暗号資産の貸付の税務処理(中編)|法的根拠と最終確定仕訳

結論

暗号資産の貸付は「譲渡」ではなく「債権への転化」であるため、貸付時も返還時も簿価振替とし課税は生じない。返還された暗号資産は元の取得原価を引き継ぎ、課税はその暗号資産を売却した時に初めて発生する。

  • 理由① 東京国税局の口頭回答において、「同種同量の暗号資産の返還を受ける限りにおいては、貸付時及び返還時に含み損益に係る所得税の課税は生じない」旨が示されている。個人所得税ベースの回答だが、実現主義を採用する法人税でも基本構造は同じである。
  • 理由② 法人税法第22条第2項の益金は「資産の販売その他の取引」により認識される。消費貸借は同種同量返還義務を伴う契約であり、販売(譲渡)ではない。貸付時も返還時も「同じものが形態を変えて戻ってきただけ」であり、課税すべき実現益は存在しない。
  • 条件 貸付暗号資産を借主が別の暗号資産に交換した場合(異種返還)や、債権トークンが発行される場合は、単純な貸付ではなく別の課税構造となる。本記事の結論は「同種同量返還」が前提である。

法人税法第22条第2項・第4項 / 所得税法第36条第1項 / 民法第587条 / 国税庁FAQ3-1-7

この記事でわかること

  • 東京国税局の口頭回答が暗号資産貸付の課税関係に与える影響
  • 「貸付は譲渡ではない」を支える3つの法的根拠
  • 前編のA方式・B方式がなぜ税務上不適切なのか
  • 修正版USDT事例の最終確定仕訳(貸付→期末→返還→利息→再貸付)
  • 借入=時価、貸付=簿価という非対称性の制度的根拠

注意:暗号資産の貸付の税務処理について、現時点で国税庁からの公式見解は限定的である(FAQ3-1-7の期末評価に関する整理のみ)。本記事の整理はカオーリア会計事務所による検討であり、税務調査において異なる見解が示される可能性がある。また、本記事は法人税法を前提に解説しているが、期末時価評価を除き、個人(所得税)の場合でも結論は概ね同様である。

目次

東京国税局の口頭回答|貸付時も返還時も課税イベントではない

【結論】東京国税局は、同種同量の暗号資産の返還を受ける限り、貸付時及び返還時に含み損益の課税は生じないとの見解を示している。この口頭回答が、前編A方式(貸付時の含み益課税)およびB方式(返還時の差額課税)の両方の否定根拠となる。

東京国税局の文書回答に関する決裁資料において、個人が行う暗号資産の貸付け(レンディング)に係る所得税の課税関係について、以下の趣旨の口頭回答がなされている。

「本件貸付けの時及び照会者がA社から暗号資産の返還を受けた時において、貸借した暗号資産と同種同量の暗号資産の返還を受ける限りにおいては、貸し付けた及び返還を受けた暗号資産の含み益(損)に係る所得税の課税は生じない」

この回答のポイントは「貸付時及び返還時」の両方について課税が生じないとしている点である。前編のB方式は貸付時を非課税としていたが、返還時に時価との差額20,000円を利益計上していた。この処理は口頭回答と矛盾する。

この回答は個人所得税に関するものだが、法人税においても基本構造は同じである。法人税は原則「実現主義」であり、貸付時にも返還時にも含み益を課税する根拠は存在しない。

なお、この照会は文書回答の対象とはならなかった。国税庁が「文書回答=納税者サービス」という姿勢を堅持しているため、不服申立てのルートがないという制度的課題がある。しかし口頭回答の内容自体は、暗号資産の貸付に対する国税庁の見解を推測する際の重要な参考資料となる。

法的根拠の整理|「貸付は譲渡ではない」の3つの論拠

【結論】所得税法第36条、民法第587条、法人税法第22条の3つの法的根拠が「貸付時も返還時も非課税」を支持する。前編でA方式・B方式が一見もっともらしく見えたのは会計的視点であり、税務的視点では異なる結論に至る。

論拠1:所得税法第36条第1項(実現主義)

益金算入は「資産の譲渡」によって生じる。貸付は「譲渡」ではない。所有権は消費貸借により移転するが、経済的実質は資産の処分ではなく、同種同量の返還請求権(債権)への転化である。返還時も同様に、債権が暗号資産に戻るだけであり、「譲渡」は発生しない。

論拠2:民法第587条(消費貸借の法的性質)

消費貸借は所有権が移転する契約だが、借主は同種・同等・同量の物を返還する義務を負う。税務上は「同種同量返還請求権」として扱われ、貸主にとっては資産が消滅したのではなく、資産の法的形態が「暗号資産」→「返還請求権」→「暗号資産」と変わっただけである。いずれの転化の時点でも経済的実質は変わっておらず、課税すべき実現益は存在しない。

