暗号資産の盗難(ハッキング・フィッシング等)による損失は雑損控除の対象となりうるが、詐欺による損失は雑損控除の対象外である。ただし詐欺の場合でも、所得税法第51条第4項により雑所得の必要経費に算入できる可能性がある。法人の場合はいずれも損金算入が認められる可能性が高い。
- 理由① 雑損控除(所得税法第72条)の対象は「災害又は盗難若しくは横領による損失」に限定されており、詐欺は条文上含まれていない。国会答弁(令和4年4月19日参議院財政金融委員会)でも国税庁次長が「詐欺は雑損控除に入っていない」と明言している。
- 理由② 詐欺による損失であっても、暗号資産が「雑所得の基因となる資産」に該当する場合、所得税法第51条第4項により、その年分の雑所得の金額を限度として必要経費に算入することが認められうる。同国会答弁で国税庁次長がこの取扱いを認めている。
- 条件 暗号資産が「生活に通常必要でない資産」に該当する場合、雑損控除の適用が制限される。盗難による雑損控除の申告には被害届の受理証明書が必要であり、盗難被害を認識した時点で速やかに警察へ被害届を提出すべきである。
所得税法第72条 / 所得税法第51条第4項 / 国税庁NFT FAQ問5
この記事でわかること
- 雑損控除の適用要件と「災害・盗難・横領」の3類型
- 詐欺が雑損控除の対象外となる理由と、それでも使える必要経費算入
- 被害類型ごとの法的評価の傾向(盗難・横領・詐欺の区別は個別判断)
- 詐欺・盗難被害時に保全すべき証拠
- 取引所破綻・ハッキングと補償金の課税関係
- 暗号資産の詐欺被害の実態と自衛策
- 被害回復を謳う弁護士の二次被害
- 詐欺被害に遭っている知人・友人を止めるための介入方法
- 法人の場合の損失処理
雑損控除の適用要件
【結論】雑損控除(所得税法第72条)の対象は「災害又は盗難若しくは横領による損失」に限定されている。詐欺は条文上含まれておらず、対象外である。
所得税法第72条第1項は、居住者またはその者と生計を一にする配偶者その他の親族の有する資産について、災害又は盗難若しくは横領による損失が生じた場合に、一定額を超える部分の金額を総所得金額等から控除すると規定している。
対象となる3類型
| 類型 | 内容 | 暗号資産での具体例 |
|---|---|---|
| 災害 | 自然災害・火災・害虫等 | 火災によるハードウェアウォレットの焼失等 |
| 盗難 | 窃取(本人の意思に反する奪取) | ハッキング・フィッシングによる秘密鍵の窃取・不正送金 |
| 横領 | 委託した資産の不正な処分 | 取引所による預かり資産の不正流用 |
雑損控除が適用されない場合
- 詐欺による損失:条文上「災害又は盗難若しくは横領」に限定されており、詐欺は含まれない。令和4年4月19日の参議院財政金融委員会において、重藤哲郎国税庁次長も「詐欺は雑損控除に入っていない」と明言している。
- 生活に通常必要でない資産の損失:所得税法第72条は「生活に通常必要でない資産」を雑損控除の対象から除外している(所得税法第62条第1項に規定する資産)。生活に通常必要でない資産とは、競走馬その他射こう的行為の手段となる動産、主として趣味・娯楽・保養又は鑑賞の目的で所有する資産、30万円を超える貴金属・書画・美術工芸品等である。暗号資産が「主として趣味の目的で所有する資産」に該当するかは個別判断となるが、投資目的で保有する暗号資産がこれに該当する可能性は否定できない。
雑損控除の計算
雑損控除額は、損失の金額(保険金・損害賠償金等で補塡される部分を除く)の合計額が、総所得金額等の10分の1を超える部分の金額である。控除しきれない金額は翌年以後3年間の繰越控除が認められる。
損失の額は、盗難の場合はその資産の盗難時の時価で算定する。国税庁NFT FAQ(問5)の解説では、NFTが消失した時点の時価が雑損控除の対象となるとし、時価が分からない場合には購入金額として差し支えないとしている。
詐欺・盗難被害時に保全すべき証拠
雑損控除の申告にも、必要経費算入の申告にも、被害の事実を裏付ける証拠の保全が不可欠である。以下の3点は被害を認識した時点で速やかに確保すること。これ以外にも弁護士へ相談した場合は弁護士への相談記録なども確保しておくことを推奨する。
