暗号資産を家族に送ると税金が発生?|個人間の貸し借り・贈与のルールと課税関係

結論

家族間で暗号資産を移動させると、その形態によって所得税・贈与税のいずれか、または両方が発生し得る。

  • 理由① 個人間の暗号資産の移動は、①貸し借り(消費貸借)②贈与③低額譲渡の3類型に分かれる。貸し借りであれば返済時まで課税は生じないが、贈与なら贈与税、低額譲渡なら渡した側に所得税+受け取った側に贈与税が発生する。
  • 理由② 税務署は取引の名目ではなく実態で判定する。「貸した」と主張しても返済の事実がなければ贈与と認定され、贈与税が課される。名義の移動だけでなく経済的利益の移転があったかが判断基準となる。
  • 条件 夫婦間の贈与には生活費・教育費の非課税(相続税法第21条の3)や居住用不動産の配偶者控除等の制度があるが、暗号資産にはこれらの大半が適用されないか適用が困難である。また、一方の名義で取引し利益を他方に帰属させる「名義預け」は、所得の帰属が否認されるリスクがある。

相続税法第9条、第21条の3 / 所得税法第12条(実質所得者課税の原則)/ 所得税法第40条

この記事でわかること

  • 暗号資産の貸し借りと贈与の区別基準(借用書・返済実態)
  • 低額譲渡に該当した場合の所得税・贈与税の計算方法
  • 夫婦間の名義預け・共同出資が否認された裁決事例
  • 貸し借りの損益計算ソフト上の処理方法
  • みなし贈与が発生する具体的なケース
目次

暗号資産の個人間移動における3つの課税類型

【結論】暗号資産を個人間で移動する場合、「貸し借り」「贈与」「低額譲渡」のいずれに該当するかで課税関係が決まる。貸し借りは同種・同量の返済がある場合に限り課税が繰り延べられるが、返済実態がなければ贈与とみなされる(相続税法第9条)。

暗号資産の個人間移動は、以下の3類型に分類される。

類型 概要 渡す側の所得税 受け取る側の贈与税
貸し借り(消費貸借) 同種・同量の暗号資産を後日返済 返済時まで課税なし 課税なし
贈与(無償譲渡) 対価なしで暗号資産を渡す 時価で譲渡があったとみなす(所法40条) 贈与税の課税対象(相法1条の4)
低額譲渡 時価の70%未満で売却 時価の70%を収入金額とする(所基通達40-2,40-3) 差額部分にみなし贈与(相法7条)

暗号資産の貸し借りは民法上の消費貸借契約(民法第587条)に該当する。借主は借りた暗号資産と同種・同量の暗号資産を返す義務を負う。この点は金銭の貸借と同じ構造である。

重要なのは、貸し借りの実態があるかどうかの判定である。税務上は形式(名目)ではなく実質で判断されるため、以下の要素が総合的に考慮される。

  • 金銭消費貸借契約書(借用書)の有無
  • 返済期限の定めの有無
  • 実際の返済行為の有無
  • 利息の有無(無利息でも直ちに贈与にはならないが、判定要素にはなる)
  • 返済能力の有無

借用書がなく、返済の実態もない場合は「贈与」と認定され、贈与税の課税対象となる。特に親族間の取引は、第三者間取引に比べて厳しく実質判定される。

また、借用書を作成し形式上は貸し借りとしていても、受け取った側が自ら取引判断を行わず、貸した側が引き続き売買の指示や管理を行っている場合は、貸し借りではなく「名義預け」と認定される可能性がある。この場合、取引による所得は実際に取引判断を行った者(貸した側)に帰属し(所得税法第12条)、名義を借りた側への暗号資産の移動は実質的な贈与として課税される。

贈与・低額譲渡の課税関係

【結論】暗号資産を個人に無償で贈与した場合、贈与者は時価で売却したものとみなされ所得税が課される(所得税法第40条)。時価の70%未満で譲渡した場合は低額譲渡として、時価の70%相当額が収入金額に算入される(国税庁FAQ 2-10)。

贈与(無償譲渡)の場合

暗号資産を個人に無償で贈与した場合、贈与者は「その時の時価で売却した」のと同じ扱いとなり、含み益に対する所得税が課される(所得税法第40条)。対価を一切受け取っていなくても、通常の売却と同額の利益が計上される。受贈者側には贈与税が課され、取得価額は贈与時の時価となる。

低額譲渡の場合

時価の70%未満で暗号資産を親族等に譲渡した場合、低額譲渡に該当し、実際の売却価額ではなく時価の70%相当額を収入金額として所得税が計算される。受け取った側には差額部分にみなし贈与として贈与税が課される(相続税法第7条)。

