暗号資産の貸付の税務処理(後編)|時価取得不能な暗号資産の貸付

暗号資産の貸付の税務処理(後編)では、活発な市場が存在せず客観的時価を取得できない暗号資産を貸し付けた場合の、法人税務上の処理を解説する。前編・中編で確立した「簿価振替・期末評価なし・返還時実現益課税」の原則を、時価取得不能な特殊ケースに適用する。

結論

時価取得不能な暗号資産の貸付は「原価据置・損益不認識」で処理する。貸付時は簿価振替、期末は評価せず、同種同量返済時も損益なし。課税が生じるのは将来の交換・売却時のみである。

  • 理由① 時価が観測不能であることは「価値がゼロ」を意味しない。活発な市場がないだけであり、客観的時価が存在しない状態では評価損益の算定自体が不可能である。0円評価には法的根拠がない。
  • 理由② 返済時に「時価0円→評価損100,000円」を認めると、架空トークンの発行→役員貸付→返済時0円評価→損失創出という租税回避スキームが成立する。制度的に否認対象となる構造であり、認めるべきではない。
  • 条件 将来この暗号資産がBTC等の市場暗号資産と交換された時点で、初めて客観的時価が確定し実現損益が発生する。それまでは取得原価を据え置く。

法人税法第22条第2項・第4項 / 法人税法第61条 / 国税庁FAQ3-1-7

目次

この記事でわかること

  • 時価取得不能な暗号資産の貸付時・期末・返済時の処理方法
  • 「観測不能≠0円」の原則と0円評価が論理破綻する理由
  • 租税回避遮断の観点からの制度的整理
  • 将来交換時に初めて実現損益が生じる構造
  • 役員への時価不明トークン貸付の追加リスク

前提条件|KTAXトークン事例

【結論】活発な市場が存在しない自社発行トークン(KTAX)を役員に貸し付ける事例で検証する。前編・中編のUSDC(時価あり)との違いは、客観的時価が存在しない点にある。

  • 株式会社甲(法人)
  • 貸付対象:1,000KTAX
  • 取得原価:100円/KTAX(簿価100,000円)
  • 貸付時:客観的時価なし(活発な市場なし)
  • 同種同量返還の消費貸借契約

KTAXは活発な市場が存在しないため、法人税法第61条に基づく期末時価評価の対象外である。また、国税庁FAQ3-1-4が定める「活発な市場」の3要件(継続的価格公表、十分な取引量・頻度、自社以外による価格公表等)を満たさない。

貸付時の処理|簿価振替

【結論】時価取得不能であっても貸付時の処理は中編と同じ「簿価振替」である。時価が存在しないことにより処理が変わるのではなく、「貸付は譲渡ではない」という原則がそのまま適用される(法人税法第22条第2項・第4項)。

借方金額貸方金額
貸付暗号資産(KTAX)100,000暗号資産(KTAX)100,000

所得:0

中編で確立した法的根拠(所得税法第36条・民法第587条・法人税法第22条)はそのまま適用される。加えて、時価が算定できない以上、仮にA方式(時価計上)を採用しようとしても「評価額をいくらにするか」という問題に直面する。時価算定不能の状態で0円とみなす法的根拠も、任意の金額で評価する根拠も存在しない。

期末の処理|評価しない

【結論】時価取得不能な暗号資産の貸付債権は期末に評価しない。活発な市場が存在せず評価可能性がない以上、評価損益の算定自体が成立しない。

仕訳なし。 所得:0

中編で解説したとおり、貸付債権は「保有暗号資産」ではないため期末時価評価の対象外である(FAQ3-1-7)。さらにKTAXは活発な市場が存在しないため、仮に保有暗号資産であっても時価評価の対象にならない。二重の意味で評価不要である。

「観測不能≠0円」が重要な原則である。市場価格が確認できないことは、その資産に価値がないことを意味しない。評価不能な状態では、評価損益という概念自体が成立しない。

返済時の処理|同種同量返還は損益なし

【結論】同種同量のKTAXが返還された場合、損益は発生しない。簿価100,000円をそのまま復元する。「返済時に時価0円で評価損計上」は論理破綻であり認められない。

