令和8年3月31日に改正所得税法が成立し、暗号資産の申告分離課税(税率20%)が導入された。適用開始は金商法改正の施行翌年1月1日以降(2028年1月が有力だが金商法改正の国会審議次第)。
- 理由① 対象は「特定暗号資産」の現物取引・デリバティブ取引・ETFから生じる所得。現行の総合課税(最大55%)から20%(所得税15%+住民税5%)への引下げとなり、高所得者ほど減税幅が大きい。3年間の繰越控除も導入される。
- 理由② 金融商品取引法の改正により暗号資産が「金融商品」として位置づけられることが分離課税の施行条件となっている。改正所得税法は成立済みだが、金商法改正の国会審議・施行スケジュールに連動するため、実際の適用開始までタイムラグがある。
- 条件 「特定暗号資産」に該当しないトークンは分離課税の対象外となり、従来どおり総合課税が適用される。また総合課税ルートでは譲渡所得の特別控除・長期1/2課税・損益通算がいずれも不適用となる制限強化(三重の制限)が規定されている。DeFiトークンやNFTが「特定暗号資産」に含まれるかは今後の法令整備次第であり、全暗号資産が一律20%になるとは限らない。
所得税法等の一部を改正する法律(令和8年3月31日成立・同日公布・4月1日施行)
この記事でわかること
- 分離課税化の内容と現行制度からの変更点
- 対象となる「特定暗号資産」の範囲と海外取引所・DEXの扱い
- 経路選択――「どこで売るか」が課税方式を決める仕組み
- 損失の3年間繰越控除の仕組みと3つの要件
- 総合課税ルートに課される三重の制限
- 年間取引報告書の義務化と税務署の所得把握強化
- 施行時期の見通しと現時点で未確定の事項
分離課税化の概要|最大55%から一律20%へ
【結論】改正後の税率は一律20%(所得税15%+住民税5%)となり、現行の総合課税(最大約55%)から大幅に軽減される。復興特別所得税を含めると20.315%となる(改正所得税法・令和8年3月31日成立)。
現行制度の問題点
現行の所得税法では、暗号資産取引で得た利益は原則として「雑所得」に分類され、給与所得など他の所得と合算して課税される「総合課税」が適用される(所得税法第35条)。総合課税は累進税率が適用されるため、所得が増えるほど税率が上がり、住民税と合わせて最大約55%の税金がかかる。
一方、上場株式等の譲渡益やFX取引の利益は申告分離課税(一律20.315%)が適用されており、暗号資産と他の金融商品との間に大きな税負担の差が生じていた。
改正後の税率
| 項目 | 現行制度 | 改正後(法律成立済み) |
|---|---|---|
| 課税方式 | 総合課税(累進税率) | 申告分離課税(一律) |
| 税率 | 最大約55%(所得税45%+住民税10%) | 約20%(所得税15%+住民税5%) |
| 損失繰越 | 不可 | 翌年以後3年間 |
| 損益通算 | 雑所得内のみ | 特定暗号資産取引内 |
背景にある制度転換
今回の改正は、暗号資産を「資金決済法」上の決済手段から「金融商品取引法」上の金融商品へと位置づけ直す法整備と連動している。金融庁の金融審議会暗号資産制度ワーキング・グループは令和7年12月10日に報告書を公表し、暗号資産を金商法の規制対象に移行する方向性を提言した。
改正所得税法は令和8年3月31日に成立・公布され、4月1日に施行された。ただし分離課税の実際の適用開始は金商法改正の施行翌年1月1日以降であり、金商法改正の国会審議に連動する。
関係法令:所得税法第35条、第89条 / 所得税法等の一部を改正する法律(令和8年3月31日成立)
対象となる暗号資産と取引の範囲
【結論】分離課税の対象は「特定暗号資産」に限定される。特定暗号資産とは、金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産を指し、海外取引所やDEX(分散型取引所)での取引は対象外となる可能性が高い(改正所得税法)。
「特定暗号資産」とは
改正法における「特定暗号資産」は、以下の要件を満たす暗号資産を指す。原則、国内取引所で取り扱われる暗号資産となる。
- 金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産であること
2025年6月13日に閣議決定された「あたらしい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」(46頁)では、「暗号資産を国民の資産形成に資する金融商品として業法において位置付ける」とされており、国内取引所に上場する暗号資産が分離課税の対象になると読み取れる。
対象取引の範囲
| 取引種別 | 分離課税の対象 | 備考 |
|---|---|---|
| 国内取引所での現物売買 | ○ | 特定暗号資産に限る |
