暗号資産の損益計算を自力で行う最も簡便な方法は、年末に保有する全暗号資産を日本円に売却する「全円転(簡便法)」である。
- 理由① 全円転を行うと年末時点の暗号資産残高がゼロになるため、「売却額 − 年間購入額」だけで損益が確定する。取得単価の計算(総平均法・移動平均法)が不要になり、専用ソフトなしでも計算できる。
- 理由② 暗号資産の利益は所得税(5%〜45%)+住民税10%で最大約55%の総合課税となる。計算を誤ると過少申告のリスクがあるため、自力計算では全円転による確実性が重要になる。
- 条件 全円転には3つの制約がある。①年末までに全売却を完了する必要がある(年またぎ不可)、②利益はすべて雑所得扱いとなる、③保有を継続したい銘柄があっても全売却が前提となる。なお、全円転方式そのものに直接の税法根拠はないが、期首と期末の純資産を比較して所得を推計する「純資産増減法」(大阪高判昭和62年9月30日等)と同様の考え方に基づく。ただし純資産増減法はあくまで税務署側が用いる推計課税の手法であり、税務調査では取引履歴に基づく計算結果が優先される。
所得税法第35条、第89条 / 国税庁FAQ 2-2
この記事でわかること
- 暗号資産の利益にかかる税率(所得税+住民税の早見表)
- 全円転(簡便法)の手順3ステップと計算例
- 全円転を使うための条件と3つの注意点
- 令和8年度税制改正(分離課税化)の見通し
暗号資産の税率|総合課税の仕組みと早見表
【結論】暗号資産の利益は雑所得として総合課税され、所得が増えるほど税率が上がる累進課税が適用される。所得税率は5%〜45%の7段階であり、住民税10%と合わせると最大約55%の税負担となる(所得税法第89条)。
| 課税所得 | 所得税率 | 控除額 | 住民税 | 合計税率(概算) |
|---|---|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 | 10% | 約15% |
| 195万円超〜330万円以下 | 10% | 97,500円 | 10% | 約20% |
| 330万円超〜695万円以下 | 20% | 427,500円 | 10% | 約30% |
| 695万円超〜900万円以下 | 23% | 636,000円 | 10% | 約33% |
| 900万円超〜1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | 10% | 約43% |
| 1,800万円超〜4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | 10% | 約50% |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | 10% | 約55% |
※上記に加え、復興特別所得税(所得税額の2.1%)が課される。
暗号資産の利益だけでなく、給与所得・事業所得などと合算した金額に対して税率が適用される点に注意が必要である。所得区分の詳細は「暗号資産の所得区分【第1回】|所得の種類と一時所得・雑所得の考え方」で解説している。
全円転(簡便法)とは|損益計算を自力で無料で行う方法
【結論】全円転(簡便法)とは、年末時点で保有するすべての暗号資産・NFTを日本円に売却し、「年末の残高 − 年間入金額」で所得を算出する方法である。期中にどれだけ複雑な取引を行っていても最終的な増減額だけで利益を算出できる。
手順3ステップ
前提条件:年始時点で暗号資産やNFTを保有していないこと
ステップ① 法定通貨(日本円)の入出金を行う国内取引所を「1箇所」に指定する(以下「指定国内取引所」)。
ステップ② 年末時点で、保有する「すべての」暗号資産・NFTを指定国内取引所にて日本円に売却する。
ステップ③ 「年末時点の指定国内取引所の法定通貨保有額」から「その年に指定国内取引所に入金した金額」を引き算して所得を算出する。
計算例
| 取引内容 | 金額 |
|---|---|
| 銀行口座から指定国内取引所に入金 | 550万円 |
| 年末23時59分59秒時点の日本円残高 | 1,000万円 |
1,000万円 − 550万円 = 450万円
所得金額:450万円
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全円転の3つの注意点
【結論】全円転には「年またぎ不可」「全雑所得扱い」「全売却必須」の3つの制約がある。特に年またぎで適用すると累進課税の計算が歪み、過少申告のリスクが生じる。また、NFTの譲渡所得としての特別控除(50万円)や2分の1課税の恩恵を受けられなくなる(所得税法第33条・第35条)。
注意点①:年をまたいだ場合は使えない
暗号資産の雑所得は翌年への損失繰越ができない(所得税法第69条第1項)。昨年以前の損益計算をしていない場合、簡便法は使えない。
注意点②:すべて雑所得として申告することになる
NFT保有者は譲渡所得の特別控除(50万円)や長期譲渡所得の2分の1課税の適用を受けられない可能性がある。NFTの譲渡所得の扱いについては「NFTの二次流通(転売)の税金|譲渡所得と特別控除」を参照。
注意点③:すべての暗号資産・NFTを売却しなければならない
長期保有資産、ステーキング、中トークン、LP中資産、BCG内通貨なども含め、すべて売却する必要がある。
全円転は税法上の根拠はあるか?
【結論】全円転方式には税法上の根拠はない。そのため、税務調査が合った場合は通常通り取引履歴の提出が求められ、それを用いた損益額が優先されるため、あくまでも自身で計算するのがどうしても難しい場合の方法である。
全円転方式には税法の根拠はない。しかし、税務署側が直接的な資料によらず各種間接的な資料を用いて所得を認定する方法として推計課税というものがある。その推計課税の方法として純資産増減法というものがある。これは課税期間の期首と期末の純資産を比較し、その増加額を計算して、所得を推計する方法である。純資産増減法は実務上用いられており、裁判例(大阪高判昭和62年9月30日行裁例集38巻8=9号1057頁等)も支持されている。ただしあくまでも税務署側が推計する方法に過ぎないため、税務調査時においてまず優先されるのは取引履歴を基にした計算結果となることに注意したい。税務調査の流れと対応策は「暗号資産の税務調査|流れ・指摘ポイント・対応策」で解説している。
よくある質問(FAQ)
Q1.年初時点で暗号資産やNFTを保有していた場合は全円転できませんか?
前年の年末時点における取得価額を把握していれば可能。この場合、各トークンの取得価額の合計額に日本円等の入金額を加算した金額から年末時点までで日本円に換えた金額の合計額を控除する。
Q2. 期末時点でロックされている暗号資産があり、どうしてもすべてのトークンを日本円化できない場合はどうしたらいい?
年末時点でそのロックされたトークンの時価を全円転した金額に加算する。ただし、全円転は税法に則ったやり方ではないため、そういったトークンが増えれば増えるほど否認されるリスクも上がる可能性も視野に入れる必要がある。
Q3. 全円転は国税庁公認ですか?
公式推奨ではない。原則は総平均法・移動平均法による1取引ごとの計算である(国税庁暗号資産FAQ 2-4)。
Q4. 分離課税になれば簡便法は不要ですか?
分離課税適用後であっても、海外取引所等で取引を行っている場合は通常の損益計算が必要になる。分離課税化の詳細は「暗号資産の分離課税化はいつから?|令和8年度税制改正大綱のポイント」を参照。
Q5. 年の途中から全円転はできますか?
できない。年初から年末までの1年間を単位とする方法である。
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専門の税理士に依頼する場合
暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第35条(雑所得)
- 所得税法第36条第1項(収入金額)
- 所得税法第33条(譲渡所得)
- 所得税法第69条第1項(損益通算)
- 所得税法第89条(税率)
- 所得税法第121条(確定申告不要制度)
- 所得税法施行令第119条の2(暗号資産の評価方法)
- 法人税法第61条第2項(期末時価評価)
- 令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日)
