暗号資産は相続税の課税対象であり、秘密鍵にアクセスできるかどうかに関係なく申告義務がある。評価方法は市場の有無で2つに分かれる。
- 理由① 暗号資産は「財産的価値を有する財産」に該当し、相続・遺贈による取得は相続税の課税対象となる。活発な市場が存在する場合は課税時期(被相続人の死亡日)の取引価格で評価し、存在しない場合は売買実例価額等による個別評価を行う。
- 理由② 秘密鍵が不明で暗号資産を移動・換金できない場合でも、財産としての価値が消滅するわけではなく、相続税の申告義務は残る。「アクセスできない=非課税」とはならない点が、暗号資産相続の最大の落とし穴である。
- 条件 国内取引所に保管されている暗号資産は、相続人が取引所に連絡し相続手続きを行うことで引き出せる。一方、自己管理ウォレットの暗号資産は秘密鍵・リカバリーフレーズがなければ永久にアクセス不能となるため、生前の鍵情報の共有が相続対策の前提条件となる。
相続税法第2条・第2条の2 / 財産評価基本通達第5条
この記事でわかること
- 暗号資産が相続税の課税対象となる根拠と課税関係
- 相続財産としての暗号資産の評価方法(活発な市場の有無による2パターン)
- 相続した暗号資産を売却した場合の取得価額の計算方法と計算例
- 秘密鍵を紛失してアクセスできない暗号資産の相続税上の取扱い
- 取得費加算の特例が暗号資産に適用されない理由と今後の見通し
暗号資産は相続税の課税対象となるか
【結論】暗号資産は経済的価値のある財産として、相続税・贈与税の課税対象となる(相続税法第2条、第2条の2、相続税法基本通達11の2-1)。
暗号資産は資金決済法において「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値」と定義されており、この財産的価値が存在する以上、不動産や株式と同様に相続財産に含めて相続税を計算する必要がある(国税庁FAQ 4-1)。
なお、被相続人が暗号資産の贈与(死因贈与を除く)や遺贈(包括遺贈・相続人への特定遺贈を除く)を行っていた場合、贈与者側では贈与時の時価を総収入金額に算入して所得税を計算する(国税庁FAQ 2-10)。
関係法令:相続税法第2条、第2条の2 / 相続税法基本通達11の2-1
相続財産としての暗号資産の評価方法
【結論】暗号資産の相続税評価は、活発な市場が存在する場合は課税時期(相続開始日)の取引価格、存在しない場合は売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して個別に評価する(財産評価基本通達5)。
暗号資産の評価方法は、財産評価基本通達に個別の定めがないため、評価通達5(評価方法の定めのない財産の評価)に基づき、外国通貨に準じて評価する。
活発な市場が存在する場合
納税義務者が取引を行っている暗号資産交換業者が公表する、課税時期(相続開始日)における取引価格で評価する。
| 評価上の留意点 | 取扱い |
|---|---|
| 残高証明書の価格 | 残高証明書に記載された取引価格で評価可 |
| 販売所の場合 | 売却価格(買取価格)で評価可 |
| 複数の取引所を利用 | 納税義務者が選択した取引所の取引価格で評価可 |
活発な市場が存在しない場合
暗号資産の内容・性質・取引実態等を勘案し、売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して個別に評価する。DEXのみで取引されるトークンや流動性が極めて低い暗号資産が該当する。
関係法令:財産評価基本通達4-3、5
相続した暗号資産を売却した場合の取得価額
【結論】相続(死因贈与・包括遺贈・相続人への特定遺贈を含む)により取得した暗号資産の取得価額は、被相続人の死亡時に被相続人が選択していた評価方法により算出した金額となる(所得税法施行令第119条の6第2項第1号)。相続時の時価ではない。
計算例:相続した暗号資産を売却した場合
| 時点 | 事実 |
|---|---|
| 2017年2月 | 被相続人が2,000万円で200BTCを購入(1BTC=10万円) |
| 2021年11月 | 相続人が200BTCを相続(相続時の時価:1BTC=700万円) |
| 2022年3月 | 200BTCを10億円で売却(1BTC=500万円) |
