分割型債権トークン(自己発行)の税務処理(前編)|PT/YTの分割と税務構造

結論

分割型債権トークン(PT/YT)の税務処理は2段階に分けて検討する。段階①(ETH→eETH)は通常の債権トークンと同じ構造であり、課税判定の3軸で「争いあり」となる。段階②(eETH→PT+YT)は分割型固有の論点であり、「交換(売買型)」か「権利分解(預入型)」かで処理が分岐する。実務的には売買型ベースで差し支えない。

  • 理由① 段階①(ETH→eETH)は債権トークン(前編)と同じ3軸判定(①同種同量返還保証あり②別トークン受領あり③処分権移転は争いあり)であり、リキッドステーキング・流動性提供の交換課税と同一のロジックで整合する。
  • 理由② 段階②(eETH→PT+YT)は「1つの債権トークンの権利を元本(PT)と利息(YT)に分解する」構造であり、3軸とは別の論点が生じる。売買型ではeETHの含み益を分割時に実現し、預入型では権利分解にすぎないとして課税しない。
  • 条件 PT・YTの時価がコインゲッコー等で取得不可の場合が多く、売買型では取得価額配分が実務上の最大の障壁となる。中編で期末評価と満期償還の完全フロー、後編でPT/YT個別売却と方式選択の最終基準を示す。

法人税法第22条第2項・第4項 / 泉絢也「DeFiにおける暗号資産等のトークンの移転と課税」税法学589号159頁以下

この記事でわかること

  • 分割型債権トークン(PT・YT・SY)の三段階構造
  • 段階①(ETH→eETH)の3軸判定と売買型・預入型の仕訳
  • 段階②(eETH→PT+YT)の法的性質と売買型・預入型の仕訳
  • 通常の債権トークン・LPとの構造的な違い
  • 分割型特有の税務論点(取得価額配分・期末評価・満期構造)

注意:分割型債権トークンの税務処理について、現時点で国税庁からの公式見解やアナウンスは存在しない。本記事の整理はカオーリア会計事務所による検討および学術文献に基づくものであり、税務調査において異なる見解が示される可能性がある。また、本記事は法人税法を前提に解説しているが、期末時価評価を除き、個人(所得税)の場合でも結論は概ね同様である。

目次

分割型債権トークンの構造

【結論】Pendle型の分割スキームは「基礎資産→債権トークン→PT+YTへの分割」という三段階構造を持つ。元本請求権(PT)と期間収益請求権(YT)に権利を分解する金融商品であり、通常のLPとも通常の債権トークンとも構造が異なる。

三段階の構造

第一段階:基礎資産(ETH等)を担保差入し、債権トークン(eETH・stETH等)を取得する。ここまでは通常の債権トークン(「債権トークン(自己発行)の税務処理(前編)」参照)と同じ構造である。

第二段階:債権トークンをSY(標準化利回りトークン)に変換する。SYはPendleプロトコル内での中間トークンであり、eETHと1:1対応の場合が多く、実質的に簿価振替と同視できるケースが一般的である。実務上はeETH→PT+YTの最終分割工程に着目するのが合理的である。

第三段階:SYをPT(Principal Token=元本請求権)とYT(Yield Token=期間収益請求権)に分割する。PTは満期で元本を回収する権利、YTは満期までの期間収益を受け取る権利である。この第三段階の「分割」が税務上の最大の論点となる。

通常の債権トークン・LPとの違い

取引構造特徴
通常の債権トークン(cETH等)元本+利息を一体で保有償還時に元本+利息を一括回収
LP(流動性提供)プール持分を取得同種同量返還保証なし。権利分解なし
分割型債権トークン元本(PT)と利息(YT)を分離PTは満期で元本回収。YTは保有期間中に利息(SYトークン)を受け取り続け、満期で価値ゼロとなりバーンされる

段階①:ETH→eETH|3軸による課税判定

【結論】段階①は通常の債権トークン(前編)と同じ構造である。課税判定の3軸で「争いあり」となり、売買型・預入型の双方が成立する。実務的には売買型ベースで差し支えない。

