暗号資産の取得価額は取得経緯により7パターンに分かれ、パターンを誤ると損益計算が根本から狂う。すべての損益計算の起点となる最重要項目である。
- 理由① 購入は「購入対価+購入のために要した費用(手数料等)」、交換・マイニング・ステーキング・エアドロップは「取得時の時価」、相続は「被相続人の取得価額の引継ぎ」、ハードフォークは「0円」と、取得経緯ごとに計算ルールが異なる。
- 理由② 取得価額の誤りは、その暗号資産を売却・交換するたびに損益額のズレとして波及する。特に複数経路で同一銘柄を取得している場合、移動平均法・総平均法の計算にすべてのパターンの取得価額が混入するため、1件の誤りが全体に影響する。
- 条件 取得価額が不明な場合は「売却価額の5%」をみなし取得価額とするルールがある。ただしこれは売却額の95%が利益とみなされることを意味し、実際の取得価額より大幅に不利になるケースが大半である。
所得税法施行令第119条の6
この記事でわかること
- 取得価額の7つのパターンと各計算方法
- 購入時の手数料・ガス代の取扱い
- 贈与と相続で取得価額が異なる理由
- 暗号資産同士の交換で取得した場合の計算例
- 端数処理の実務的な取扱い
パターン①:購入(対価を支払って取得)
【結論】暗号資産を購入した場合の取得価額は「購入対価+購入のために要した費用(手数料等)」の合計額である(所得税法施行令第119条の6第1項第1号)。
計算例
日本円で1BTC=90万円のときに2BTCを購入し、取引所の購入手数料が550円(税込)かかった場合。
①購入対価 = 90万円 × 2BTC = 1,800,000円
②購入のために要した費用 = 550円
③取得価額(①+②) = 1,800,550円
手数料・ガス代の取扱い
購入手数料やガス代は原則として取得価額に加算する。消費税の課税事業者で税抜経理方式を適用している場合は、手数料に含まれる消費税額を区分し、税抜きの金額を取得価額に含める。
上記の例で、手数料550円のうち消費税額50円を区分する場合。
取得価額算入額 = 550円 − 50円 = 500円
ガス代についても暗号資産の購入のために要した費用と解される場合は取得価額に加算する。
インボイスが発行されない場合の取扱い
上記の計算例は取引所が適格請求書(インボイス)を発行する前提である。免税事業者等からの仕入れでインボイスが発行されない場合、仕入税額控除ができない消費税等の額は仮払消費税等とすることができず、取得価額に含めて計算する必要がある。
手数料550円(税抜500円、消費税等50円)の場合、インボイスの有無と経過措置の適用状況に応じて、取得価額に加算する金額は以下のとおり変わる。
| 区分 | 控除可能割合 | 控除不能額 | 取得価額加算額 |
|---|---|---|---|
| インボイスあり(原則) | 100% | 0円 | 500円 |
| インボイスなし(経過措置80%控除:〜R8.9.30) | 80% | 10円 | 510円 |
| インボイスなし(経過措置50%控除:R8.10.1〜R11.9.30) | 50% | 25円 | 525円 |
| インボイスなし(経過措置終了後) | 0% | 50円 | 550円 |
なお、この論点が生じるのは消費税の課税事業者かつ税抜経理方式を採用している場合に限られる。免税事業者や税込経理方式の場合は、手数料550円をそのまま取得価額に加算すればよい。
パターン②:暗号資産同士の交換
【結論】暗号資産同士の交換により新たに取得した暗号資産の取得価額は「取得時(交換時)の時価」となる(所得税法施行令第119条の6第1項第3号)。
5万ADAを使ってETHを購入した。交換時のADAの時価が1ADA=48円だった場合、取得したETHの取得価額は交換時のADAの時価で計算する。
ETHの取得価額 = 48円 × 5万ADA = 240万円
パターン③:マイニング報酬
【結論】マイニングにより暗号資産を取得した場合、取得価額は「取得時点の時価」である(所得税法施行令第119条の6第1項第3号)。
マイニングにより0.0002BTCを取得した。取得時のBTC価格が1BTC=400万円だった場合。
取得価額 = 400万円 × 0.0002BTC = 800円
パターン④:ステーキング・レンディング・エアドロップ・giveaway
【結論】ステーキング報酬、レンディング報酬、エアドロップ、giveawayにより取得した暗号資産の取得価額は、いずれも「取得時点の時価」である(所得税法施行令第119条の6第1項第3号)。
これらの取引はいずれも「対価を支払わずに暗号資産を取得する」点で共通しており、取得時点の時価が取得価額となる。
ステーキング報酬の計算例
ステーキング報酬として0.5ETHを受け取った。受取時のETH価格が1ETH=50万円だった場合。
取得価額 = 50万円 × 0.5ETH = 250,000円
この250,000円は受取時に雑所得の収入金額として計上されると同時に、将来売却・交換する際の取得価額にもなる。ステーキングの課税タイミングの詳細は「暗号資産のステーキングの税務処理」で解説している。
エアドロップ・giveawayの計算例
エアドロップで10,000トークンを受け取った。CoinGecko等の価格サイトに掲載があり、受取時の時価が1トークン=3円だった場合。
取得価額 = 3円 × 10,000トークン = 30,000円
価格サイトに掲載がないトークンやスパムトークン(詐欺コイン)については、実務上「時価0円」として処理するか損益計算から除外する対応がとられる。エアドロップの課税タイミングと時価0円計上の詳細は「エアドロップの税金」で解説している。この場合の取得価額も0円となる。