| 暗号資産デリバティブ取引 | ○ | 先物取引の課税特例に追加 |
| 暗号資産ETF(上場投資信託) | ○ | 一般株式等の譲渡所得等の特例に追加 |
| 海外取引所での取引 | ×(可能性高) | 特定暗号資産に該当しない見込み |
| DEX(分散型取引所)での取引 | ×(可能性高) | 金商法の規制外となる見込み |
| ステーキング報酬等 | 未定 | 売買以外の取引の扱いは今後の通達等で明確化 |
経路選択――「どこで売るか」が課税方式を決める
改正法の重要な特徴は、課税方式が「どこで買ったか」ではなく「どこで売るか(譲渡経路)」によって決まる点である。同じ暗号資産でも、国内取引所で売却すれば分離課税(20%)、DEXや海外取引所で売却すれば総合課税(最大55%)が適用される可能性がある。
たとえば、DEXで安く購入した暗号資産を国内取引所に送金して売却すれば分離課税の対象となり得る。逆に、国内取引所で購入した暗号資産を海外取引所に送金して売却した場合は総合課税となり得る。
この経路選択は、利益が出ている場合は分離課税ルート(20%)を選び、損失が出ている場合は総合課税ルートで他の雑所得と相殺するといった使い分けが理論上は可能な構造になっている。ただし、国税庁の通達・FAQが未公表のため、具体的な適用範囲は今後の明確化を待つ必要がある。
対象外の暗号資産に対する制限強化(三重の制限)
特定暗号資産に該当しない暗号資産(総合課税維持)については、改正法により以下の三重の制限が新たに設けられた。譲渡所得に該当する場合でも特別控除・2分の1課税・損益通算のいずれも適用されない。
| 制限内容 | 影響 |
|---|---|
| ①譲渡所得の特別控除額(50万円)を控除しない | 少額の利益にも課税 |
| ②5年超保有の長期譲渡所得1/2措置を適用しない | 長期保有の優遇なし |
| ③他の総合課税所得との損益通算を適用しない | 損失の救済なし |
この三重の制限は、海外取引所やDEXでの取引が増えることを抑制し、投資家を国内取引所(分離課税ルート)に誘導する政策的意図があると考えられる。
詳細は「暗号資産の損失繰越控除|分離課税化後の3年繰越」で解説している。
損失の3年間繰越控除
【結論】特定暗号資産の取引で損失が生じた場合、翌年以後3年間にわたり将来の暗号資産取引の利益から控除できるようになる。現行制度では暗号資産の損失は翌年に繰り越せないため、大きな改善となる(改正所得税法)。
暗号資産は価格変動が極めて大きい投資商品である。バブル期に多額の利益を得ても、翌年に相場が暴落し赤字に転じるケースは珍しくない。現行制度では損失を翌年に繰り越すことができず、翌年に利益が出ればそのまま課税されるため、投資家にとって過大な税負担が生じていた。
改正後は、損失を3年間繰り越して将来の利益と相殺できるため、複数年にわたる投資成績をならして税負担を計算できるようになる。
繰越控除の3つの要件
改正法で規定された繰越控除の適用には、以下の3要件を満たす必要がある。
- 要件①:確定申告書の提出――損失が生じた年分の確定申告書を提出すること
- 要件②:連年提出――その後の年分についても連続して確定申告書を提出すること
- 要件③:分離課税ルートの損失であること――繰越控除の対象は特定暗号資産の取引(分離課税ルート)で生じた損失に限られる。総合課税ルートで生じた損失は繰越控除の対象外
また、繰越控除の適用範囲は特定暗号資産の取引内に限られ、株式等の利益と暗号資産の損失を相殺することはできない。
暗号資産デリバティブ取引の損失繰越
暗号資産FXなどのデリバティブ取引についても、「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」の適用対象に追加され、損失の3年間繰越控除が可能となる。既存のFX(外国為替証拠金取引)や先物取引と同様の税制上の扱いとなる。
関係法令:改正所得税法 / 租税特別措置法第41条の14・第41条の15
税務署への報告義務化
【結論】暗号資産取引業者は、顧客の氏名・住所・マイナンバー・取引内容を記載した年間取引報告書を翌年1月31日までに税務署に提出することが義務付けられる(改正所得税法)。
株式取引における特定口座の年間取引報告書と同様の仕組みが、暗号資産にも導入される。これにより税務署は、暗号資産による所得の把握が格段に容易になる。
この報告義務化は、分離課税の導入とセットで設計されている。分離課税・損失繰越という税制上のメリットを提供する代わりに、所得の把握を強化するという国側の意図がある。分離課税の導入により多くの納税者は所得把握が容易な分離課税口座に流れるため、税務署は無申告者や所得隠しへの調査により注力できるようになる。
関係法令:改正所得税法
暗号資産の分離課税はいつから始まるのか?
