ステーキング(預入)自体は個人・法人ともに課税イベントではない。ただし法人はロックアップ中でも期末時価評価の対象となり含み益に法人税が課される。個人は売却・交換・使用するまで課税されない。報酬はclaim(引き出し)時の時価で所得計上する。リキッドステーキング(stETH等を受領する形態)は預入ではなく交換課税が発生する。
- 理由① 預入は資産の所有権が実質的に移転しておらず、課税イベントに該当しない。個人の場合は預入時も保有中も課税されず、売却等により利益が確定した時点で雑所得として申告する。法人の場合はロックアップ中でも「自己の計算において有する」暗号資産として期末時価評価の対象となる(国税庁FAQ 3-1-6)。
- 理由② ステーキング預入の法的性質は「担保設定に近い構造」であり、譲渡でも貸付でもない。民法上、担保設定は所有権移転を伴わないのが原則であり、この法的整理が「預入時に課税しない」根拠を補強する。
- 条件 リキッドステーキング(Lido等でstETH・cbETH等の債権トークンを受領する形態)は「単純預入」ではなく「暗号資産同士の交換」とみなされ、個人・法人ともに預入時に過去の含み益に対する譲渡損益が強制的に発生する。
所得税法第36条第1項 / 法人税法第61条第2項 / 国税庁FAQ 3-1-6
この記事でわかること
- ステーキング(預入)時の取得原価の扱いと仕訳不要の根拠(個人・法人共通)
- 預入の法的性質|担保設定・貸付・譲渡のどれに当たるか
- 個人の場合|預入から売却までの課税タイミング
- 法人の場合|ロックアップ中でも含み益課税される理由
- 報酬(ステーキングリワード)の認識タイミング(個人・法人共通)
- 元本返済時の処理(同種同量返還/数量増加返還)
- リキッドステーキング(stETH等)の交換課税の罠
預入時の処理|個人・法人ともに仕訳不要
【結論】ステーキング(預入)は個人・法人ともに課税イベントではなく、仕訳は原則不要である。取得原価は据え置く。預入は資産の所有権が実質的に移転しておらず、所得税法第36条第1項の「収入すべき金額」も法人税法第22条第2項の「資産の販売その他の取引」も発生しない。
仕訳不要の3つの根拠
第一に、預入であり資産の所有権は実質的に移転していない。自己資産の形態が変わっただけであり、暗号資産の種類も変わっていない。
第二に、消費貸借(貸付)ではなく、支配の移転もない。返還請求権があり、経済的実態は担保設定に近い(後述「預入の法的性質」で詳述)。
第三に、東京国税局の口頭見解として「同種同量の暗号資産の返還を受ける限りにおいては、貸付時及び返還時に含み益(損)の課税は生じない」との趣旨が示されている。これは個人所得税に関する整理だが、法人税でも基本構造は同じである。
数値例
1,000USDC(取得原価100円/USDC、時価150円/USDC)をステーキングプールへ預入した場合。含み益50,000円があるが、預入時に課税されない。取得原価100,000円を据え置く。個人の場合も法人の場合も同じ処理である。
実務上の留意点
ブロックチェーン上では「預入」と「通常送金」の区別は自動判定できない。損益計算ソフト上はシステムが預入をベース判定するが、最終的な性質判断(貸付か預入か)はユーザー判断が必要となる。個人が確定申告時に損益計算ソフトの結果をそのまま使う場合でも、ステーキング預入が「売却」として誤計上されていないかの確認は必須である。
預入の法的性質|担保・貸付・譲渡のどれに当たるか
【結論】ステーキング預入は、法的には「担保設定」に最も近い構造であり、譲渡でも貸付でもない。担保設定は民法上、原則として所有権移転を伴わないため、この法的整理が「預入時に課税しない」根拠を補強する。ただし、暗号資産の担保類型は契約実態によって質権型と譲渡担保型に分かれ、後者は所有権移転を伴う可能性がある。
「担保にする」ことは譲渡に当たるか
民法上、担保設定それ自体は、貸付でも預入でも譲渡でもない。まず「担保権の設定」として把握するのが原則である。
| 担保類型 | 所有権移転 | 条文 | 暗号資産での該当場面 |
|---|---|---|---|
| 質権型 | 移転しない。占有のみ移転 | 民法第342条・第344条・第349条 | マルチシグで処分権が留保されている場合、担保権者が単独で移転実行できない場合 |
| 譲渡担保型 | 移転する(形式上) | 譲渡担保契約に関する法律(令和7年法律第56号) | 担保権者がウォレットを全面支配し自由処分・再利用が可能な場合 |