3軸判定

段階①(ETH→eETH)方向
①最終的な同種同量返還保証あり(元本部分。eETH→ETH+利息返還が前提)非課税方向
②中間段階での別トークン受領あり(eETHを受領)課税方向
③処分権の移転争いあり(権利の帰属主体になり得る者が存在しない→泉教授のロジックでは移転しない)争い

この3軸判定はリキッドステーキング(stETH等)・通常の債権トークン(cETH等)と完全に同一である。段階①に限れば、債権トークン記事で確認した売買型・預入型の仕訳がそのまま適用される。

売買型の仕訳(段階①)

10ETH(取得原価150,000円/ETH、供給時時価200,000円/ETH)を担保差入し、10eETH(時価190,000円/eETH)を取得した場合。

借方金額貸方金額
暗号資産(eETH)1,900,000暗号資産(ETH)1,500,000
暗号資産売却益400,000

所得:+400,000円。eETH簿価=受領時時価1,900,000円。

預入型の仕訳(段階①)

借方金額貸方金額
債権トークン(eETH)1,500,000暗号資産(ETH)1,500,000

所得:0。簿価振替。eETH簿価=ETH取得原価1,500,000円。「預けたものが戻ってくる」構造であるため、償還時は元本を簿価引継ぎし利息のみ課税する(「債権トークン中編」で確認済みのB案ロジック)。

段階②:eETH→PT+YT|分割型固有の論点

【結論】段階②の分割は3軸とは別の論点である。「1つの債権トークンの権利を2つに分ける」行為が法人税法第22条の「取引」に該当するかどうかが核心であり、売買型(交換)と預入型(権利分解)で処理が分岐する。

売買型(交換課税型)の仕訳(段階②)

eETHを譲渡し、PTとYTを取得したとみなす。分割時eETH時価220,000円/eETH。

eETH簿価1,900,000円(段階①の売買型から引継ぎ)、分割時時価2,200,000円。

借方金額貸方金額
暗号資産(PT)1,100,000暗号資産(eETH)1,900,000
暗号資産(YT)1,100,000暗号資産売却益300,000

所得:+300,000円。PT・YTへの取得価額配分は合理的按分が必要だが、両トークンの時価が不明なため「50:50」等の仮定を置くことになる。この配分根拠が税務調査で問われるリスクがある。

累計所得(段階①+②):400,000+300,000=+700,000円

預入型(権利分解型)の仕訳(段階②)

分割は権利の内部変更であり、仕訳なし。eETH簿価1,500,000円を継続管理する。PT・YTは管理情報として扱い、簿価はeETH簿価に紐づく。

累計所得(段階①+②):0

補足(段階②の位置づけ):段階①(ETH→eETH)は3軸フレームワークで判定するが、段階②(eETH→PT+YT)は3軸とは別の論点である。3軸は「プロトコルへの供給時に処分権が移転するか」を判定するものであり、「既に保有する債権トークンの権利を2つに分ける」行為には直接適用されない。段階②の課税判定は「権利の分解が法人税法第22条の『取引』に該当するか」という独自の判断による。

取得価額配分の問題|売買型最大のリスク

【結論】売買型を採用する場合、PTとYTにどのように取得価額を配分するかが最大の実務リスクとなる。PT・YTの時価がコインゲッコー等で取得不可の場合が多く、「価格ゼロ扱い」の事故が起きやすい。

PT・YTの理論価格比(満期までの割引率に基づく配分)が算定可能であればその比率で配分すべきである。Pendle上で表示されるPT/YTの理論価格比をスクリーンショット等で記録しておくことが望ましい。時価が完全に不明な場合の50:50は「合理性」を問われる可能性がある。

預入型を採用する場合はこの配分問題自体が発生しない。eETH簿価を継続管理するだけで足りる。ただし、PTのみ売却・YTのみ売却した場合は簿価按分が必要となり、按分根拠は別途求められる(後編で解説)。

補足(YTの簿価配分の重要性):売買型でYTへの簿価配分を0円にすると、満期時のバーン損失もゼロとなり、保有期間中に受け取った利息だけが丸々課税される。Implied APY(市場織込み利回り)に基づく適正な配分を行わないと、課税所得が過大になるリスクがある。逆に配分が過大であれば満期時に過大な損失が発生する。Pendle上で表示されるPT/YTの理論価格を記録し、配分根拠を明確にしておく必要がある。

