信託型トークンの税務処理(後編)では、前編で整理した売買型と預入型を前提に、部分解約・全額解約・損失ケースの具体的な仕訳と損益計算を確定する。内部取引が取得不能という制約下で、簿価管理が破綻しにくい実務設計の要点を示す。
売買型と預入型で最終累計損益は一致する。売買型は部分解約・損失確定とも通常の暗号資産売却と同一で実務安定性が高い。預入型は理論整合性が高いが、損失確定のための清算ルール設計が不可欠である。内部取引が取得不能という制約を考慮すると、簿価管理が破綻しにくい売買型が安定する。
- 理由① 売買型ではLBIに明確な取得原価が付くため、部分解約時は按分原価と受取額の差額で自然に損益が認識される。損失ケースでも通常の暗号資産売却損として確定する。
- 理由② 預入型では預入総額の返却割合で簿価を按分する。最終返還額が元本割れした場合の損失確定には、全額返還時に清算損益を計上する内部ルールの明文化が必要である。
- 条件 いずれの方式でも途中変更は不可である。内部取引が取得不能であるため、運用過程の損益は把握できず、返還時の受取額と拠出原価の差額で運用成果を確定する構造となる。
法人税法第22条第2項・第3項
この記事でわかること
- 部分解約の仕訳(売買型・預入型)
- 全額解約の仕訳(利益ケース・損失ケース)
- 最終累計損益の一致検証
- 期末を跨ぐ場合の処理
- 売買型と預入型の出口比較と実務設計の要点
前提条件|共通数値例(再掲)
【結論】前編と同一の数値例を使用する。売買型と預入型の両方で部分解約・全額解約の仕訳を示し、最終累計損益が一致することを検証する。
- 1,000USDC(取得原価100円/USDC、時価150円/USDC)を拠出
- 5LBI受領(時価不明)
- 内部売買は取得不可
売買型の拠出時簿価:LBI 150,000円(拠出時益金50,000円計上済み)
預入型の拠出時簿価:運用委託持分 100,000円(拠出時損益なし)
部分解約の処理
【結論】部分解約では売買型はLBI按分原価と受取額の差額で売却損益、預入型は預入総額の返却割合で簿価を按分し運用損益を計上する。
前提
5LBIのうち3LBIを返却し、500USDC(時価110円/USDC)を受領した。
受取額:500×110=55,000円
売買型
LBI拠出時簿価150,000円の3/5按分:90,000円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産(USDC) | 55,000 | 運用トークン(LBI) | 90,000 |
| 暗号資産売却損 | 35,000 |
通常の暗号資産売却損として処理する。
預入型
預入総額100,000円の3/5按分:60,000円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産(USDC) | 55,000 | 運用委託持分 | 60,000 |
| 運用損失 | 5,000 |
売買型と預入型の差異は「拠出時に時価で簿価を立てたかどうか」に起因する。売買型では拠出時に含み益50,000円を先取りしているため、部分解約時の損失が大きくなる。
全額解約の処理|利益ケース
【結論】残余の2LBIを返却して全額解約した場合、累計損益は売買型・預入型いずれも一致する。
前提
残り2LBIを返却し、600USDC(時価90円/USDC)を受領した。
受取額:600×90=54,000円
売買型
残存簿価:150,000−90,000=60,000円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産(USDC) | 54,000 | 運用トークン(LBI) | 60,000 |
| 暗号資産売却損 | 6,000 |
累計所得:拠出時+50,000、部分解約▲35,000、全額解約▲6,000=+9,000円
預入型
残存簿価:100,000−60,000=40,000円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 暗号資産(USDC) | 54,000 | 運用委託持分 | 40,000 |
| 運用益 | 14,000 |