質権は目的物の占有を債権者に移す担保であるが、所有権そのものを移す制度ではない。民法第349条は弁済期前に質権者へ所有権を取得させる流質契約を禁止しており、担保設定段階では所有権が移らないのが民法の基本構造である。
ステーキング預入はどの類型に近いか
通常のステーキングでは、預入者は暗号資産をスマートコントラクトに送付するが、アンステーク(引き出し)によって同種同量の返還を受けることが前提である。担保権者(ステーキングプール)が預入者の暗号資産を自由に処分できるわけではなく、処分権は留保されている。この構造は質権型に近い。
| 判定要素 | ステーキング預入の実態 | 法的評価 |
|---|---|---|
| 秘密鍵の支配 | スマートコントラクトが保持。預入者はアンステークで回収可能 | 処分権は預入者側に留保 |
| 担保権者の処分権 | ステーキングプールは預入資産を自由に売却できない | 質権型(所有権移転なし)に近い |
| 価格変動リスク | 預入者が負う | 自己の計算において有する(FAQ 3-1-6) |
| 返還義務 | 同種同量返還 | 暗号資産の種類が変わらない→交換課税なし |
したがって、通常のステーキング預入は所有権移転を伴わない質権型に近い構造であり、預入時に譲渡損益を認識する根拠はない。この法的整理は、国税庁FAQが預入を課税イベントとしていない実務上の取扱いと整合する。
注意:契約実態が単なる預入ではなく、処分権や価格変動リスクが相手方へ包括的に移転している場合(ウォレットの全面支配・自由処分権・再利用権が担保権者側にある場合)は、譲渡担保型として所有権移転を伴う構成と評価される余地がある。この場合は預入時に譲渡課税が生じ得るため、利用するプロトコルの契約構造を事前に確認する必要がある。
「預入」と「貸付」の税務上の違い
預入と貸付はいずれも開始時点では課税イベントではないが、法的構造が異なる。
| 比較項目 | 預入(ステーキング) | 貸付(レンディング) |
|---|---|---|
| 法的構造 | 支配の未移転。担保設定(質権型)に近い | 数量債権(同種同量返還義務)。消費貸借(民法第587条)に近い |
| 所有権移転 | 原則なし | 貸付先に移転する構成もある |
| 預入・貸付時の課税 | 個人・法人ともに課税なし | 個人・法人ともに課税なし |
| 取得原価 | 据置(簿価振替) | 据置(簿価振替) |
| 法人の期末時価評価 | 対象(FAQ 3-1-6) | 対象(FAQ 3-1-7) |
| 個人の保有中の課税 | なし(売却等まで非課税) | なし(売却等まで非課税) |
| 報酬の認識 | claim時の時価で所得計上 | 利息受領時の時価で所得計上 |
国税庁FAQは、貸付暗号資産(FAQ 3-1-7)と預入暗号資産(FAQ 3-1-6)のいずれについても、将来的な価格変動リスクを法人が負っていることから「自己の計算において有する」と整理し、期末時価評価の対象としている。税務は名目ではなく、処分権と価格変動リスクで実質判定している点が重要である。
個人の場合|預入から売却までの課税タイミング
【結論】個人の場合、ステーキング預入中の暗号資産に対する課税は発生しない。期末時価評価の制度がないため、含み益がいくら膨らんでも売却・交換・使用するまで所得税は課されない。課税が発生するのは、①ステーキング報酬をclaim(引き出し)した時点と、②預入を解除して暗号資産を売却・交換した時点の2つである(所得税法第36条第1項)。
個人の課税タイミング一覧
| 場面 | 課税の有無 | 所得区分 | 計算方法 |
|---|---|---|---|
| ステーキングへの預入 | 非課税 | — | 仕訳不要。取得原価を据え置く |
| 預入中(含み益が増加) | 非課税 | — | 個人には期末時価評価の制度がない |
| ステーキング報酬のclaim | 課税 | 雑所得 | claim時の時価が総収入金額。マイニング等に要した費用があれば必要経費 |
| アンステーク(同種同量返還) | 非課税 | — | 暗号資産の種類が変わっていないため課税なし。取得原価を引き継ぐ |
| アンステーク後の売却 | 課税 | 雑所得 | 売却価額−取得原価(預入前から引き継いだ金額)=所得金額 |
計算例(個人)
取得原価20万円/ETHで10ETHを購入。その後ステーキングに預入し、1年後にアンステークして10ETHが返還された(預入中に報酬0.5ETHをclaim済み)。アンステーク後に全量を45万円/ETHで売却した場合。
| 取引 | 計算 | 所得金額 |
|---|---|---|
| ①報酬0.5ETHのclaim(claim時時価40万円/ETH) | 40万円×0.5ETH=20万円 | 20万円(雑所得) |
