暗号資産の貸付の税務処理(中編)|法的根拠と最終確定仕訳

暗号資産の貸付の税務処理(中編)では、前編で検証したA方式(時価計上)の結論を法的根拠から覆し、B方式(取得原価主義=簿価振替)が税務上の正解であることを確定する。東京国税局の口頭回答、所得税法第36条、民法第587条、法人税法第22条の各根拠を整理し、修正版USDC事例で最終確定仕訳を提示する。

結論

暗号資産の貸付は「譲渡」ではなく「債権への転化」であるため、貸付時は簿価振替、期末は評価せず、返済時に実現益を計上する。借入=時価/貸付=簿価の非対称性は法的構造から生じる。

  • 理由① 東京国税局の口頭回答において、「同種同量の暗号資産の返還を受ける限りにおいては、貸付時及び返還時に含み損益に係る所得税の課税は生じない」旨が示されている。個人所得税ベースの回答だが、実現主義を採用する法人税でも基本構造は同じである。
  • 理由② 法人税法第22条第2項の益金は「資産の販売その他の取引」により認識される。消費貸借は同種同量返還義務を伴う契約であり、販売(譲渡)ではない。同条第4項により評価益は原則益金不算入であり、貸付時点では含み益は未実現である。
  • 条件 貸付暗号資産を借主が別の暗号資産に交換した場合(異種返還)や、債権トークンが発行される場合は、単純な貸付ではなく別の課税構造となる。本記事の結論は「同種同量返還」が前提である。

法人税法第22条第2項・第4項 / 所得税法第36条第1項 / 民法第587条 / 国税庁FAQ3-1-7

目次

この記事でわかること

  • 東京国税局の口頭回答が暗号資産貸付の課税関係に与える影響
  • 「貸付は譲渡ではない」を支える3つの法的根拠
  • 前編のA方式(時価計上)がなぜ税務上不適切なのか
  • 修正版USDC事例の最終確定仕訳(貸付→期末→返済→利息→再貸付)
  • 借入=時価、貸付=簿価という非対称性の制度的根拠

東京国税局の口頭回答|貸付は課税イベントではない

【結論】東京国税局は、同種同量の暗号資産の返還を受ける限り、貸付時及び返還時に含み損益の課税は生じないとの見解を示している。この口頭回答が、前編A方式(時価計上)の否定根拠となる。

東京国税局の文書回答に関する決裁資料において、個人が行う暗号資産の貸付け(レンディング)に係る所得税の課税関係について、以下の趣旨の口頭回答がなされている。

「本件貸付けの時及び照会者がA社から暗号資産の返還を受けた時において、貸借した暗号資産と同種同量の暗号資産の返還を受ける限りにおいては、貸し付けた及び返還を受けた暗号資産の含み益(損)に係る所得税の課税は生じない」

この回答は個人所得税に関するものだが、法人税においても基本構造は同じである。法人税は原則「実現主義」であり、貸付時に含み益を課税する根拠は存在しない。

なお、この照会は文書回答の対象とはならなかった。国税庁が「文書回答=納税者サービス」という姿勢を堅持しているため、不服申立てのルートがないという制度的課題がある。しかし口頭回答の内容自体は、暗号資産の貸付に対する国税庁の見解を推測する際の重要な参考資料となる。

法的根拠の整理|「貸付は譲渡ではない」の3つの論拠

【結論】所得税法第36条、民法第587条、法人税法第22条の3つの法的根拠が「貸付=非課税イベント」を支持する。前編でA方式が優位に見えたのは会計的視点であり、税務的視点では逆の結論に至る。

論拠1:所得税法第36条第1項(実現主義)

益金算入は「資産の譲渡」によって生じる。貸付は「譲渡」ではない。所有権は消費貸借により移転するが、経済的実質は資産の処分ではなく、同種同量の返還請求権(債権)への転化である。

論拠2:民法第587条(消費貸借の法的性質)

消費貸借は所有権が移転する契約だが、借主は同種・同等・同量の物を返還する義務を負う。税務上は「同種同量返還請求権」として扱われ、貸主にとっては資産が消滅したのではなく、資産の法的形態が「暗号資産」から「返還請求権」に変わっただけである。

