暗号資産を法人に移転する方法は「現物出資」と「売買」の2パターンがあるが、いずれも個人側で譲渡課税が発生する。法人化=課税繰延べにはならない。
- 理由① 現物出資でも売買でも、個人から法人への暗号資産の移転は所得税法上「譲渡」に該当し、移転時の時価と取得価額の差額に所得税が課される。含み益が大きいほど移転時の税負担が重くなるため、法人化のタイミングは含み益の状況を踏まえた判断が必要。
- 理由② 出資を受けた法人側は資本等取引に該当するため課税されない。売買の場合は法人が取得価額を時価で計上し、代金は役員借入金として処理する。法人側の税務処理は移転方法で異なるが、個人側の譲渡課税は同じである。
- 条件 DeFi上のポジション(LP・ステーキング等)は法人への「移転」が技術的に困難なケースがある。ウォレットの秘密鍵を法人管理に切り替える方法や、一度解除して法人ウォレットで再構築する方法があるが、解除時に課税イベントが発生し得る点に注意が必要。
所得税法第36条 / 所得税法第40条 / 法人税法第2条第16号・第22条第2項・第5項
この記事でわかること
- 暗号資産の法人への移転方法(現物出資と売買)の課税関係
- 現物出資における収入金額の計算と低額譲渡リスク
- 売買(役員借入金)スキームの契約書作成のポイント
- 役員借入金の返済条件・利息設定・相続税リスク
- 同族会社との取引における行為計算否認リスク
- 暗号資産法人設立の判断において押さえるべきリスク
現物出資による暗号資産の法人移転
【結論】個人が暗号資産を法人に現物出資した場合、資産の譲渡として所得税の課税対象となる。収入金額は出資した暗号資産の時価ではなく、現物出資により取得した株式や出資持分の時価である(所得税法第36条)。出資を受けた法人側は資本等取引に該当し法人税は課税されない(法人税法第2条第16号、第22条第2項・第5項)。
現物出資の課税関係
個人が法人に暗号資産を現物出資した場合の課税関係は以下のとおりである。
| 対象 | 税務処理 |
|---|---|
| 個人(出資者) | 資産の譲渡として所得税の課税対象。収入金額=取得した株式・出資持分の時価 |
| 法人(被出資者) | 資本等取引に該当し、法人税は課税されない |
収入金額の算定
現物出資をした個人の収入金額は、「出資した暗号資産の時価」ではなく、「現物出資により取得した株式や出資持分の時価」となる。実質的には、出資した暗号資産の出資時における時価が、取得する株式・出資持分の時価に影響を与えるため、両者はほぼ一致することが多い。
所得金額の計算式
所得金額 = 取得した株式の時価 − 出資した暗号資産の取得原価
低額譲渡リスク
取得した株式等の価額が、出資した暗号資産の価額と比較して著しく低額である場合は、低額譲渡に該当する可能性がある。暗号資産は「棚卸資産に準ずる資産」(所得税法施行令第87条)に該当するため、低額譲渡の判定基準は時価の70%相当額未満であり、該当した場合は時価の70%相当額を収入金額として計算する(所得税法第40条、所得税基本通達40-2、40-3、国税庁FAQ 2-10)。
なお、不動産や株式などの「譲渡所得の基因となる資産」を法人に低額譲渡した場合は、所得税法第59条・所得税法施行令第169条により「時価の2分の1未満」が基準となるが、暗号資産は令和8年時点では原則、譲渡所得の基因となる資産ではないため、この2分の1基準は適用されない。
| 資産の種類 | 低額譲渡の基準 | 根拠 |
|---|---|---|
| 不動産・株式等(譲渡所得の基因となる資産) | 時価の1/2未満 | 所法59条・所令169条 |
| 暗号資産(棚卸資産に準ずる資産) | 時価の70%未満 | 所法40条・所基通40-2 |
同族会社との取引における行為計算否認リスク
暗号資産を自身が経営する法人(同族会社)に売却する場合、時価の70%以上に設定していても、税務署長が「税負担を不当に減少させている」と認定すれば、時価100%で所得を再計算される可能性がある(所得税法第157条)。
所得税法第157条は資産の種類を問わず適用される一般的な租税回避否認規定であり、暗号資産の取引であっても射程に入る。70%ラインはあくまで「所得税法第40条のみなし譲渡が発動しない最低ライン」であって、「適正な価額」とは限らない。同族会社との暗号資産売買においては、時価100%での取引を原則と考えるべきである。
