法人税法上の暗号資産の「種類」には厳密な定義がなく、ティッカーだけではトークンを特定できない。コントラクトアドレスによる識別が実務上不可欠である。
- 理由① 譲渡原価は「種類ごと」に計算し、期末時価評価も「種類ごと・区分ごと」に判定する。種類の認識を誤ると原価計算と時価評価の両方が連鎖的に狂うため、種類の特定は法人税計算の起点となる。
- 理由② 同一ティッカーでも異なるチェーン上に別トークンが存在する(例:USDTはERC-20・TRC-20・BEP-20で別トークン)。ティッカーは表示名にすぎず、税務上の「種類」の識別子としては機能しない。
- 条件 BTC・ETH等のネイティブトークンはコントラクトアドレスを持たないため、チェーン名+ティッカーで一意に特定できる。コントラクトアドレスによる識別が必要になるのは主にERC-20等の規格に基づくトークンである。
法人税法第61条第2項 / 法人税法施行令第118条の6
この記事でわかること
- 法人税法における暗号資産の「種類」の意味と登場する条文
- ティッカー(シンボル名)だけでは特定できない理由と実例
- コントラクトアドレス・CoinGecko API IDでの管理方法
- ラップドトークンの「種類」該当性に関する論点
- 実務上のトークン特定・記録の方法
法令上の「種類」が登場する場面
【結論】暗号資産の「種類」は、譲渡原価の計算(法人税法施行令第118条の6)と期末時価評価の対象判定(法人税法第61条第2項)で用いられる。種類ごとに評価方法を選定し、種類ごとに帳簿価額を算定するため、「何をもって同一種類とするか」は損益額に直結する。
法人税法では、暗号資産の譲渡原価を「1単位当たりの帳簿価額 × 譲渡数量」で計算する(国税庁FAQ 3-1-2)。この帳簿価額は移動平均法(法定評価方法)または総平均法(届出による変更)で算定するが、いずれも「種類ごと」に計算する。さらに、期末時価評価の対象判定においても、暗号資産は以下の4区分に「種類ごと・区分ごと」に分類される。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| イ | 特定譲渡制限付暗号資産(自己発行でないもの) |
| ロ | 特定譲渡制限付暗号資産(自己発行のもの) |
| ハ | 特定自己発行暗号資産 |
| ニ | 上記以外の暗号資産 |
つまり「種類」の判定を誤ると、帳簿価額が変わり、譲渡損益が変わり、さらに期末時価評価の対象かどうかの判定にも影響する。にもかかわらず、法令上は「種類」の具体的な定義(何をもって同一種類と判断するか)が明示されていない。期末時価評価の具体的な判定方法と4区分の詳細は「暗号資産法人の期末時価評価」で解説している。
関係法令:法人税法第61条第2項 / 法人税法施行令第118条の6、第118条の7
ティッカーだけでは特定できない理由
【結論】暗号資産の種類数はCoinGecko登録数だけで17,000以上、実際にはそれを遥かに上回る。同一ティッカーで全く別のトークンが存在するため、ティッカーによるグルーピングは実務上妥当ではない。
暗号資産の種類が数百程度であった時代には、「BTC」「ETH」といったティッカー(シンボル名)だけでトークンを一意に特定できた。しかし現在は状況が大きく異なる。
同一ティッカーの別トークン問題
具体例として「MONA」がある。多くの日本人ユーザーが想起するのは「モナーコイン(Monacoin)」であるが、現在CoinGeckoに登録されている「MONA」は「Mona」という全く別の暗号資産である。両者は当然時価が異なるため、混同すると譲渡原価の計算で適用する単価が誤ったものとなり、損益額が実態と乖離する。
詐欺コインの混入リスク
さらに深刻な問題として、有名トークンと同一のティッカーを付けた詐欺コイン(スキャムトークン)が大量に存在する。ティッカーでグルーピングした場合、詐欺コインと正規のトークンが同一種類として扱われてしまい、帳簿価額の算定自体が破綻する。
マルチチェーン展開による同一銘柄の分裂
USDCのようなステーブルコインは、Ethereum・Polygon・Arbitrum・Solana等の複数チェーンにそれぞれ固有のコントラクトアドレスで展開されている。同じ「USDC」でもチェーンごとに技術的には別のトークンであり、ブリッジによるチェーン間移動の際には旧チェーンのUSDCが消滅し新チェーンのUSDCが発行される構造となっている。
これらを別のトークンとして扱うか同一のトークンとして扱うかについて、現時点で法令上の明確な回答はない。ただし、実務上はチェーンごとに別トークンとして管理すると取引履歴の完全取得が困難なケースで数量不足(マイナス残高)が頻発し、損益計算に支障をきたす。そのため、同一発行体の同一銘柄(USDC等)はチェーンを問わず同一トークンとして扱うことを実務上は推奨する。もちろん、個別トークンとして扱うことも問題はないが、どちらの場合でも一貫性のある処理が求められる。