【結論】改正所得税法は令和8年3月31日に成立・公布済みである。分離課税の適用開始日は「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日」と規定されており、金商法改正案が2026年通常国会で成立し2027年に施行された場合、2028年1月1日以降の取引分から適用される見通しである。
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スケジュール
| 時期 | 内容 | 状態 |
|---|---|---|
| 2025年12月19日 | 令和8年度税制改正大綱 公表 | 済 |
| 2026年3月31日 | 改正所得税法 成立・公布 | 済 |
| 2026年4月1日 | 改正所得税法 施行 | 済 |
| 2026年 通常国会 | 金商法改正案の審議・成立 | 未 |
| 2027年頃 | 改正金商法の施行(準備期間を含む) | 未 |
| 2028年1月1日以降 | 分離課税の適用開始(見込み) | 未 |
金商法改正の国会審議の状況によっては、施行時期がさらに後ろ倒しになる可能性もある。
現時点で未確定の事項
改正所得税法は成立済みだが、国税庁の通達・FAQは未公表であり、以下の事項は今後の通達・政省令・金商法改正で確定される。
- 分離課税の正確な実施タイミング:金商法改正の施行時期に連動
- 施行前に保有していた暗号資産の含み益の取扱い:経過措置の有無
- ステーキング報酬等の売買以外の取引の取扱い:分離課税の対象に含まれるか
- 「特定暗号資産」の具体的な銘柄範囲:国内取引所上場の暗号資産すべてが該当するか
- 経路選択の具体的な適用範囲:DEXで取得→国内取引所で売却のケースの取扱い等
株式の分離課税移行時の前例
株式の譲渡益課税は昭和63年に原則非課税から課税へ転換した際、証券業者等を通じた譲渡に限り20%の源泉分離課税を選択できる経過措置が設けられた。譲渡益は譲渡代金の5%とみなす簡便計算(源泉分離みなし課税)が併用され、取得時期を問わず適用された。ただし、この仕組みは実際の所得と大きく乖離し納税者に不合理な利益を与えるとの批判を受け、平成11年度改正で廃止が決定し平成15年に完全終了した(金子宏『租税法(第24版)』弘文堂、pp.286-287参照)。暗号資産で同様の経過措置が設けられるかは現時点で不明であり、金商法改正案の国会審議を注視する必要がある。
分離課税は法律が成立し「いつ適用が始まるか」の段階に入った。改正前に含み益を確定させるか、改正後まで待つかの判断は、通達等の詳細が明らかになってから行うべきである。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 分離課税はいつから適用されますか?
2028年1月以降の取引分から適用される見通しである。改正所得税法(令和8年3月31日成立)では「金商法改正の施行日の属する年の翌年1月1日」と規定されている。金商法改正案が2026年通常国会で成立し2027年中に施行された場合、2028年1月1日以降となる。
Q2. 海外取引所やDEXでの利益も分離課税の対象になりますか?
対象外となる可能性が高い。分離課税の対象は「金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産(特定暗号資産)」の譲渡等に限定されており、海外取引所やDEXは金商法の規制外となる見込みである。ただし、DEXで取得した暗号資産を国内取引所に送金して売却する場合は、分離課税の対象となり得る(経路選択)。
Q3. 今年(2026年分)の確定申告は現行制度のままですか?
現行制度のままである。分離課税は金商法改正の施行後に適用されるため、少なくとも2027年分の申告までは現行の総合課税(雑所得)で申告する必要がある。
Q4. 暗号資産の損失を株式の利益と相殺できるようになりますか?
できない。改正所得税法においても、損益通算は特定暗号資産の取引内に限られており、株式等との損益通算は認められていない。デリバティブ取引についても「先物取引」のグループ内での通算にとどまる。
Q5. 分離課税が導入されたら法人化のメリットはなくなりますか?
大幅に縮小するが、完全になくなるわけではない。個人の税率が20%に下がれば、法人実効税率(約30%)との差が逆転し、税率面での法人化メリットは薄れる。ただし経費計上の柔軟性、役員報酬による所得分散、事業承継等の面では法人の優位性が残る。法人化の判断基準と分離課税後の見通しは「暗号資産の法人化」で解説している。
Q6. 分離課税の施行前に購入した暗号資産を施行後に売却した場合、税率は20%になりますか?
現時点では不明である。改正所得税法には施行日前取得分の経過措置に関する明示的な規定がない。株式の分離課税移行時(昭和63年)には、譲渡代金の5%をみなし譲渡益とする簡便計算が経過措置として設けられた前例があるが、批判もあり廃止されたため、暗号資産で同様の措置が講じられるかは金商法改正案および関連通達の公表を待つ必要がある。
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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
参考文献
- 泉絢也「令和8年度税制改正:暗号資産の税金が分離課税20%へ」
- 泉絢也「暗号資産の分離課税と取引経路――『どこで売るか』が課税方式を決める」
- 泉絢也「経路選択による節税パターン――分離課税と総合課税はどちらが得か」
関係法令
- 所得税法第35条(雑所得)
- 所得税法第89条(税率)
- 租税特別措置法第41条の14(先物取引に係る雑所得等の課税の特例)
- 租税特別措置法第41条の15(先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除)
- 所得税法等の一部を改正する法律(令和8年3月31日成立・同日公布・4月1日施行)