| 証拠 | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 被害届の受理証明書 | 最寄りの警察署で被害届を提出し、受理番号・受理証明書を取得する | 雑損控除の申告書に証明書の名称・証明年月日・警察署名を記載する欄がある。窓口で受理を渋られても必ず出してもらうこと |
| 詐欺師とのやり取りの記録 | SNSのDM・LINE・メール等、詐欺サイトへの誘導に至るまでの一連のやり取りをスクリーンショット等で保全する | 詐欺の事実を証明する最も重要な証拠。アカウント削除やメッセージ消去に備え、早期に保全する |
| 送金トランザクション | 詐欺サイト・詐欺師のアドレスへの送金に関するオンチェーンのトランザクションハッシュ、取引所の出金履歴等を保全する | ブロックチェーン上の記録は消えないが、取引所の出金履歴はサービス終了時に取得不能になる可能性があるため早期にダウンロードする |
注意:雑損控除の確定申告書には、被害届の受理証明書の名称・証明年月日・証明者名称(警察署名)を記載する欄がある。盗難被害を受けた認識を持った時点で、速やかに最寄りの警察署で被害届を提出すること。窓口で被害届の受理を渋られるケースもあるが、暗号資産の盗難であっても被害届は受理される。粘り強く対応し、必ず受理してもらうこと。受理番号を控え、受理証明書を取得しておくことが、雑損控除の適用にあたって極めて重要である。
盗難と詐欺の区別|暗号資産固有の論点
【結論】暗号資産の損失が雑損控除の対象となるか、必要経費算入にとどまるかは、その損失が「盗難・横領」と「詐欺」のいずれに該当するかで異なる。ただし、暗号資産の被害は態様が複雑であり、同じ「ラグプル」「フィッシング」でも個別の事実関係によって法的評価が変わりうる。以下の表は一般的な傾向を示したものであり、具体的な分類は個別に税理士・弁護士に相談すべきである。
| 被害類型 | 法的評価の傾向 | 雑損控除 | 必要経費算入 |
|---|---|---|---|
| 不正アクセスによる秘密鍵の窃取(ハッキング) | 盗難と評価される可能性が高い | 対象となりうる | 対象となりうる |
| フィッシング(偽サイトへの秘密鍵入力) | 盗難と詐欺の両面がある(個別判断) | 盗難と評価されれば対象となりうる | 対象となりうる |
| 取引所のハッキング・破綻 | 態様による(盗難・横領いずれの評価もありうる) | 補償金の有無・態様による | 対象となりうる |
| ラグプル(プロジェクトの持ち逃げ) | 態様による(当初から騙す意図があれば詐欺、預かり資産の不正な引出しであれば横領の評価余地) | 横領と評価されれば対象となりうる | 対象となりうる |
| ロマンス詐欺(偽取引所への入金) | 詐欺と評価される可能性が高い | 対象外の可能性が高い | 対象となりうる |
| ICO投資詐欺 | 詐欺と評価される可能性が高い | 対象外の可能性が高い | 対象となりうる |
注意:上記の法的評価はあくまで一般的な傾向であり、個別の事実関係によって結論が異なる。たとえばフィッシングは「自ら秘密鍵を入力した=詐欺」とも「意思に反して資産が奪われた=盗難」とも評価しうるし、ラグプルも当初から騙す意図があったか否かで詐欺と横領の評価が分かれうる。暗号資産の被害類型と法的評価の対応関係について確立した判例や国税庁の公式見解は現時点で確認できないため、具体的な分類は個別に税理士・弁護士に相談することを強く推奨する。
国税庁NFT FAQ(問5)は、第三者の不正アクセスによりNFTが消失した場合について、そのNFTの消失が「盗難等」に該当する場合には雑損控除の対象となるとしている。従来、税法の世界では雑損控除における「盗難」を刑法の窃盗と同一に捉え、対象は有体物に限るとする傾向があったが、少なくともNFT FAQは、有体物ではないNFTについて雑損控除の対象としている。この点は暗号資産にも当てはまると考えられる。ただし、暗号資産やNFTの被害について、どのようなケースが盗難・横領・詐欺のいずれに該当するかを明確に判定できるほどの法的整備は現時点でなされていない。個別のケースにおける法的評価は事実関係に基づく個別判断とならざるを得ず、この不確実性自体が暗号資産の詐欺・盗難被害における税務処理の最大の難しさである。
