ラップ・アンラップの税金|WETHやwBTCは交換か?

結論

ラップ・アンラップが課税イベントに該当するか否かは国税庁の明確な見解がない。「交換」か「非課税」かの処理判断で税額が大きく変わるグレーゾーンである。

  • 理由① 「交換」として扱う場合、ETH→WETHの変換時点でETHの時価と取得価額の差額に課税される。含み益が大きい暗号資産をDeFiで使うためにラップしただけで利確と同じ効果が生じるため、税負担のインパクトは無視できない。
  • 理由② 「非課税イベント」として扱う場合、ラップ・アンラップ時点では所得計算が不要となり、元の暗号資産の取得価額をラップドトークンに引き継ぐ。経済的実質は同一資産の形式変換にすぎないという考え方に基づく処理である。
  • 条件 いずれの処理を採用する場合でも、採用した方法を年度内で一貫させることが重要。同じ年度内でラップは非課税・アンラップは交換というように恣意的に使い分けると、税務調査で処理の合理性を否定されるリスクがある。

所得税法第36条第1項 / 国税庁FAQ 1-3(暗号資産同士の交換)

この記事でわかること

  • ラップ・アンラップの仕組みと代表的なトークン(WETH・WBTC等)
  • 「課税イベントである」場合の具体的な計算例
  • 「課税イベントではない」場合の法的根拠
  • カストディアン型とスマートコントラクト型の違い
  • 損益計算の実務上の注意点とラップドトークンの時価問題
目次

ラップ・アンラップの仕組み

【結論】ラップとは原トークンをスマートコントラクトにロックし、別の規格に準拠したラップドトークンを発行する処理である。WBTC・WETHなどのラップドトークンは原トークンと1対1で裏付けされており、保有者は基本的にいつでもアンラップ(元に戻す)ことができる。

なぜラップが必要か

BTCのブロックチェーンとETHのブロックチェーンは種類が異なるため、BTCをイーサリアムブロックチェーン上で直接利用することはできない。また、ERC-20(トークンの共通規格)に準拠したDEXでは、ETHはこの規格を遵守していないため直接取引ができない。

こうした互換性の問題を解決するために、ラップが行われる。

原トークン ラップドトークン 用途
BTC WBTC BTCをイーサリアムチェーン上で利用
ETH WETH ETHをERC-20準拠のDEXで取引

ラップの2つの方式

ラップの仕組みは、カストディアン(管理者)の有無で大きく2種類に分かれる。この違いは課税関係の判断に直結する。

方式 仕組み
カストディアン型 WBTC BTCを預かるカストディアンが存在し、預入と引き換えにWBTCを発行
スマートコントラクト型 WETH カストディアンなし。ETHをスマートコントラクトに送ると自動的にWETHがミント

課税イベントか否か|2つの見解

【結論】ラップ・アンラップを「交換」として扱うか「非課税イベント」として扱うかで、税額が大きく変わる。値上がりした暗号資産をラップした場合、交換処理では多額の課税が発生する一方、非課税処理では計算不要となる(所得税法第36条第1項、国税庁FAQ 1-3)。

見解①:課税イベントである(交換処理)

ラップにより原トークンと異なる種類のラップドトークンを取得するため、暗号資産同士の交換に該当するという見解である。国内外を問わず、この見解は珍しくない。

この場合、国税庁FAQ 1-3に基づく通常の交換処理と同じ計算を行う。

【計算例】ETHをWETHにラップした場合

前提条件:

  • 2017年1月1日に100万円で1,000ETH購入(1ETH=1,000円)
  • 2022年4月1日に500ETHを500WETHにラップ(1ETH=40万円、1WETH=40万円)
所得金額 =(40万円 × 500WETH)−(100万円 ÷ 1,000ETH)× 500ETH
       = 2億円 − 50万円
       = 1億9,950万円
項目 金額
①収入金額(WETH時価) 2億円
②1ETHあたりの取得価額 1,000円
③譲渡したETHの数量 500ETH
④譲渡原価(②×③) 50万円
⑤所得金額(①−④) 1億9,950万円

この計算例が示すとおり、値上がり益を狙ったわけではなく、単に他のチェーンで利用するためにラップしただけで約2億円の所得が発生する。2017年以前から暗号資産を保有し、大幅に値上がりしている場合は特に注意が必要である。

見解②:課税イベントではない(非課税処理)

