秘密鍵を紛失しアクセスできない暗号資産であっても、相続財産に含めて相続税の申告が必要である。
- 理由① 国税庁は、パスワードを把握しているかどうかは「主観の問題」であり、課税の公平の観点から相続税の課税対象外とすることは適当でないとの見解を示している。アクセス不能でも財産としての価値は消滅していない。
- 理由② ブロックチェーン上に暗号資産が存在する事実は客観的に確認可能であり、「処分できない」と「存在しない」は異なる。相続税は財産の存在に対して課される。
- 条件 相続人が暗号資産の存在自体を知らず、合理的な調査を尽くしても発見できなかった場合は、申告後に発見された時点で修正申告を行うことになる。意図的な除外は重加算税の対象となり得る。
相続税法第1条の3、第11条の2
この記事でわかること
- 秘密鍵を紛失した暗号資産に相続税がかかるかどうか
- 国税庁の国会答弁で示された課税の考え方
- 相続税法上の「取得」を争う余地があるか
- 暗号資産交換業者の残高証明書を活用した申告手続
- アンホステッドウォレットの暗号資産を相続する場合の実務上の注意点
秘密鍵を紛失しても相続税は課税される
【結論】暗号資産は「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値」であり(資金決済に関する法律)、相続税の課税対象となる。秘密鍵を知らない場合でも、相続人は被相続人の暗号資産を承継するため、課税関係は変わらない(相続税法第2条、第22条、国税庁FAQ 4-1)。
相続税の課税価格は、相続または遺贈により取得した財産の価額で構成される(相続税法第11条、第11条の2、第22条)。暗号資産は経済的価値のある財産であり、相続税の課税対象となる(国税庁FAQ 4-1)。
この点について、平成30(2018)年3月23日の参議院財政金融委員会において、藤井健志国税庁次長(当時)が以下の趣旨の答弁を行っている。
国税庁の見解(国会答弁の要旨)
| 論点 | 国税庁の見解 |
|---|---|
| 暗号資産の相続税課税 | 財産的価値を有するため、相続税の課税対象となる |
| パスワードを知らない場合 | 相続人は被相続人の暗号資産を承継するため、課税対象となる |
| パスワード把握の有無 | 当事者にしか分からない「主観の問題」であり、真偽の判定は困難 |
| 結論 | パスワードを知らないという主張があっても、課税対象から除外することは課税の公平の観点から適当でない |
この答弁の核心は、秘密鍵の喪失は外部から検証不能な「主観の問題」であるという点にある。課税当局は、秘密鍵を本当に紛失しているのかどうかを確認する手段を持たないため、紛失の主張を根拠に非課税とすることは、課税の公平性を損なうと判断している。
暗号資産の相続税評価方法
秘密鍵の紛失の有無にかかわらず、暗号資産の相続税評価は以下のとおり行う(国税庁FAQ 4-2)。
| 区分 | 評価方法 |
|---|---|
| 活発な市場が存在する暗号資産 | 課税時期(相続開始日)における取引価格 |
| 活発な市場が存在しない暗号資産 | 暗号資産の内容・性質・取引実態等を勘案し個別に評価 |
活発な市場がある暗号資産(BTC、ETH等の主要銘柄)については、相続開始日の取引所の取引価格で評価する。残高証明書に記載された取引価格を用いることも可能である(評価通達4-3、5)。
関係法令:相続税法第1条の3、第2条、第11条、第11条の2、第22条 / 評価通達4-3、5 / 国税庁FAQ 4-1、4-2
「取得」していないと争う余地はあるか
【結論】相続税は財産を「取得」した場合に課税されるため(相続税法第1条の3、第11条の2)、秘密鍵がわからず管理・処分できない暗号資産は「取得」していないと主張して争う余地は理論上存在する。ただし、国税庁の見解に反する主張であり、認められるハードルは高い。
相続税法は、相続または遺贈により財産を「取得」した場合に納税義務が生じると規定している(相続税法第1条の3)。相続税の課税価格も、「取得」した財産の合計額である(相続税法第11条の2)。
このため、秘密鍵がわからずウォレット内の暗号資産を売却・換金・移転することが一切できない状態は、財産を実質的に「取得」していないと評価できるのではないかという議論がある。暗号資産自体は相続財産であるとしても、管理・処分ができない以上、「取得」の実態がないという主張である。
ただし、以下の理由からこの主張が認められる可能性は低い。
| 障壁 | 内容 |
|---|---|
| 主観の問題 | 秘密鍵の紛失を客観的に証明する方法がない |
| 将来の回復可能性 | 秘密鍵が発見される可能性を完全に否定できない |
| 国税庁の明確な見解 | 国会答弁で「適当でない」と明示されている |
| 課税の公平 | 紛失を主張するだけで非課税になれば、租税回避に利用される |
なお、国税庁次長の答弁では「一般論」との留保が付されており、個別の事例によっては異なる結論が導かれる余地を完全には否定していない。
関係法令:相続税法第1条の3、第11条の2