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詐欺でも使える|必要経費算入(所得税法第51条第4項)
【結論】詐欺による損失は雑損控除の対象外だが、暗号資産が「雑所得の基因となる資産」に該当する場合、所得税法第51条第4項により、その年分の雑所得の金額を限度として必要経費に算入できる。この取扱いは国会答弁で国税庁次長が認めている。
令和4年4月19日の参議院財政金融委員会において、藤末健三議員が暗号資産のICO投資詐欺について質問した。これに対し重藤哲郎国税庁次長は、暗号資産が所得税法第51条第4項の「雑所得の基因となる資産」に該当しうることを認めたうえで、詐欺による損失を必要経費に計上できる旨を答弁している。
雑損控除と必要経費算入の比較
| 項目 | 雑損控除(所得税法第72条) | 必要経費算入(所得税法第51条第4項) |
|---|---|---|
| 対象となる損失 | 災害・盗難・横領のみ | 詐欺を含むすべての損失 |
| 控除の上限 | 総所得金額等の10%超過部分 | その年分の雑所得の金額が上限 |
| 繰越控除 | 翌年以後3年間 | なし |
| 損失額の算定 | 損失時の時価 | 帳簿価額 |
| 控除先 | 総所得金額等から控除 | 雑所得の金額の計算上控除 |
必要経費算入はその年分の雑所得の金額が上限であり、雑所得がゼロまたはマイナスの場合は損失を控除しきれない。また、3年間の繰越控除も認められないため、雑損控除と比較して救済の範囲は限定的である。
なお、必要経費に算入される損失からは、保険金・損害賠償金その他これらに類するものにより補塡される部分の金額、資産の譲渡により又はこれに関連して生じたものなどが除かれる。
補足(国会答弁の要旨):重藤国税庁次長は「個々の事実関係にもよるが、例えば裁判などによって詐欺によって暗号資産がだまし取られたといった事実が明らかとなって、契約が取り消されたといった場合であれば、税務上も、まず暗号資産の交換によって売買益が発生したという取扱いはしないこと、あるいは当該暗号資産の損失を雑所得の金額の範囲内で必要経費に算入するといったこともできるのではないか」と述べている(令和4年4月19日参議院財政金融委員会)。
取引所のハッキング・破綻と補償金の課税関係
【結論】取引所がハッキング被害に遭い、預けていた暗号資産の代わりに日本円の補償金を受け取った場合、その補償金は非課税の損害賠償金には該当せず、雑所得として課税される。
国税庁タックスアンサーNo.1525は、暗号資産交換業者が不正送信被害に遭い、預かった暗号資産を返還できなくなった場合に支払われる補償金について、「返還できなくなった暗号資産に代えて支払われる金銭であり、その補償金と同額で暗号資産を売却したことにより金銭を得たのと同一の結果となる」として、非課税となる損害賠償金には該当せず雑所得として課税されるとしている。
補償金の計算の基礎となった1単位当たりの暗号資産の価額がもともとの取得単価よりも低額である場合には、雑所得の計算上損失が生じることになり、その損失を他の雑所得と通算することは可能である。
暗号資産の詐欺被害の実態と自衛策
【結論】ニセのCEX・DEX取引所サイトに誘導して資金を入金させ、引き出せなくする詐欺が横行している。特にSNSを通じた国際ロマンス詐欺は非常に巧妙であり、事前知識がない方は騙されても仕方がないと思うほど自然な流れで詐欺サイトに誘導される。聞いたことのない取引所に入金する際は、複数の方法で事前確認を行うべきである。
ロマンス詐欺の手口
