時価が不明な暗号資産は、実務上0円として取得価額を計上する。売却・交換時に受取額の全額が利益となる。
- 理由① 暗号資産は17,000種類を超えるが、CoinGecko等の価格サイトがカバーするのはその一部にすぎない。LPトークン・詐欺トークン・マイナーチェーンのトークンなど、市場価格を客観的に確認できないものが大量に存在する。
- 理由② 時価が確認できないエアドロップやNFTの受取は、取得時の時価を0円として処理する。この場合、後日売却・交換した時点で受取額の全額が所得として課税される。取得時に課税を免れるわけではなく、課税タイミングが売却時に後ろ倒しになる構造である。
- 条件 0円計上はあくまで「時価の合理的な算定が困難な場合」の実務対応であり、DEXで流動性があるトークンや、プロトコル上で価格が算出可能なトークンは時価算定を試みる必要がある。安易に0円処理すると過少申告のリスクがある。
所得税法第36条第1項
この記事でわかること
- 暗号資産の種類が17,000超に達している現状と、シンボル名だけでは特定できない理由
- CoinGecko API IDとコントラクトアドレスによるトークン特定の実務
- 時価不明トークンの0円計上の根拠と、交換時の課税関係
- スパムトークン(詐欺コイン)の判別方法と損益計算上の処理
- ラップドトークン・LPトークン等の時価把握が困難な理由
17,000超のトークンが存在する現状
【結論】暗号資産の種類はCoinGecko登録数だけでも17,000以上存在し、実際にはこれを遥かに上回る。シンボル名(ティッカー)が同一でも全く別の暗号資産であるケースが存在するため、シンボル名のみでトークンを特定して損益計算を行うことは不可能である(所得税法第36条第1項)。
具体例として「MONA」というシンボルがある。多くの日本人ユーザーが想起するのはモナーコイン(正式名称。モナコインとも呼ばれる)であるが、CoinGeckoに現在登録されている「MONA」は「Mona」という全く別の暗号資産である。時価も当然異なるため、混同すると損益額が実態と乖離する。
このような状況に対応するため、実務上は以下の方法でトークンを特定する。
| 特定方法 | 対象 | 具体例 |
|---|---|---|
| CoinGecko API ID | CoinGeckoに登録がある暗号資産(全体の約9割) | monacoin、bitcoin等 |
| チェーン情報+コントラクトアドレス(CA) | CoinGeckoに登録がない暗号資産 | evm_8453_0x07d15798a... |
| トークンアイコン画像・取引履歴等 | 上記いずれでも特定困難な場合 | スクリーンショット保存等 |
CoinGecko API IDは体感的に約9割の暗号資産で取得可能である。登録がない場合は、EVMチェーンかどうかの判定、チェーンID、コントラクトアドレスを組み合わせて表記する。ただし、コントラクトアドレスの確認は納税者本人には困難なケースも多く、税理士側で確認・記載することも多い。
時価不明トークンの0円計上
【結論】エアドロップ等で取得した暗号資産やNFTのうち、CoinGecko等の価格表示サイトに時価が掲載されていないものは、実務上、時価を0円として処理する。0円計上したトークンを後に交換等した場合は取得原価が0円のため、受取トークンの時価全額が利益となる(所得税法第36条第1項、FAQ1-6参照)。
0円計上の実務的根拠
価格表示サイトに掲載がなく時価を客観的に把握できないトークンについて、恣意的な金額を計上することは適切でない。そのため、時価不明のエアドロップ・NFTについては所得計算上0円として処理するのが実務上の対応である。
この処理は、暗号資産の分裂(ハードフォーク)で取得した新暗号資産について「分裂時点において取引相場が存しておらず、同時点では価値を有していなかったと考えられる」として取得価額を0円とする国税庁FAQの考え方(FAQ1-6)と軌を一にしている。
HYPEトークンの事例
2024年末に話題となったHYPEトークン(取引所が発行し、ミッション達成者に上場前にエアドロップされたトークン。上場後に価格が急騰し、エアドロップ分だけで1億円超となったユーザーも多数存在した)についても、上場前に受け取ったトークンはハードフォークの取扱いに準じて0円で処理する。
0円計上後に交換した場合の課税関係
0円計上したトークンを後に他の暗号資産と交換した場合、取得原価が0円のため、交換時に受け取ったトークンの時価が全額利益として計上される。
| 時点 | 処理 | 利益額 |
|---|---|---|
| エアドロップ受取時(時価不明) | 0円計上 | 0円 |
| 後日、他のトークンと交換 | 受取トークンの時価で利益計上 | 受取トークンの時価全額 |
NFTの時価不明ケース
エアドロップされるNFTには、アーティストが制作した作品だけでなく、単なるQRコード画像やバナー広告のような画像、クリスマスカードのような画像など多種多様なものが含まれる。常識的に考えて高値がつくとは思えないものがほとんどである。NFTアートのブームが去った現在では、実務上問題となるような高額NFTが無償で送付されることはほぼない。
ただし、高額なNFTをエアドロップで受け取ったように見せかけて翌年以降に換金するような節税スキームが横行する場合は、一定の金額で受取年の修正申告を行うべきである。