借方金額貸方金額
暗号資産(KTAX)100,000貸付暗号資産(KTAX)100,000

所得:0

0円評価の論理破綻

返済時に「KTAXの時価は0円であるから評価損100,000円を計上する」という処理は以下の理由で成立しない。

  • 価値がゼロであることを立証できない(市場がないだけ)
  • 客観的時価がない状態では損益算定が不可能
  • 中編の原則(同種同量返還=非課税イベント)に反する

租税回避遮断の観点

仮に「返済時0円評価→損失計上」を認めると、以下のスキームが成立してしまう。

  1. 法人が独自トークンを発行し取得原価を計上
  2. 役員に貸付
  3. 返済時に「時価0円」として評価損を計上
  4. 損失が創出される

これは完全な損出し装置であり、制度的に否認対象となる構造である。

将来交換時|初めて実現損益が発生

【結論】時価取得不能な暗号資産が将来BTC等の市場暗号資産と交換された時点で、初めて客観的時価が確定し実現損益が発生する。それまでは取得原価を据え置く(法人税法第22条第2項)。

交換時の仕訳(例:KTAX→BTC、交換時200,000円)

借方金額貸方金額
暗号資産(BTC)200,000暗号資産(KTAX)100,000
暗号資産売却益100,000

所得:+100,000

交換時にBTCの市場時価が200,000円であることにより、KTAXの「実質的時価」が初めて確定する。簿価100,000円との差額100,000円がこの時点で実現する。

処理の全体像

時点処理損益
貸付時簿価振替なし
期末評価なしなし
返済時(同種同量)簿価復元なし
将来交換時初めて実現損益あり

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実務上の注意点

【結論】時価不明トークンの役員貸付には、①無利息の経済的利益供与リスク、②回収可能性の検討義務、③貸倒損失の損金算入困難という3つの追加リスクがある。

無利息貸付の経済的利益供与

時価不明トークンであっても、無利息の貸付は経済的利益の供与に該当する可能性がある(法人税法第34条)。適正利息の算定が困難な場合でも、何らかの合理的な利息設定が求められる。

回収可能性の検討

市場性のないトークンを役員に貸し付けた場合、返還されるトークンに実質的な価値があるかどうかの回収可能性を検討する必要がある。特に自社発行トークンは、実質的な価値移転(役員への利益供与)と見られるリスクが高い。

貸倒損失の損金算入

時価不明トークンの貸付債権が回収不能になった場合、貸倒損失の損金算入は極めて困難である。そもそも債権額が客観的に算定できないため、損失額の立証が事実上不可能となるケースが多い。

よくある質問(FAQ)

Q1. 時価が取得できない暗号資産とは具体的にどのようなものですか?

活発な市場が存在しない暗号資産である。 自社発行トークン、取引量が極端に少ないトークン、DEXにのみ流動性がありCEXに上場していないトークン等が該当する。国税庁FAQ3-1-4の3要件(継続的価格公表、十分な取引量・頻度、自社以外による価格公表等)を満たさないものが対象となる。

Q2. DEXに流動性プールが存在する場合は「時価あり」ですか?

必ずしもそうとはいえない。 国税庁FAQ3-1-5ではDEXのAMMも「市場に含まれる」としているが、活発な市場の3要件を満たすかどうかは個別判断となる。取引量・頻度が極端に少ない場合は「活発な市場なし」と判断される可能性がある。

Q3. 時価不明トークンの取得原価はどう決まりますか?

取得時の対価で決まる。 購入した場合は購入金額、マイニング・エアドロップで取得した場合は取得時の見積価額(または0円)となる。取得原価の決定方法は時価の有無にかかわらず同一である。

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関係法令

  • 法人税法第22条第2項(益金の額)
  • 法人税法第22条第4項(資産の評価益は原則益金不算入)
  • 法人税法第34条(役員給与の損金不算入)
  • 法人税法第61条(暗号資産の評価)
  • 国税庁FAQ3-1-4(活発な市場の判定)
  • 国税庁FAQ3-1-5(DEXの暗号資産)
  • 国税庁FAQ3-1-7(貸付けした暗号資産の期末時価評価)
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