暗号資産の売買のみを行う事業者は、インボイス発行事業者の登録は不要。暗号資産の譲渡は消費税非課税であり、インボイスの有無が取引に影響しない。
- 理由① 暗号資産の譲渡は消費税法上「非課税取引」に該当するため、仕入税額控除の対象とならない。買い手側にインボイスを求める動機がなく、売り手がインボイス発行事業者でなくても取引上の不利益は生じない。
- 理由② NFTトレーダーもマーケットプレイス経由のBtoC取引が中心であり、買い手が仕入税額控除を必要としないため登録の実益は薄い。NFTクリエイターも、NFT販売単体では同様の理由で不要だが、デザイン受託等の課税取引がある場合は登録の検討が必要。
- 条件 暗号資産関連のコンサルティング・開発受託・メディア運営等の課税売上がある場合は、取引先がインボイスを必要とするため登録が有利になる。判断基準は暗号資産の売買ではなく、それ以外の事業における課税取引の有無である。
消費税法第6条第1項・第57条の2・第57条の4
この記事でわかること
- 暗号資産の売買とインボイス制度の関係
- NFTトレーダーにインボイス登録が不要な理由
- NFTクリエイターがインボイス登録を検討すべきケース
- ガス代・NFT購入費にインボイスが発行されない実務上の問題
- 経過措置の見直し(2割特例終了後の3割特例・免税事業者からの仕入れ経過措置の延長)
- インボイス登録の判断で考慮すべき要素
インボイス制度の概要と暗号資産の関係
【結論】インボイス制度は買手の仕入税額控除に関する制度であり、非課税取引である暗号資産の売買にはそもそも関係しない(消費税法第30条、第57条の2、第57条の4)。
令和5(2023)年10月1日より、複数税率に対応した仕入税額控除の方式として適格請求書等保存方式(インボイス制度)が開始された。この制度のもとでは、買手が仕入税額控除の適用を受けるためには、原則として一定の事項が記載された帳簿のほか、売手から交付を受けた適格請求書(インボイス)の保存が必要となる。
暗号資産の譲渡は消費税法上「非課税取引」であるため、そもそも消費税が課されない。非課税取引にはインボイスの交付義務がなく、買手側も仕入税額控除の対象とならない。したがって、暗号資産の売買においてインボイスの有無が取引に影響することはない。
| 取引の種類 | 消費税の取扱い | インボイスの要否 |
|---|---|---|
| 暗号資産の売買 | 非課税 | 不要 |
| NFTの売買 | 課税 | 取引相手・形態による |
| 暗号資産の貸付け利用料 | 課税(※改正で非課税化予定) | 取引相手による |
| 取引手数料 | 課税 | 取引所がインボイス発行 |
暗号資産の売買のみを行う事業者
【結論】暗号資産の売買のみを行う事業者がインボイス発行事業者として登録する必要性は低い。暗号資産の譲渡は消費税非課税であり、インボイスの有無は取引に影響しない(消費税法第6条第1項、消費税法別表第一第二号)。
暗号資産トレーダーや、暗号資産の現物取引のみを行っている個人・法人にとって、インボイス制度は基本的に無関係である。取引相手(取引所や個人)との関係において、インボイスを求められることも、インボイスを発行する必要もない。
免税事業者がインボイス発行事業者に登録すると課税事業者となり、消費税の申告・納付義務が発生する。暗号資産の売買のみであれば登録するメリットがないため、不要な税負担を避ける意味でも登録しないのが合理的である。
NFTトレーダーの場合
【結論】NFTトレーダーについてもインボイス発行事業者として登録する必要性は低い。NFTの取引は消費税の課税対象だが、BtoC取引が中心であり、取引相手の氏名・住所等が不明なケースが多いため、事実上インボイスを発行する機会が少ない。
NFTの取引(売買等)は暗号資産の売買と異なり消費税の課税対象である。しかし、NFTトレーダーにインボイス登録の必要性が低い理由は2つある。
理由①:BtoC取引が中心であること
インボイスの有無が影響するのは、基本的にBtoB(企業間取引)を行う事業者である。BtoB取引では、買手が仕入税額控除を受けるためにインボイスを必要とする。一方、BtoC(消費者向け取引)が多いNFTトレーダーの場合、買手が仕入税額控除を行わないため、インボイスの有無は取引に影響しない。
