暗号資産を一般社団法人やNPO法人に移しても、相続税・贈与税の回避はできない。
- 理由① 平成30年度税制改正で相続税法第66条の2が創設され、親族で実質支配する一般社団法人(特定一般社団法人等)の理事が死亡した場合、法人の純資産額に基づき相続税が課される。法人に資産を移す「器」の意味がなくなった。
- 理由② 暗号資産の移転時点でも課税が発生する。個人から法人への移転は所得税法上の時価譲渡となり、法人側では受贈益として法人税が課される。さらに相続税法第66条第4項により贈与税が課される場合もある。
相続税法第66条の2、同法第66条第4項 / 所得税法第36条第1項
この記事でわかること
- 一般社団法人を使った相続税回避スキームの仕組みと、なぜ機能しなくなったか
- 相続税法66条の2(特定一般社団法人等への課税)の課税要件と計算構造
- 相続税法66条4項(不当減少課税)による贈与時点の課税リスク
- NPO法人・公益法人の制度設計と暗号資産保有の実務的限界
- 暗号資産を法人へ移転する際に発生し得る税コストの全体像
「持分なし法人」による相続税回避の発想と制度の穴
【結論】一般社団法人には持分がないため、かつては法人へ資産を移せば相続財産から外れるという形式論が成立していたが、平成30年度税制改正で相続税法第66条の2が創設され、「支配していれば課税する」という実質論へ転換した。
一般社団法人は株式会社と異なり、出資持分がない。そのため法人に移転した財産は形式上「誰のものでもない」状態になり、社員や理事が死亡しても相続財産を構成しない。
この制度上の特徴を利用して、次のような回避スキームが行われていた。
- 親が一般社団法人を設立し、理事に就任する
- 暗号資産を含む資産を法人に移転する
- 子を理事に就任させ、法人の支配権を承継する
- 親が死亡しても法人財産は相続財産にならない
改正前は相続税法第66条第4項(不当減少課税)の規定があったものの、「不当に減少する結果となると認められるとき」の判断基準が曖昧であり、実務上この規定が発動されないケースも存在した。
相続税法66条の2の課税構造|特定一般社団法人等への相続税
【結論】特定一般社団法人等の理事(退任後5年以内を含む)が死亡した場合、法人の純資産額を同族理事数に1を加えた数で除した金額を基礎に相続税が課される。同族理事が理事総数の2分の1を超えれば「特定」に該当する(相続税法第66条の2)。
相続税法第66条の2は、一般社団法人等を使った相続税回避に対する直接的な課税規定である。
課税の発動要件
特定一般社団法人等に該当するには、以下のいずれかを満たす必要がある。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 要件① | 相続開始の直前において、同族理事の数が理事総数の2分の1を超えること |
| 要件② | 相続開始前5年以内において、同族理事の数が理事総数の2分の1を超える期間の合計が3年以上であること |
「同族理事」とは、被相続人の配偶者、三親等内の親族、その他特殊の関係がある者をいう(相続税法施行令第34条第3項)。
課税額の計算
課税対象額 = 相続開始時の法人純資産額 ÷(同族理事の数+1)
この金額を「被相続人から遺贈により取得したもの」とみなし、法人を個人とみなして相続税を課す。
適用除外
相続税法第66条の2の対象から除外される法人がある。
| 法人類型 | 66条の2の適用 | 備考 |
|---|---|---|
| 営利型一般社団法人 | 対象 | 全所得課税+相続税リスク |
| 非営利型一般社団法人 | 対象外 | ただし66条4項の不当減少課税あり |
| 公益社団法人 | 対象外 | 公益認定の維持が必要 |
| NPO法人 | 66条の2の直接対象外 | ただし実質支配の場合は66条4項の余地あり |
非営利型法人や公益法人は66条の2の対象外である一方、66条4項の不当減少課税や、66条1項の特別利益課税が別途適用され得る。「対象外=安全」ではない。
相続税法66条4項|贈与時点での不当減少課税
【結論】一般社団法人等に財産を贈与した場合、相続税法施行令第33条第3項・第4項の要件を満たさないと「不当な減少」と判定され、法人を個人とみなして贈与税が課され得る(相続税法第66条第4項)。
暗号資産を法人に贈与した時点で、相続税法第66条第4項の判定が行われる。平成30年度改正で「不当な減少」の判定基準が明確化され、一般社団法人等については以下の要件がすべて必要とされた。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| ① 運営の適正性 | 理事のうち親族等の割合が3分の1以下 |
| ② 特別利益の不供与 | 設立者・社員・理事等に特別な利益を与えていない |
| ③ 残余財産の帰属 | 解散時の残余財産が国・地方公共団体等に帰属する定款の定め |
| ④ 法令違反歴 | 3年以内に重加算税・重加算金を課されていない |
一般社団法人等の場合、①〜④のいずれか1つでも満たさなければ「不当減少に該当する」と判定される。66条の2を回避するために非営利型にしたとしても、66条4項の要件を満たさなければ贈与時点で課税リスクが残る。
暗号資産を法人へ移転する際の3つの税コスト
【結論】暗号資産を一般社団法人やNPO法人に移転する方法が有償(現物出資)であれ無償(贈与)であれ、移転時点で所得税・法人税・贈与税のいずれかが発生し得る。「法人に移せば終わり」という整理は成立しない(所得税法第36条第1項、法人税法第22条、相続税法第66条第4項)。