当事務所にも多くの詐欺被害の相談が寄せられるが、SNSを通じたロマンス詐欺は非常に巧妙である。相手からは詐欺サイトの話は出さず、ひたすら日常会話を続ける。そしてふとしたタイミングで被害者の方が投資やそれに類するテーマの会話をした際に、非常に自然な流れで詐欺サイトに誘導していく。事前知識がない方は騙されても仕方がないと思うほど、その流れは自然である。
補足:その他の手法として、何らかの理由をつけて(例えば未上場のトークンを代理購入するので暗号資産を預けてくれ、など)、暗号資産を受取り、その後暗号資産を返したいが、そのためには追加の暗号資産が必要であると要求する手口もある。流れはどうであれ先に暗号資産を送るのは詐欺の可能性を常時頭の片隅に置くことが求められる。
詐欺サイトを見分ける方法
- Googleの言語設定を変更して検索する:言語設定を中文(中国語)やEnglishに変更し、「scam ◯◯◯(サイト名)」や「诈骗 ◯◯◯(サイト名)」で検索する。そのサイトが詐欺サイトとして現地コミュニティで警告が出されていることがある。とはいえ、SNSで見知らぬ人からの突然のDMから始まったやり取りの結果勧められたサイトは、例え何ヶ月やり取りしていようとほぼ確実に詐欺と考えてよい(詐欺師にとって、そのやり取りは「仕事」である)。
- X(旧Twitter)で利用者の評判を確認する:実際に利用している人の投稿を確認する。取引所名で検索しても特定の投稿者による言及しかないor詐欺(spam)という言及がある場合は詐欺と考えて良い。本当に良いサイトは複数のトレーダーが既に言及しているケースが殆どである。
- まず小口で入金する:それでも尚入金する場合は、少額で入出金テストを行ってから本格的に資金を入れること。
詐欺サイトの典型的な特徴
暗号資産を引き出す際に通常の送金手数料のほかに「税金を源泉徴収する必要がある」「出金手数料が追加で必要」などといって別途金銭を要求する取引所は、詐欺サイトである可能性が極めて高い(敢えて言うが100%詐欺である)。金銭を支払っても引き出すことはできないし、更に何らかの理由をつけて金銭を要求してくる。無理に引き出そうとせず、速やかに専門家に相談すべきである。
被害回復を謳う弁護士にも注意
SNS型投資詐欺やロマンス詐欺の被害が増加する中、「お金を取り戻します」等の過大な広告で被害回復を謳って契約を結んだにもかかわらず、十分な説明がなかったり対応を怠ったりしたとして、弁護士が懲戒処分を受ける事例が相次いでいる。
暗号資産の詐欺被害は、ごく特殊なケースを除き、失った資金を取り返すことは極めて困難であるのが現実である。被害回復を謳う弁護士に二次的な費用を支払う前に、弁護士会の注意喚起を確認し、契約前に十分な説明がなされているかを慎重に判断すべきである。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
詐欺被害に遭っている知人・友人を止めたい方へ
【結論】投資詐欺にハマっている人間に「騙されている」と直接言っても効果はない。論理ではなく感情で確信しているため、正面からの説得は防御姿勢を強めるだけである。有効なのは「検証可能な事実」を本人に確認させること、出金テストを提案すること、第三者の専門家に引き合わせることの3つである。
「儲かる投資を教えます」が成立しない構造的理由
投資は本質的にゼロサムゲームである。誰かが利益を得たなら、市場の別の誰かが同額を失っている。本当に儲かる情報を持っているなら、他人に教えた瞬間に参加者が増えて買値が上がり、自分の利益が希釈される。儲かる情報を持つ合理的な人間は、黙って自分で投資する。「教える」という行為自体が、その情報の価値を毀損する。
ではなぜ「教える」のか。投資で儲けているのではなく、「教える行為」そのもので儲けているからである。投資系インフルエンサーの収益源は運用益ではなく広告収入・アフィリエイト・サロン会費・情報商材の販売である。SNS型投資詐欺はこの構造をさらに悪質に進化させたものであり、架空の取引プラットフォームに入金させること自体が目的である。