| ②元本10ETHのアンステーク | 同種同量返還→仕訳不要 | 0円 |
| ③10ETHの売却(売却時45万円/ETH) | (45万円×10ETH)−(20万円×10ETH)=250万円 | 250万円(雑所得) |
| ④報酬0.5ETHの売却(売却時45万円/ETH) | (45万円×0.5ETH)−(40万円×0.5ETH)=2.5万円 | 2.5万円(雑所得) |
①と②が同年なら合計272.5万円が雑所得となる。給与所得者で暗号資産以外の雑所得がなければ、年間20万円超のため確定申告が必要である(所得税法第121条)。
法人の場合|ロックアップ中でも期末時価評価で含み益課税
【結論】法人がステーキングのためにロックアップした暗号資産は、活発な市場が存在する限り期末時価評価の対象となり、含み益に法人税が課される。ロックアップは特定譲渡制限付暗号資産の「移転制限」に該当しない(法人税法第61条第2項、国税庁FAQ 3-1-6)。
なぜロックアップ中でも時価評価されるのか
国税庁FAQ 3-1-6は、ステーキングのためにロックアップした暗号資産について、以下の理由から期末時価評価の対象であると明言している。
| 論点 | 国税庁の見解 |
|---|---|
| 「自己の計算において有する」か | 有する。ロックアップ中でもステーキング報酬を得られ、将来的な価格変動リスクを法人が負っている |
| 特定自己発行暗号資産か | 該当しない。自己発行ではないため |
| 特定譲渡制限付暗号資産か | 該当しない。ステーキングのロックアップはJVCEA規則に基づく移転制限ではない |
| 結論 | 上記いずれの除外にも該当しないため、活発な市場が存在する限り期末時価評価の対象 |
注意:「ロックアップ中で売却できないから時価評価されないはず」という誤解は致命的である。国税庁はロックアップを「移転制限」とはみなしておらず、ロックアップ中であっても含み益に法人税が課される。法人化してステーキングを行っている場合は、期末に含み益が膨らむと手元の日本円がないまま法人税の納付義務が発生するリスクがある。
個人と法人の決定的な違い
| 比較項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 期末時価評価 | 制度がない→含み益に課税なし | 対象→含み益に法人税が課される |
| ロックアップ中の課税 | 売却等するまで非課税 | ロックアップ中でも毎期末に評価損益を計上 |
| 最大のリスク | 売却時の累進税率(最大55%) | 売却できないのに法人税の納付義務が発生 |
| 報酬の所得区分 | 雑所得 | 法人所得(益金) |
法人化の判断においてステーキング資産の規模は極めて重要な考慮要素となる。個人では売却するまで課税されない暗号資産が、法人に移した瞬間から毎期末に時価評価され、含み益に法人税が課される。
数値例(法人の期末時価評価)
取得原価100円/USDCの1,000USDCをステーキング中、期末時価160円/USDCの場合。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産 | 60,000 | 暗号資産評価益 | 60,000 |
翌期首に洗替処理(暗号資産評価損60,000円)を行う。評価益は法人税の課税所得に含まれるため、実際に売却していなくても法人税の納付義務が生じる。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
報酬(ステーキングリワード)の認識|個人・法人共通
【結論】ステーキング報酬はclaim(引き出し)時の時価で所得計上するのが合理的実務解である。個人の場合は雑所得、法人の場合は益金に算入する。 ブロック単位の逐次認識は理論上可能だが、技術的制約と実務コストを考慮するとclaim時認識が現実的である(所得税法第36条第1項、法人税法第22条第2項)。
claim済み報酬の仕訳
報酬10USDCのうち1USDCをclaim。claim時時価130円/USDCの場合。
| 区分 | 処理 |
|---|---|
| 個人 | claim時の時価130円を雑所得の総収入金額に算入。暗号資産の取得原価は130円(claim時時価) |
| 法人 | 暗号資産(USDC)130円 / 暗号資産受贈益 130円 |
ブロック単位認識が困難な理由
claimしていない報酬は、ブロックチェーン上で正確な取得タイミングを把握することが困難である。ノードのロールバック処理が必要になる場合があり、実務コストが極めて高い。したがって報酬認識タイミング=引き出し時とせざるを得ないケースが多い。