| リスク | 具体例 | 損益への影響 |
|---|---|---|
| 別トークンとの混同 | MONA(モナーコイン)とMONA(Mona) | 時価の誤適用 → 損益額の乖離 |
| 詐欺コインの混入 | 有名トークンと同一ティッカーのスキャムトークン | 帳簿価額の算定破綻 |
| ラップドトークンの判定 | ETHとWETH(Wrapped ETH) | 同一種類か否かで帳簿単価が変動 |
関係法令:法人税法施行令第118条の6
トークンを正確に特定する方法
【結論】トークンの正確な特定には「CoinGecko API ID」の記録が最も有効であり、CoinGeckoに登録のないトークンはチェーン番号+コントラクトアドレスで管理する。税理士に損益計算を依頼する場合、この識別情報は必須級である。
第1段階:CoinGecko API IDで管理
体感的に約9割の暗号資産はCoinGecko API IDの取得が可能である。CoinGecko API IDは各トークンに一意に割り当てられた識別子であり、ティッカーの重複問題を回避できる。
- 例:
- モナーコイン → CoinGecko API ID:
monacoin - Mona → CoinGecko API ID:
mona(別のID)
第2段階:トークン識別体系による管理
CoinGeckoに未登録のマイナートークンや、LPトークン・債権トークンなどCoinGecko上に固有のIDが存在しないトークンは、コントラクトアドレスとトークン規格で特定する。以下はEVM系チェーンにおけるトークン識別の体系である。
| 要素 | 意味 | 確認方法 |
|---|---|---|
| evm | EVM系チェーンであることを示すプレフィックス | — |
| トークン規格 | ERC-20(暗号資産)、ERC-721(NFT)、ERC-1155(NFT/半代替性)等 | Etherscan等のブロックチェーンエクスプローラー |
| チェーン番号 | Ethereum=1、Polygon=137、Base=8453 等 | chainlist.orgで確認 |
| コントラクトアドレス | トークンの発行元スマートコントラクトを一意に特定 | Etherscan等のブロックチェーンエクスプローラー |
| トークンID | NFT(ERC-721/1155)の場合のみ。コレクション内の個別作品番号 | Etherscan等のブロックチェーンエクスプローラー、マーケットプレイス |
注意:上記の識別体系はEVM系チェーン(Ethereum、Polygon、BSC、Arbitrum、Base等)の場合である。Solana、Cosmos、Sui等の非EVMチェーンではトークンの識別体系が異なるため、各チェーンのエクスプローラーで確認する必要がある。
暗号資産(ERC-20等)の場合:
evm_[チェーン番号]_[コントラクトアドレス]
例:evm_8453_0x07d15798a67253d76cea61f0ea6f57aedc59dffb
NFT(ERC-721/1155等)の場合:
evm_[トークン規格]_[チェーン番号]_[コントラクトアドレス]_[トークンID]
例:evm_721_1_0x235f25e2615b682b79d3b619fd7a4e0b3ed7e0c4_77
LPトークン・債権トークンの場合:暗号資産(ERC-20等)として発行されるものとNFT(ERC-721/1155等)として発行されるものの両方が存在する。ERC-20型はコントラクトアドレスで、NFT型はコントラクトアドレス+トークンIDで特定する。UniswapのV3以降のLPポジションはNFT(ERC-721)として発行されるのが代表例である。
第3段階:補助情報の保存
上記いずれの方法でも特定が困難なケースでは、トークンアイコン画像、取引履歴のスクリーンショット、マーケットプレイスのURLなど、トークンを特定できる情報を別途保存しておく。チェーン番号やコントラクトアドレスの記載は納税者自身には困難なケースも多いため、税理士側で確認・記載することも多い。
注意:損益計算ソフトによっては、コントラクトアドレスやトークン規格をそのまま入力できる仕様になっていない。CoinGecko API IDに対応していないトークンは、ソフト上で正確に管理できないケースがあるため、期末残高のExcel等で個別に管理し、調整計算の際に税理士へ提供するのが理想的である。
| 特定方法 | 対象トークン | 一意性 |
|---|---|---|
