国税庁はどうやって暗号資産取引を把握するのか

結論

分離課税化が実現すると、国内の暗号資産取引業者(仮称)について、一定の暗号資産(特定暗号資産)の取引情報を税務署へ報告する制度の法定化が大綱に明記されており、当局の情報把握は強化される。

  • 理由① 税務職員は国税通則法に基づく質問検査権により、国内暗号資産取引所に対して顧客の取引データを照会できる。取引所は年間取引報告書を作成しており、個人の売買額・損益を名寄せで把握可能。
  • 理由② 海外取引所についてはCRSによる自動的情報交換があるが、報告対象は法定通貨建ての金融口座が中心で暗号資産の把握には限界がある。この穴を塞ぐ目的で暗号資産特化の国際基準CARFが創設され、日本でも導入が予定されている。
  • 条件 DEXやアンホステッドウォレットのみで完結する取引は、現段階では取引所経由の情報収集が及ばない。ただしブロックチェーンの取引履歴は削除・改ざんが不可能であり、調査時にオンチェーン解析が行われるリスクは常にある。

国税通則法第74条の2〜第74条の6・第74条の7の2 / CARF(暗号資産報告フレームワーク)

この記事でわかること

  • 質問検査権とは何か、拒否した場合の罰則
  • 国内取引所経由の取引がどこまで把握されるか
  • 海外取引所・DEX・アンホステッドウォレットの把握の限界
  • 分離課税化で予定される年間取引報告書の法定調書化
  • 調査拒否のリスクと適正申告の重要性
目次

質問検査権の仕組み|税務職員の法的権限

【結論】税務職員は、国税に関する調査で必要があるときは、納税義務者や取引先に対して質問・帳簿書類等の検査・物件の提示または提出を求めることができる(国税通則法第74条の2〜第74条の6)。拒否や虚偽回答には1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金が科される(同法第128条)。

質問検査権は、税務調査における情報収集の法的根拠である。税務職員が暗号資産取引所に対して顧客の取引履歴の提出を求めるのも、この権限に基づく。

質問検査権の行使により、税務当局は以下の情報を取得できる。

取得できる情報対象
取引履歴(売買・入出金)国内暗号資産交換業者
本人確認情報(氏名・住所・マイナンバー)同上
銀行口座の入出金記録金融機関
納税者本人の帳簿・資料納税義務者

ただし、質問検査権は調査対象者が特定されていることを前提とする。暗号資産取引やインターネットを利用した匿名性の高い所得については、そもそも対象者を把握・特定する手段としての活用が困難な場合がある。この点は従来から課題とされてきた。

この課題に対応する制度として、「特定事業者等への報告の求め」(国税通則法第74条の7の2)がある。これは質問検査権とは異なり、特定の調査対象者を前提としない。税務署長等が、一定の取引を行った者の氏名・住所・取引内容等について、暗号資産交換業者などの特定事業者に対して報告を求めることができる制度であり、多額の取引や多数回の取引を行った匿名の顧客リストを包括的に取得する手段として機能する。

国内取引所経由の取引はどこまで把握されるか

【結論】国内暗号資産取引所のみを利用している個人の取引であれば、国税庁はかなりの程度その取引内容と結果を把握できる。国内取引所は犯罪収益移転防止法に基づくKYC(本人確認)を実施しており、質問検査権の行使により顧客の取引履歴を取得可能である。

国税庁は2018年に「仮想通貨関係FAQ」を公表し、暗号資産取引の所得計算の参考資料として、交換業者が利用者に提供する「年間取引報告書(顧客向け)」を用いた計算方法を紹介している。 実務上、多くの暗号資産交換業者が年間取引報告書(顧客向け)を発行しており、納税者はその内容を基に所得計算を行うことが一般的である。

年間取引報告書(顧客向け)による損益通算の詳細は「暗号資産の年間取引報告書の見方・使い方」で解説している。

項目内容
年始数量1月1日現在の保有数量
年中購入数量・金額その年の購入数量と取得価額
年中売却数量・金額その年の売却数量と売却金額
移入数量購入以外で口座に受け入れた数量
移出数量売却以外で口座から払い出した数量
年末数量12月31日現在の保有数量
損益合計証拠金取引の損益合計額
支払手数料業者に支払った手数料

国内取引所は暗号資産交換業者として金融庁に登録されており、犯罪収益移転防止法に基づく本人確認(KYC)が義務付けられている。氏名・住所・生年月日・マイナンバーが紐付いた状態で取引履歴が保存されているため、質問検査権を行使すれば特定の個人の取引内容を詳細に把握できる。

海外取引所・DEX・ウォレットの把握の限界

【結論】国税庁が海外取引所・DEXやアンホステッドウォレットを用いた取引の全容を把握することは、現段階では困難である。国内取引所を経由しない取引は、質問検査権の直接的な行使対象とならないためである。

把握が困難な理由は、取引形態ごとに異なる。

取引形態把握の困難性理由
海外CEX(中央集権型取引所)中〜高日本の質問検査権が直接及ばない。租税条約に基づく情報交換は可能だが、時間と手続を要する
DEX(分散型取引所)運営主体が存在しない(または特定困難な)場合、情報提供を求める「相手方」がいない
アンホステッドウォレット利用者がKYCなしで自ら秘密鍵を管理し、取引所を介さず直接取引を行う

