ハードフォークで取得した新通貨は、取得時点では課税されない。取得価額は0円となり、売却・使用した時点で全額が所得として課税される。
- 理由① 分裂時点では新通貨に取引相場が存在せず、経済的価値を客観的に算定できない。「価値を有していない」ものの取得は所得税法上の「収入すべき金額」に該当しないため、取得時点では所得が生じない。
- 理由② 取得価額0円で記録されるため、後日売却した場合は売却代金の全額が利益となる。取得時に課税されなかった分が売却時にまとめて課税される構造であり、課税の免除ではなく繰延べである。
- 条件 分裂後に取引所が新通貨を付与するまでにタイムラグがあり、その間に市場価格が形成されるケースがある。国税庁FAQは「分裂時点」で判定するため、取引所での付与日に価格がついていても取得価額は0円のままである。
国税庁FAQ 1-6 / 所得税法第36条
この記事でわかること
- ハードフォーク(分裂)で暗号資産を取得した場合の課税タイミング
- 取得価額が0円となる理由と根拠条文
- 取得価額0円の暗号資産を売却した場合の具体的な計算方法
- HYPEトークンなどエアドロップでハードフォークの取扱いが準用されるケース
- 取得価額0円の暗号資産に5%ルールが使えるかの論点
ハードフォークで取得した暗号資産の課税関係
【結論】ハードフォーク(分裂)により新たに誕生した暗号資産を取得した場合、分裂時点では課税対象となる所得は生じない。取得価額は0円である(国税庁FAQ 1-6)。
所得税法上、暗号資産を取得した場合の取得価額は「取得時点の時価」が原則である(所得税法施行令第119条の6第1項第3号)。マイニング報酬やステーキング報酬などは、取得時に取引相場が存在しその時点で経済的価値を有しているため、受取時の時価が取得価額となる。
一方、ハードフォークにより誕生した暗号資産は事情が異なる。分裂した瞬間にはまだ取引所に上場されておらず取引相場が存在しないため、その時点では経済的価値を有していなかったと考えられる。そのため、取得時点の時価は0円であり、取得価額も0円となる。
この取扱いは個人の所得税だけでなく、法人税においても同様である(法人税法第22条)。法人が分裂により暗号資産を取得した場合も、益金に算入すべき収益は生じない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 課税タイミング | 分裂時点では課税なし。売却・使用した時点で課税 |
| 取得価額 | 0円 |
| 根拠 | 分裂時点で取引相場がなく価値を有していなかったため |
| 個人(所得税) | 雑所得(原則) |
| 法人(法人税) | 益金算入すべき収益なし |
関係法令:所得税法第36条 / 法人税法第22条
取得価額0円の暗号資産を売却した場合の計算方法
【結論】取得価額0円の暗号資産を売却した場合、売却代金の全額が所得金額となる(所得税法第36条第1項、国税庁FAQ 1-6)。
取得価額が0円であるため、譲渡原価が差し引かれず、売却価額がそのまま利益となる。
計算例:ハードフォークで取得したBCHを売却した場合
前提条件:
- 2017年8月にBTCの分裂でBCH(ビットコインキャッシュ)を1BCH取得(取得価額:0円)
- 2025年6月に1BCHを100,000円で売却
計算式:
100,000円 − 0円 = 100,000円
[売却価額] [取得価額] [所得金額]
売却価額100,000円の全額が所得金額となる。
なお、暗号資産同士の交換に使用した場合も同様である。取得価額が0円であるため、交換時に受け取った暗号資産の時価の全額が利益として計上される。
計算例:ハードフォークで取得した暗号資産を他の暗号資産と交換した場合
前提条件:
- ハードフォークで暗号資産Xを100枚取得(取得価額:0円)
- 100枚のXを、1ETH(時価:500,000円)と交換
計算式:
500,000円 − 0円 = 500,000円
[交換時の時価] [取得価額] [所得金額]
交換で受け取ったETHの時価500,000円の全額が所得金額となる。交換で取得したETHの取得価額は500,000円(交換時の時価)となる。
関係法令:所得税法第36条第1項 / 所得税法施行令第119条の6
エアドロップとハードフォークの関係
【結論】上場前のエアドロップで取得したトークンは、取得時点で取引相場が存在しない場合、ハードフォークの取扱いに準じて取得価額を0円として処理するケースがある(国税庁FAQ 1-6準用)。
ハードフォーク(分裂)とエアドロップは発生の仕組みが異なるが、「取得時点で取引相場が存在しないため価値を有していなかった」という点では共通する場合がある。
実務上、エアドロップで受け取った暗号資産の時価はCoinGeckoなどの価格表示サイトで確認できるものであれば、その時価で取得価額を計算する。しかし、価格表示サイトに掲載されていないトークンや、上場前のトークンについては取引相場が存在しないため、取得時の時価を0円として処理する。