取得価額の計算:
10万円 × 200BTC = 2,000万円
所得金額の計算:
10億円 − 2,000万円 = 9億8,000万円
相続時の時価(14億円)ではなく、被相続人の取得価額2,000万円が引き継がれるため、売却時には9億8,000万円の所得が発生する。
関係法令:所得税法施行令第119条の6第2項第1号
取得費加算の特例は暗号資産に適用できない
【結論】取得費加算の特例(租税特別措置法第39条)は譲渡所得の特例であり、暗号資産の譲渡所得は原則として雑所得に区分されるため適用できない(所得税法第33条第3項)。
不動産や株式等とは異なり、暗号資産は原則として雑所得に区分されるため、相続税額を取得費に加算する制度は現行法上適用されない。この二重課税問題の詳細と分離課税後の見通しは「相続した暗号資産の売却|取得費加算が使えない二重課税問題」で解説している。
関係法令:租税特別措置法第39条 / 所得税法第33条第3項
秘密鍵を紛失した暗号資産と相続税
【結論】秘密鍵を紛失しアクセスできない暗号資産であっても、ブロックチェーン上に残高が確認でき経済的価値が存在する限り、相続財産に含めて相続税を申告する必要がある。利用可能性は課税要件ではない。
アンホステッドウォレットで管理していた暗号資産についても、被相続人の保有が認められれば相続財産となる。秘密鍵の紛失は原則として課税免除事由とはならない。
実務上の対応
- ブロックチェーン上の残高を確認し、相続開始日の時価で評価して申告する
- 秘密鍵紛失の証明資料(復旧不能証明書等)を準備する
- 将来復旧した場合に備え、修正申告の可能性を検討する
秘密鍵紛失時の相続税評価や控除可能性の詳細は「暗号資産の秘密鍵紛失と相続税」で解説している。
暗号資産の相続税について専門家の意見を聞きたい場合は「暗号資産税務のセカンドオピニオンを依頼する」をご覧ください。
実務上の注意点
【結論】暗号資産の相続では、①保有状況の把握、②取引所への連絡と残高証明書の取得、③取得価額の確認が最重要となる。特にDeFiやアンホステッドウォレットの資産は発見が困難である。
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| ① 保有状況の把握 | 取引所口座・ウォレットアドレス・DeFiポジションの特定 |
| ② 取引所への連絡 | 残高証明書・取引履歴の取得 |
| ③ 時価の確定 | 相続開始日の取引価格を確認 |
| ④ 取得価額の確認 | 被相続人の購入履歴を確認 |
| ⑤ 相続税申告 | 他財産と合算し申告 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産を保有しているだけで相続税はかかりますか?
かかる。暗号資産は経済的価値のある財産であり、被相続人が保有していた場合は相続財産に含めて相続税を計算する(相続税法第2条)。
Q2. 相続した暗号資産の取得価額は相続時の時価になりますか?
ならない。取得価額は被相続人の死亡時に被相続人が選択していた評価方法により算出した金額となる(所得税法施行令第119条の6第2項第1号)。
Q3. ウォレット保管の暗号資産も相続税の対象ですか?
対象となる。保管場所にかかわらず経済的価値があれば相続税の課税対象である(相続税法第2条)。
Q4. 取得費加算の特例は使えますか?
使えない。暗号資産の譲渡所得は原則雑所得であり、取得費加算の特例(租税特別措置法第39条)は適用できない(所得税法第33条第3項)。
Q5. 複数の取引所で保有していた場合の評価方法は?
納税義務者が選択した取引所の価格で評価できる。課税時期の取引価格を基準に評価する(国税庁FAQ 4-2)。
暗号資産の相続税について専門家の意見を聞きたい場合は「暗号資産税務のセカンドオピニオンを依頼する」をご覧ください。
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関係法令
- 相続税法第2条、第2条の2
- 相続税法基本通達11の2-1
- 財産評価基本通達4-3、5
- 所得税法施行令第119条の6第2項第1号
- 所得税法第36条第1項
- 所得税基本通達48の2-4
- 租税特別措置法第39条
- 所得税法第33条第3項