売買(役員借入金)による暗号資産の法人移転
【結論】現物出資にこだわらず、個人が保有する暗号資産を自身が経営する法人に売却し、売買代金を「役員借入金」として処理する方法もある。この場合も個人側で暗号資産の譲渡として所得税が課税される(所得税法第36条)。税務調査で厳しく見られる論点であり、適正な売買契約書の作成が必須である。
スキームの仕組み
個人が暗号資産を法人に売却し、その売買代金の支払いを「役員借入金(法人が社長からお金を借りている状態)」として処理する方法である。法人に売却資金(現金)がなくても暗号資産の移転が可能になる。
| ステップ | 処理内容 |
|---|---|
| ① 売買契約 | 個人と法人で暗号資産売買契約書を締結 |
| ② 暗号資産の移転 | 個人のウォレット・取引所口座→法人のウォレット・取引所口座へ送金 |
| ③ 代金処理 | 売買代金を役員借入金に振替 |
| ④ 個人の確定申告 | 個人側で暗号資産の譲渡として雑所得を申告・納税 |
売買契約書に記載すべき4項目
税務署に対して「適正な売買と金銭の貸借である」と客観的に証明するため、以下の4項目を売買契約書に必ず記載する。
1. 譲渡する暗号資産の特定
暗号資産の種類と数量を明確にする。送金元(個人)と送金先(法人)のウォレットアドレスも別紙や条項に記載しておくと、ブロックチェーン上のトランザクションとの紐付けが確実になる。
2. 譲渡価額(売買金額)の明記【最重要】
売買代金は「譲渡を実行した時点の時価(日本円)」で記載する。恣意的な価格(購入時の価格やキリの良い数字等)で売買すると、適正な時価との差額に対して法人税(受贈益)や個人の所得税が課税されるリスクがある。譲渡の瞬間の取引所レートのスクリーンショットを印刷し、契約書と一緒に保管する。
3. 代金の決済方法(役員借入金とする旨)
現金のやり取りがないため、「売買代金の支払債務を役員借入金に振り替える」旨を明記する。金額が大きい場合や返済期間が長期にわたる場合は、別途「金銭消費貸借契約書」を作成するか、売買契約書内に返済期日・利息条件を明記する。
4. 譲渡日(引き渡し日)
法人のウォレット・取引所口座へ暗号資産を実際に送金・移転した日を記載する。契約書の日付と、ブロックチェーン上のトランザクション履歴の日付・数量が一致している必要がある。
注意:社長個人と自身の法人との間の暗号資産の売買は、会社法上の「利益相反取引」(会社法第356条第1項第2号)に該当する。売買契約の締結にあたっては、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)の承認決議が必要であり、議事録を作成・保存する必要がある。税務調査では、契約書だけでなく適法な承認決議(議事録)が存在するかによって、その取引が後付けの仮装ではなく適正なものかを判断されるため、必ず売買の実行前に決議を済ませておく。
役員借入金の返済条件
| 項目 | 推奨設定 | 理由 |
|---|---|---|
| 返済期日 | 期限の定めなし、または5〜10年の長期 | 法人設立直後は現金がないため、無理な返済スケジュールは契約違反状態を生む |
| 利息 | 無利息(0%) | 利息を設定すると個人側で雑所得が発生し納税の手間が増える。会社が社長から借りる場合、無利息で問題ない |
| 返済方法 | 法人の資金繰りに応じて随時返済 | 法人が暗号資産を売却して日本円キャッシュが潤沢になったタイミングで返済する |
無利息で借り入れた場合、法人側では適正利息相当額の「受贈益」(益金)が計上されると同時に、同額が「支払利息」(損金)として算入され相殺されるため、結果的に法人税の課税所得には影響しない。したがって、役員からの借入を無利息としても法人側に追加の税負担は生じない。契約書に「本件借入金は無利息とする」と明記する。
税務上の落とし穴
個人の確定申告が必須
法人への売却時点で個人側に暗号資産の利確と同じ課税が発生する。役員借入金として処理したため手元に現金は入らないが、雑所得として利益の計算と納税が必要である。
実態の伴わない譲渡は否認される
契約書を作成しても、暗号資産の保管場所が個人のウォレットや取引所口座のままであれば、「法人の所有になっていない」とみなされる。必ず法人名義の取引所口座または法人用ウォレットへ移管する。