理由②:取引相手の特定が困難であること
NFT取引においては、マーケットプレイス上でウォレットアドレスのみで取引が行われるケースが多く、相手方の氏名・住所等が不明であることが多い。インボイスには取引相手の情報記載が必要であり、事実上、インボイスを発行する機会自体が少ない。
NFTクリエイターが検討すべきケース
【結論】NFTクリエイターの場合は、NFT以外の事業も含めて、インボイス発行事業者として登録する必要性を総合的に検討すべきである。特に、BtoB取引がある場合や課税売上高が1,000万円を超える見込みの年がある場合は、登録のメリットが大きくなる。
NFTクリエイターは、NFTトレーダーと異なり以下のケースでインボイス登録が有利になる可能性がある。
登録を検討すべき状況
- BtoBの取引先がいる場合:企業からNFT制作を受託している、企業向けにデジタルアートを納品しているなど、取引先が仕入税額控除を必要とするケース
- 課税売上高が1,000万円を超える見込みの年がある場合:消費税の課税事業者となる基準を超えるなら、インボイス登録の判断とは別に消費税の申告義務が生じる
- NFT以外の事業も行っている場合:デザイン業、イラスト制作業、コンサルティング業など、NFT以外のBtoB取引で課税売上が発生している場合
判断で考慮すべき要素
| 判断要素 | 内容 |
|---|---|
| 課税売上高 | 1,000万円超の年がどの程度あるか |
| 取引先との関係 | BtoB取引先からインボイス発行を求められているか |
| NFT以外の事業 | 他の課税売上がある事業を兼業しているか |
| 簡易課税・3割特例の選択 | 3割特例・簡易課税で納税額を抑えられるか |
インボイス登録は一度行うと取消しに手続きが必要であり、登録中は消費税の申告義務が継続する。登録の判断は個別の事業状況に依存するため、税理士に相談した上で最終判断を行うのが望ましい。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「NFTの税務を専門の税理士に相談する」をご覧ください。
ガス代・NFT購入費のインボイス問題
【結論】暗号資産・NFT取引で発生するガス代やマーケットプレイス経由のNFT購入費には、原則としてインボイスが発行されない。課税事業者であってもこれらの支出について仕入税額控除を受けることが困難である。
NFTの取引が消費税の課税対象である以上、課税事業者がNFTを仕入れて転売する場合、本来はNFT購入費に含まれる消費税について仕入税額控除を受けたいところである。しかし実務上、以下の理由により控除が困難となるケースが多い。
ガス代(トランザクション手数料)
ガス代はブロックチェーンネットワークのバリデーターに支払う手数料であり、特定の事業者との取引ではない。インボイスの発行主体が存在せず、適格請求書の保存要件を満たすことができない。
マーケットプレイス経由のNFT購入
OpenSea等の海外マーケットプレイスで購入したNFTについては、売手がウォレットアドレスのみで特定される匿名取引であるため、インボイスの交付を受けることが事実上できない。国内のマーケットプレイスであっても、売手が免税事業者やインボイス未登録事業者である場合は同様に控除不可となる。
実務上の影響
この問題はNFTの二次流通で消費税の課税事業者に該当するトレーダーに直接影響する。NFT購入費について仕入税額控除を受けられないと、売上に係る消費税額がそのまま納税額に直結する。「NFTの消費税|一次・二次流通の内外判定とインボイス」の計算例(インボイスなしの場合の納税額780万円)が示すとおり、インボイスの有無による税負担の差は大きい。
経過措置の見直し(令和8年度税制改正大綱)
【結論】2割特例は令和8年分で終了するが、令和9年・10年分は個人事業者に限り売上税額の3割を納税額とできる措置が新設される。免税事業者からの仕入れに係る経過措置も適用期限が2年延長され、引下げペースが緩和される(令和8年度税制改正大綱)。
3割特例の新設(個人事業者のみ)
インボイス制度開始にあたり導入された2割特例(売上税額の2割を納税額とする経過措置)は、令和8(2026)年分をもって終了する。ただし令和8年度税制改正大綱により、個人事業者については令和9年・10年分の2年に限り、売上税額の3割を納税額とできる措置が講じられる予定である。