「仲間と一緒に稼ぎたい」という言葉も同様に矛盾する。ゼロサムゲームでは仲間が増えるほど1人あたりの取り分は減るため、仲間を増やしたがる人間の利益の源泉は市場ではない。「仲間を増やす=入金者を増やす=自分の利益が増える」という構造でのみ、「仲間と一緒に稼ぎたい」は発言者にとって合理的になる。つまり、先に入った人間が後から入った人間の入金で利益を得ているだけであり、市場で稼いでいるわけではない。
見分け方は「なぜこの人は、自分で投資せずに私に教えるのか」の一点を問えばよい。正規の取引所は「この銘柄が儲かる」とは言わない。「手数料が安い」「ツールが使いやすい」としか言わない。特定銘柄で「必ず儲かる」と言った瞬間にそれは投資助言業であり、金融商品取引法の登録義務が発生する。それをやっている時点で、正規の事業者ではない。
なぜ論理的な説得が効かないのか
投資詐欺にハマっている人間は、論理的に間違っているのではなく、感情的に正しいと確信している。複数の警察官に「99%詐欺」と言われても振り込みを続行した事例がある。この背景には3層の心理的ロックがある。
- サンクコスト:すでに数百万〜数千万を入金している。「詐欺だった」を認めることは「そのお金がすべて消えた」を認めることと同義であり、人間の脳はこの認知を全力で拒否する。
- 一貫性の原理:自分で判断し、自分で入金し、友人にまで紹介した。「騙されていた」を認めると自分の判断力の全否定になるため、「自分は正しい、相手は本物だ」と信じる方向に認知が歪む。
- 希望の喪失への恐怖:詐欺だと認めた瞬間、お金が戻る可能性がゼロになる。信じ続ける限り「来週には出金できるかもしれない」という希望が残る。大事な資金が不安定な状況に置かれている人間にとって、この希望を手放すことは心理的に極めて困難である。
有効な3つの介入方法
「あなたは騙されている」は最悪手である。相手は防御姿勢に入り、むしろ詐欺師側に駆け込んで「詐欺ではないですよね?」と確認しに行ってしまうリスクがある。以下の3つが相対的に有効である。
- ①「検証可能な事実」だけを並べる:「騙されている」と言わず「一緒に確認しよう」と持ちかける。振込先口座の名義を全部並べさせ、「なぜ同じ会社なのに毎回口座が違うのか」を本人に考えさせる。答えを与えるのではなく、質問だけをする。
- ②出金テストを提案する:「本物かどうか、少額を出金してみよう」と提案する。詐欺プラットフォームは出金時に「税金」「サービス料」等の追加入金を要求してくる。「出金するのにお金を払う証券会社を他に知っているか?」と聞く。SBI証券でも楽天証券でも、出金に手数料以外の費用はかからない。
- ③第三者の専門家に引き合わせる:家族や友人が言っても「素人に何がわかる」で終わる。税理士・弁護士・警察の専門窓口(#9110)など、専門家という権威を経由させる。「詐欺だ」とは言わず「税務処理のために取引の実態を確認する必要がある」等の実務的な理由づけが有効である。
補足(介入のタイミング):最も説得が効くのは「追加入金を要求された瞬間」である。出金しようとしたら税金を請求された、サービス料を請求された——この瞬間だけ、本人の中に「おかしい」という感覚が芽生える。利益が出ている(と信じている)段階で介入してもほぼ無駄である。追加入金を迷っている瞬間に第三者が介入できれば、被害額を大幅に抑えられる可能性がある。
法人の場合の損失処理
【結論】法人の場合は、詐欺・盗難いずれの場合も、帳簿価額を損失として損金の額に算入することが認められる可能性が高い(法人税法第22条第3項第3号)。ただし、損害賠償金に係る収益を計上する必要があるかを併せて検討する。
個人の場合は詐欺か盗難かの区別が雑損控除の適用可否に直結するが、法人の場合は損金算入の可否にこの区別は影響しない。法人税法第22条第3項第3号は「当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」を損金の額に算入すると規定しており、詐欺・盗難による損失はこれに該当する。
ただし、損害賠償請求権が確定している場合や、保険金の受取りが見込まれる場合は、同時に収益を計上する必要があるかを検討することになる(法人税法第22条第2項・第3項)。
よくある質問(FAQ)
Q1. ラグプル(プロジェクトの持ち逃げ)の損失は雑損控除の対象になりますか?