みなし贈与

対価を支払わずに経済的利益を受けた場合も、贈与があったものとみなされる(相続税法第9条)。暗号資産の文脈では、「貸した」と称しながら返済の実態がないケースが典型例である。

贈与者・受贈者それぞれの具体的な計算方法と課税関係は「暗号資産の贈与税と低額譲渡|贈与者・受贈者の課税」で詳しく解説している。みなし譲渡所得の計算については「暗号資産の贈与・低額譲渡の税金|みなし譲渡所得の計算」を参照されたい。

夫婦間の贈与と暗号資産への適用関係

【結論】夫婦間の贈与には複数の非課税制度が存在するが、暗号資産に直接適用できるのは暦年贈与の基礎控除(110万円)のみである。生活費・教育費の非課税や居住用不動産の配偶者控除は暗号資産には適用されない。

夫婦間の財産移動には、贈与税が課されない類型がいくつか存在する。しかし暗号資産はこれらの非課税規定の多くに該当しないため、原則どおり課税される点を正確に理解しておく必要がある。

非課税類型 根拠法令 暗号資産への適用
生活費・教育費 相続税法第21条の3第1項第2号 適用は困難。条文上は財産の種類を限定していないが、通達(21の3-5)が「必要な都度直接これらの用に充てるため」と要求しており、暗号資産を渡して換金させるプロセスが「直接」に該当するかは疑義がある。
居住用不動産の配偶者控除(2,000万円) 相続税法第21条の6第1項 適用なし。対象は居住用不動産またはその取得資金に限定されており、暗号資産は対象外である。
社会通念上相当な祝物等 相続税法基本通達21の3-9 該当する可能性は極めて低い。暗号資産を祝物として贈ることが社会通念上相当と認められるケースは現時点ではほぼ想定しがたい。
生活用動産の非課税 所得税法第9条第1項第16号 適用なし。暗号資産は「生活に通常必要な動産」に該当しない。贈与者側の所得税非課税も適用されない。
暦年贈与の基礎控除(110万円) 相続税法第21条の5 適用あり。受贈者側の贈与税は年間110万円以下であれば非課税。ただし贈与者側のみなし譲渡課税(所得税法第40条)は別途発生する。

暗号資産で暦年贈与を行う場合の注意点

暦年贈与の基礎控除110万円以下であれば受贈者側の贈与税は非課税となるが、以下の2点に注意が必要である。

  • 贈与者側のみなし譲渡課税:贈与税の基礎控除とは無関係に、贈与者には「時価で売却した」のと同じ所得税が課される(所得税法第40条)。含み益がある暗号資産を贈与すると、贈与者に所得税が発生する。
  • 毎年同額の定期贈与リスク:毎年110万円ずつ暗号資産を贈与する場合、「定期金給付契約に基づく贈与」とみなされ、贈与の開始時に一括で贈与税が課される可能性がある。金額・時期・銘柄を毎年変える、贈与契約書を都度作成するなどの対策が必要である。

離婚時の財産分与における暗号資産の取扱い

離婚に伴う財産分与で暗号資産を渡す場合、受け取る側に贈与税は原則として課されない(相続税法基本通達9-8)。ただし、分与する側には暗号資産を時価で譲渡したのと同様にみなし譲渡課税(所得税)が発生する。また、分与額が婚姻中の財産形成への貢献度等を考慮しても過大である場合は、過大部分に贈与税が課される。

夫婦間の名義預けと所得の帰属

【結論】夫婦間で暗号資産の取引口座を共用していた場合、取引を実際に行っていた者に所得が帰属する。「共同出資」の主張は、契約・指図・利益分配の取り決めの客観的証拠がなければ認められない(国税不服審判所裁決・平成30年分)。

裁決事例:共同出資を主張したが否認されたケース

暗号資産の利益の帰属が争われた裁決事例(国税不服審判所裁決令和4年3月23日裁決(TAINSコードF0-1-1362)では、請求人(子)が母との共同出資を主張し、利益を50%ずつ按分すべきと主張した。しかし審判所は、以下の事実認定に基づき、利益は全て請求人に帰属すると判断した。

判断要素 事実認定
投資の依頼 母が共同出資者として取引を依頼した証拠がない
取引の指図 母が具体的に指図していた事情が見当たらない
利益分配の取り決め 利益や損失の分配に関する取り決めの証拠がない
取引の管理 請求人が自らのPC・ウォレットで管理。母にID・パスワードを伝えていない
申告の実態 請求人が利益の全額を自身の雑所得として確定申告していた