実務上の対応と注意点
【結論】暗号資産交換業者(取引所)に保管されている暗号資産は、各業者が定める相続手続に従い残高証明書を取得して申告する。アンホステッドウォレットの暗号資産は、被相続人の全ウォレットの把握と帰属の特定が実務上の最大の課題となる。
相続税申告の論点について専門家に相談したい場合は「暗号資産の税務でセカンドオピニオンを依頼する」をご覧ください。
暗号資産交換業者に保管されている場合
被相続人が暗号資産交換業者(bitFlyer、Coincheck等)を利用して暗号資産を保有していた場合は、以下の手順で対応する。
- 各暗号資産交換業者に死亡の届出を行い、相続手続を開始する
- 残高証明書(相続開始日時点の保有数量・取引価格)を取得する
- 残高証明書の取引価格を基に相続税評価額を算定する
- 必要に応じて、被相続人の取引履歴(取引明細書)も取得する
暗号資産交換業者に保管されている暗号資産については、秘密鍵の管理は業者側が行っているため、秘密鍵紛失の問題は生じない。業者所定の本人確認・相続手続を経れば、相続人が暗号資産を引き継ぐことができる。
アンホステッドウォレット(自己管理ウォレット)の場合
秘密鍵の紛失が問題になるのは、MetaMask等のアンホステッドウォレット(自己管理ウォレット)に保管された暗号資産である。この場合、以下の実務上の課題がある。
| 課題 | 内容 |
|---|---|
| ウォレットの全容把握 | 被相続人がどのウォレットを利用していたか、すべて把握できるとは限らない |
| 帰属の特定 | ブロックチェーン上のウォレットアドレスが被相続人に帰属すると断定する根拠の確保 |
| 残高の確認 | ウォレットアドレスが判明していれば、ブロックチェーンエクスプローラーで残高を確認できる |
| 時価評価 | 活発な市場がある暗号資産であれば、相続開始日の市場価格で評価可能 |
アンホステッドウォレットのアドレスが判明している場合は、ブロックチェーン上で残高を確認し、相続開始日の市場価格で評価して申告する。アドレス自体が不明な場合は、被相続人のPC・スマートフォン・メモ等から情報を収集する必要がある。
生前にできる対策
秘密鍵紛失による相続税の問題を防ぐには、被相続人が生前に以下の対策を講じておくことが重要である。
- 秘密鍵・リカバリーフレーズを安全な方法で記録し、信頼できる人物に保管場所を伝えておく
- 保有する暗号資産の種類・数量・保管場所(取引所・ウォレット)の一覧を作成しておく
- 暗号資産交換業者のアカウント情報を遺言書や別紙に記載しておく
損益計算や税務の論点について専門家に相談したい場合は「暗号資産の税務でセカンドオピニオンを依頼する」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 秘密鍵が見つからず暗号資産にアクセスできません。相続税はかかりますか?
かかる。暗号資産は財産的価値を有する相続財産であり、秘密鍵の有無にかかわらず相続税の課税対象となる(相続税法第2条、第22条、国税庁FAQ 4-1)。国税庁はパスワード不知を理由とする非課税を認めていない。
Q2. 暗号資産の相続税評価はどのように行いますか?
活発な市場がある場合は、相続開始日の取引所の取引価格で評価する。複数の取引所を利用していた場合は、納税義務者が選択した取引所の価格で評価できる(国税庁FAQ 4-2、評価通達4-3、5)。
Q3. 被相続人がどの取引所やウォレットを使っていたかわかりません。
暗号資産交換業者については、主要な業者に順次問い合わせて口座の有無を確認する。アンホステッドウォレットについては、被相続人のPC・スマートフォン・クラウドバックアップ等からウォレットアプリやリカバリーフレーズの記録を調査する。
Q4. 後日秘密鍵が見つかって暗号資産にアクセスできるようになった場合は?
すでに相続税を納付済みであれば、追加の相続税は発生しない。相続開始日時点の価額で評価して申告しているため、後日のアクセス回復は課税関係に影響しない。ただし、売却時には所得税(被相続人の取得価額を引き継いで計算)が課税される(国税庁FAQ 1-5④)。
相続税申告の論点について専門家に相談したい場合は「暗号資産の税務でセカンドオピニオンを依頼する」をご覧ください。
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関係法令
- 相続税法第1条の3(納税義務者)
- 相続税法第2条(課税財産の範囲)
- 相続税法第11条(相続税の課税価格の計算の基礎)
- 相続税法第11条の2(相続税の課税価格:取得財産の合計額)
- 相続税法第22条(相続財産の評価:時価)
- 財産評価基本通達4-3、5(暗号資産の評価に関する取扱い)
- 資金決済に関する法律第2条第5項(暗号資産の定義)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」4-1、4-2、1-5④
- 平成30(2018)年3月23日 参議院財政金融委員会 国会答弁(要旨)