累計所得:拠出時0、部分解約▲5,000、全額解約+14,000=+9,000円
最終累計の一致検証
| 時点 | 売買型 | 預入型 |
|---|---|---|
| 拠出時 | +50,000 | 0 |
| 部分解約 | ▲35,000 | ▲5,000 |
| 全額解約 | ▲6,000 | +14,000 |
| 累計 | +9,000 | +9,000 |
全額解約の処理|損失ケース
【結論】最終返還額が元本割れした場合でも、売買型では自然に損失が確定する。預入型では清算ルールに基づき損失を計上する。
前提(損失ケース)
残り2LBIを返却し、400USDC(時価90円/USDC)を受領した。
受取額:400×90=36,000円
返還総額:55,000+36,000=91,000円
預入原価:100,000円
最終損失:▲9,000円
売買型では通常の暗号資産売却損として自然に確定する。預入型では清算ルールに基づき「運用委託持分の残存簿価と受取額の差額」を運用損失として計上する。
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期末を跨ぐ場合の処理
【結論】LBIの時価が取得不能な場合、期末評価は原価据置が現実的である。運用損益は基本的に返還時に確定する構造となる。
法人税法第61条の5は活発な市場が存在する暗号資産を期末時価評価の対象とする。LBIが「活発な市場」の要件を満たさない場合は原価据置となり、期末に評価損益は発生しない。
したがって、売買型・預入型いずれにおいても、期末を跨ぐ場合は簿価据置のまま翌期に繰り越し、実際の返還時に損益を確定する。
売買型と預入型の出口比較
【結論】内部取引が取得不能という制約を考慮すると、簿価管理が破綻しにくい売買型が実務上安定する。預入型は理論整合性が高いが、清算ルール設計が不可欠である。
| 論点 | 売買型 | 預入型 |
|---|---|---|
| 部分解約 | 通常売却処理 | 按分精算 |
| 全額解約 | 残簿価との差額 | 総額精算 |
| 損失確定 | 自然に確定 | 清算設計が必要 |
| 実務安定性 | 高い | 中程度 |
| 理論整合性 | 中程度 | 高い |
信託型トークンは、内部取引が取得不能・運用過程が不透明・部分解約が頻発・時価不明トークンが存在するという制約がある。この前提下では、簿価管理が破綻しにくい設計が最優先であり、その観点では売買型が安定する。一方で、理論整合性を重視するなら預入型も十分成立する。
いずれの方式でも途中変更は不可であり、継続適用が最重要である。
よくある質問(FAQ)
Q1. 部分解約のたびに損益を認識する必要がありますか?
売買型では必要である。 部分解約のたびにLBI按分原価と受取額の差額で損益を認識する。預入型では部分解約時に損益を認識する方法と、全額返還時にまとめて認識する方法の両方が理論上成立するが、部分解約時に認識する方が管理上安定する。
Q2. 預入型で損失が確定しないリスクはどの程度深刻ですか?
清算ルールがなければ深刻である。 預入型では「交換が存在しない」ため、返還額が元本割れしても損失認識の根拠が曖昧になりうる。経理規程等で「全額返還時に清算損益を計上する」旨を明文化することで、このリスクは回避できる。
Q3. 信託型と流動性提供(LP)の税務処理の違いは何ですか?
内部取引の可視性が異なる。 LPではプールへの供給と解除がオンチェーンで追跡可能だが、信託型では内部の運用取引が取得不能である。この制約により、信託型では運用過程の損益を逐次把握できず、返還時に一括で運用成果を確定する構造となる。
Q4. 売買型と預入型の選択はLPや債権トークンと揃える必要がありますか?
揃えることが望ましいが、経済構造が異なるため異なる方式も論理的に説明可能である。 信託型は「運用委任」、LPは「プール持分」、債権トークンは「担保+償還請求権」であり、それぞれ経済実態が異なる。ただし同一法人内での一貫性は税務調査時に有利に働く。
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関係法令
- 法人税法第22条第2項(益金の額)
- 法人税法第22条第3項(損金の額)
- 法人税法第61条の5(暗号資産の期末評価)