この裁決から得られる教訓は明確である。夫婦間・親子間で暗号資産の利益を分散させるためには、単なる資金の拠出だけでは不十分であり、以下の客観的証拠が必要となる。

  • 共同投資契約書(出資割合・利益分配方法を明記)
  • 各自が取引の意思決定に関与している証拠(指図記録等)
  • 利益分配の実際の履行記録
  • 各自の名義で口座を開設し、各自が申告を行っていること

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貸し借りの損益計算上の処理

【結論】暗号資産の貸し借りは損益計算ソフト上で「貸付」と「返済」のセットとして管理する。返済が法定通貨や異なる暗号資産で行われた場合は、返済時に売買があったものとして損益計算が必要となる。

親族等にトークンを貸し付け、後日返済を受けるケースでは、送金と入金の2種類のトランザクションをセットとして記録する。

具体的な管理方法:

  1. 各トランザクションのメモ欄等に「20250214貸付(債務者名)001」と記載する
  2. 年度内に送金のみで返済がまだの場合は「20251231貸付(債務者名)001未完了」と記載する
  3. 貸付したまま年をまたいだ場合、そのトークンは残高調整の対象となるため、貸付したトークンの数量を残高に加算する(損益計算ソフトの貸付処理の仕様はソフトごとに異なるため要確認)

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返済が法定通貨で行われた場合

暗号資産で貸し付けたが返済を日本円で行う場合は、貸し付けた暗号資産の返済時の時価相当額の日本円を返済する必要がある。税務上は暗号資産の売却と同じ経済効果が生じるため、返済で受け取った日本円と貸し付けた暗号資産の取得価額との差額が損益として計上される(時価相当額より少ない日本円を返済した場合は返済が完了していないものとして扱うか、低額譲渡などの処理を行う必要がある)。損益計算ソフトを用いる場合、別途カスタムファイルで利益または損失を反映させる必要がある。

返済が異なる暗号資産で行われた場合

返済が貸し付けた暗号資産以外の暗号資産で行われた場合は、貸し付けた暗号資産の返済時の時価相当額の暗号資産を返済する必要がある。税務上は返済時において、貸し付けた暗号資産と返済に用いた暗号資産との交換(売買)があったものとして処理する(返済に用いた暗号資産の時価が貸し付けた暗号資産の返済時の時価に満たない場合は、法定通貨の場合と同様に全額返済が完了していないものとして扱うか、低額譲渡などの処理を行う必要がある)。損益計算ソフトを用いる場合、カスタムファイルで交換取引と返済の2種の取引履歴を作成する必要がある。

よくある質問(FAQ)

Q1. 夫婦間で暗号資産を送金しただけで税金がかかりますか?

貸し借りであれば課税されない。同種・同量の暗号資産を後日返済する消費貸借であれば、送金時点で課税は生じない。ただし返済の実態がなければ贈与と認定され、贈与者には所得税(所得税法第40条)、受贈者には贈与税(相続税法第1条の4)が課される。借用書の作成を推奨する。

Q2. 暗号資産を家族に贈与すると贈与する側にも税金がかかりますか?

かかる。暗号資産を個人に贈与した場合、贈与者は「その時の時価で売却した」のと同じ扱いとなり、含み益に対する所得税が課される(所得税法第40条、所得税法施行令第87条)。受贈者側には別途贈与税が課される。

Q3. 夫婦で暗号資産の利益を折半して申告できますか?

原則としてできない。所得は実際に取引を行った者に帰属する。国税不服審判所の裁決では、共同出資の契約・指図・利益分配の取り決めの客観的証拠がないまま利益を按分した申告が否認されている。各自の名義で口座を開設し、各自が取引・申告を行う必要がある。

Q4. 暗号資産の年間110万円以下の贈与は非課税ですか?

贈与税は非課税となる。暦年贈与の基礎控除110万円以下であれば贈与税は非課税である(相続税法第21条の5)。ただし、贈与者側のみなし譲渡課税(所得税法第40条)は贈与税の基礎控除とは無関係に発生するため、贈与者に所得税が課される点に注意が必要である。

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関係法令

  • 所得税法第9条第1項第16号、第36条第1項、第40条
  • 所得税法施行令第87条
  • 所得税基本通達33-1の6、40-2、40-3
  • 相続税法第1条の4、第7条、第9条、第21条の3第1項第2号、第21条の5、第21条の6第1項
  • 相続税法基本通達9-8、21の3-3、21の3-5、21の3-9
  • 民法第587条
  • 国税庁FAQ 2-10
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