年間取引報告書は国内取引所の現物取引のみを行っている場合に有効な簡便計算ツールである。DeFi・海外取引所を利用している場合はこの報告書だけでは所得計算が完結しない。
- 理由① 報告書の数値を国税庁の「暗号資産の計算書」に転記するだけで総平均法による年間所得が算出できる。取引履歴を1件ずつ集計する必要がなく、国内現物取引のみのユーザーにとっては最も手間の少ない計算方法である。
- 理由② 報告書には国内取引所内の取引しか反映されない。DeFi・海外取引所・ウォレット間送金・エアドロップ等の取引は一切含まれないため、これらがある場合は取引履歴(CSV)ベースで全取引を統合した計算が必要となる。
- 条件 複数の国内取引所を利用している場合、各取引所の報告書を合算して計算する必要がある。取引所ごとに別々に計算すると総平均法の取得単価が正しく算出されず、所得金額に誤差が生じる。
国税庁FAQ 2-8・2-9
この記事でわかること
- 年間取引報告書に記載される10項目の意味と読み方
- 国税庁の計算書を使った所得金額の計算手順(具体例付き)
- 年間取引報告書が使えるケースと使えないケース
- 20万円以下の申告不要制度の条件と住民税の注意点
- 必要経費として控除できる費用の範囲
年間取引報告書の記載項目
【結論】年間取引報告書には、暗号資産の種類ごとに年始数量・年中購入数量と金額・年中売却数量と金額・移入出数量・年末数量・証拠金取引の損益・支払手数料の10項目が記載される(国税庁FAQ2-9)。
国内の暗号資産交換業者は、対象年の1月1日から12月31日までの取引内容を集計し、利用者に年間取引報告書を交付する。記載項目は以下のとおりである。
| # | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| ① | 年始数量 | 1月1日現在の保有数量 |
| ② | 年中購入数量 | 年中に購入した数量 |
| ③ | 年中購入金額 | 年中に購入した金額(取得価額) |
| ④ | 年中売却数量 | 年中に売却した数量 |
| ⑤ | 年中売却金額 | 年中に売却した金額 |
| ⑥ | 移入数量 | 購入以外で口座に受け入れた数量(他の取引所やウォレットからの送金等) |
| ⑦ | 移出数量 | 売却以外で口座から払い出した数量(他の取引所やウォレットへの送金等) |
| ⑧ | 年末数量 | 12月31日現在の保有数量 |
| ⑨ | 損益合計 | 証拠金取引の損益合計額 |
| ⑩ | 支払手数料 | 業者に支払った手数料 |
年間取引報告書を使った所得計算の手順
【結論】国税庁がホームページで提供する「暗号資産の計算書(総平均法用)」に年間取引報告書の指定項目を入力すると、年間の所得金額を算出できる。複数の取引所を利用している場合は、すべての取引所の数値を合算して計算する(国税庁FAQ2-8)。
手順
- 利用しているすべての国内取引所から年間取引報告書を取得する
- 国税庁の「暗号資産の計算書(総平均法用)」をダウンロードする
- 暗号資産の種類ごとに、各取引所の年間取引報告書の数値を計算書に入力する
- 前年以前から取引がある場合は、前年末の保有数量・金額を「年始残高」欄に入力する
計算例(BTC:A取引所+B取引所の合算)
| 項目 | 金額・数量 |
|---|---|
| 年中購入数量 | 6.5 BTC |
| 年中購入金額 | 4,037,800円 |
| 年中売却数量 | 5.0 BTC |
| 年中売却金額 | 5,295,000円 |
計算過程:
総平均単価 = 年中購入金額 ÷ 年中購入数量
= 4,037,800円 ÷ 6.5 BTC
= 621,200円/BTC
譲渡原価 = 総平均単価 × 年中売却数量
= 621,200円 × 5.0 BTC
= 3,106,000円
所得金額 = 年中売却金額 − 譲渡原価
= 5,295,000円 − 3,106,000円
= 2,189,000円
この2,189,000円が暗号資産取引による年間の所得金額となる。ここからさらに必要経費を差し引く。
必要経費と所得控除
【結論】算出された所得金額から、暗号資産取引のために直接要した費用(インターネット回線料、PC購入費等)を必要経費として控除できる。ただし私用との兼用部分は合理的な基準で按分が必要である(所得税法第37条第1項)。
必要経費として控除できるのは、暗号資産取引のために直接要した費用である。
- 暗号資産取引のためのインターネット回線利用料
- 暗号資産取引に使用するパソコン等の購入費用