| 期間 | 納税額の計算 | 対象 |
|---|---|---|
| 令和5年10月〜令和8年12月 | 売上税額 × 20%(2割特例) | インボイス登録で課税事業者になった事業者 |
| 令和9年〜令和10年 | 売上税額 × 30%(3割特例) | 上記のうち個人事業者 |
| 令和11年〜 | 原則課税 or 簡易課税 | — |
NFTクリエイターが2割特例を利用してインボイス登録している場合、令和9年以降の負担増を見据えて、簡易課税の選択届出を事前に検討する必要がある。
免税事業者からの仕入れに係る経過措置の延長
課税事業者が免税事業者(インボイス未登録事業者)から仕入れた場合の経過措置についても、適用期限が2年延長され、引下げペースが緩和される。
| 期間 | 控除可能割合 |
|---|---|
| 令和5年10月〜令和8年9月 | 80% |
| 令和8年10月〜令和10年9月 | 70% |
| 令和10年10月〜令和12年9月 | 50% |
| 令和12年10月〜令和13年9月 | 30% |
| 令和13年10月〜 | 0%(経過措置終了) |
免税事業者ごとの年間適用上限仕入額は1億円に引き下げられる(現行10億円)。
この経過措置は、NFTの買手側が仕入税額控除を行う際に直接影響する。前述のとおりNFTの売手の多くはインボイス未登録であるため、買手が課税事業者であっても仕入税額控除は経過措置の割合に限定される。経過措置の終了後は控除がゼロとなり、NFTトレーダーの消費税負担がさらに増加する。
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産の売買だけならインボイス登録は不要か?
不要である。暗号資産の譲渡は消費税非課税であり、インボイスの有無は取引に影響しない(消費税法第6条第1項、消費税法別表第一第二号)。登録すると不要な消費税の申告・納付義務が発生するため、暗号資産の売買のみの事業者は登録しないのが合理的である。
Q2. NFTを転売しているがインボイス登録すべきか?
必要性は低い。NFTの取引は消費税の課税対象だが、BtoC取引が中心であり取引相手の特定も困難なため、インボイスを発行する機会が少ない。ただし、BtoB取引がある場合は個別に検討が必要である。
Q3. NFTクリエイターで年間売上が1,000万円を超えそうな場合はどうすべきか?
課税事業者の判断とインボイス登録は分けて考える。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えれば、インボイス登録の有無にかかわらず消費税の課税事業者となる(消費税法第9条)。その場合はインボイス登録も行うのが一般的だが、取引先との関係や簡易課税の適用可否を含めて税理士に相談するのが望ましい。
Q4. ガス代やNFT購入費の消費税は控除できないのか?
原則として困難である。ガス代はインボイスの発行主体が存在せず、海外マーケットプレイスでのNFT購入も売手の特定ができないため、仕入税額控除の要件を満たさない。免税事業者からの仕入れに係る経過措置の適用余地はあるが、売手のインボイス登録状況の確認自体が困難である。
Q5. 2割特例が終わった後はどうなるか?
令和9年・10年分は個人事業者に限り3割特例が適用される。その後は原則課税か簡易課税のいずれかを選択することになる(令和8年度税制改正大綱)。2割特例を利用中の場合は、令和8年中に簡易課税の選択届出の要否を検討すべきである。
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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 消費税法第6条第1項(非課税)
- 消費税法第9条(小規模事業者に係る納税義務の免除)
- 消費税法第30条(仕入れに係る消費税額の控除)
- 消費税法第57条の2(適格請求書発行事業者の登録)
- 消費税法第57条の4(適格請求書の交付義務)
- 消費税法別表第一第二号(非課税取引の範囲)
- 令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日)