論拠3:法人税法第22条(益金の実現要件)

法人税法第22条第2項は「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡その他の取引」を益金として規定する。同種同量の暗号資産の貸付・返還は、いずれにも該当しない。さらに同条第4項により、資産の評価益は原則として益金に算入しない。貸付時も返還時も、含み益は未実現のままである。

前編のA方式・B方式が否定される理由

A方式の問題:貸付時に50,000円の含み益を課税し、返還時に30,000円の評価損を計上する。貸付時・返還時の両方で「実現していない損益を認識している」構造であり、3つの法的根拠すべてと矛盾する。

B方式の問題:貸付時は簿価振替で非課税(口頭回答と整合)。しかし返還時に時価との差額20,000円を利益計上しており、「返還時に含み損益の課税は生じない」という口頭回答と矛盾する。B方式は貸付時の処理は正しいが、返還時の処理が不正確だったことになる。

最終確定仕訳|修正版USDT事例

【結論】法的根拠に基づく最終確定仕訳は、貸付時=簿価振替(非課税)、期末=時価評価あり(翌期首に洗替)、返還時=簿価振替(非課税・取得原価引継ぎ)の3点で構成される。貸付時・返還時の課税は生じず、課税は返還後にその暗号資産を売却した時に初めて発生する(法人税法第22条第2項・第4項、国税庁FAQ3-1-7)。

前提条件は前編と同一である(取得原価100円、貸付時時価150円、期末160円、返還時120円)。

修正ステップ1:貸付時(簿価振替・非課税)

借方金額貸方金額
貸付金(USDT)100,000暗号資産(USDT)100,000

所得:0

貸付は譲渡ではないため、含み益50,000円は認識しない。暗号資産が貸付金債権に形態変更しただけである。

修正ステップ2:期末(時価評価あり・翌期首に洗替)

貸付中の暗号資産は、手元にはないが価格変動リスクを法人が負い続けているため「自己の計算において有する」に該当し、法人税法第61条の期末時価評価の対象となる(国税庁FAQ3-1-7)。

借方金額貸方金額
貸付金(USDT)60,000暗号資産評価益60,000

所得:+60,000(1,000×(160−100))

翌期首に洗替(逆仕訳)を行い、帳簿価額を取得原価100,000円に戻す。

借方金額貸方金額
暗号資産評価損60,000貸付金(USDT)60,000

洗替後の所得:▲60,000(累計損益は0に復帰)

注意:「貸付時・返還時に課税は生じない」(口頭回答)と「期末に時価評価する」(FAQ3-1-7)は矛盾しない。前者は「貸付・返還は実現イベントではない」というルールであり、後者は「法人が保有する暗号資産に未実現の評価損益を認識する」という法人税独自の制度である。個人(所得税)には期末時価評価制度がないため、この期末評価は法人のみの論点である。

修正ステップ3:返還時(簿価振替・非課税・取得原価引継ぎ)

1,000USDT(返還時の時価120円)の返還を受ける。

借方金額貸方金額
暗号資産(USDT)100,000貸付金(USDT)100,000

所得:0

返還時の時価は120,000円(120円×1,000USDT)だが、口頭回答に基づき返還時にも課税は生じない。返還された1,000USDTの取得原価は、元の取得原価100円/USDTをそのまま引き継ぐ。返還時の時価120円ではない。

この1,000USDTを後日売却した場合に、売却時の時価と取得原価100円の差額が初めて実現益として課税される。

重要:前編のB方式では、返還時に時価120,000円で暗号資産を受け入れ、簿価100,000円との差額20,000円を利益計上していた。この処理は口頭回答の「返還時に含み損益の課税は生じない」に矛盾する。正しくは簿価振替(100,000円のまま)であり、返還時の課税は生じない。

修正ステップ4:数量増加返済(1,250USDT)

元本1,000USDTの返還は修正ステップ3と同じ(簿価振替・非課税)。超過250USDTは利息として益金算入する。

借方金額貸方金額
暗号資産(USDT・元本)100,000貸付金(USDT)100,000
暗号資産(USDT・利息)30,000受取利息30,000

元本1,000USDTの取得原価:100円/USDT(元の取得原価を引継ぎ)。利息250USDTの取得原価:120円/USDT(受領時の時価)。元本部分の課税は返還時には生じず、後日売却した時に発生する。利息部分は受領時に課税される。個人のレンディング利息の所得区分と課税関係は「レンディング(暗号資産の貸付)の税金」で解説している。