相続税リスク
役員借入金が残ったまま社長に万一のことがあった場合、借入金の残額が個人の相続財産(法人に対する貸付金債権)として評価され、遺族に相続税がかかる。法人の業績が安定したら、役員報酬を低めに抑えつつ借入金を計画的に返済して残高を減らすのがセオリーである。
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法人設立の判断におけるリスク
【結論】暗号資産・NFTは時価の変動が激しく、翌年以降も継続して安定した利益を出し続けられるかを予測することは難しい。単年の利益のみを見て法人設立を行うことはリスクが高く、期末時価評価や制度改正(分離課税化)の動向まで含めて慎重に判断する必要がある(法人税法第61条第2項)。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 時価変動リスク | 翌年以降の利益が継続する保証がなく、法人設立コスト(設立費用・維持費用・社会保険料等)が利益を上回る可能性がある |
| 期末時価評価 | 法人は保有する暗号資産について期末時価評価が必要であり、含み益に対しても法人税が課税される(法人税法第61条第2項) |
| 分離課税化の影響 | 令和8年度税制改正大綱で特定暗号資産の所得に20%の分離課税が示されており(金商法改正が前提、施行時期未定)、個人の税率が下がれば法人化メリットは縮小する |
よくある質問(FAQ)
Q1. 現物出資と売買、どちらが有利ですか?
ケースによる。いずれも個人側で暗号資産の譲渡として所得税が課税される点は同じである(所得税法第36条)。現物出資は定款の変更や裁判所の検査役選任が必要になる場合があり手続が煩雑なため、実務上は売買(役員借入金)スキームが多く用いられる。
Q2. 暗号資産を法人に移した時点で個人に税金がかかりますか?
かかる。現物出資・売買のいずれの方法でも、個人から法人へ暗号資産を移転した時点で個人側に暗号資産の譲渡として所得税が課税される(所得税法第36条)。現金が手元に入らなくても課税される。
Q3. DeFiで運用している暗号資産も法人に移せますか?
移せるが注意が必要である。DeFiプロトコルに預入中のトークンは一度引き出してから法人のウォレットに送金する。LPトークンや債権トークンの時価評価が複雑になるため、移転時の時価の根拠資料(スクリーンショット等)を確実に保管する。法人で保有した場合は期末時価評価の対象となる(法人税法第61条第2項)。
Q4. 役員借入金に利息をつけなくても問題ありませんか?
問題ない。会社が役員から借入れを行う場合、無利息でも税務上の問題は生じない。法人側では適正利息相当額の受贈益と支払利息が相殺されるため、課税所得への影響はない。契約書に「本件借入金は無利息とする」と明記する。
Q5. 暗号資産を法人に時価の70%で売却すれば問題ありませんか?
所得税法第40条上のみなし譲渡は発動しないが、それだけでは安全とは言えない。自身が経営する法人(同族会社)との取引では、時価の70%以上であっても、税務署長が「税負担を不当に減少させている」と判断すれば、所得税法第157条(同族会社等の行為又は計算の否認)により時価100%で所得が再計算される可能性がある。同族会社への売却は時価100%を原則と考えるべきである。
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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 会社法第356条第1項第2号(利益相反取引の承認)
- 所得税法第36条(収入金額)
- 所得税法第40条(たな卸資産等の贈与等の場合の総収入金額算入)
- 所得税法第157条(同族会社等の行為又は計算の否認)
- 所得税法施行令第87条(棚卸資産に準ずる資産の範囲)
- 所得税基本通達40-2、40-3(低額譲渡の判定基準)
- 法人税法第2条第17号(資本等取引の定義)
- 法人税法第22条第2項・第5項(益金・損金算入)
- 法人税法第61条第2項(期末時価評価)
- 国税庁FAQ 2-10(暗号資産の低額譲渡の取扱い)
- タックスアンサーNo.3117(現物出資の税務)
