信託型トークン(運用委託型DeFi)とは、法人がUSDC等をdAppsに拠出し、運用トークン(LBI等)を受領する構造のDeFiプロトコルである。内部の自動売買は取得不能であり、税務処理は「拠出時」と「返還時」の外形事実のみで設計する必要がある。本前編では、売買型・貸付型・預入型の3パターンを比較し、拠出時の課税処理を整理する。
信託型トークンの拠出時処理は「売買型」「預入型」のいずれかで設計する。売買型は拠出を交換課税し実務安定性が高い。預入型は運用委任の経済実態に整合的だが、損失確定のための清算ルール設計が不可欠である。貸付型は帳簿構造が複雑で実務安定性が低い。
- 理由① 内部取引が取得不能であるため、運用過程の損益を逐次把握できない。税務処理は外形事実(拠出額と返還額)のみで設計する必要があり、拠出時の処理選択がその後の損益認識と損失処理の可否を決定づける。
- 理由② 売買型(法人税法第22条第2項)は拠出を暗号資産の交換とみなし、LBIに明確な取得原価が付く。部分解約・全額解約とも通常の暗号資産売却と同一の処理となり、実務安定性が高い。
- 条件 LBIの時価が取得不能な場合、期末評価は困難であり原価据置が現実的である。運用損益は基本的に返還時に確定する構造となる。
法人税法第22条第2項、法人税法第61条の5
この記事でわかること
- 信託型トークン(運用委託型DeFi)の取引構造
- 「内部取引が取得不能」という制約の税務的意味
- 売買型・貸付型・預入型の3パターン比較
- 拠出時の仕訳と方式選択の分岐点
- 期末評価の整理
信託型トークンの取引構造
【結論】信託型トークンはUSDC等の拠出→運用トークン(LBI等)の受領→返却でUSDCが返還される構造である。内部の自動売買は取得不能であり、この制約が税務処理設計の出発点となる。
観察可能な事実は以下の5点のみである。USDC等をdAppsへ拠出すること、LBIトークンを受領すること、dApps内部で自動売買が行われること(ただし内部取引は取得不可)、LBIを返却するとUSDCが返還されること、LBIの売買はオンチェーン履歴があること。
内部取引が取得できないという制約は、運用過程の損益を逐次把握できないことを意味する。したがって税務処理は「拠出時」と「返還時」の外形事実のみで設計せざるを得ない。
拠出時の3パターン比較
【結論】拠出時の処理は売買型・貸付型・預入型の3パターンが考えられるが、貸付型は帳簿構造が複雑で実務安定性が低いため、実質的には売買型と預入型の二択となる。
前提
1,000USDC(取得原価100円/USDC、時価150円/USDC)を拠出し、5LBI(時価不明)を受領した。
売買型(交換課税型)
USDC拠出をLBI取得との交換とみなす。法人税法第22条第2項の「資産の販売その他の取引」に該当する。
含み益:1,000×(150−100)=50,000円
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 運用トークン(LBI) | 150,000 | 暗号資産(USDC) | 100,000 |
| 暗号資産売却益 | 50,000 |
LBIに取得原価150,000円が付き、以後の解約処理が明確になる。
貸付型
USDC=貸付資産、LBI=借入暗号資産とみなす立場である。経済実態は資金運用委任であり元本回収可能性がある点を根拠とする。しかし、LBI時価が不明のため「借入0円問題」が発生し、期末評価の整合性が崩れやすく、部分解約時の帳簿処理も複雑となる。実務安定性は低いため、本シリーズでは主軸にしない。
預入型(ステーキング類似)
USDC拠出を預入(課税なし)、LBI受領も損益認識なしとする立場である。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 運用委託持分 | 100,000 | 暗号資産(USDC) | 100,000 |
所得:0。経済実態は「運用委任」であり、交換ではなく預入と見る余地は十分にある。
3パターンの比較
| 論点 | 売買型 | 貸付型 | 預入型 |
|---|---|---|---|
| 拠出時課税 | あり | あり(時価処理なら) | なし |
| LBI簿価 | 明確 | 不安定 | 原則なし |
| 部分解約 | 容易 | 複雑 | 按分必要 |
| 実務安定性 | 高い | 低い | 中程度 |
| 理論整合性 | 中程度 | 中程度 | 高い |
期末評価の整理
【結論】LBIの時価が取得不能な場合、期末評価は困難であり原価据置が現実的である。USDC自体は活発な市場があるため、保有していれば期末評価対象となる。
法人税法第61条の5は活発な市場が存在する暗号資産を期末時価評価の対象とする。LBIが「活発な市場」の要件を満たさない場合は原価据置処理となり、運用損益は返還時に確定する構造となる。
預入型の最大リスク|損失確定の設計
【結論】預入型を採用する場合、最終返還額が元本割れしたときに「交換が存在しない」ため損失認識が理論的に曖昧になるリスクがある。全額返還時に必ず清算損益を計上する内部ルールの明文化が不可欠である。
売買型であれば、LBIに取得原価が付いているため返還時に受取額との差額で自然に損失が認識される。預入型では「預入」と「返還」の差額として損失を認識するが、交換取引が存在しないため損失の根拠が曖昧になりうる。この問題を回避するため、預入型を採用するなら「全額返還時に必ず清算損益を計上する」という内部ルールを経理規程等で明文化する必要がある。
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よくある質問(FAQ)
Q1. LOCKON(LBI)以外にも信託型トークンはありますか?
ある。 インデックス型DeFi(複数の暗号資産をバスケット運用するもの)や自動リバランス型プロトコルが該当する。共通する特徴は「内部取引が取得不能」「拠出→運用トークン受領→返却で元本回収」という構造である。
Q2. 売買型を選んだ場合、USDCの含み益が拠出時に実現しますか?
実現する。 USDCの取得原価(100円/USDC)と拠出時時価(150円/USDC)の差額が交換課税の対象となる。拠出額が大きい場合は拠出時に相当額の益金が発生する点に留意が必要である。
Q3. 預入型で部分解約した場合の処理はどうなりますか?
後編で詳述するが、預入総額の返却割合で簿価を按分する。 例えば5LBIのうち3LBIを返却した場合、3/5の按分で簿価を消去し、受取額との差額を運用損益として処理する。
Q4. 信託型と債権トークン(#112〜#115)の違いは何ですか?
担保の使途が異なる。 債権トークンは「担保差入→債権トークン取得→元本+利息で回収」であり、担保は拘束されるのみである。信託型は「拠出→内部で自動運用→返還」であり、拠出した暗号資産は内部で売買される。内部取引が取得不能な点が信託型固有の制約である。
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関係法令
- 法人税法第22条第2項(益金の額)
- 法人税法第61条の5(暗号資産の期末評価)
