廃品回収サービスで暗号資産を1円売却すれば「引取価格−取得価額」の損失を確定できる。ただし低額譲渡の論点に注意が必要であり、廃品回収サービスの利用に関して国税庁の公式見解は出されていない。
- 理由① 価値がほぼゼロのトークンでも、保有し続ける限り損失は実現しない。廃品回収サービスによる売却は「譲渡」に該当するため、取得価額との差額を雑所得の計算上マイナスとして確定させる手段となり得る。
- 理由② 確定した損失は同年の他の暗号資産の利益と雑所得内で通算できる。年末に含み益のあるポジションを整理する前に、不要トークンの損失を先に確定させることで課税所得を圧縮する実務テクニックとして活用される。
- 条件 廃品回収サービスの利用による損失計上について国税庁の公式見解は出されていない。引取価格が時価と著しく乖離する場合は低額譲渡(所得税法第40条、所得税法施行令第87条第2項)に該当し得る。時価がほぼゼロであることの客観的な裏付け(スクリーンショット等)の保存が不可欠である。
所得税法第36条第1項・第40条 / 所得税法施行令第87条第2項
この記事でわかること
- 廃品回収サービスを利用した場合の所得金額の計算方法
- 低額譲渡に該当するかの判定基準(正しい根拠条文は第40条・令87条)
- セルフバーン・セルフGoxの損失計上が困難な法的理由
- NFTの廃品回収における注意点
- 法人が廃品回収を利用する場合の寄附金リスク
- 損失を計上する際に保存すべき証拠
廃品回収サービスの仕組みと課税関係
【結論】廃品回収サービスの利用は、暗号資産の「譲渡」に該当する。引取価格(1円など)が収入金額となり、取得価額との差額が所得金額(通常はマイナス=損失)となる(所得税法第36条第1項)。ただし、廃品回収サービスの利用に関する国税庁の公式見解は出されておらず、将来的に異なる取扱いが示される可能性がある点に留意が必要である。
廃品回収サービスでは、取引所で値段がつかなくなった暗号資産やNFTを、業者が少額(1円など)で買い取る。利用者にとっては、ウォレットに残った不要トークンを整理できるだけでなく、取得価額との差額を損失として確定申告に反映できる可能性がある。
税務上、この取引は通常の暗号資産の売却と同じ扱いとなり得る。収入金額は引取価格(1円など)、譲渡原価は取得時の価額で計算する。
所得金額の計算方法
【結論】所得金額は「引取価格 − 取得価額 × 譲渡数量」で算出する。取得価額が大きいほど損失額も大きくなる(所得税法第36条第1項、第37条第1項)。
計算例:TITANの廃品回収
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 購入日 | 2021年6月16日 |
| 購入価額 | 700万円(1TITAN=7,000円 × 1,000TITAN) |
| 廃品回収日 | 2021年12月31日 |
| 引取価格 | 1円(全数量を引取) |
1円 −(700万円 ÷ 1,000TITAN)× 1,000TITAN = △6,999,999円
| 計算要素 | 金額 |
|---|---|
| ①収入金額 | 1円 |
| ②1単位当たりの取得価額 | 7,000円 |
| ③譲渡数量 | 1,000TITAN |
| ④所得金額(①−②×③) | △6,999,999円 |
この損失は、同年の暗号資産取引の利益(雑所得内)と通算できる。ただし、雑所得の損失は給与所得や事業所得など他の所得区分とは損益通算できない(所得税法第69条第1項)。
低額譲渡に該当するかの判定
【結論】廃品回収に出す暗号資産は通常、取引所で値段がつかない(時価がほぼ0円)ものであるため、低額譲渡に該当する可能性は低い。ただし「廃品回収サービスに出す=低額譲渡に該当しない」とは限らない点に注意が必要である。暗号資産の低額譲渡の根拠条文は所得税法第40条及び所得税法施行令第87条第2項であり、閾値は時価の70%である。
根拠条文の整理|第59条ではなく第40条
暗号資産の低額譲渡に適用される条文を正確に整理する。ネット上の記事の多くが所得税法第59条を根拠として引用しているが、これは暗号資産には直接適用されない。
| 条文 | 対象 | 閾値 | 暗号資産への適用 |
|---|---|---|---|
| 所得税法第59条 | 譲渡所得の基因となる資産の低額譲渡 | 時価の2分の1(50%)未満 | 原則として適用されない。暗号資産の所得は原則として雑所得であり、「譲渡所得の基因となる資産」に該当しないため |
| 所得税法第40条 | たな卸資産等(事業所得・雑所得の基因となる資産を含む)の低額譲渡 | 時価の70%未満 | 適用される。暗号資産は雑所得の基因となる資産であるため、第40条・令87条第2項の射程に入る |
所得税法第40条は、たな卸資産等を時価の70%相当額に満たない価額で譲渡した場合、時価の70%相当額を収入金額とみなす規定である(所得税法施行令第87条第2項)。暗号資産は雑所得の基因となる資産に該当するため、第59条ではなく第40条が適用される。低額譲渡の閾値と具体的な計算方法は「暗号資産の贈与・低額譲渡の税金」で解説している。
注意:所得税法第59条は「譲渡所得の基因となる資産」に限定されており、暗号資産(原則として雑所得)には直接適用されない。NFTのように譲渡所得に区分されるケースでは第59条が適用される場合がある。
