暗号資産の税務調査は5年間で一貫して拡大傾向にあり、令和6事務年度の非違率は過去最高の93.8%に達した。「入られたらほぼ見つかる」状況にある。
- 理由① 調査件数は5年間で432件から613件へ約4割増加し、申告漏れ所得金額も106億円から156億円へ拡大した。令和6年度は追徴税額の伸び(+31.4%)が申告漏れ所得の伸び(+23.8%)を上回っており、無申告・仮装隠蔽など悪質事案へのペナルティ上乗せが増していると推測される。
- 理由② 取引所KYC情報とブロックチェーン解析の統合により、国税庁の調査対象選定精度が年々向上している。非違率が5年連続で9割を超えているのは、税務署が「この人は申告漏れがありそうだ」と高い確度で見込んだ人だけを調査対象にしているためである。
- 条件 DeFi・海外取引所・複数ウォレット利用の増加により、納税者側の正確な損益計算が構造的に困難になっている。意図しない申告漏れが発生しやすい環境そのものが、調査件数拡大の土壌となっている。
国税庁「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」/ 所得税法第120条 / 国税通則法第66条
この記事でわかること
- 令和2〜6事務年度の暗号資産調査件数・追徴税額の推移
- 非違率93.8%が意味する調査精度の高さ
- 調査強化が再加速した背景と要因分析
- 申告漏れが生じやすい取引類型
- 税務調査リスクを下げるための実務対応
令和2〜6事務年度の調査統計
【結論】暗号資産の税務調査は5年間で見ると一貫して拡大傾向にある。調査件数のCAGR(年平均成長率)は+9.14%、申告漏れ所得金額は+10.13%であり、国税当局が暗号資産分野に継続的にリソースを投下していることが統計から確認できる(出典:国税庁「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」)。
| 項目 | 令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 | 対前年比(6年度) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 調査件数 | 432件 | 444件 | 615件 | 535件 | 613件 | 114.6% |
| 非違件数 | 398件 | 405件 | 548件 | 491件 | 575件 | 117.1% |
| 申告漏れ所得金額 | 106億円 | 162億円 | 189億円 | 126億円 | 156億円 | 123.8% |
| 追徴税額 | 34億円 | 53億円 | 64億円 | 35億円 | 46億円 | 131.4% |
| 1件当たり申告漏れ所得金額 | 2,456万円 | 3,659万円 | 3,077万円 | 2,356万円 | 2,538万円 | 107.7% |
| 1件当たり追徴税額 | 780万円 | 1,194万円 | 1,036万円 | 662万円 | 745万円 | 112.5% |
5年間のCAGR(年平均成長率)
| 指標 | CAGR |
|---|---|
| 調査件数 | +9.14% |
| 非違件数 | +9.63% |
| 申告漏れ所得金額 | +10.13% |
| 追徴税額 | +7.85% |
令和5年度はすべての指標が一旦減少したが、令和6年度は全指標で前年を上回り、再拡大局面に入っている。特に注目すべきは、件数の増加(+14.6%)だけでなく、1件当たりの金額も増加している点である。量的拡大と質的上昇が同時に進行している。
非違率93.8%の意味
【結論】令和6事務年度の非違率は93.8%と過去5年で最高であり、暗号資産の税務調査は「入られたらほぼ見つかる」状況にある。これは国税庁の調査対象選定手法(取引所データの突合・ブロックチェーン解析等)が年々洗練されていることを示す。
| 事務年度 | 非違率 |
|---|---|
| 令和2年度 | 92.1% |
| 令和3年度 | 91.2% |
| 令和4年度 | 89.1% |
| 令和5年度 | 91.8% |
| 令和6年度 | 93.8% |
非違率(税務調査を実施した件数のうち、実際に申告漏れや誤りが見つかった件数の割合)が9割を超え続けている事実は、国税庁が「申告漏れの可能性が高い案件」を精度高く選定してから調査に着手していることを意味する。ランダムな調査ではなく、データに基づく「当たり案件」に絞った調査が行われている。
追徴税額の伸びが申告漏れ所得の伸びを上回る
令和6年度の追徴税額の伸び率(+31.4%)は、申告漏れ所得金額の伸び率(+23.8%)を上回っている。この乖離は、申告漏れの「金額」だけでなく、申告態様(無申告や仮装隠蔽など)がペナルティの上乗せを生んでいる可能性を示す。無申告加算税や重加算税の対象となる悪質な事案の比重が増加していると推測できる。
調査強化が再加速した背景
【結論】令和6年度の調査再加速の背景には、①取引所KYC情報とブロックチェーン解析の統合による情報基盤の強化、②DeFi・海外取引所・複数ウォレット利用による納税者側の集計困難の増大、③相場上昇局面での利益確定の増加が重なっていると考えられる。
①情報基盤の高度化
国税庁は、国内暗号資産交換業者からのKYC情報・取引データの入手に加え、ブロックチェーンの公開情報を活用した解析を行っている。これらの情報を突合することで、申告漏れの可能性が高い納税者を効率的に選定できるようになった。非違率が過去最高の93.8%に達していることが、この選定精度の向上を裏付けている。
