暗号資産アービトラージ・マーケットメイクの税務論点と計算方法

結論

アービトラージやマーケットメイクで得た利益は、原則として雑所得に区分され、確定申告が必要となる。

  • 理由① 取引手法が裁定取引であろうとマーケットメイクであろうと、暗号資産の売買により経済的利益が生じている以上、通常の暗号資産取引と同じ課税関係が適用される。
  • 理由② 取引件数が数百万件に達するケースも多く、総平均法・移動平均法による取得単価の計算が極めて煩雑になる。損益計算の難度は通常の売買と比較にならない。
  • 条件 専業的に従事し、相当額の資本を投下し、自動売買システムを構築している場合は、事業所得に該当する余地がある。ただし国税庁から明確な基準は示されておらず、個別判断となる。

所得税法第35条、第27条 / 同法施行令第63条第12号

この記事でわかること

  • アービトラージ・マーケットメイクの課税タイミングと損益計算の基本
  • 雑所得と事業所得の判断基準(300万円基準・帳簿保存要件)
  • 高頻度取引特有の損益計算の難しさと対処法
  • 取引所間送金・DEX間移動における実務上の注意点
  • 法人がAMM型マーケットメイクを行う場合の期末時価評価
目次

アービトラージ・マーケットメイクの課税タイミング

【結論】アービトラージもマーケットメイクも、暗号資産を「売却」「交換」「決済に使用」した時点で課税が発生する。価格差を狙う取引であっても、損益計算のロジックは通常の暗号資産取引と同一である(所得税法第36条第1項)。

アービトラージの典型的なパターンは3つある。

パターン取引内容課税イベント
取引所間アービトラージ取引所Aで安く買い、取引所Bで高く売る取引所Bでの売却時
現物-先物アービトラージ現物買い+先物売り、満期で決済(期限付き先物の場合)先物の決済時+現物の売却時
DEX間アービトラージDEX-Aで安く交換し、DEX-Bで高く交換する各DEXでの交換時(暗号資産同士の交換=譲渡)
譲渡価額 −(1単位当たりの取得価額 × 売却数量)= 所得金額

暗号資産同士の交換の場合は、受け取った暗号資産の時価が譲渡価額となる(国税庁FAQ 1-3)。

アービトラージは理論上リスクを抑制した手法だが、実務上は送金遅延リスク、スリッページ(注文時と約定時の価格乖離)、取引停止、規制変更などのリスクが存在する。税務上重要なのは、アービトラージが「リスクを取らない投機」ではなく、資本を投下し継続的に利益獲得を目的とする経済活動であるという点である。この性質が所得区分の判断に影響する。

関係法令:所得税法第36条第1項 / 国税庁FAQ 1-1、1-3

所得区分の判断|雑所得か事業所得か

【結論】暗号資産取引は原則として雑所得に区分される(所得税法第35条)。ただし、年間収入金額300万円超かつ帳簿書類の保存がある場合は、原則として事業所得に該当する(国税庁FAQ 2-2)。アービトラージやマーケットメイクは、取引の規模・態様から事業所得該当性が問題になりやすい。

アービトラージやマーケットメイクを大規模に行う場合、以下の事情が揃うと事業所得に該当するかが論点となる。

判断要素具体例
専業的従事暗号資産取引を主たる収入源としている
相当額の資本投下数百万円〜数千万円以上の運用資金を投入
自動売買システムBot・API連携による自動取引を構築・運用
取引件数年間数万〜数百万件
継続性・反復性毎日・毎時間、継続的に取引を実行

所得税法施行令第63条は、事業に該当する業種を列挙したうえで、第12号で「対価を得て継続的に行う事業」を包括的に規定している。暗号資産のアービトラージは列挙業種に該当しないため、この第12号への該当性が判断の軸となる。

過去の裁決事例(平成22年2月16日裁決・裁決事例集No.79)では、FX取引について施行令第63条第12号に該当するかどうかが争点となった。この裁決では、営利性・有償性、反復継続性、自己の危険と計算による取引の3要素が事業所得の判断基準として示されている。暗号資産のアービトラージやマーケットメイクにも、この判断枠組みが準用されるものと思われる。

事業所得と雑所得の実務的な差異

比較項目事業所得雑所得
損益通算他の所得と通算可(所得税法第69条第1項)雑所得内のみ通算
青色申告特別控除最大65万円控除可不可
純損失の繰越控除3年間可不可
必要経費の範囲広い(サーバー費用、開発費等)限定的

