暗号資産・NFTの盗難・消失による損失は、資産の性質と消失原因により「雑損控除」か「必要経費算入」に分かれる。損失の回収手段と税務上の救済措置は別問題である。
- 理由① 事業用資産等に該当する暗号資産・NFTが消失した場合は、帳簿価額を必要経費に算入できる。一方、個人が趣味・投資目的で保有していた資産の盗難は雑損控除の対象となり、消失時の時価を基準に所得から控除する。適用される制度が異なるため、まず資産の性質の判定が必要。
- 理由② 法人の場合は資産の滅失損として帳簿価額を損金算入できる可能性が高い。個人と異なり所得区分による制約がなく、損金算入の要件がシンプルである点が法人の優位性。
- 条件 雑損控除は「盗難」「横領」等が対象であり、自身の過失による秘密鍵の紛失が「盗難等」に該当するかは明確でない。また、DeFiプロトコルのハッキングによる損失は「詐欺」に該当する可能性があるが、詐欺は雑損控除の対象外であるため、消失の原因事実の整理が税務処理の前提となる。
所得税法第51条・第72条 / 法人税法第22条第3項第3号 / 国税庁NFT FAQ 問5
この記事でわかること
- NFTが盗難・ハッキングに遭った場合の「雑損控除」と「必要経費」の判定フロー
- 損失額が「時価」になるか「帳簿価額」になるかの違い
- 「生活に通常必要でない資産」に該当する場合の影響
- 秘密鍵やシードフレーズの紛失によるアクセス不能の取扱い
- 法人の場合の損失処理
損失の処理方法|雑損控除と必要経費の判定フロー
【結論】NFTが消失した場合の税務処理は、そのNFTが「事業用資産等」に該当するか、「生活に通常必要でない資産」に該当するか、それ以外の生活用資産かによって3つに分岐する(所得税法第51条、第72条、所得税法施行令第178条第1項、NFT FAQ問5)。
NFTや暗号資産が第三者の不正アクセス等により消失した場合、以下のフローで処理方法を判定する。
| NFTの区分 | 処理方法 | 損失の額 |
|---|---|---|
| 事業用資産等(棚卸資産・業務用資産) | 事業所得または雑所得の必要経費に算入 | 帳簿価額(取得価額) |
| 生活に通常必要でない資産 | 雑損控除の対象外 | 控除不可 |
| 上記以外の生活用資産 | 雑損控除として所得から控除 | 消失時の時価 |
事業用資産等とは
棚卸資産または業務の用に供される資産(繰延資産のうち必要経費に算入されていない部分を含む)及び山林をいう。暗号資産取引を生業とする個人事業主が保有する暗号資産やNFTが該当する。
生活に通常必要でない資産とは
以下のいずれかに該当する資産である(所得税法施行令第178条第1項)。
- 競走馬その他射こう的行為の手段となる動産
- 主として趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で所有する資産
- 貴金属、書画、美術工芸品などで30万円を超える動産
NFTは、特に「主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産」に該当する可能性がある。NFTアートをコレクション目的で保有している場合がこれにあたり、この場合は雑損控除の対象から外れる。
雑損控除の場合の損失額
雑損控除の対象となる損失の額は、消失時点の「時価」である。時価が分からない場合には、そのNFTの「購入金額」を時価として差し支えない(NFT FAQ問5)。
必要経費算入の場合の損失額
事業用資産等に該当する場合は、時価ではなく「帳簿価額(取得価額)」が必要経費に算入される額となる。時価と帳簿価額で損失額に差が出る点に注意が必要である。
具体例|不正アクセスによるNFT・暗号資産の消失
【結論】雑損控除の場合は消失時の時価(合計280万円)が控除対象となり、必要経費算入の場合は帳簿価額(合計150万円)が算入額となる。どちらが適用されるかは資産の性質による(所得税法第51条、第72条)。
事例:ウイルス感染による秘密鍵の漏洩
| 資産 | 消失時の時価 | 取得価額(帳簿価額) |
|---|---|---|
| 暗号資産 | 200万円 | 100万円 |
| NFT | 80万円 | 50万円 |
| 合計 | 280万円 | 150万円 |
パソコンに送付されたメールの添付ファイル(コンピュータウイルス)を誤って実行し、ウォレットの秘密鍵が盗まれた結果、ウォレット内の暗号資産・NFTがすべて消失したケースである。
パターンA:雑損控除が適用される場合(生活用資産)
控除対象となる損失額 = 消失時の時価 = 280万円
パターンB:必要経費に算入される場合(事業用資産)
必要経費算入額 = 帳簿価額 = 150万円
パターンAとBで130万円の差がある。ただし、雑損控除と必要経費算入では適用要件が異なるため、単純にどちらが有利かは個々の状況による。
雑損控除と盗難の範囲|NFT FAQ問5の意義
【結論】従来、税務上は雑損控除における「盗難」の対象を有体物に限ると解する傾向があったが、NFT FAQ問5により、無体物であるデジタルアートに紐付けたNFTの消失も雑損控除の対象として認められる方向性が示された(NFT FAQ問5)。
NFT FAQ問5が公表される以前は、所得税法第72条の「盗難」を刑法の窃盗と同一に捉え、その対象は有体物に限るという理解が主流であった。NFTはブロックチェーン上のデジタルデータであり有体物ではないため、雑損控除の適用が困難と考えられていた。