ラップは原トークンの処分権の移転を伴わず、ラップドトークンは処分権移転の対価ではないため、課税イベントではないという見解である。

この場合、ラップ・アンラップ時の所得計算は不要となる。

泉絢也教授(東洋大学法学部・元国税庁)は、以下の理由から現時点では課税イベントではないとの見解を示している(泉絢也「DeFiにおける暗号資産等のトークンの移転と課税」税法学589号159頁以下)。

カストディアン型(WBTC等)の場合:原トークンであるBTCの保有者からカストディアンにBTCの処分権が移転していないと解される。

スマートコントラクト型(WETH等)の場合:そもそも相手方として権利義務の帰属主体になりうる者が存在しない。せいぜい単独行為ないし自己取引であり、譲渡を観念できない。あるいは収入が発生していない。

例外:ユーザー間の直接交換

原トークンとラップドトークンの交換がユーザー間で直接行われた場合には、相互に処分権の移転が生じるため課税イベントとなる。

比較項目 交換処理(課税あり) 非課税処理(課税なし)
所得計算 時価−取得原価=損益 不要
取得原価 WETHに新たな取得原価(時価) 原トークンの取得原価を維持
値上がり時のリスク 多額の課税発生 課税なし
法的根拠 FAQ 1-3準用(交換) 処分権の移転なし

実務上の注意点

【結論】ラップドトークンの時価把握が困難なケースが多く、チェーンごとに無数のラップドトークンが存在するため、損益計算の実務では正確な処理が難しい。処理方法の選択根拠を記録に残し、年度内で一貫した方法を適用することが重要である。

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ラップドトークンの時価問題

ラップドトークンと原トークンの時価はほぼ同じであることが多いが、完全に同一ではない。実務上は以下の問題がある。

  • チェーンごとに異なるラップドトークンが発生するため、時価データの把握が困難なものが無数に存在する
  • シンボル名ではラップドトークンかどうかを判別できないケースがある
  • LPトークンや債権トークンとの区別も実務上の課題となる
  • 一般の納税者や税務署がチェーンごとのラップドトークンの期末数量を正確に把握することは困難である

ブリッジとの関係

ラップとブリッジは密接に関連する。ブリッジとは異なるチェーン間でトークンを移動させる処理であり、その過程でラップが行われるケースが多い。ブリッジの課税関係については、ブリッジの税金|交換処理vs預入引出・クロスチェーンスワップで詳しく解説している。

処理方法の一貫性

ラップ・アンラップの税務処理は、交換処理・非課税処理のいずれを選択するにせよ、同一年度内で一貫した方法を適用する必要がある。また、ブリッジの処理方法とも整合性をとることが望ましい。

関係法令:所得税法第36条第1項 / 国税庁FAQ 1-3

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よくある質問(FAQ)

Q1. ETHをWETHにラップした場合、確定申告は必要ですか?

処理方法による。交換処理を採用した場合は暗号資産同士の交換として損益が発生し、確定申告の対象となる(国税庁FAQ 1-3)。非課税処理を採用した場合は所得計算が不要となる。国税庁の明確な見解がないため、税理士への相談を推奨する。

Q2. ラップで課税された場合、アンラップでも課税されますか?

される。交換処理を採用した場合、アンラップも逆方向の交換として扱われる(国税庁FAQ 1-3)。WETHの取得原価とETHの時価の差額が損益となる。非課税処理を採用した場合はアンラップも同様に課税イベントではない。

Q3. WBTCとWETHで課税関係は異なりますか?

見解が分かれる論点である。WBTCはカストディアン(管理者)が存在し、WETHはスマートコントラクトのみで完結する。処分権の移転の有無は方式によって異なりうるが、いずれの場合も非課税とする見解がある。実務上は同一の方法で一貫して処理することが重要である。

Q4. ラップドトークンの時価が原トークンと異なる場合はどうなりますか?

交換処理を採用した場合、受取側(ラップドトークン)の時価を基準に損益を計算する。原トークンとラップドトークンの時価は通常ほぼ同じであるが、完全に一致しないケースもある。時価の差が生じた場合はその差額が損益に反映される(国税庁FAQ 1-3の交換処理に準じる)。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

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専門の税理士に依頼する場合

暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。

関係法令

  • 所得税法第36条第1項(収入金額の収入すべき時期)
  • 所得税法第37条第1項(必要経費)
  • 所得税法施行令第119条の2
  • 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」1-3(暗号資産同士の交換を行った場合)
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