暗号資産の贈与・低額譲渡は税務上「利確」と同じ効果が生じる。贈与者に所得税、受贈者に贈与税が課税され、双方に税負担が発生する。
- 理由① 贈与者は贈与時の時価で暗号資産を譲渡したものとみなされ、取得価額との差額に所得税が課税される。無償で渡しても手元に現金は残らないのに納税義務が発生するため、贈与前の納税資金の確保が不可欠。
- 理由② 受贈者には贈与時の時価に基づき贈与税が課税される。年間110万円の基礎控除を超える部分が課税対象となり、暗号資産の時価が高い場合は贈与税の負担も重くなる。贈与者の所得税と合わせた二重の税負担が生じる構造である。
- 条件 時価の70%未満で売却した場合は低額譲渡に該当し、実際の売却価格ではなく時価の70%相当額が収入金額とみなされる。親族間で「安く売ったから税金は少ない」とはならず、時価基準で課税される点に注意が必要。
所得税法第40条 / 所得税法施行令第87条 / 所得税基本通達40-2・40-3 / 相続税法第2条の2
この記事でわかること
- 暗号資産を贈与した場合の贈与者側の所得税の課税関係と計算方法
- 低額譲渡(時価の70%未満)の判定基準と収入金額の計算ルール
- 受贈者側の贈与税の課税関係と暗号資産の評価方法
- 贈与と相続で異なる受贈者・相続人の取得価額の決定ルール
- 個人から法人への暗号資産移転で生じる課税リスク
贈与者側の所得税|贈与・低額譲渡は「利確」と同じ
【結論】個人が暗号資産を無償で贈与した場合、贈与時の時価を総収入金額に算入して所得税を計算する(所得税法第40条、所得税法施行令第87条)。実際に金銭を受け取っていなくても、通常の売却と同額の利益が計上される。
暗号資産を贈与した場合の所得税の取扱いは、通常の売却時と本質的に同じである。贈与者は実際には対価を受け取っていないが、税務上は「時価で売却した」ものとして所得を計算する必要がある。
この規定は、暗号資産の贈与だけでなく、遺贈(包括遺贈・相続人への特定遺贈を除く)、エアドロップの送付、giveawayなど、無償で暗号資産を移転するすべてのケースに適用される。また、個人所有の暗号資産を自分が設立した法人に移す場合も、税務上は利確として扱われる。
計算例:暗号資産を無償で贈与した場合
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 購入日 | 2020年12月1日 |
| 購入金額 | 600万円で3BTC(1BTC=200万円) |
| 贈与日 | 2022年3月1日 |
| 贈与時の時価 | 1BTC=500万円 |
| 贈与数量 | 2BTC |
所得金額の計算:
500万円 × 2BTC −(600万円 ÷ 3BTC)× 2BTC = **600万円**
| 計算要素 | 金額 |
|---|---|
| ①収入金額(贈与時の時価) | 1,000万円 |
| ②1BTC当たりの取得価額 | 200万円 |
| ③譲渡原価(200万円 × 2BTC) | 400万円 |
| ④所得金額(①−③) | 600万円 |
対価を一切受け取っていないにもかかわらず、600万円の所得が発生する。これは2BTCを時価で売却した場合と全く同じ金額である。
関係法令:所得税法第40条 / 所得税法施行令第87条
低額譲渡の判定と計算方法
【結論】暗号資産を時価の70%未満の価額で譲渡した場合、低額譲渡に該当し、実際の売却価額ではなく時価の70%相当額を収入金額として所得を計算する(所得税法施行令第87条、所得税基本通達40-2、40-3、国税庁FAQ 2-10)。
低額譲渡の判定基準はシンプルで、実際の譲渡価額が「譲渡時の時価 × 70%」を下回るかどうかで判定する。下回った場合、実際の譲渡価額ではなく、時価の70%相当額が収入金額となる。
計算例:暗号資産を相場より著しく低い価額で譲渡した場合
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 購入金額 | 600万円で3BTC(1BTC=200万円) |