廃品回収サービスにおける低額譲渡の判定
廃品回収に出すトークンは、そもそも市場で値段がつかないものがほとんどである。時価が0円(またはそれに近い金額)であれば、1円での引取りは「時価の70%未満」に該当しないため、低額譲渡の問題は生じない。
一方、まだ取引所で一定の価格がついている暗号資産を廃品回収サービスに出した場合は、低額譲渡の判定が必要になる。時価がほぼゼロであることを立証するために、廃品回収に出す時点での取引所の価格画面やマーケットプレイスの取引停止画面のスクリーンショットを保存しておくことが不可欠である。
セルフバーンとセルフGoxの損失計上が困難な法的理由
【結論】セルフバーン(バーンアドレスへの送付)やセルフGox(誤送金による喪失)による損失は、税務上「譲渡損失」として認められる可能性が極めて低い。最大の理由は、個人の暗号資産取引が原則として「雑所得」に区分されるため、資産の滅失による損失の必要経費算入が法的に制限されている点にある(所得税法第51条第4項)。
| 処分方法 | 税務上の形式 | 損失計上の可否 |
|---|---|---|
| 廃品回収サービス(1円売却) | 第三者への譲渡 | 「譲渡損失」として計上できる可能性がある(ただし国税庁の公式見解なし) |
| セルフバーン(バーンアドレスへの送付) | 自発的な滅失 | 極めて困難。「譲渡」に該当せず、雑所得の資産損失の必要経費算入は制限的(第51条第4項) |
| セルフGox(誤送金) | 過失による喪失 | 極めて困難。「譲渡」に該当せず、自発的行為による損失は必要経費に算入しがたい |
所得税法第51条第4項は、雑所得を生ずべき業務の用に供される資産の損失について、その年の雑所得の金額を限度として必要経費に算入できる旨を定めている。しかし、単なる投資目的で保有する暗号資産が「業務の用に供される資産」に該当するかは明確ではなく、自分で意図的に消滅させた場合はなおさら認められにくい。なお、第三者による盗難・詐欺による損失の税務処理は「暗号資産の詐欺・盗難と雑損控除」で解説している。
損失を確実に税務上活用したい場合は、セルフバーンやセルフGoxではなく、廃品回収サービスや第三者への少額売却によって「譲渡」の形式を整える方が税務上の安全性は高い。ただし、廃品回収サービス自体についても国税庁の公式見解が出されていないことは認識しておく必要がある。
実務上の注意点
【結論】廃品回収による損失計上には、低額譲渡以外にも「損失の性質に関するリスク」「法人の寄附金リスク」「証拠保全の必要性」という実務上の論点がある。
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損失の性質に関するリスク
廃品回収で計上した損失について、税務調査で以下の指摘を受ける可能性がある。
- 詐欺損失・資産損失としての認定:廃品回収による「譲渡損失」ではなく、それ以前の詐欺や価値喪失による「資産損失」として認定された場合、雑所得の必要経費への算入が制限される(所得税法第51条第4項)
- 租税回避の否認:損失を意図的に作り出す目的で廃品回収サービスを利用したと認定された場合、否認規定の適用を受ける可能性がある
法人が廃品回収を利用する場合の寄附金リスク
法人が保有する暗号資産を廃品回収サービスで1円売却した場合、時価と引取価格の差額が「寄附金」に該当する可能性がある(法人税法第37条)。法人の場合は個人の低額譲渡(第40条)ではなく、寄附金の損金算入限度額の制限が問題となる。
法人がこのリスクを回避するためには、廃品回収に出す暗号資産の時価がほぼゼロであることを客観的に証明する必要がある。取引所での最終取引価格、マーケットプレイスでの取引停止日時、プロジェクト終了の公式アナウンス等のスクリーンショットを保存しておくことが防衛策となる。時価の証明ができなければ、帳簿価額と引取価格の差額全額が寄附金として損金不算入となるリスクがある。
証拠保全のチェックリスト
| 保存すべき証拠 | 理由 |
|---|---|
| 廃品回収時点の取引所・DEXでの価格画面のスクリーンショット | 時価がほぼゼロであることの立証(低額譲渡・寄附金リスクの回避) |
| 廃品回収サービスの取引履歴(引取価格・日時・トークン名・数量) | 譲渡の事実と収入金額の立証 |
| プロジェクト終了の公式アナウンスやウェブサイト閉鎖のスクリーンショット | トークンに価値がないことの客観的裏付け |
| オンチェーンのトランザクション記録(TxID) | 譲渡が実際に行われたことの証明 |
NFTの廃品回収
NFTの廃品回収サービスを利用して、保有するNFTを1円などの低額で業者に引き取ってもらう場合も、暗号資産の場合と同様の課税関係となり得る。廃品回収に出すようなNFTは通常、時価がないことがほとんどであるため、低額譲渡に該当する可能性は低い。ただし、詐欺損失・資産損失として認定されるリスク、および法人の寄附金リスクについては同様に留意が必要である。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 廃品回収サービスで損失を出して、他の暗号資産の利益と相殺できますか?