注意:元本と利息の分離は数量ベースで行う。消費貸借の返還義務は「同種同量」(民法第587条)であり、貸付数量1,000USDTがそのまま元本となる。「貸付時の円換算額100,000円に相当するUSDT数量」で元本を算定する金額ベースの分離は誤りである。金額ベースで分離するとUSDTの価格変動分が利息に混入し、元本返還で課税が生じないとする口頭回答の趣旨にも反する。

修正ステップ5:再貸付(債権譲渡)

株式会社甲が役員Aに対して保有している「1,000USDTの返還請求権(貸付金債権)」を、第三者Bに譲渡するケースである。

前提条件

  • 貸付金債権の簿価:100,000円(元の取得原価100円×1,000USDT)
  • 譲渡時のUSDT時価:180円/USDT
  • 債権の譲渡価額:180,000円(180円×1,000USDT)

債権譲渡の仕訳

借方金額貸方金額
貸付金(第三者B)180,000貸付金(役員A)100,000
売却益80,000

所得:+80,000

貸付時・返還時は「譲渡ではない形態変更」であるため課税が生じなかったが、債権の「譲渡」は第三者への権利移転であり、課税イベントに該当する。簿価100,000円と譲渡価額180,000円の差額80,000円がこの時点で初めて実現する。前編A方式では貸付時に50,000円+再貸付時に30,000円(合計80,000円)を分散認識していたが、修正版では債権譲渡の時点で80,000円を一括認識する。これは課税の繰延べではなく、実現主義に基づく正しいタイミングでの課税である。

借入=時価、貸付=簿価の非対称性

【結論】借入は「新規取得」であるから時価で計上し、貸付は「譲渡ではない形態変更」であるから簿価で振り替える。返還時も「譲渡ではない形態変更」であるから簿価で振り替え、取得原価を引き継ぐ。この非対称性は法的構造に起因するものであり、制度的に整合する(法人税法第22条第2項)。

比較項目借入貸付
取得原価借入時の時価既存の簿価
理由新規に暗号資産を取得暗号資産が債権に形態変更(譲渡ではない)
期末評価しない(FAQ3-1-8。価格変動リスクを負わない)する(FAQ3-1-7。価格変動リスクを負う)
返済/返還時負債消去(課税なし)簿価振替(課税なし・取得原価引継ぎ)
課税のタイミング借入暗号資産を処分した時返還された暗号資産を売却した時
法的根拠法法22条2項(取得)法法22条2項(非譲渡)・所法36条・口頭回答

借入は「新規取得」である。法人は新たに暗号資産を手元に置き、自由に処分できる状態になる。取得原価は取得時の時価で確定させるのが法人税法第22条の原則である。

貸付は「譲渡ではない」。法人は暗号資産を手放すが、同種同量の返還請求権を取得する。資産が消滅したのではなく、法的形態が変わっただけである。返還時も同様に、債権が暗号資産に戻るだけであり、「資産の販売その他の取引」は存在しない。したがって、貸付→返還の往復で課税は一切生じない。

預入・担保・貸付の比較

借入との非対称性に加え、「自分の暗号資産を相手に渡す」3つの取引類型の比較も整理しておく。いずれも開始時に課税は生じないが、法的構造と期末評価の扱いが異なる。

比較項目預入(ステーキング)担保(証拠金)貸付(レンディング)
法的構造支配の未移転。質権型に近い質権型または譲渡担保型消費貸借(民法第587条)。同種同量返還義務
所有権移転原則なし質権型はなし。譲渡担保型はあり形式上は移転するが、経済的実質は形態変更
開始時の課税なしなしなし(口頭回答)
返還時の課税なし(取得原価引継ぎ)なし(取得原価引継ぎ)なし(取得原価引継ぎ・口頭回答)
法人の期末時価評価対象(FAQ3-1-6)対象(価格変動リスクを負う)対象(FAQ3-1-7)
個人の保有中課税なしなしなし
課税が発生する時点報酬claim時+売却時売却時利息受領時+売却時
債権トークン発行時交換課税の可能性(stETH等)交換課税の可能性(cToken等)交換課税の可能性(cToken等)

3つの取引に共通するのは、「自分の暗号資産を渡して、同種同量の返還を受ける限り、開始時も返還時も課税は生じない」という点である。違いが出るのは法的構造(質権型か消費貸借か)と、債権トークンが発行される場合の取扱いである。預入の詳細は「暗号資産のステーキングの税務処理|預入・報酬・リキッドステーキングの課税 」を参照。