ただし、利息額が明確にブロック単位で確定するタイプや外部APIで確定データが取得可能なケースでは、逐次認識も理論上可能である。
元本返済時の処理|個人・法人共通
【結論】同種同量返還の場合は個人・法人ともに課税イベントではなく仕訳不要。数量増加返還(利息分)がある場合は、超過分のみ所得として計上する。
同種同量返還
1,000USDC返還(返済時時価100円/USDC)の場合。暗号資産の種類が変わっていないため仕訳不要。取得原価は預入前の100,000円をそのまま引き継ぐ。
未claim報酬の一括受領
未claim報酬9USDC(返済時時価100円/USDC)を元本返還と同時に受領した場合。
| 区分 | 処理 |
|---|---|
| 個人 | 報酬9USDC×100円=900円を雑所得の総収入金額に算入。元本部分は課税なし |
| 法人 | 暗号資産(USDC)900円 / 暗号資産受贈益 900円。元本部分は仕訳不要 |
種類が変わった場合
返還時に預入時と異なる暗号資産で返還された場合は、預入ではなく交換(売却)処理となる。この場合は個人・法人ともに通常の暗号資産売却として損益を認識する。
リキッドステーキングの交換課税|stETH・cbETH等の罠
【結論】Lido(stETH)、Coinbase(cbETH)等のリキッドステーキングでは、預入と同時に債権トークンを受領する。この債権トークンの受領は税務上「暗号資産同士の交換」とみなされ、個人・法人ともに預けただけで過去のETH等の含み益に対する譲渡損益(利確)が強制的に発生する(所得税法第36条第1項、法人税法第61条第1項)。
注意:リキッドステーキングの課税関係について国税庁の公式見解は存在しない。以下はカオーリア会計事務所の見解に基づく整理であり、将来的に異なる取扱いが示される可能性がある。
| 比較項目 | 通常のステーキング(単純預入) | リキッドステーキング(stETH等受領) |
|---|---|---|
| 預入時の課税 | 個人・法人ともに課税なし(仕訳不要) | 個人・法人ともに交換課税が発生(ETH→stETHの交換) |
| 含み益の扱い | 預入時は実現しない | 預入時に強制実現(利確) |
| 受領するもの | なし(同一暗号資産が返還される) | stETH・cbETH等の債権トークン |
| 法人の期末時価評価 | 預入中の暗号資産が対象 | 受領した債権トークン(stETH等)が対象 |
| 個人の所得区分 | 報酬claim時に雑所得 | 交換時に雑所得(ETHの含み益全額) |
なぜ「預入」なのに交換課税になるのか
リキッドステーキングで交換課税が生じる理由は、以下の3段階のロジックによる。
第一に、ETHとstETHは税務上「別の暗号資産」である。stETHはLidoが発行するERC-20トークンであり、ETH(ネイティブトークン)とはコントラクトアドレスも発行者も異なる。さらに、stETHはLidoへの返還(アンステーク)を待たずとも、CEX(Bitget等)やDEX(Curve等)で単独で売買可能であり、ETHとは独立した市場価格が成立している。「ETHの代わりに使える」「価格がほぼ連動している」としても、USDCとUSDTが別の暗号資産であるのと同様に、ETHとstETHは税務上は別個の暗号資産として扱われる。stETHが独立して売買可能であること自体が、「単なる預かり証」ではなく「独立した暗号資産」であることの最も強い根拠となる。
第二に、「ETHを渡してstETHを受け取った」という取引構造は、国税庁FAQ 1-3の「暗号資産同士の交換」と同一である。FAQ 1-3は「暗号資産Aで暗号資産Bを購入した場合、暗号資産Aの譲渡価額(=暗号資産Bの時価)と暗号資産Aの取得原価の差額」が所得になるとしている。リキッドステーキングでは、ブロックチェーン上の事実として、ETHがスマートコントラクトに送付され(=ETHを手放す)、stETHが新規発行されてウォレットに着金する(=stETHを受け取る)。この取引構造は「ETHを対価としてstETHを取得した」と全く同じであり、ラップ・アンラップの課税関係とも共通する論点がある。
第三に、「経済的実態は預入なのだから交換ではない」という反論が成立するかは不透明である。第一で述べたとおりstETHはCEX・DEXで独立して売買可能であることに加え、預入者はstETHをDeFiで担保に使ったりLP(流動性提供)に投入したりできる。ETHを預けた後もstETHを自由に運用して追加の利益を得られるという事実は、stETHが「単なる預かり証」ではなく独立した経済的価値を持つ資産であることを意味する。国税庁は「名目ではなく実質で判定する」としているが、ブロックチェーン上の事実が「異なる暗号資産の取得」であり、かつその取得した資産が独立して運用可能である以上、これを「預入」と読み替える根拠が弱い。