HYPEトークンの事例
2024年末に話題となったHYPE(取引所が発行したトークン)は、取引所が課したミッションをこなしたユーザーに上場前のエアドロップとして配布された。上場後は価格が急騰し、エアドロップされたHYPEだけで1億円以上の価値となったユーザーも多数いたとされる。
このHYPEについても、上場前に受け取ったトークンであり受取時点では取引相場が存在しなかったため、ハードフォークの例に倣い取得時の時価を0円として処理される。
つまり、上場後にHYPEを売却した場合は売却代金の全額が利益として計上される。
時価不明のエアドロップ・スパムトークンの取扱い
エアドロップに関連して、以下のトークンも実務上は0円で処理される。
- 時価が不明な暗号資産・NFT: 価格表示サイトに掲載されていないトークンやNFTについては、取得時の時価を0円として処理する。後日、他のトークンと交換した場合は受取トークンの交換時の時価が全額利益として計上される。
- スパムトークン(詐欺コイン・詐欺NFT): 納税者の意思とは無関係に送りつけられるスパムトークンについても0円計上するか、損益計算自体から排除する処理を行う。
実務上の注意点
【結論】取得価額0円のまま保有を続ける場合は課税されないが、売却・交換・使用した時点で全額課税される点を見落とさないこと。また、5%ルールの適用可否は論点があるため税理士への相談が推奨される(所得税基本通達48の2-4)。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
売却タイミングによる税額の違い
取得価額0円の暗号資産は、売却代金の全額が利益になるため、大幅に値上がりした状態で売却すると税額も大きくなる。保有し続ける限りは課税されないが、売却・交換・決済のいずれかの行為を行った時点で所得が発生する。
暗号資産同士の交換でも同様に課税されるため、利確を意図しない交換であっても課税対象となる点に注意が必要である。
5%ルールの適用可否(論点あり)
個人が暗号資産の取得価額が不明な場合、売却価額の5%を取得費とする概算法(いわゆる5%ルール)が認められている(所得税基本通達48の2-4)。
取得価額が0円とされたハードフォーク由来の暗号資産にこの5%ルールを適用できるかについては論点がある。取得価額が「不明」なのではなく「0円と確定している」ため、5%ルールの適用対象に該当するかは見解が分かれる。この点については税理士への相談が推奨される。
法人の場合の追加論点
法人がハードフォークで取得した暗号資産を保有する場合、期末時価評価の対象となる可能性がある。活発な市場が存在する暗号資産で、かつ時価評価の除外要件に該当しないものであれば、期末に時価評価損益を計上する必要がある(法人税法第61条第2項)。
関係法令:所得税基本通達48の2-4 / 法人税法第61条第2項
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. ハードフォークで暗号資産を取得した時に確定申告は必要ですか?
不要である。 ハードフォーク(分裂)により新たに暗号資産を取得した時点では課税対象となる所得は生じないため、その時点での確定申告は不要である(国税庁FAQ 1-6)。売却・交換・使用した年分の確定申告で所得を計上する。
Q2. ハードフォークで取得した暗号資産の取得価額はなぜ0円なのですか?
分裂時点で取引相場が存在せず、経済的価値を有していなかったためである。 暗号資産の取得価額は原則として取得時点の時価で計算するが(所得税法施行令第119条の6第1項第3号)、分裂により誕生した暗号資産には分裂時点で取引相場がなく、同時点では価値がないものと考えられている。
Q3. エアドロップで受け取ったトークンもすべて取得価額0円ですか?
取得時点で取引相場が存在するものは0円にならない。 CoinGeckoなどの価格表示サイトで取得時の時価が確認できるトークンは、その時価が取得価額となる(国税庁FAQ 1-7)。取得価額が0円となるのは、取得時点で取引相場が存在しなかったトークン(未上場トークンやスパムトークンなど)に限られる。
Q4. ハードフォークで取得した暗号資産の売却に5%ルールは使えますか?
見解が分かれる論点である。 5%ルール(売却価額の5%を取得費とする概算法)は取得価額が「不明」な場合に適用されるものである(所得税基本通達48の2-4)。ハードフォーク由来の暗号資産は取得価額が0円と「確定」しているため、適用可否には議論がある。税理士への相談を推奨する。
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関係法令
- 所得税法第36条
- 所得税法施行令第119条の6第1項第3号
- 所得税基本通達48の2-4
- 法人税法第22条
- 法人税法第61条第2項