海外取引所についても、取引所や他国の課税庁等からの情報提供により、国税庁が取引を把握できる場合はある。国際的な租税条約に基づく情報交換や、共通報告基準(CRS)を通じた金融口座情報の自動交換がその手段である。ただし、CRSの報告対象は法定通貨建ての預金口座や有価証券口座等が中心であり、暗号資産そのものは報告対象に含まれていないケースが多い。この限界を補完するために創設されたのが、暗号資産に特化した国際基準である暗号資産報告フレームワーク(CARF)である。

さらに、OECD(経済協力開発機構)が策定した暗号資産報告フレームワーク(CARF)が今後日本でも導入される見込みである。CARFの詳細はCARFと暗号資産税務調査の今後|国際的情報交換と日本の対応で解説する。

分離課税化で変わる情報把握体制|年間取引報告書(事業者向け)の法定調書化

【結論】令和8年度税制改正大綱では、分離課税化に伴い、暗号資産取引業者に対して顧客の氏名・住所・個人番号・取引内容を記載した報告書の税務署への提出義務を課す方針が示されている。現行の「依頼」ベースから法的義務へと格上げされることで、国税庁の情報把握力は大幅に強化される。

改正大綱によると、暗号資産取引業者は「特定暗号資産」の取引を行った居住者等について、翌年1月31日までに報告書を税務署に提出しなければならない。これは株式の「特定口座年間取引報告書」と同様の仕組みであり、証券会社が顧客の売買情報を税務署に提出するのと同じ構造になる。

法定調書化が実現すると、以下の変化が生じる。

項目現行改正後
報告書の位置づけ国税庁からの「依頼」法律上の提出義務
提出先顧客のみに交付税務署にも提出
記載内容取引数量・金額氏名・住所・個人番号・取引内容
対象全暗号資産「特定暗号資産」の取引

施行時期は金融商品取引法改正の施行日の属する年の翌々年1月1日以降であり、具体的な年は未定である。

この法定調書化は、国内取引所を利用する取引に限った話である。海外取引所やDEXの取引については引き続き把握が困難な状況が続くため、CARFを含む国際的な枠組みの整備が並行して進められている。

調査拒否のリスクと適正申告の重要性

【結論】税務調査への接触を拒否しても、暗号資産取引の申告義務がなくなるわけではない。政府税制調査会は、調査接触を一切拒否する暗号資産取引の事例を「誠実に納税を行う納税者の税に対する公平感を大きく損なう」ものとして指摘している。

税務調査への対応を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の税務調査に強い税理士に相談する」をご覧ください。

政府税制調査会「わが国税制の現状と課題―令和時代の構造変化と税制のあり方―」(2023年6月)は、「近年、税務調査に対し、接触を一切拒否する等の対応をとることにより取引の十分な解明がなされない事例」が見られるようになっていると指摘し、暗号資産取引に関する事例を紹介している。

調査への非協力には以下のリスクがある。

リスク内容
罰則質問への答弁拒否・虚偽答弁・検査拒否は1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(通法第128条)
推計課税資料不提示の場合、税務署が合理的に推計した金額で課税される可能性がある
重加算税仮装・隠蔽と認定されれば、過少申告加算税に代えて35%(無申告の場合40%)の重加算税が課される

海外取引所やDEXの取引は現段階で把握が困難であっても、将来CARFの導入等により把握されるリスクがある。納税者は自ら適切な裏付け資料を確保し、取引履歴を保存したうえで適正な申告と納税を行うことが重要である。

税務調査への対応に不安がある場合は「暗号資産の税務調査に強い税理士に相談する」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 国税庁は暗号資産の利益をすべて把握しているのですか?

国内取引所の取引はかなりの程度把握できるが、すべてではない。国内暗号資産交換業者に対しては質問検査権(国税通則法第74条の2)を行使して取引履歴を取得できる。一方、海外取引所・DEX・アンホステッドウォレットのみの取引は現段階では全容の把握が困難である。

Q2. 海外取引所しか使っていなければ申告しなくてもバレませんか?

申告義務は取引所の所在地にかかわらず発生する。日本の居住者は全世界所得に対して納税義務を負う(所得税法第7条第1項第1号)。海外取引所の利用は把握困難な面があるが、CARFの導入や他国課税庁との情報交換により将来的に把握される可能性がある。無申告が発覚した場合、無申告加算税(15〜30%)と延滞税が課される。

Q3. 税務調査で取引履歴の提出を拒否するとどうなりますか?

罰則の対象となる。質問検査権に基づく物件の提示・提出要求に対し、正当な理由なく応じない場合は1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処される(国税通則法第128条第2号・第3号)。加えて、資料不提示により推計課税を受けるリスクや、隠蔽と認定されれば重加算税が課されるリスクもある。

Q4. 年間取引報告書(事業者向け)は税務署に提出されているのですか?

現行制度では税務署には提出されていない。現在の年間取引報告書(事業者向け)は国税庁から交換業者への「依頼」に基づき顧客に交付されるものであり、法定調書ではない(国税庁FAQ 2-8)。ただし、令和8年度税制改正大綱では分離課税化に伴い、税務署への提出を法的義務とする方針が示されている。

税務調査への対応を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の税務調査に強い税理士に相談する」をご覧ください。

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関係法令

  • 国税通則法第74条の2〜第74条の6(質問検査権)
  • 国税通則法第74条の7の2(特定事業者等への報告の求め)
  • 国税通則法第128条第2号・第3号(罰則)
  • 所得税法第7条第1項第1号(居住者の納税義務)
  • 犯罪収益移転防止法(本人確認義務)
  • 令和8年度税制改正大綱(年間取引報告書の法定調書化)
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