補足:理論上は「stETHはETHの返還請求権を表象する債権にすぎず、暗号資産同士の交換ではない」と主張する余地はある。また、泉絢也教授(東洋大学法学部、元国税庁)は流動性提供について「移転先となるDEXのプールにはトークンの移転先としてその処分権に係る権利の帰属主体になり得る者が存在しないため処分権が移転しない」とする見解を示しており(『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務』中央経済社、333-336頁)、同じロジックはLidoのスマートコントラクトにも適用される余地がある。しかし、stETHにはCEX・DEXで活発な独立市場が存在し客観的時価が取得可能であるため、当事務所では現行法の枠組みにおいては交換課税として処理するのが安全性の高い処理であると考えている。国税庁の公式見解が出されていない論点であり、将来的に異なる取扱いが示される可能性は否定できない。
規制法上の「交換に当たらない」は税務上の結論を左右しない
法律事務所の中には、リキッドステーキング(ETH→stETH)について「stETHは預託証明として交付されるトークンであり、民法上の売買・交換には該当しない。よって暗号資産交換業の規制は適用されない」とする見解がある。この見解は資金決済法(業者規制)の文脈では合理的である。
しかし、規制法上の「交換に当たらない」という結論と、税法上の「交換課税が生じない」という結論は直結しない。両者は法律の目的と判定基準が根本的に異なるためである。
| 比較項目 | 規制法(資金決済法) | 税法(所得税法・法人税法) |
|---|---|---|
| 問い | 「この取引を業として仲介するには免許がいるか?」 | 「この取引で経済的利益が実現したか?」 |
| 判定基準 | 民法上の売買・交換に当たるか(法形式) | 経済的利益が実現したか(経済的実質) |
| stETHの評価 | 預託証明の交付→交換ではない | 異なるトークンの取得→経済的利益の実現 |
税法が問うているのは「お前は儲かったか?」である。ETH(取得原価20万円)を手放してstETH(時価45万円)を取得したという事実がブロックチェーン上に記録されている以上、その取引の法形式が民法上の交換であろうが預託証明の交付であろうが、25万円の経済的利益が存在すること自体は変わらない。国税庁FAQ 1-3の射程は「暗号資産Aを対価として暗号資産Bを取得した場合」であり、その取引が民法上の交換に当たるかは問うていない。
したがって、規制法の文脈で「stETHの交付は交換ではない」とする見解が存在しても、それをもって税務上の交換課税を回避する根拠とすることはできない。税務申告においては、規制法と税法の判定基準の違いを理解した上で、安全性の高い処理を選択することを推奨する。
注意:リキッドステーキングを「単なる預入」と誤解し、交換課税の計算を漏らす投資家が後を絶たない。ETHを1年以上保有して含み益が大きく膨らんでいる状態でLidoに預け入れた場合、stETHを受領した瞬間にETHの含み益全額に対する課税が発生する。個人の場合は雑所得として最大55%の税率が適用される可能性がある。預入前に必ず含み益の有無と税額を確認すべきである。
計算例(個人・法人共通)
取得原価20万円/ETHで10ETHを保有(含み益250万円)。Lidoに預入してstETHを受領した場合。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| ETHの取得原価 | 200万円(20万円×10ETH) |
| stETH受領時のETH時価 | 450万円(45万円×10ETH) |
| 譲渡損益(強制利確) | 250万円 |
この250万円は「ETHを売却してstETHを購入した」として課税される。個人の場合は雑所得、法人の場合は益金に算入する。stETHの取得原価は受領時のETH時価(450万円)となる。
債権トークンの詳細な税務処理は「債権トークン(自己発行)の税務処理(前編)|3軸整理と売買型・預入型の理論比較」を参照。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. ステーキング預入時に含み益があっても課税されませんか?