②取引類型の複雑化
DeFiプロトコルの利用、ステーキング報酬、エアドロップ、海外取引所での取引、複数ウォレット間の移動など、暗号資産の取引類型は年々複雑化している。これらの取引は、取引履歴の取得自体が困難なケースが多く、納税者が正確に損益計算を行うことが構造的に難しい。結果として、意図せず申告漏れが発生しやすい環境が形成されている。
③相場局面の影響
暗号資産の相場上昇局面では利益確定が増え、申告すべき所得が増加する。令和6事務年度の数値が令和4年度(調査件数615件・追徴税額64億円)に次ぐ水準であることは、対象年度の相場環境が調査成果に影響を与えていることを示唆する。
申告漏れリスクを下げるための実務対応
【結論】税務調査リスクを下げる最重要の対策は、国内取引所だけでなく海外取引所・DEX・ウォレット間移動を含めた取引履歴の完全な把握である。暗号資産の所得は原則として雑所得に該当し、確定申告書の提出義務が発生するため、申告漏れはそのままペナルティに直結する(所得税法第120条、国税通則法第66条)。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の税務調査対応を税理士に依頼する」をご覧ください。
対策①:取引履歴の網羅的な収集
申告漏れの多くは、取引履歴の「漏れ」に起因する。国内取引所のCSVデータだけでなく、以下をすべて把握する必要がある。
- 海外取引所の取引履歴
- DEX等の取引履歴
- 期末時点のトークンの実数量
必要資料の詳細は「暗号資産の損益計算で必要な資料チェックリスト|個人・法人別」で解説している。
対策②:自主的な期限後申告・修正申告
過去の申告に漏れがある場合、税務調査の通知を受ける前に自主的に期限後申告または修正申告を行うことで、無申告加算税が軽減される。調査通知後の修正申告と比べてペナルティの差が大きいため、タイミングの判断が重要である。
対策③:論点整理と証憑の事前準備
税務調査の対応では、「なぜその税務処理を行ったか」を事実認定から所得区分の判断、計算方法、証憑まで一貫して説明できる状態にしておくことが重要である。暗号資産は取引類型によって課税関係が異なるため、取引ごとの根拠整理が防御力を決定する。
対策④:暗号資産に精通した税理士の顧問契約
筆者の周辺で暗号資産の損益計算まで一貫して対応している税理士と話をすると、顧問先にはほとんど税務調査が来ないという共通した実感がある(なお顧客に損益計算を任せている事務所についてはこの限りではない)。当事務所においても、顧問先に税務調査が入ったのはこれまで1件のみであり、しかもその内容は追徴を目的とした調査ではなく実態把握に近いものであった。
税務署が調査対象を選定する際、申告書の整合性・計算根拠の明確さ・取引履歴の網羅性を見ていることは統計が示す通りである。税理士が関与し、「適切な損益計算を」顧客任せにせず税理士が行っている申告は、これらの要件を満たしやすく、結果として調査対象に選定されにくい構造がある。正確な損益計算そのものが、最も効果的な税務調査の回避策であると確信している。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の税務調査対応を税理士に依頼する」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産の税務調査は増えていますか?
増えている。令和2〜6事務年度の調査件数のCAGR(年平均成長率)は+9.14%であり、国税庁が暗号資産分野に継続的にリソースを投下していることが統計から確認できる。令和6年度は613件と前年比114.6%に増加している(出典:国税庁「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」)。
Q2. 税務調査に入られたら申告漏れを指摘される確率はどのくらいですか?
93.8%である。令和6事務年度の非違率(調査件数に対する非違件数の割合)は93.8%と過去5年で最高であり、調査に入られたらほぼ確実に申告漏れが見つかっている(出典:同上)。
Q3. 1件当たりの追徴税額はどのくらいですか?
令和6事務年度は平均745万円である。1件当たりの申告漏れ所得金額は2,538万円、追徴税額は745万円となっている。なお令和3年度には1件当たり1,194万円に達した年度もあり、案件の内容によって大きく変動する(出典:同上)。
Q4. 海外取引所やDeFiの取引も国税庁に把握されますか?
把握される可能性が高い。国税庁はKYC情報・ブロックチェーン解析・国際的な情報交換(CARF等)を活用して取引を把握している。海外取引所やDeFiの取引だから把握されないという認識は危険である。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の税務調査対応を税理士に依頼する」をご覧ください。
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暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第120条(確定所得申告)
- 所得税法第35条(雑所得)
- 所得税法第36条第1項(収入金額)
- 国税通則法第65条(過少申告加算税)
- 国税通則法第66条(無申告加算税)
- 国税通則法第68条(重加算税)
- 国税庁「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」
