総平均法と移動平均法はどっちが得?|届出・変更手続きと有利不利

結論

個人の法定評価方法は総平均法、法人は移動平均法。届出なしで自動適用される。両方法で最終的な利益額は一致し、年度配分の差による税額への影響も実務上は限定的である。特段の理由がない限りデフォルトのまま運用するのが合理的である。

  • 理由① 総平均法は年間の平均取得単価で一括計算するため計算がシンプルだが、年末まで取得単価が確定しない。移動平均法は取得のたびに単価を再計算するため、年中に利益を概算できる利点がある。もっとも、実務では損益計算ソフトがどちらにも対応しており、総平均法でも年中の概算利益を表示するソフトもあるため、計算方法の違いが実務上の大きな差になることは少ない。
  • 理由② 両方法で最終的な利益の合計額は一致し、変わるのは各年度への配分だけである。理論上は累進税率(最大55%)との組み合わせで総税負担額に差が出るが、実際に大きな差が生じるのは年によって取得量と売却量が極端に偏るケースに限られる。通常の取引パターンでは税額差は僅少であり、変更手続きの煩雑さに見合わないことが多い。
  • 条件 評価方法変更時は「変更承認申請書」の提出と税務署長の承認が必要であり、変更前の方法を3年以上採用していなければ原則として却下される。さらに、損益計算ソフトによっては別のアカウント作成が必要となり、処理が煩雑になる。税額への影響が限定的であることを踏まえると、安易な変更は推奨しない。特段の事情がない限り、個人は総平均法、法人は移動平均法のデフォルトのまま運用するのが最も合理的である。

所得税法第48条の2 / 所得税法施行令第119条の2・第119条の5

この記事でわかること

  • 総平均法と移動平均法の計算方法の違い(同一取引データでの比較)
  • 個人・法人それぞれの法定評価方法
  • 評価方法の届出期限と届出書の提出先
  • 評価方法の変更手続き(3年ルール・みなし承認)
  • どちらの方法が有利かの判断基準
目次

総平均法の計算方法

【結論】総平均法は、1年間に取得した暗号資産の取得価額の総額を、1年間に取得した数量の合計で除して1単位当たりの取得価額を算出する方法である。年間のすべての取引が確定した後でなければ計算できない(所得税法施行令第119条の2、国税庁FAQ 2-4)。取得価額の求め方の全体像(7つの取得パターン)は「暗号資産の取得価額の求め方」で解説している。

計算式

年末1単位当たりの取得価額 = 年中取得価額の総額 ÷ 年中取得数量の合計

前年から繰り越した暗号資産がある場合は、取得価額の総額と数量にそれぞれ前年末の評価額と数量を加算する。

注意:総平均法には「年末の買い戻しによる架空利益」の罠がある。年の途中で含み損を損切りした場合でも、年末に相場が暴落したタイミングで同じ暗号資産を大量に買い増すと、年間の平均取得単価が一気に下がる。その結果、年中の売却時の譲渡原価も引き下げられ、大赤字だと思っていた損切りが一転して「利益」として算出される現象が起こり得る。実際には損をしているのに税金だけが発生するという極めて危険なケースであり、総平均法を採用している場合は年末の大量買い増しに細心の注意が必要である。

計算例(単年度)

以下の取引データで計算する(移動平均法との比較に同じデータを使用)。

日付取引内容数量金額
3/1BTC購入4BTC1,845,000円
6/20BTC購入2BTC1,650,000円
7/10BTC売却2BTC2,400,000円
9/15BTC購入0.5BTC542,800円
11/30BTC売却3BTC2,895,000円

総平均法による計算:

① 年中取得価額の総額:1,845,000 + 1,650,000 + 542,800 = 4,037,800円
② 年中取得数量の合計:4 + 2 + 0.5 = 6.5BTC
③ 年末1単位当たりの取得価額:4,037,800円 ÷ 6.5BTC = 621,200円
④ 年末保有評価額:621,200円 × 1.5BTC = 931,800円
⑤ 譲渡原価:4,037,800円 − 931,800円 = 3,106,000円
⑥ 所得金額:(2,400,000 + 2,895,000)− 3,106,000円 = 2,189,000円