論拠3:法人税法第22条(益金の実現要件)

法人税法第22条第2項は「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡その他の取引」を益金として規定する。同種同量の暗号資産の貸付は、いずれにも該当しない。さらに同条第4項により、資産の評価益は原則として益金に算入しない。貸付時点の含み益は未実現であり、課税の対象外である。

前編A方式(時価計上)が否定される理由

前編のA方式は以下の仕訳を前提としていた。

借方金額貸方金額
貸付暗号資産150,000暗号資産(USDC)100,000
暗号資産評価益50,000

この処理は「実現していない含み益を貸付時に課税している」構造である。上記3つの法的根拠はいずれもこの処理と整合しない。会計的には時価計上が「美しい」が、税務的には「過剰課税」である。

修正版USDC事例|最終確定仕訳

【結論】法的根拠に基づく最終確定仕訳は、貸付時=簿価振替、期末=評価なし、返済時=実現益課税の3点で構成される。前編の5ステップを修正版として再提示する(法人税法第22条第2項・第4項)。

前提条件は前編と同一である(取得原価100円、貸付時時価150円、期末160円、返済時120円)。

修正ステップ1:貸付時(簿価振替)

借方金額貸方金額
貸付金(USDC)100,000暗号資産(USDC)100,000

所得:0

貸付は譲渡ではないため、含み益50,000円は認識しない。暗号資産が貸付金債権に形態変更しただけである。

修正ステップ2:期末(評価なし)

仕訳なし。 所得:0

貸付債権は「保有暗号資産」ではないため、法人税法第61条の期末時価評価の対象外である(国税庁FAQ3-1-7)。施行令第118条の7の期末評価対象は「保有暗号資産」であり、貸付金債権は別性質である。

会計上時価評価を行った場合は、別表四で加算・減算の調整を行う。

修正ステップ3:返済時(実現益課税)

1,000USDC(時価120円)の返還を受ける。

借方金額貸方金額
暗号資産(USDC)120,000貸付金(USDC)100,000
暗号資産売却益20,000

所得:+20,000

返還された暗号資産の取得原価は返還時の時価120円となる。簿価100,000円との差額20,000円がこの時点で初めて実現する。

修正ステップ4:数量増加返済(1,250USDC)

超過250USDCは利息または受贈益として益金算入する。元本1,000USDCの返還処理はステップ3と同じ。

借方金額貸方金額
暗号資産(USDC)120,000貸付金(USDC)100,000
暗号資産(USDC利息)30,000暗号資産売却益20,000
受取利息30,000

修正ステップ5:再貸付(債権譲渡)

貸付債権を第三者に譲渡した場合、この時点で初めて譲渡益が発生する。時価180円で譲渡する場合は以下のとおりである。

借方金額貸方金額
貸付金(第三者)180,000貸付金(役員)100,000
売却益80,000

前編A方式では貸付時に50,000円を認識し再貸付時に30,000円(合計80,000円)としていたが、修正版では再貸付(=債権譲渡)の時点で80,000円を一括認識する。課税の繰延べではなく、実現主義に基づく正しいタイミングでの課税である。

借入=時価、貸付=簿価の非対称性

【結論】借入は「新規取得」であるから時価で計上し、貸付は「譲渡ではない形態変更」であるから簿価で振り替える。この非対称性は法的構造に起因するものであり、制度的に整合する(法人税法第22条第2項)。

借入シリーズ(前編〜後編)で確立した「借入=時価計上」と、本記事で確定した「貸付=簿価振替」を並べると以下の整理になる。

比較項目借入(#102)貸付(#105-106)
取得原価借入時の時価既存の簿価
理由新規に暗号資産を取得暗号資産が債権に形態変更
期末評価しない(FAQ3-1-8)しない(FAQ3-1-7)
返済/返還時負債消去実現益課税
法的根拠法法22条2項(取得)法法22条2項(非譲渡)・所法36条

