等)ごとに行う(法人税法施行令第118条の6第4項)。BTCは移動平均法、ETHは総平均法のように種類ごとに異なる方法を選定できる。

Q3. 設立初年度に届出を忘れた場合、すぐに総平均法に変更できますか?

原則3年間は変更できない。届出を忘れた場合は移動平均法が法定評価方法として適用される。この方法を「採用してから相当期間(原則3年)」を経過していなければ、税務署長は変更申請を却下できる(法人税法施行令第30条)。特別な理由がある場合は3年未満でも承認される可能性があるが、通常は認められにくい。

Q4. ウォレットや取引所ごとに異なる評価方法を使えますか?

使えない。事業所別に異なる評価方法を選定することは通達で認められているが(法人税基本通達2-3-64、5-2-12)、これは法人の事業所ごとの選定であり、ウォレットや取引所ごとに異なる方法を選定できるという意味ではない。

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関係法令

  • 法人税法第2条第20号
  • 法人税法第61条
  • 法人税法施行令第30条
  • 法人税法施行令第118条の6第1項・第2項・第4項・第5項・第6項・第7項・第8項
  • 法人税法施行規則第26条の8
  • 法人税基本通達2-3-64
  • 法人税基本通達2-3-65
  • 法人税基本通達5-2-12
  • 法人税基本通達5-2-13
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