総平均法では、すべての購入を一括して平均するため、年末に1回計算すれば足りる。計算が簡便であることが最大の利点である。

計算例(複数年度)

より複数年にまたがるケースを見る。

日付取引内容数量金額
2017/8/1BTC購入10BTC300万円(1BTC=30万円)
2021/2/1BTC購入(XRP→BTC交換)1BTC300万円(1BTC=300万円)
2021/4/1BTC売却2BTC1,300万円(1BTC=650万円)
2021/5/1BTC取得(エアドロップ)1BTC600万円(1BTC=600万円)
2021/11/1BTC売却8BTC5,600万円(1BTC=700万円)

2021年12月末のBTC保有数は5BTCである。

① 取得価額の総額:300万 + 300万 + 600万 = 1,200万円
② 取得数量の合計:10 + 1 + 1 = 12BTC
③ 1BTC当たりの取得価額:1,200万円 ÷ 12BTC = 100万円

2017年から2020年の間、BTCの売却や交換は一切行っていないため、この期間の年末時点での取得価額の計算は省略できる。課税イベントが発生していない年度は損益計算の必要がない。

移動平均法の計算方法

【結論】移動平均法は、暗号資産を取得する都度、その時点で保有する暗号資産の簿価総額を保有数量で除して平均単価を再計算する方法である。年の途中で利益を概算計算できるため、ふるさと納税の控除限度額の把握に活用できる(所得税法施行令第119条の2、国税庁FAQ 2-4)。

計算式

取得時点の平均単価 = 取得時点で保有する暗号資産の簿価の総額 ÷ 取得時点で保有する暗号資産の数量

「年12月31日から最も近い日に算出された取得時点の平均単価」が「年末時点での1単位当たりの取得価額」となる。

国税庁FAQの計算例(単年度・総平均法と同一取引データ)

ステップ計算
3/1購入後1,845,000円 ÷ 4BTC = 461,250円
6/20購入後(461,250円 × 4BTC + 1,650,000円)÷ 6BTC = 582,500円
7/10売却売却2BTC → 残4BTC × 582,500円 = 2,330,000円(簿価)
9/15購入後(582,500円 × 4BTC + 542,800円)÷ 4.5BTC = 638,400円
11/30売却売却3BTC → 残1.5BTC
④ 年末1単位当たりの取得価額:638,400円(9/15が12/31に最も近い取得日)
⑤ 年末保有評価額:638,400円 × 1.5BTC = 957,600円
⑥ 譲渡原価:4,037,800円 − 957,600円 = 3,080,200円
⑦ 所得金額:(2,400,000 + 2,895,000)− 3,080,200 = 2,214,800円

計算例(前提は総平均法の計算例(複数年度)と同じ)

移動平均法では、売却時点で利益を計算できる。

2021年2月1日の購入後の平均単価は以下のとおりである。

(30万円 × 10BTC + 300万円)÷ 11BTC = 545,455円

2021年4月1日に2BTCを1,300万円で売却した時点の利益:

1,300万円 −(545,455円 × 2BTC)= 11,909,090円

総平均法ではこの時点で利益を算出できない(年末まで待つ必要がある)。移動平均法は年の途中で所得金額の概算が把握できるため、ふるさと納税の控除限度額の計算に活用できる。

両者の比較

【結論】同一取引データで比較すると、総平均法の所得金額は2,189,000円、移動平均法は2,214,800円となり、25,800円の差が生じる。長期的にはどちらを使っても最終利益の総額は同じになるが、各年度への利益配分が異なるため、累進税率の下では総税負担額に差が出る(所得税法第48条の2)。