| 譲渡時の時価 | 1BTC=500万円 |
| 実際の売却価額 | 2BTCを400万円で売却 |
STEP 1:低額譲渡の判定
400万円 < 500万円 × 2BTC × 70% = 700万円 → **低額譲渡に該当**
STEP 2:収入金額の計算
400万円 +(700万円 − 400万円)= **700万円**
低額譲渡に該当する場合、収入金額は結果的に時価の70%相当額になる。
STEP 3:所得金額の計算
700万円 −(600万円 ÷ 3BTC)× 2BTC = **300万円**
| 計算要素 | 金額 |
|---|---|
| ①実際の売却価額 | 400万円 |
| ②時価の70%相当額との差額 | 300万円 |
| ③収入金額(①+②) | 700万円 |
| ④譲渡原価(200万円 × 2BTC) | 400万円 |
| ⑤所得金額(③−④) | 300万円 |
2BTCを400万円でしか売却していないにもかかわらず、300万円の所得が計上される。相場より大幅に安く売ったとしても、税務上は時価の70%で取引したものとして課税されるため、親族間や関連者間での安易な低額取引は想定以上の税負担を生むことになる。
関係法令:所得税法第40条 / 所得税法施行令第87条 / 所得税基本通達40-2、40-3
受贈者側の課税|贈与税と取得価額
【結論】暗号資産の贈与を受けた者(受贈者)には贈与税が課税される(相続税法第2条の2)。贈与税の計算における暗号資産の評価は、活発な市場がある場合は贈与時の取引価格、ない場合は個別評価による(財産評価基本通達5)。
贈与税の評価方法
暗号資産の贈与税評価は、相続税の場合と同じ方法で行う(国税庁FAQ 4-2)。
| 市場の状況 | 評価方法 |
|---|---|
| 活発な市場が存在する | 納税義務者が取引を行っている取引所が公表する贈与時の取引価格 |
| 活発な市場が存在しない | 売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して個別に評価 |
なお、贈与税の計算上、贈与者が所得税の計算で選択していた評価方法(総平均法・移動平均法)を用いて評価することは認められない。国会質問に対する政府答弁(令和4年5月20日)においても、所得税法施行令の規定は所得税に係る政令であり、贈与税の計算上ただちに適用されないことが確認されている。
受贈者の取得価額|贈与と相続で異なる
受贈者が贈与された暗号資産を後日売却する場合の取得価額は、取得の方法によって異なる。
| 取得方法 | 取得価額 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 贈与・遺贈(下記以外) | 贈与・遺贈時の時価 | 国税庁FAQ 1-5③ |
| 死因贈与・相続・包括遺贈・相続人への特定遺贈 | 被相続人の死亡時の評価額(被相続人の評価方法による) | 所得税法施行令第119条の6第2項第1号 |
この違いは実務上極めて重要である。
計算例:贈与により取得した場合の取得価額
200BTC(贈与時の時価:1BTC=700万円)を贈与された場合:
取得価額=700万円 × 200BTC = **14億円**
受贈者が後日200BTCを15億円で売却した場合の所得金額:
15億円 − 14億円 = **1億円**
贈与の場合は贈与時の時価が取得価額となるため、受贈者は贈与時からの値上がり分のみに課税される。
計算例:相続により取得した場合の取得価額
被相続人が2,000万円(1BTC=10万円)で購入した200BTCを、相続時の時価1BTC=700万円の時に相続した場合:
取得価額=10万円 × 200BTC = **2,000万円**
相続人が後日200BTCを10億円で売却した場合の所得金額:
10億円 − 2,000万円 = **9億8,000万円**