パターン⑤:ハードフォーク(分裂・分岐)
【結論】ハードフォークにより新たに誕生した暗号資産は、取得時点では取引相場が存在しないため取得価額は「0円」となる(国税庁FAQ1-6)。
ハードフォーク(分裂・分岐)により新たに誕生した暗号資産は、分岐直後には取引相場が存在せず価値を有していないと考えられるため、分岐時点では課税対象となる所得は生じない。
計算例
保有していた10BTCについて、ハードフォークにより新暗号資産Xが10単位付与された。その後、1X=5万円のときに全量を売却した場合。
取得価額 = 0円
売却額 = 5万円 × 10X = 500,000円
所得金額 = 500,000円 − 0円 = 500,000円
取得価額が0円であるため、売却額の全額が所得となる。課税されるのは分岐時点ではなく、売却・交換した時点である。
パターン⑥:贈与・遺贈(相続等を除く)
【結論】贈与または遺贈(相続等の場合を除く)により暗号資産を取得した場合、取得価額は「贈与・遺贈の時における時価」となる(所得税法第40条第2項第1号)。
贈与者が1BTC=10万円のときに購入した200BTCを、1BTC=700万円のときに受贈者に贈与した場合。受贈者にとっての取得価額は贈与時の時価となる。贈与者側のみなし譲渡課税と受贈者側の贈与税の詳細は「暗号資産の贈与・低額譲渡の税金」で解説している。
取得価額 = 700万円 × 200BTC = 14億円
パターン⑦:相続等(死因贈与・相続・包括遺贈・特定遺贈)
【結論】相続人に対する死因贈与、相続、包括遺贈、相続人に対する特定遺贈により暗号資産を取得した場合、取得価額は「被相続人の死亡時に、被相続人が選択していた評価方法(総平均法・移動平均法)による評価額」となる(所得税法施行令第119条の6第2項第1号)。
被相続人が1BTC=10万円のときに購入した200BTCを相続し、その後1BTC=500万円のときに全量を売却した場合。取得価額は被相続人の評価額を引き継ぐ。
被相続人の評価額 = 10万円 × 200BTC = 2,000万円
売却時所得金額 = 10億円 − 2,000万円 = 9億8,000万円
注意:本件についての詳細は、相続した暗号資産の売却|取得費加算が使えない二重課税問題で解説している。
7パターンまとめ
| # | 取得経緯 | 取得価額 | 条文 |
|---|---|---|---|
| ① | 購入 | 購入対価+手数料等 | 所令119の6①一 |
| ② | 交換 | 交換時の時価 | 所令119の6①三 |
| ③ | マイニング | 取得時の時価 | 所令119の6①三 |
| ④ | ステーキング等 | 取得時の時価 | 所令119の6①三 |
| ⑤ | ハードフォーク | 0円 | FAQ1-6 |
| ⑥ | 贈与(相続等除く) | 贈与時の時価 | 所法40②一 |
| ⑦ | 相続等 | 被相続人の評価額引継ぎ | 所令119の6②一 |
実務上の注意点
【結論】取得価額の計算では、端数処理と手数料の取扱いが実務上の論点となる。端数は節税の観点から切り上げ処理が有利だが、影響が大きい場合は専門家への相談が必要である。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
取得価額が不明な場合
取得価額が不明な場合は、売却価額の5%相当額を取得価額とする概算法が認められている(所得税基本通達48の2-4)。5%ルールの詳細は、暗号資産の取得価額がわからない場合|5%ルール(概算法)の対処法と注意点で解説している。
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産を購入したときのガス代は取得価額に含めますか?
原則として含める。ガス代が暗号資産の購入のために要した費用である場合、取得価額に加算する(所得税法施行令第119条の6第1項第1号)。なお税抜経理をしている場合、消費税分は加算しない。
Q2. 贈与と相続で取得価額が異なるのはなぜですか?
贈与は贈与時の時価、相続は被相続人の評価額を承継するためである。相続等の場合は被相続人が選択していた評価方法(総平均法・移動平均法)による金額をそのまま承継する(所得税法施行令第119条の6第2項第1号)。
Q3. エアドロップで受け取った暗号資産の取得価額はいくらですか?
取引相場がある場合は取得時の時価、相場がない場合は0円である。取得時点の時価をもって取得価額とする(所得税法施行令第119条の6第1項第3号)。
Q4. 取得価額がわからない場合はどうすればよいですか?
売却価額の5%を取得価額とする概算法が認められている(所得税基本通達48の2-4)。まずは取引履歴の再取得を優先すべきである。
Q5. 端数の処理方法に決まりはありますか?
法令上の明確な定めはない。実務上は四捨五入が一般的であるが、一貫した処理方針を採用することが重要である。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
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関係法令
- 所得税法第40条第2項第1号(贈与時の取得価額)
- 所得税法施行令第119条の6第1項第1号・第3号、第2項第1号(暗号資産の取得価額)
- 所得税基本通達48の2-4(取得価額不明時の概算法)
- 国税庁FAQ1-5、FAQ1-6