項目総平均法移動平均法
法定評価方法個人法人
計算タイミング年末に一括計算取得の都度再計算
年中の利益把握不可(年末まで待つ)可能(売却時に算出)
計算の簡便さ簡便やや複雑
年末1BTC当たり取得価額(FAQ例)621,200円638,400円
譲渡原価(FAQ例)3,106,000円3,080,200円
所得金額(FAQ例)2,189,000円2,214,800円

利益に対する影響の方向は、その年の取引パターン(購入と売却のタイミング・価格推移)によって変わるため、常にどちらが有利とは断言できない。

評価方法の届出書はいつまでに出す?変更手続きの流れ

【結論】評価方法を新たに決める場合は「届出書」の提出のみで効力が発生する。一度決まった方法を変更する場合は「変更承認申請書」の提出と税務署長の承認が必要であり、変更前の方法を3年以上採用していなければ原則として却下される(所得税法施行令第119条の4、所得税基本通達48の2-3、法人税基本通達5-2-15)。

届出の手続き(新規選定)

項目個人法人
届出期限初めて暗号資産を取得した年分の確定申告期限(原則翌年3月15日)設立第1期の確定申告期限、又は新たな種類を取得した事業年度の確定申告期限
届出先納税地の所轄税務署長同左
届出書の名称「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」「暗号資産の評価方法の届出書」
届出しない場合総平均法が自動適用(法定評価方法)移動平均法が自動適用(法定評価方法)
届出が必要な場面①初めて暗号資産を取得した場合 ②異なる種類の暗号資産を新たに取得した場合

届出書の様式は、国税庁ウェブサイトから取得できます。なお、届出書は提出により効力を生じるため、税務署長の承認は不要です。

変更の手続き(変更承認申請)

項目個人法人
申請期限変更しようとする年の3月15日まで変更しようとする事業年度の開始の日の前日まで
申請先納税地の所轄税務署長同左
申請書の名称「所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書」「暗号資産の評価方法の変更承認申請書」
みなし承認提出した年の12月31日までに承認・却下の通知がなければ承認とみなす変更しようとする事業年度の終了の日までに通知がなければ承認とみなす
3年縛り変更前の評価方法を3年以上採用していなければ、特別な理由がない限り却下される

注意:3年縛り(相当期間ルール)は個人・法人に共通のルールである(所得税基本通達48の2-3(47-14準用)、法人税基本通達5-2-15)。「暗号資産の相場が大きく動いたから」という理由だけでは「特別な理由」とは認められず、変更申請が却下される可能性が高い。評価方法の選択は取引開始時に慎重に検討すべきである。

変更申請書の様式は、国税庁ウェブサイトから取得できます。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

総平均法と移動平均法はどっちが得か?

【結論】長期的には両者の最終利益総額は同じになる。各年度の利益配分が異なるため累進税率との組み合わせで総税負担額に差が出る余地はあるが、通常の取引パターンでは差は僅少である。評価方法の変更には3年縛り・損益計算ソフトの再設定等の実務コストが伴うため、特段の事情がない限りデフォルト(個人=総平均法、法人=移動平均法)のまま運用するのが合理的である(所得税法第89条)。

理論上は、利益が特定の年度に集中すると累進税率(最大55%)により税率が上がるため、利益を各年度に平準化できる方法を選ぶ方が有利になる。また、暗号資産の雑所得で赤字が出た場合、その赤字は他の所得と損益通算できず翌年への繰越もできないため(所得税法第69条)、年中に利益額を概算できる移動平均法には損切りのタイミング管理で利点がある。

しかし、実際に税額差が大きくなるのは年によって取得量と売却量が極端に偏るケースに限られる。損益計算ソフトの中には総平均法でも年中の概算利益を表示する機能を持つものがあり、移動平均法でなければ年中の概算利益が把握できないわけではない。むしろ取引履歴が完全に揃っていない場合は残高調整等を最後にする必要がでるため、どちらの方法でも期末時点になるまで最終的な損益額はわからない。届出をしていない個人の大半は法定評価方法の総平均法がそのまま適用されており、実務上はこれで問題ないケースがほとんどである。