なお、アービトラージやマーケットメイクに使用する自動売買システムの開発費用・サーバー利用料・API利用料などは、所得区分にかかわらず必要経費に算入できる(所得税法第37条第1項、国税庁FAQ 2-3)。

関係法令:所得税法第27条、第35条、第37条第1項、第69条第1項 / 所得税法施行令第63条第12号 / 国税庁FAQ 2-2、2-3

高頻度取引の損益計算|実務上の課題と対処法

【結論】アービトラージやマーケットメイクは取引件数が極めて多く(年間数万〜数百万件)、手作業での損益計算は事実上不可能である。損益計算ソフトの利用が必須であり、取引所間送金の突合・期末残高調整が最大の実務課題となる。

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高頻度取引に特有の損益計算の課題は以下のとおりである。

取引件数と評価方法の問題

アービトラージでは1日に数百〜数千件の取引を行うことがある。総平均法を選択している場合、年間のすべての取引を集約して1単位当たりの取得価額を算出するため、計算ロジック自体は機械的である(所得税法施行令第119条の2)。一方、移動平均法の場合は取引の都度、取得価額を更新する必要があり、取引件数に比例して計算量が増大する。ただし、いずれの評価方法であっても、年間数十万件〜数百万件の取引データを処理する場合(Cryptorchでは500万件くらいまでなら計算は可能だがそれ以上になると極端に計算が遅くなる)は、損益計算ソフトの性能的な限界(データをサーバーとやり取りする速度の問題)に直面することがある。データ量が大きすぎて(CSVで10GB超になるケースもある)インポートに数時間〜数日を要する、計算処理がタイムアウトで停止する、メモリ不足で結果が出力されないといったケースは実務上珍しくない。ソフトの処理能力を事前に確認し、必要に応じて取引所ごと・期間ごとにデータを分割して処理するなどの工夫が求められる。

法人の場合、移動平均法が法定評価方法であり(法人税法施行令第118条の6)、届出により総平均法を選択できる。高頻度取引を行う法人は、実務負荷の観点から総平均法の届出を検討する価値がある。

全円転方式の活用|高頻度取引との相性

アービトラージやマーケットメイクのように取引件数が数万〜数百万件に達する場合、総平均法・移動平均法による取得単価の計算自体が実務上の大きな負担となる。この負担を回避する方法として、全円転方式(純資産増減法)の活用が考えられる。

全円転方式とは、年末に保有するすべての暗号資産を日本円に換算し、「年末純資産 − 年初純資産 − 年中入金額 + 年中出金額」で年間損益を一括算出する方法である。取引1件ごとの取得単価の計算が不要になるため、高頻度取引との相性が極めて高い。

全円転方式は総平均法・移動平均法とは異なる計算アプローチであり、計算結果が一致しない場合がある。大阪高判昭和62年9月30日等の裁判例でも純資産増減法の合理性が認められた事例があるが、国税庁の公式FAQでは総平均法・移動平均法が標準とされている点には留意が必要である。全円転方式の詳細な計算手順・条件については「暗号資産の税金はなぜ高い?|税率早見表と総合課税・分離課税の仕組み」を参照。

取引履歴の日次圧縮|1日単位での集約処理

損益計算ソフトの処理能力に限界がある場合、取引履歴を1日単位に圧縮して取り込む方法が考えられる。1日あたり数百件の売買を、「その日の合計購入数量・合計購入金額」「その日の合計売却数量・合計売却金額」の2行に集約することで、年間数十万件の取引を数百行程度に削減できる。

圧縮前と圧縮後の比較例

圧縮前(2025年6月15日の取引:1日で412件)

時刻種別数量金額(円)
00:01:03BTC購入0.012BTC120,000
00:01:15BTC売却0.012BTC120,150
00:03:22BTC購入0.015BTC150,300
…(以下、同日中に409件続く)

圧縮後(同日を2行に集約)

日付種別数量合計金額合計(円)
2025-06-15BTC購入(日次合計)2.450BTC24,520,000
2025-06-15BTC売却(日次合計)2.448BTC24,535,200

この方法により、年間365日×2行=730行程度にデータを圧縮でき、損益計算ソフトの処理能力を超えるリスクを大幅に軽減できる。

注意:日次圧縮は総平均法との相性が良い。総平均法は年間の取得価額の合計と取得数量の合計から1単位当たりの取得価額を算出するため、日次集約しても年間合計値は変わらず、計算結果に影響しない。一方、移動平均法では取引の時系列順序が計算結果に影響するため、日次圧縮を行うと厳密な計算結果と乖離が生じる可能性がある。移動平均法を採用している場合は、乖離が許容範囲内かを検討したうえで適用すべきである。