態様による。当初から騙す意図でプロジェクトを立ち上げた場合は詐欺と評価され雑損控除の対象外となる可能性が高いが、ユーザーから預かった資産を不正に引き抜いた場合は横領と評価される余地があり、横領であれば雑損控除の対象となりうる(所得税法第72条)。いずれの場合も、所得税法第51条第4項により雑所得の必要経費に算入できる可能性がある。個別の事実関係により結論が異なるため、税理士・弁護士に相談することを推奨する。
Q2. フィッシングで秘密鍵を盗まれた場合は盗難ですか、詐欺ですか?
盗難と評価できる余地がある。フィッシングは偽サイトに自ら秘密鍵を入力するため詐欺とも評価しうるが、結果として本人の意思に反して資産が奪われたという点では盗難の要素もある。個別の事実関係によるため、税理士に相談することを推奨する。
Q3. 取引所から補償金を受け取った場合、非課税になりますか?
ならない。国税庁タックスアンサーNo.1525は、取引所が不正送信被害に遭い支払われた補償金は、非課税となる損害賠償金には該当せず雑所得として課税されるとしている。ただし、補償金の単価が取得単価より低い場合は雑所得の計算上損失が生じ、他の雑所得と通算可能である。
Q4. 詐欺被害の損失を必要経費に計上するには何が必要ですか?
詐欺の事実を証明する証拠が必要である。国会答弁では「裁判などによって詐欺によって暗号資産がだまし取られたといった事実が明らかとなって、契約が取り消されたといった場合」が例示されている。被害届の提出、裁判記録、オンチェーンでの送金履歴等を保全しておくことが重要である。
Q5. NFTの盗難・消失と暗号資産の盗難・消失で扱いは違いますか?
基本的な税務上の扱いは同様である。国税庁NFT FAQ(問5)は有体物ではないNFTについて雑損控除の対象としており、暗号資産にも同様の考え方が適用されると考えられる。NFT固有の論点(バーン・消失との区別、譲渡所得との関係等)については「NFTの盗難・消失の税金|雑損控除と必要経費」を参照されたい。
Q6. 知人が投資詐欺に遭っているようですが、どうすれば止められますか?
「騙されている」と直接言うのは逆効果である。投資詐欺にハマっている人間は感情的に確信しているため、正面からの説得は防御姿勢を強める。振込先口座の名義を全部並べさせて矛盾に気づかせる、少額の出金テストを提案する、税理士や警察の専門窓口(#9110)等の第三者に引き合わせる、の3つが相対的に有効である。介入のタイミングは「追加入金を要求された瞬間」が最も効果的である。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第9条第1項第18号(非課税所得)
- 所得税法第51条第4項(雑所得の基因となる資産の損失)
- 所得税法第62条第1項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)
- 所得税法第72条(雑損控除)
- 所得税法施行令第30条(非課税とされる保険金・損害賠償金等)
- 所得税法施行令第178条第1項(雑損控除の対象となる損失の金額)
- 所得税基本通達72-1(雑損控除と必要経費の関係)
- 法人税法第22条第2項・第3項(益金の額・損金の額)
- 国税庁タックスアンサーNo.1110(災害や盗難などで資産に損害を受けたとき)
- 国税庁タックスアンサーNo.1525(暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合)
- 国税庁NFT FAQ 問5(第三者の不正アクセスにより購入したNFTが消失した場合)