| CoinGecko API ID | 登録済みトークン(約9割) | ◎ 完全に一意 |
| チェーン番号+コントラクトアドレス | CoinGecko未登録の暗号資産・LPトークン | ◎ 同一チェーン内で一意 |
| チェーン番号+コントラクトアドレス+トークンID | NFT・NFT型LPトークン | ◎ 完全に一意 |
| 補助情報(画像・ログ) | 上記で特定困難なトークン | △ 間接的な証拠 |
「種類」の判定に関する未解決の論点
【結論】コントラクトアドレスごとに種類が異なるのか、異なるチェーン上のラップドトークン(WETH等)は同一種類か、といった論点に法令上の明確な回答はない。実務では損益計算ソフトの処理方針に基づき一貫した取扱いを行うことが重要である。
法令上の「種類」の定義が明示されていない以上、以下の論点はいまだ解釈に幅がある。
論点①:コントラクトアドレスと種類の関係
「同一のコントラクトアドレスから発行されるトークンは同一種類」「コントラクトアドレスが異なれば別種類」と考えるのが技術的には最も合理的である。しかし、この基準が法令上の「種類」と完全に一致するかは明確ではない。
論点②:ラップドトークンの「種類」該当性
ETH(ネイティブトークン)とWETH(Wrapped ETH)は経済的実質が同一であるが、コントラクトアドレスは異なる。これを同一種類として扱うか別種類として扱うかで、帳簿単価と損益額が変わる。さらに、イーサリアムチェーン上のWETHとポリゴンチェーン上のWETHを同一種類とすべきかという問題もある。
加えて、WETH(Wrapped ETH)のようにCoinGecko等で独自の時価が取得できるラップドトークンもあれば、マイナーなプロトコルが発行するラップドトークンで客観的な時価がつかないものもある。同一種類として扱う場合、ラップ・アンラップ時に譲渡損益を認識しないため計算はシンプルになるが、時価の異なるトークンを同一帳簿単価で管理することになる。別種類として扱う場合、時価に基づく正確な計算が可能だが、時価の取得できないラップドトークンでは帳簿価額の算定自体が困難になる。いずれの方向性でも課題があり、現時点で万能な解はない。
ラップ・アンラップ自体が課税イベントに該当するか否か(交換処理か非課税処理か)という税務上の論点については「ラップ・アンラップの税金|WETHやwBTCは交換か?」で詳しく解説している。
論点③:実務上の対応
損益計算ソフトによって処理方針は異なる。たとえばCryptorchではETHとWETHを同一として扱い、個別記載しない方針を採用している。重要なのは、法人として一貫した方針で種類を判定し、事業年度ごとに恣意的に変更しないことである。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の法人税務を専門の税理士に依頼する」をご覧ください。
関係法令:法人税法第61条第2項 / 法人税法施行令第118条の6
よくある質問(FAQ)
Q1. 法人税法の「種類」とは具体的に何を指しますか?
BTCやETHなど世間一般でいう暗号資産の種類と同じ概念と解される。法人税法第61条第2項や法人税法施行令第118条の6等に「種類」という用語が登場するが、厳密な定義は法令上明示されていない。
Q2. ティッカーが同じなら同一種類のトークンですか?
同一種類とは限らない。同一ティッカーで全く別のトークンが存在する(例:MONAにはモナーコインとMonaの2つがある)。詐欺コインが同一ティッカーを名乗るケースもあり、ティッカーによるグルーピングは実務上妥当ではない。
Q3. トークンを正確に特定するには何を記録すればよいですか?
CoinGecko API IDの記録が最も有効である。約9割のトークンはCoinGecko API IDで一意に特定できる。未登録トークンはチェーン番号+コントラクトアドレスで管理し、それも困難な場合はトークンアイコン画像や取引履歴を保存する。
Q4. WETHとETHは同一種類として計算してよいですか?
法令上の明確な回答はない。経済的実質は同一だがコントラクトアドレスは異なる。損益計算ソフトにより方針が異なり(Cryptorchでは同一扱い)、法人として一貫した方針で処理することが重要である。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の法人税務を専門の税理士に依頼する」をご覧ください。
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関係法令
- 法人税法第61条第2項(暗号資産の期末時価評価)
- 法人税法施行令第118条の6(暗号資産の譲渡原価)
- 法人税法施行令第118条の7(時価評価の対象・除外の判定)