信用取引型設計との整合性

借入シリーズで採用した処理原則(証拠金=預託、借入暗号資産は評価しない、未決済のみ期末みなし決済)は、貸付の結論と矛盾しない。むしろ補強される。

  • 証拠金預入=非課税イベント → 貸付=非課税イベント(同一ロジック)
  • 借入暗号資産の評価差額は算入しない(FAQ3-1-8) → 貸付中の暗号資産は評価する(FAQ3-1-7)。借入と貸付で期末評価の結論が異なるのは、価格変動リスクの帰属が異なるためである
  • 返済時に確定損益 → 返還時は非課税、売却時に実現益(同一ロジック)

実務上の注意点

【結論】簿価振替方式を採用する場合、①課税繰延スキームへの見え方、②役員貸付の利息問題、③会計と税務の乖離の3点に注意が必要である。

課税繰延スキームへの見え方

簿価振替は含み益を凍結する構造になるため、意図的な課税繰延スキームに見える可能性がある。しかし実際は含み益が凍結されるだけであり、返還後の売却時に課税される。これは株式貸付と同構造であり、税務上問題とはいえない。法人の暗号資産税務の全体像は「法人の暗号資産税務ガイド」で解説している。

役員貸付の別論点

無利息または低利の暗号資産貸付は、適正利息との差額が経済的利益として法人税法第34条の役員給与に該当する可能性がある。また、法人A→役員→法人Bのような循環貸付は含み益の移転に使われる余地があり、否認リスクがある。

会計と税務の乖離

金融商品会計では債権が時価評価対象になる場合がある。会計上で時価評価を行い、税務上は簿価据置とする場合、別表四での加算・減算調整が必要になる。この乖離は期末と返還時の両方で発生しうる。

返還後の暗号資産の取得原価管理

返還された暗号資産は元の取得原価(本例では100円/USDT)を引き継ぐ。損益計算ソフトや帳簿管理上、返還時の時価(120円)で取得原価を上書きしないよう注意が必要である。取得原価を誤ると、後日売却した際の譲渡損益が不正確になる。

借入・貸付シリーズ共通の実務上の注意点(損益計算ソフトとの乖離、ロットの個別管理、同族間取引の時価乖離リスク)については「借入の税務処理(前編)|取得原価の決定と基本仕訳」も参照。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 東京国税局の口頭回答は法的拘束力がありますか?

ない。口頭回答であり文書回答でもないため、法的拘束力はない。しかし暗号資産の貸付に対する国税庁の見解を推測する際の重要な参考資料であり、実現主義という税法の基本原則とも整合している。

Q2. 前編のA方式またはB方式で処理してしまった場合、修正は必要ですか?

修正が望ましい。A方式は貸付時に未実現の含み益を課税する構造であり、B方式は返還時に課税が生じない取引で利益を計上する構造である。いずれも口頭回答および実現主義と整合しない。特に金額が大きい場合は、修正申告(過大納付の場合は更正の請求)を検討すべきである。ただし、口頭回答自体に法的拘束力がないため、税理士と相談のうえ判断すること。

Q3. DeFiレンディングで債権トークン(cETH等)が発行される場合も同じですか?

債権トークンが発行される場合は別論点となる。債権トークンに交換性があり市場価格が存在する場合、実質的に別資産の取得となる可能性があり、譲渡該当性を検討する必要がある。詳細は「債権トークン(自己発行)の税務処理(前編)|3軸整理と売買型・預入型の理論比較」で解説する。

Q4. 貸付暗号資産を借主が別の暗号資産に交換した場合はどうなりますか?

貸主側の処理は変わらない。借主の行為は借主側の課税問題であり、貸主は「同種同量の返還請求権」を保有し続ける。ただし返還が同種同量でなくなった場合(異種返還)は、返還時に別の課税構造が生じる。

Q5. 結局、暗号資産の貸付で課税が生じるのはどの時点ですか?

返還後の売却時と利息受領時の2つである。同種同量返還の場合、貸付時・返還時ともに課税は生じない。返還された暗号資産は元の取得原価を引き継ぎ、後日売却した時に売却時の時価と取得原価の差額が実現益として課税される。利息(数量増加返還・DeFi報酬等)は受領時の時価で益金に算入する。

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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。

関係法令

  • 所得税法第36条第1項(収入金額の実現要件)
  • 民法第587条(消費貸借)
  • 法人税法第22条第2項(益金の額)
  • 法人税法第22条第4項(資産の評価益は原則益金不算入)
  • 法人税法第34条(役員給与の損金不算入)
  • 法人税法第61条(暗号資産の評価)
  • 法人税法施行令第118条の7(暗号資産の期末評価方法)
  • 国税庁FAQ3-1-7(貸付けした暗号資産の期末時価評価)
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