注意:評価方法を途中で変更するには、①変更前の方法を3年以上採用していること(3年縛り)、②税務署長の承認、③損益計算ソフトでの期首残高の再計算(別アカウントの作成や過年度データとの整合性確保)が必要となる。設定を誤ると変更年度以降の損益が正しく計算されない。税額差が僅少であることを踏まえると、これらのコストに見合うケースは限定的であり、途中変更(特にトークンごとの評価方法変更)は実務上推奨しない。

利益を圧縮したい場合の具体的な方法は「年末までにやるべき暗号資産の税金対策|含み損益の調整」を参照。評価方法の変更よりも、年末の損切りによる利益調整の方が直接的かつ確実な効果がある。

よくある質問(FAQ)

Q1. 届出をしなかった場合、どちらの評価方法が適用されますか?

個人は総平均法、法人は移動平均法が自動適用される。届出をしなかった場合の法定評価方法として、個人は総平均法(所得税法施行令第119条の5)、法人は移動平均法(法人税法施行令第118条の6)が定められている。法人の暗号資産税務の全体像は「法人の暗号資産税務ガイド」で解説している。

Q2. 暗号資産の種類ごとに異なる評価方法を選べますか?

選べる。評価方法は暗号資産の種類(銘柄)ごとに選定できる(所得税法施行令第119条の2)。BTCは総平均法、ETHは移動平均法とすることも可能である。ただし、損益計算ソフトが個別のトークンごとに評価方法を変更した場合の損益計算に対応していないことが多いので推奨はしない。

Q3. 評価方法を変更したい場合、いつまでに申請すればよいですか?

個人は変更しようとする年の3月15日まで、法人は変更しようとする事業年度の開始の日の前日までに「変更承認申請書」を提出する。届出書(新規選定)と異なり、税務署長の承認が必要である。承認・却下の通知がない場合はみなし承認となる(個人は12月31日まで、法人は事業年度終了の日まで)。ただし、変更前の方法を3年以上採用していない場合は原則として却下される(3年縛り。所得税基本通達48の2-3、法人税基本通達5-2-15)。安易な変更申請は認められないため、取引開始時の評価方法の選択が重要である。

Q4. 総平均法と移動平均法で最終的な利益額は変わりますか?

長期的にはどちらを使っても最終利益の総額は同じになる。ただし各年度への利益配分が異なるため、累進税率(所得税法第89条)の影響で年度ごとの税額は変わる。利益が大きい年と小さい年の差が大きいほど、評価方法の選択が税額に影響する。

Q5. 年の途中で暗号資産の含み益を把握したい場合、どちらが便利ですか?

移動平均法が便利である。移動平均法は取得のたびに平均単価を再計算するため、売却時点で所得金額を算出できる。ふるさと納税の控除限度額を概算する際に活用可能である。総平均法は年末まで1単位当たりの取得価額が確定しない。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

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専門の税理士に依頼する場合

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関係法令

  • 所得税法第48条の2(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)
  • 所得税法第69条(損益通算)
  • 所得税法第89条(税率)
  • 所得税法施行令第101条(評価方法の変更)
  • 所得税法施行令第119条の2(暗号資産の評価の方法)
  • 所得税法施行令第119条の3(暗号資産の取得価額)
  • 所得税法施行令第119条の4(暗号資産の評価方法の届出)
  • 所得税法施行令第119条の5(暗号資産の法定評価方法)
  • 所得税基本通達47-16の2、48の2-3
  • 法人税法施行令第118条の6(法人の法定評価方法=移動平均法)
  • 国税庁FAQ 2-4(暗号資産の譲渡原価)
  • 国税庁FAQ 2-5(暗号資産の評価方法の届出)
  • 国税庁FAQ 2-6(暗号資産の評価方法の変更手続)
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