相続・贈与の税務を専門家に相談したい場合は「暗号資産税務のセカンドオピニオンを依頼する」をご覧ください。
① 有償移転(現物出資)の場合
暗号資産の現物出資は時価譲渡として扱われる。含み益があれば個人側に雑所得が発生する(所得税法第33条、第36条第1項)。
例:取得価額100万円の暗号資産(時価500万円)を現物出資した場合、差額400万円が雑所得として課税される。
② 無償移転(贈与)の場合
| 課税の発生先 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 法人側 | 受贈益として益金算入 | 法人税法第22条第2項 |
| 個人側 | 贈与税の問題(不当減少課税) | 相続税法第66条第4項 |
| 個人側 | 時価を総収入金額に算入(みなし譲渡) | 所得税法第40条 |
無償移転では法人税と所得税(みなし譲渡)が同時に発生し得るため、有償移転よりも税負担が重くなるケースがある。
③ 低額譲渡の場合
時価の70%未満での譲渡は低額譲渡として時価課税が適用される(所得税基本通達40-2、40-3)。中間的な価額で移転しても時価との差額に課税される。
NPO法人は安全か|制度設計と実質支配の限界
【結論】NPO法人は剰余金分配禁止・残余財産の国等帰属という制度設計で私的支配が困難だが、実質的に親族が支配している場合は相続税法第66条第4項の適用余地が否定されない。
NPO法人が暗号資産の保有先として「安全」とされる理由は以下の制度設計にある。
- 剰余金の分配が法律で禁止されている(特定非営利活動促進法第28条)
- 解散時の残余財産は国・地方公共団体等に帰属する(同法第32条)
- 所轄庁による監督を受ける
一方で、実質的に親族が支配しているNPO法人であれば、相続税法第66条第4項の不当減少課税の適用余地は否定されないという整理になる。
また、NPO法人の場合は暗号資産売買が「収益事業」に該当すれば法人税の課税対象となり(法人税法第2条第13号)、暗号資産保有の原資が目的事業と無関係であれば、所轄庁から公益性逸脱を指摘されるリスクもある。
本質的な整理|形式論から実質論への転換
【結論】「持分がない=相続税の対象がない」という形式論は平成30年度改正以降成立しない。現在の税制は「支配していれば課税する」という実質論に基づいており、暗号資産を法人に移すことで相続税を回避できるという理解はリスクが高い。
改正前後の考え方の転換を整理すると以下のとおりである。
| 項目 | 改正前(形式論) | 改正後(実質論) |
|---|---|---|
| 基本的な発想 | 持分がない=相続税の対象がない | 支配していれば課税する |
| 一般社団法人 | 理事の死亡→相続税なし | 特定一般社団法人等→66条の2で課税 |
| 贈与時の判定 | 「不当減少」の基準が曖昧 | 施行令の要件で明確化、1つでも不充足なら課税リスク |
| NPO法人 | 制度設計上安全と整理 | 実質支配あれば66条4項の適用余地 |
暗号資産を一般社団法人やNPO法人へ移転する行為は、税務・監督・責任の観点で複合的なリスクを抱え得るため、制度の趣旨と条文要件に基づく検討が必要である。
よくある質問(FAQ)
Q1. 一般社団法人に暗号資産を移せば相続税はかからないですか?
回避できない。相続税法第66条の2により、同族理事が理事総数の2分の1を超える「特定一般社団法人等」の理事が死亡した場合、法人の純資産額に基づいて相続税が課され得る。非営利型法人・公益法人は66条の2の対象外でも、66条4項の不当減少課税は別途問題となる。
Q2. NPO法人なら暗号資産の保有は安全ですか?
安全とは断言できない。NPO法人は剰余金分配禁止(特定非営利活動促進法第28条)・残余財産の国等帰属(同法第32条)の制度設計だが、実質的に親族支配であれば相続税法第66条第4項の適用余地が否定されない。
Q3. 暗号資産を一般社団法人に無償で移転した場合、税金はかかりますか?
かかる。法人側は受贈益として益金算入(法人税法第22条第2項)、個人側はみなし譲渡(所得税法第40条)が発生し得る。加えて相続税法第66条第4項の不当減少課税も問題となる。
Q4. 同族理事の割合を下げれば相続税法66条の2を回避できますか?
実効性に限界がある。66条の2は「相続開始前5年以内で同族理事が1/2超の期間が3年以上」という要件を含むため、直前の理事交代では回避できない(相続税法第66条の2)。
相続・贈与の税務を専門家に相談したい場合は「暗号資産税務のセカンドオピニオンを依頼する」をご覧ください。
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関係法令
- 相続税法第66条第1項・第4項(特別利益・不当減少課税)
- 相続税法第66条の2(特定一般社団法人等への課税)
- 相続税法施行令第33条第3項・第4項(不当減少の要件)
- 相続税法施行令第34条第3項(同族理事)
- 所得税法第36条第1項(収入金額)
- 所得税法第40条(みなし譲渡)
- 所得税基本通達40-2、40-3(低額譲渡の取扱い)
- 法人税法第22条第2項(受贈益の益金算入)
- 法人税法第2条第13号(収益事業)
- 特定非営利活動促進法第28条(剰余金の分配禁止)
- 特定非営利活動促進法第32条(残余財産の帰属)
- 資金決済法第2条第14項(暗号資産の定義)