スパムトークン(詐欺コイン)の処理
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
【結論】納税者の意思とは無関係に送りつけられるスパムトークン(詐欺コイン)は、すべて0円計上するか、損益計算の対象から除外する処理を行う。スパムトークンの中にはコントラクトアドレスを偽装した悪質なものも存在するため、CAを確認して判別・除外する必要がある(所得税法第36条第1項)。
アドレスポイズニングの手口
スパムトークンの中でも特に悪質な手口として「アドレスポイズニング」がある。これは、ユーザーが暗号資産(例:ETH)を送金した直後に、同じシンボル名だがコントラクトアドレスが異なる偽トークンを他所に送金したという履歴を発生させるものである。
損益計算においては、コントラクトアドレスを確認して本物のトークンか否かを判別した上で、偽トークンの取引を損益計算の対象から除外する。
詐欺コインの類型
| 類型 | 手口 | 損益計算上の処理 |
|---|---|---|
| 価値のない詐欺コインの送付 | ウォレットに無価値トークンを送りつける | 0円計上または除外 |
| ダスティング攻撃 | 微量の暗号資産を送付→approve誘導→ウォレット内資産窃取 | 0円計上または除外 |
| アドレスポイズニング | 偽トークンの送金履歴を発生させる | CA確認の上で除外 |
| 微量の実トークン送付 | 100円以下(大半は1円以下)の実在トークンを送付 | 通常のエアドロップと同様に処理(税額への影響はほぼない) |
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時価把握が困難なトークンの種類
【結論】時価把握が困難なトークンは、CoinGecko未掲載のマイナートークンだけではない。チェーンごとに異なるラップドトークン、LPトークン、債権トークン等、プロトコル固有のトークンも時価データの取得が構造的に困難である(所得税法第36条第1項)。
ラップドトークンの問題
ラップドトークンと元の暗号資産は必ずしも時価が同一ではない(ほぼ同じ価格であることが多い)。チェーンごとにそのチェーンに合ったラップドトークンが発生するため、時価データの把握が困難なラップドトークンは無数に存在する。さらに、シンボル名ではラップドトークンかどうかを判別できないものもあり、LPトークンや債権トークンの存在も考慮すると、適切な処理はかなりの難事となる。
一般の納税者や税務署がチェーンごとのラップドトークンの期末数量を把握するのは困難である。
OTC取引のリスク
時価が不明確なトークンの取引においては、OTC取引(相対取引)で取引されるケースもある。OTC取引は取引所を介さないため、暗号資産を売却する側には脱税のリスクが、現金を出す側には反社会的組織等による資金洗浄(マネーロンダリング)の片棒を担がされるリスクがある。過去にはOTC取引で現金を受け取った後に強奪される事件も発生しており、取引相手によっては非常にリスクが高い。
よくある質問(FAQ)
Q1. 時価がわからない暗号資産を受け取った場合、いくらで申告すればよいですか?
0円で計上する。CoinGecko等の価格表示サイトに掲載がなく時価を客観的に把握できないトークンについては、実務上0円として処理する。後日交換等した時点で受取トークンの時価全額が利益となる(所得税法第36条第1項、FAQ1-6参照)。
Q2. スパムトークンが大量にウォレットに届いていますが、すべて申告する必要がありますか?
不要である。納税者の意思と無関係に送りつけられるスパムトークン(詐欺コイン)は、0円計上するか損益計算自体から除外して処理する。ただし、微量でも実際に価値のあるトークンが送られてくるケースがあり、その場合は通常のエアドロップと同様に処理する。
Q3. 同じシンボル名のトークンが複数ある場合、どうやって区別しますか?
CoinGecko API IDまたはコントラクトアドレス(CA)で特定する。シンボル名が同一でも別のトークンであるケースは多数存在する(例:MONA)。CoinGecko登録済みならAPI IDで、未登録ならチェーン情報+CAの組み合わせで正確に特定する。
Q4. 上場前に受け取ったエアドロップトークン(HYPE等)はどう処理しますか?
受取時点では0円で処理する。ハードフォーク(分裂)で取得した暗号資産と同様に、上場前で取引相場が存在しない時点では価値を有していなかったと考え、取得価額を0円とする(FAQ1-6準用)。上場後に売却した場合は、売却価額から取得原価0円を差し引いた全額が利益となる。
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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第36条第1項(収入金額)
- 所得税法第35条(雑所得)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」FAQ1-6(暗号資産の分裂により取得した場合)
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」FAQ1-7(マイニング・ステーキング・レンディング等)