この非対称性は一見不自然に見えるが、法的構造を見れば自然な帰結である。

借入は「新規取得」である。 法人は新たに暗号資産を手元に置き、自由に処分できる状態になる。取得原価は取得時の時価で確定させるのが法人税法第22条の原則である。

貸付は「譲渡ではない」。 法人は暗号資産を手放すが、同種同量の返還請求権を取得する。資産が消滅したのではなく、法的形態が変わっただけである。ここに「資産の販売その他の取引」は存在しない。

信用取引型設計との整合性

借入シリーズで採用した処理原則(証拠金=預託、借入暗号資産は評価しない、未決済のみ期末みなし決済)は、貸付の結論と矛盾しない。むしろ補強される。

  • 証拠金預入=非課税イベント → 貸付=非課税イベント(同一ロジック)
  • 借入暗号資産の評価差額は算入しない → 貸付金債権も評価しない(同一ロジック)
  • 返済時に確定損益 → 返還時に実現益(同一ロジック)

実務上の注意点

【結論】簿価振替方式を採用する場合、①課税繰延スキームへの見え方、②役員貸付の利息問題、③会計と税務の乖離の3点に注意が必要である。

課税繰延スキームへの見え方

簿価振替は含み益を凍結する構造になるため、意図的な課税繰延スキームに見える可能性がある。しかし実際は含み益が凍結されるだけであり、返還時に課税される。これは株式貸付と同構造であり、税務上問題とはいえない。

役員貸付の別論点

無利息または低利の暗号資産貸付は、適正利息との差額が経済的利益として法人税法第34条の役員給与に該当する可能性がある。また、法人A→役員→法人Bのような循環貸付は含み益の移転に使われる余地があり、否認リスクがある。

会計と税務の乖離

金融商品会計では債権が時価評価対象になる場合がある。会計上で時価評価を行い、税務上は簿価据置とする場合、別表四での加算・減算調整が必要になる。この乖離は期末と返還時の両方で発生しうる。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 東京国税局の口頭回答は法的拘束力がありますか?

ない。 口頭回答であり文書回答でもないため、法的拘束力はない。しかし暗号資産の貸付に対する国税庁の見解を推測する際の重要な参考資料であり、実現主義という税法の基本原則とも整合している。

Q2. 前編のA方式で処理してしまった場合、修正は必要ですか?

修正が望ましい。 A方式は「実現していない含み益を貸付時に課税する」構造であり、税法上の根拠が弱い。特に金額が大きい場合は、修正申告(過大納付の場合は更正の請求)を検討すべきである。

Q3. DeFiレンディングで債権トークン(cETH等)が発行される場合も簿価振替ですか?

債権トークンが発行される場合は別論点となる。 債権トークンに交換性があり市場価格が存在する場合、実質的に別資産の取得となる可能性があり、譲渡該当性を検討する必要がある。詳細は債権トークン(自己発行)の税務処理(前編)で解説する。

Q4. 貸付暗号資産を借主が別の暗号資産に交換した場合はどうなりますか?

貸主側の処理は変わらない。 借主の行為は借主側の課税問題であり、貸主は「同種同量の返還請求権」を保有し続ける。ただし返還が同種同量でなくなった場合(異種返還)は、返還時に別の課税構造が生じる。

Q5. 結局、暗号資産の貸付で課税が生じるのはどの時点ですか?

返還時と利息受領時の2つである。 同種同量返還の場合、簿価と返還時時価の差額が実現益となる。利息(数量増加返還・DeFi報酬等)は受領時の時価で益金に算入する。貸付時・期末には課税は生じない。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

関連記事・サービスページ

暗号資産の貸付シリーズ:

関連するDeFi税務:

専門の税理士に依頼する場合:

暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】をご覧ください。

関係法令

  • 所得税法第36条第1項(収入金額の実現要件)
  • 民法第587条(消費貸借)
  • 法人税法第22条第2項(益金の額)
  • 法人税法第22条第4項(資産の評価益は原則益金不算入)
  • 法人税法第34条(役員給与の損金不算入)
  • 法人税法第61条(暗号資産の評価)
  • 法人税法施行令第118条の7(暗号資産の期末評価方法)
  • 国税庁FAQ3-1-7(貸付けした暗号資産の期末時価評価)
必要に応じてご共有ください
  • URLをコピーしました!
目次