両方式の比較と前編結論

【結論】分割型債権トークンは段階①で3軸「争いあり」、段階②で「交換か権利分解か」という二重の判断が必要である。実務的には売買型をベースとすることに差し支えはない。リキッドステーキング・債権トークン・流動性提供の交換課税と同一のロジックで一貫した処理が可能である。ただし、PT/YTの時価が測定困難な場合は取得価額配分が不安定化するため、預入型も現実的な選択肢となる。

項目売買型預入型
段階①の供給時課税あり(含み益実現)なし(簿価振替)
段階②の分割時課税あり(交換課税)なし(権利分解=仕訳なし)
取得価額配分必要(PT/YT時価不明が障壁)不要
他記事との整合整合的(リキッドステーキング・債権トークン・LPと同一ロジック)根拠が異なる
ソフト整合性高い(売買処理前提)低い(手動調整要)
取引回数が多い場合の実務負荷各取引の簿価が確定済み→単純極めて高い(取引のたびに簿価按分・再按分が必要)
ソフト整合性高い(売買処理前提)低い(手動調整要)
最終損益一致(元本ETH売却時に確定)一致(元本ETH売却時に確定)

当事務所の実務的スタンスとしては、売買型をベースとすることに差し支えはないと考えている。段階①は債権トークン・リキッドステーキングの交換課税と同じであり、段階②も「異なる種類のトークンを受領する」以上、交換として整理するのが自然である。預入型は泉教授の処分権論に学術的根拠があり、取得価額配分問題を回避できる利点があるが、ソフト上は手動調整が必要となるケースが多い。ただし、国税庁の公式見解が出ていない以上、どちらの方式も「これが正解」とは断定できない。

特に分割型は、PT/YTの個別売却・ロール(期限更新)・利息クレーム・再分割など取引回数が多くなりやすく、預入型の簿価管理は通常の債権トークンやLPと比較して格段に複雑になる。分割時の簿価按分、個別売却時の再按分、ロール時の簿価引継判定などを取引のたびに手動で追跡する必要があり、実務上の負荷が極めて高い。この点からも、分割型においては売買型のほうが実務安定性が高い。

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よくある質問(FAQ)

Q1. PendleのPT・YTは暗号資産ですか?

通常は暗号資産に該当する。PT・YT・SYはいずれもERC-20トークンであり、資金決済法第2条第14項の暗号資産の定義を満たす場合が多い。ただし個別のトークン設計により判断が異なる可能性がある。

Q2. SY(標準化利回りトークン)にも課税されますか?

eETH→SYの変換工程でも、売買型では交換課税の論点が生じうる。ただしSYはPendle内部の中間トークンであり、eETHと1:1対応の場合は実質的に簿価振替と同視できるケースが多い。実務上はeETH→PT+YTの最終分割工程に着目するのが合理的である。

Q3. 債権トークン(cETH等)の売買型・預入型の議論はそのまま適用できますか?

段階①はそのまま適用できる。段階②は分割型固有の論点である。段階①(ETH→eETH)は3軸で「争いあり」であり、債権トークン記事と同一の判定である。段階②(eETH→PT+YT)は「1つの債権トークンの権利を2つに分ける」行為であり、「取得価額配分」という分割型特有の問題が生じる。

Q4. 段階①と段階②で異なる方式を採用できますか?

推奨しない。段階①で売買型を採用した場合、段階②も売買型で統一するのが税務調査時の一貫性の観点から安全である。段階①が預入型なら段階②も預入型(権利分解)が整合する。

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関係法令

  • 法人税法第22条第2項(益金の額)
  • 法人税法第22条第4項(資産の評価益は原則益金不算入)
  • 法人税法第61条の5(暗号資産の期末評価)
  • 法人税法施行令第118条の7(暗号資産の期末評価方法)
  • 資金決済法第2条第14項(暗号資産の定義)
  • 国税庁FAQ3-1-6(ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価)
  • 泉絢也「DeFiにおける暗号資産等のトークンの移転と課税」税法学589号159頁以下
  • 泉絢也=SUIKA311『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務』(中央経済社、第2版)333-336頁
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