しかし、NFT FAQ問5は、NFT(無体物)の不正アクセスによる消失について雑損控除の適用を認めており、「盗難」の対象を有体物に限定していないと解される。
暗号資産の損失と所得税法第51条第4項
【結論】秘密鍵やシードフレーズを紛失してウォレットにアクセスできなくなった場合でも、暗号資産が「雑所得の基因となる資産」に該当し得るとの国会答弁等を踏まえると、所得税法第51条第4項により必要経費に算入できる可能性がある。ただし、算入額はその年の雑所得の金額が限度であり、引ききれない損失を他の所得から差し引くことはできない。
令和4年4月19日の参議院財政金融委員会における国会答弁では、暗号資産が所得税法第51条第4項の「雑所得の基因となる資産」に該当しうることを認めた上で、同項により詐欺による損失を必要経費に計上できる旨が認められた。
NFTも「雑所得の基因となる資産」に該当する可能性がある。この点を踏まえると、秘密鍵やシードフレーズを紛失してウォレットにアクセスできなくなった場合の損失も、所得税法第51条第4項を適用して必要経費として計上できる可能性が高まっている。
ただし、同項で必要経費に算入される損失からは、保険金・損害賠償金その他これらに類するものにより補填される部分の金額は除かれる。
注意:所得税法第51条第4項による必要経費算入は「その年分の雑所得の金額を限度として」という厳格な制限がある。同一年中の暗号資産等の利益(雑所得の黒字)と相殺して税額をゼロにすることは可能だが、引ききれない損失を給与所得や事業所得など他の所得から差し引いて税金の還付を受けること(損益通算)は法的に認められていない。「詐欺の損失で税金が還付される」という理解は誤りであるため、極めて注意が必要である。
実務上の注意点
【結論】NFTの盗難・消失では、①資産の区分の判定(事業用か生活用か鑑賞目的か)、②損失額が時価か帳簿価額かの確認、③被害状況の証拠保全の3点が実務上の重要ポイントである。
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注意点1:資産の区分を正確に判定する
雑損控除が適用されるか、必要経費算入が適用されるか、そもそも控除が受けられないかは、NFTの保有目的・使用実態に依存する。暗号資産取引を生業とする個人事業主が保有する事業用のNFTなら必要経費算入、投資目的で保有していた生活用資産なら雑損控除、趣味・鑑賞目的のコレクションなら「生活に通常必要でない資産」として控除不可となる可能性がある。
注意点2:法人の場合はシンプル
法人が暗号資産やNFTの詐欺・盗難に遭った場合は、帳簿価額(取得原価)をそのまま損失として損金の額に算入できる可能性が高い(法人税法第22条第3項第3号)。個人のような資産区分による判定フローは不要である。
注意点3:被害状況の証拠保全
雑損控除を受けるためには、被害の発生を客観的に証明する必要がある。不正アクセスの場合はブロックチェーン上のトランザクション記録、警察への被害届出、取引所への問い合わせ記録等を保全しておく。秘密鍵の紛失の場合も、ウォレットアドレスとその残高を確認できるスクリーンショット等を保存しておく必要がある。
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よくある質問(FAQ)
Q1. NFTがハッキングで盗まれた場合、確定申告で損失を控除できますか?
控除できる可能性がある。NFTが生活用資産であれば雑損控除(所得税法第72条)、事業用・業務用資産であれば必要経費算入(所得税法第51条)として控除できる。ただし、趣味・鑑賞目的のコレクション(生活に通常必要でない資産)に該当する場合は控除不可となる可能性が高い(NFT FAQ問5)。なお、偽サイトに騙されて自ら送金してしまったような「詐欺」の場合、生活用資産としての雑損控除の対象にはならないが、そのNFTが「雑所得の基因となる資産」に該当すれば、所得税法第51条第4項により、その年の雑所得の金額を限度として必要経費に算入できる可能性がある。暗号資産の詐欺・盗難の分類と雑損控除の適用要件の詳細は「暗号資産の詐欺・盗難と雑損控除」で解説している。
Q2. 損失額は時価と取得価額のどちらですか?
雑損控除なら消失時の時価、必要経費なら帳簿価額(取得価額)である。雑損控除の場合の時価が不明な場合は購入金額を時価として差し支えない(NFT FAQ問5)。
Q3. 秘密鍵を紛失してウォレットにアクセスできなくなった場合は?
損失として計上できる可能性がある。暗号資産が「雑所得の基因となる資産」に該当しうることが国会答弁等で示されており、所得税法第51条第4項に基づき必要経費に計上できる余地がある。ただし算入額はその年の雑所得の金額が限度であり、他の所得との損益通算はできない。
Q4. 法人がNFTの盗難に遭った場合の処理は?
帳簿価額を損金算入できる可能性が高い。法人の場合は個人のような資産区分の判定は不要であり、取得原価(帳簿価額)をそのまま損失として損金の額に算入できる可能性がある(法人税法第22条第3項第3号)。
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関係法令
- 所得税法第51条(資産損失の必要経費算入)
- 所得税法第51条第4項(雑所得の基因となる資産の損失)
- 所得税法第72条(雑損控除)
- 所得税法施行令第178条第1項(生活に通常必要でない資産の範囲)
- 法人税法第22条第3項第3号(損金の額に算入される損失)
- 国税庁「NFTに関する税務上の取扱いについて(FAQ)」問5(令和5年1月)