同じ年の雑所得内であれば通算できる可能性がある。ただし、廃品回収サービスの利用による損失計上について国税庁の公式見解は出されておらず、税務調査で「譲渡損失」ではなく「資産損失」として認定された場合は通算が制限される可能性がある。また、雑所得の損失は給与所得など他の所得区分とは損益通算できない(所得税法第69条第1項)。
Q2. 廃品回収サービスを使わず、自分でバーンアドレスに送れば同じ効果がありますか?
損失として認められる可能性は極めて低い。セルフバーンは「譲渡」ではなく自発的な「滅失」であり、雑所得の基因となる資産の滅失損失は必要経費算入が法的に制限されている(所得税法第51条第4項)。単なる投資目的のトークンを自分で消滅させた場合、「ただ資産が消えただけ」として否認されるリスクが極めて高い。損失を税務上活用したい場合は、第三者への売却によって「譲渡」の形式を整える方が安全性は高い。
Q3. まだ取引所で少額の価格がついているトークンを廃品回収に出しても問題ありませんか?
低額譲渡の判定が必要になる。引取価格が時価の70%相当額に満たない場合、時価の70%相当額が収入金額とみなされる可能性がある(所得税法第40条、所得税法施行令第87条第2項)。時価がほぼゼロであることを立証するために、廃品回収時点の取引所の価格画面やプロジェクト終了のアナウンスのスクリーンショットを必ず保存しておくこと。
Q4. NFTも廃品回収サービスで処分できますか?
利用は可能であり、暗号資産と同様の課税関係となり得る。廃品回収に出すようなNFTは通常時価がないため、低額譲渡に該当する可能性は低い。ただし、NFTが譲渡所得に区分される場合は、低額譲渡の根拠条文が所得税法第40条ではなく第59条(閾値:時価の2分の1未満)となる点に注意が必要である。
Q5. 法人が廃品回収サービスを利用する場合、追加のリスクはありますか?
寄附金認定のリスクがある。法人が暗号資産を時価よりも著しく低い価額で譲渡した場合、時価と引取価格の差額が「寄附金」として損金算入を制限される可能性がある(法人税法第37条)。このリスクを回避するには、廃品回収に出す暗号資産の時価がほぼゼロであることを客観的に証明する証拠(取引所の価格画面のスクリーンショット、プロジェクト終了のアナウンス等)を保存しておく必要がある。
Q6. 廃品回収の損失計上は国税庁に認められた方法ですか?
国税庁の公式見解は出されていない。廃品回収サービスの利用による損失計上について国税庁がその可否を公式に示した事例は確認されていない。廃品回収による売却が「通常の譲渡」として認められるか、「租税回避目的の取引」として否認されるかは個別の事実関係による。限界事例の判断は税理士に相談すべきである。
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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第36条第1項(収入金額)
- 所得税法第37条第1項(必要経費)
- 所得税法第40条(たな卸資産等の贈与等の場合の総収入金額算入)
- 所得税法第51条第4項(雑所得の基因となる資産の損失)
- 所得税法第59条第1項(譲渡所得の基因となる資産の低額譲渡)
- 所得税法第69条第1項(損益通算の制限)
- 所得税法施行令第87条第2項(たな卸資産等の低額譲渡の基準=時価の70%)
- 所得税法施行令第169条(譲渡所得の基因となる資産の低額譲渡の基準=時価の2分の1)
- 法人税法第37条(寄附金の損金不算入)
- 国税庁FAQ 2-10(暗号資産を低額(無償)譲渡等した場合の取扱い)
- 国税庁FAQ 2-11(暗号資産取引で損失が生じた場合の取扱い)