- 取引手数料(年間取引報告書の「支払手数料」に含まれない外部手数料等)
自宅の私用パソコンで暗号資産取引を行っている場合のように、個人的な支出と取引費用が混在する場合は、使用時間比率などの合理的な基準で按分し、取引に係る部分のみを経費として計上する。按分基準の妥当性について税務署との折衝になる場合もあるため、判断に迷う場合は税理士への相談を推奨する。経費の詳細は、暗号資産の経費にできるもの一覧|必要経費の範囲と具体例でも解説している。
経費控除後、基礎控除・配偶者控除・扶養控除・医療費控除・寄附金控除(ふるさと納税等)などの各種所得控除を差し引き、累進税率を適用して所得税額を算出する。
実務上の注意点
【結論】年間取引報告書による簡易計算は国内取引所の現物取引のみのユーザーに適している。DeFiや海外取引所を利用している場合は取引履歴(CSV等の生データ)をベースに損益計算ソフトで計算する必要がある。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
年間取引報告書が適しているケース
- 国内取引所のみで現物売買を行っている
- 取引の種類がシンプル(購入→売却のみ)
- 暗号資産の種類が少ない
年間取引報告書では対応できないケース
- DeFi(流動性提供・ステーキング・レンディング等)を利用している
- 海外取引所を利用している
- 暗号資産同士の交換を頻繁に行っている
- ウォレット間の送金が多い
暗号資産専門の税理士が介在する損益計算実務では、取引所からダウンロードした取引履歴(CSV等の生データ)を損益計算ソフトに取り込んで計算する。PDF形式の年間取引報告書は基本的に使用しないことが多い。
20万円以下の申告不要制度
給与所得者の場合、給与所得以外の所得(暗号資産の利益など)が年間20万円以下であれば、所得税の確定申告が不要となる(所得税法第121条第1項)。ただし以下の点に注意が必要である。
- 還付申告を行う場合は対象外:医療費控除やふるさと納税の寄附金控除の適用を受けるために還付申告をする場合は、20万円以下の暗号資産所得も併せて申告する必要がある
- 住民税には適用されない:この申告不要制度は所得税(国税)のみの特例であり、住民税(地方税)にはこの制度がない。20万円以下であっても、原則として市区町村への住民税申告が必要となる
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 年間取引報告書はどこで入手できますか?
利用している国内の暗号資産交換業者から取得する。多くの取引所ではマイページからPDFまたはCSV形式でダウンロードできる。手元にない場合は取引所に再交付を依頼する(国税庁FAQ2-7)。
Q2. 前年以前の年間取引報告書がない場合はどうすればよいですか?
取引所に再交付を依頼する。それでも取得できない場合、売却価額の5%を取得価額とする概算法(5%ルール)が認められている(所得税基本通達48の2-4)。ただしこの方法は取得価額が実態より低くなることが多く、税額が増加する可能性がある。
Q3. 複数の取引所を利用している場合、年間取引報告書はどう使いますか?
すべての取引所の年間取引報告書を取得し、暗号資産の種類ごとに数値を合算して計算する。国税庁の「暗号資産の計算書」にはA取引所・B取引所のように複数の取引所の数値を入力する欄がある(国税庁FAQ2-8)。
Q4. 20万円以下なら確定申告しなくてよいですか?
所得税については、給与所得者で給与所得以外の所得が年間20万円以下であれば申告不要である(所得税法第121条第1項)。ただし、住民税にはこの制度がないため、20万円以下でも市区町村への住民税申告は原則として必要となる。また、医療費控除等で還付申告をする場合は20万円以下の所得も併せて申告が必要である。
Q5. 年間取引報告書と取引履歴(CSV)は何が違いますか?
年間取引報告書は年間の集計データ(購入合計・売却合計等)であり、取引履歴は個々の取引の明細データである。損益計算ソフト(Cryptorch等)を利用する場合は、個々の取引を正確に処理するために取引履歴(CSV)が必要であり、年間取引報告書では対応できない。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第36条第1項(収入金額)、第37条第1項(必要経費)、第121条第1項(確定申告不要制度)
- 所得税基本通達48の2-4(取得価額が不明な場合の概算)
- 国税庁FAQ2-7、FAQ2-8、FAQ2-9