期末残高調整

高頻度取引では、取引履歴の一部が取得できない(API制限・取引所のデータ保持期間超過等)ケースが多い。期末時点で計算上の保有数量と実際の保有数量を照合し、差額を調整する必要がある。実数量が計算上の数量を上回る場合はボーナス処理(利益計上)、下回る場合は0SELL処理(損失計上)で調整する。調整計算の具体的な手順は「暗号資産の調整計算とは」で解説している。

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マーケットメイクの税務論点

【結論】オーダーブック上で買い注文と売り注文を常時出してスプレッド(利ざや)を稼ぐマーケットメイクは、税務上は通常の暗号資産の売買と同一の課税関係が適用される。アービトラージと同様に取引件数が極めて多くなるため、損益計算の実務課題も共通する。

マーケットメイクでは、特定の暗号資産の売り注文と買い注文を同時に出し、その価格差(スプレッド)を利益とする。CEX(Binance・Bybit等)やオーダーブック型DEX(dYdX・Hyperliquid等)で行われる。個人がBotを使って行うケースも多い。

税務上の取扱いはアービトラージと共通であり、売却のたびに譲渡損益が発生する。高頻度取引に伴う損益計算の実務課題(ソフトの処理能力、取引履歴の日次圧縮、全円転方式の活用等)もアービトラージと同様に適用される。

注意(AMM流動性提供との違い):本記事で解説する「マーケットメイク」は、オーダーブック上で自ら注文を出してスプレッドを稼ぐ能動的な売買である。DEXの流動性プールにトークンペアを預け入れて手数料を受け取るAMM流動性提供は、税務上の性質が異なる(預入・引出時のLPトークンとの交換、インパーマネントロス等の固有論点がある)。AMM流動性提供の税務処理については「流動性提供(自己発行)の税務処理(前編)|売買型と預入型の理論整理」を参照。

法人がマーケットメイクを行う場合の期末時価評価

法人がマーケットメイクで保有する暗号資産は、活発な市場の3要件(①継続的な価格公表、②十分な取引量・頻度、③第三者性)を満たせば期末時価評価の対象となる(法人税法第61条第2項、国税庁FAQ 3-1-3〜3-1-5)。マーケットメイクでは複数の銘柄を同時に保有することが多く、銘柄ごとに活発な市場への該当性を判断する必要がある。

よくある質問(FAQ)

Q1. アービトラージで利益が出ても、すぐに再投資していれば課税されない?

課税される。暗号資産を売却した時点で所得が発生し、利益を再投資に回しても課税関係は変わらない(所得税法第36条第1項)。現金化していなくても、売却時の譲渡価額と取得価額の差額が所得となる。

Q2. Bot(自動売買プログラム)の開発費用は経費にできる?

できる。暗号資産取引に直接使用する自動売買システムの開発費用、サーバー利用料、API利用料は必要経費に算入できる(所得税法第37条第1項、国税庁FAQ 2-3)。ただし、プライベート利用と兼用する場合は、取引に係る部分を合理的に按分する必要がある。

Q3. 取引所間の送金で発生するネットワーク手数料(ガス代)は経費になる?

なる。取引所間送金に伴うネットワーク手数料は、暗号資産取引に直接関連する費用として必要経費に算入できる(所得税法第37条第1項)。

Q4. アービトラージの取引件数が多すぎて確定申告が間に合わない場合はどうする?

損益計算ソフトの利用が必須である。年間数万件以上の取引を手作業で計算することは現実的でない。損益計算ソフトに取引履歴を取り込み、自動計算した結果を確定申告に利用する。取引履歴件数が膨大な場合は取引を日単位で圧縮して対応する。

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専門の税理士に依頼する場合

暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。

関係法令

  • 所得税法第27条(事業所得)
  • 所得税法第35条(雑所得)
  • 所得税法第36条第1項(収入金額の計上時期・収入金額の範囲に関する規定)
  • 所得税法第37条第1項(必要経費)
  • 所得税法第69条第1項(損益通算)
  • 所得税法施行令第63条第12号(事業の範囲に関する包括規定)
  • 所得税法施行令第119条の2(暗号資産の評価方法:総平均法等)
  • 法人税法第61条第2項(暗号資産の期末時価評価)
  • 法人税法施行令第118条の6(暗号資産の評価方法)
  • 法人税法施行令第118条の7、第118条の8(期末時価評価・市場等に関する規定)
  • 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」1-1、1-3、2-2、2-3、3-1-5
  • 裁決事例集No.79(平成22年2月16日裁決)
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