相続の場合は被相続人の取得価額を引き継ぐため、被相続人の購入時からの値上がり益全体に課税される。贈与と相続では受贈者・相続人の税負担に大きな差が生じる。
関係法令:相続税法第2条の2 / 財産評価基本通達5 / 所得税法施行令第119条の6第2項第1号
実務上の注意点
【結論】暗号資産の贈与・低額譲渡で最も注意すべきは、「対価を受け取っていないのに所得税が発生する」点と、「贈与者・受贈者の双方に課税が発生する(二重課税的構造)」点である。親族間・法人間の暗号資産移転は事前のシミュレーションが不可欠である。
暗号資産の贈与・低額譲渡について専門家の意見を聞きたい場合は「暗号資産税務のセカンドオピニオンを依頼する」をご覧ください。
よくある課税漏れパターン
①個人から自社法人への暗号資産移転:個人所有の暗号資産を自分が設立した法人に移す場合、税務上は利確扱いとなる。個人側に時価で売却したのと同額の所得税が発生する。法人化の際に暗号資産を移転するケースでよく見落とされる。
②親族間の暗号資産の譲渡:親族間で「安く売った」つもりでも、時価の70%未満であれば低額譲渡として時価の70%が収入金額になる。さらに、買った側にもみなし贈与として贈与税が課される可能性がある。
③暗号資産による寄附:認定NPO法人等への寄附であっても、贈与者側には贈与時の時価に基づく所得税が発生する(国税庁FAQ 1-4)。寄附金控除(所得控除)または税額控除の適用は受けられるが、含み益が大きい場合は寄附による手取りのマイナスが生じうる。
暗号資産の贈与・低額譲渡について専門家の意見を聞きたい場合は「暗号資産税務のセカンドオピニオンを依頼する」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産を家族に無償であげた場合、あげた側にも税金がかかりますか?
かかる。暗号資産を贈与した場合、贈与者は贈与時の時価を収入金額として所得税を計算する(所得税法第40条)。対価を受け取っていなくても、通常の売却と同額の利益が計上される。
Q2. 低額譲渡の「70%基準」とは何ですか?
時価の70%未満で暗号資産を譲渡した場合に低額譲渡に該当する基準である。該当した場合、実際の売却価額ではなく時価の70%相当額を収入金額として所得を計算する(所得税法施行令第87条、所得税基本通達40-2、40-3)。
Q3. 贈与で暗号資産をもらった場合、後日売却するときの取得価額はいくらになりますか?
贈与時の時価が取得価額となる。贈与(死因贈与を除く)・遺贈(包括遺贈・相続人への特定遺贈を除く)により取得した暗号資産の取得価額は、贈与・遺贈時の時価である(国税庁FAQ 1-5③)。ただし相続の場合は被相続人の取得価額を引き継ぐため、取扱いが異なる。
Q4. 個人所有の暗号資産を自分の法人に移すと課税されますか?
課税される。個人から法人への暗号資産の移転は、税務上は時価での利確として扱われる。個人側に時価と取得価額の差額が所得として課税される(所得税法第40条)。
Q5. 暗号資産で寄附を行った場合、所得税はどうなりますか?
寄附時の時価で所得が発生する。暗号資産を認定NPO法人等に寄附した場合でも、贈与者には寄附時の時価に基づく所得税が課税される(国税庁FAQ 1-4、所得税法第40条)。寄附金控除の適用はあるが、含み益の大きい暗号資産の寄附は手取りに注意が必要である。
暗号資産の贈与・低額譲渡について専門家の意見を聞きたい場合は「暗号資産税務のセカンドオピニオンを依頼する」をご覧ください。
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関係法令
- 所得税法第40条(たな卸資産等の贈与等の場合の総収入金額算入)
- 所得税法施行令第87条(たな卸資産等の贈与等の場合の総収入金額算入の特例)
- 所得税基本通達40-2、40-3
- 相続税法第2条、第2条の2
- 相続税法基本通達11の2-1
- 財産評価基本通達5
- 所得税法施行令第119条の6第2項第1号
- 国税庁FAQ 1-4、1-5、2-10、4-1、4-2