預入の時点では個人・法人ともに課税されない。預入は資産の所有権が実質的に移転しておらず、暗号資産の種類も変わっていないため、課税対象となる「取引」に該当しない。法的にも担保設定に近い構造であり、譲渡損益を認識する根拠がない。ただし、法人の場合はロックアップ中でも期末時価評価の対象となり、含み益に法人税が課される(国税庁FAQ 3-1-6)。リキッドステーキング(stETH・cbETH等の債権トークンを受領する形態)は預入時点で「暗号資産同士の交換」に該当し、個人・法人ともに含み益に対する課税が発生すると当事務所では考えている(国税庁の公式見解は未公表)。
Q2. 預入中(ロックアップ中)の暗号資産は期末に時価評価する必要がありますか?
法人は必要。個人は不要。法人の場合、ステーキングのためにロックアップした暗号資産は、活発な市場が存在する限り期末時価評価の対象であり、含み益に法人税が課される(国税庁FAQ 3-1-6)。ロックアップは特定譲渡制限付暗号資産の「移転制限」に該当しないため、時価評価を回避することはできない。個人の場合は期末時価評価の制度自体がないため、売却等の時点まで課税は発生しない。
Q3. ステーキング報酬をclaimしていなくても課税されますか?
原則としてclaim時に課税される。個人・法人ともに、claim時(引き出し時)の時価で所得を認識するのが合理的実務解である。ブロック単位での逐次認識は理論上可能だが、正確な取得タイミングの把握困難、実務コストの高さを考慮すると現実的ではない。claimしていない報酬について税務署から逐次認識を求められた事例は現時点では確認されていない。
Q4. リキッドステーキング(stETH等)と通常のステーキングの税務上の違いは?
決定的に異なると当事務所では考えている。通常のステーキング(単純預入)は①最終的な同種同量返還保証あり②別トークン受領なし③処分権移転なしで、全軸が非課税方向であるため課税イベントではない。一方、リキッドステーキングで債権トークン(stETH・cbETH等)を受領した場合は①同種同量返還保証あり②別トークン受領あり③処分権移転は争いあり、と軸が衝突する。当事務所では、②のトークンにCEX・DEXで活発な独立市場が存在し客観的時価が取得可能であることから、安全策として交換課税で処理している。ただし、国税庁の公式見解は未公表であり、今後異なる取扱いが示される可能性がある点に留意が必要である。課税判定の3つの軸については「DeFiの税金ガイド」を参照。
Q5. ステーキング預入は「担保」「貸付」「譲渡」のどれですか?
法的には「担保設定(質権型)」に最も近い。通常のステーキングでは、預入者はスマートコントラクトに暗号資産を送付するが、アンステークによって同種同量の返還を受けることが前提であり、処分権は預入者側に留保されている。この構造は民法の質権に近く、所有権移転を伴わない。ただし、担保権者がウォレットを全面支配し自由処分・再利用が可能な設計の場合は譲渡担保型に近づき、所有権移転を伴う構成と評価される余地がある。
Q6. 法人化してステーキングを行う場合の注意点は?
期末時価評価による含み益課税が最大のリスク。個人では売却するまで課税されない暗号資産が、法人に移した瞬間から毎期末に時価評価され、含み益に法人税が課される。ステーキング中のロックアップは時価評価の免除要件に該当しないため(国税庁FAQ 3-1-6)、「売却できないのに税金だけ発生する」事態が起こり得る。法人化の判断においてはステーキング資産の規模と含み益の大きさを必ず考慮すべきである。
Q7. 個人でステーキング報酬が年間20万円以下なら申告不要ですか?
条件付きで不要。給与所得者で、暗号資産取引を含む雑所得の合計が年間20万円以下であれば、確定申告は不要である(所得税法第121条)。ただし、ステーキング報酬以外に暗号資産の売却益や他の雑所得がある場合は合算して判定する。また、住民税の申告は金額にかかわらず必要である点に注意が必要である。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
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専門の税理士に依頼する場合
暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第36条第1項(収入金額)
- 所得税法第37条第1項(必要経費)
- 所得税法第121条(確定申告を要しない場合)
- 法人税法第22条第2項(益金の額)
- 法人税法第22条第4項(資産の評価益は原則益金不算入)
- 法人税法第61条第2項(暗号資産の期末時価評価)
- 法人税法施行令第118条の7(期末時価評価の対象・除外の判定)
- 法人税法施行令第118条の8(活発な市場の判定基準)
- 民法第342条・第344条・第349条(質権)
- 民法第587条(消費貸借)
- 民法第666条(消費寄託)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」1-3(暗号資産同士の交換を行った場合)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」3-1-6(ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」3-1-7(貸付けをした暗号資産の期末時価評価)
