暗号資産の損益計算には最低5種類の資料が必要であり、申告後も税務調査に備えて保管しなければならない。
- 理由① 必要な資料は、①期末残高のスクリーンショット+集計エクセル、②ウォレットアドレス一覧、③取引所の取引履歴(CSV)、④法定通貨残高(法人のみ)、⑤把握不能な取引情報の5種類。1つでも欠けると損益額の正確性が担保できない。
- 理由② 税務調査では取引履歴と期末残高の照合が行われる。資料が揃っていなければ計算根拠を説明できず、推計課税や加算税のリスクが高まる。申告後も最低5年間(法人は7年間)の保管が必要。
- 条件 DeFi利用者はオンチェーンの取引履歴、法人は法定通貨残高が追加で必要となる。CEXのみの個人と比べて収集すべき資料の範囲が大きく異なるため、自分の取引範囲に応じたチェックが必要。
所得税法第232条 / 法人税法第150条の2
この記事でわかること
- 個人・法人共通で必要な基本資料5種類の内容と取得方法
- 法人特有の追加資料(法定通貨残高・BS整合資料)
- DeFi・ステーキング・BCG等、取引種類別の追加資料
- 取引履歴・期末残高の取得時の注意点
- 税務調査に備えた資料の保存ルール
損益計算に必要な基本資料5種
【結論】暗号資産の損益計算に必要な資料は、①期末残高、②ウォレットアドレス、③取引履歴、④法定通貨残高(法人等のみ)、⑤その他の取引情報の5種類である。個人はこのうち①②③⑤が必須、法人は5種すべてが必要となる(所得税法第120条、法人税法第74条)。
以下の表に、各資料の内容・取得方法・注意点を整理する。
| 資料 | 内容 | 取得方法 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|---|---|
| ①期末残高 | ウォレット・取引所ごとの暗号資産保有数量 | 各ウォレット・取引所の画面スクリーンショット+エクセル集計 | ◎必須 | ◎必須 |
| ②ウォレットアドレス | メタマスク等のウォレットアプリのアドレス一覧 | ウォレットアプリからコピー(ネットワーク名とセットで記録) | ◎必須 | ◎必須 |
| ③取引履歴 | 暗号資産取引所からダウンロードした取引データ | 各取引所の管理画面からCSV/XLSXダウンロード | ◎必須 | ◎必須 |
| ④法定通貨残高 | 取引所内の円残高・海外取引所の外貨残高 | 各取引所の残高画面 | △青色のみ | ◎必須 |
| ⑤その他 | ウォレット・取引履歴で把握できない取引情報 | ICO参加証明、譲渡契約書、詐欺被害記録等を個別に用意 | ○該当時 | ○該当時 |
①期末残高の作成ポイント
期末残高のエクセルには、以下の項目を記載する。
- シンボル名(例:ETH)
- CoinGecko API ID:シンボル名だけでは暗号資産を特定できない。現在17,000種以上の暗号資産が存在し、同名シンボルが多数あるため、CoinGecko API IDで一意に特定する。体感的に9割のトークンはAPI IDの取得が可能である
- 保有数量:確認日を明記する
- CoinGeckoに未登録のトークン:コントラクトアドレスで記載する(例:
evm_8453_0x07d15798a67253d76cea61f0ea6f57aedc59dffb)
なお、以下のトークンは記載対象から除外してよい。
- 詐欺トークン(スキャムトークン):損益計算から除外するため記載不要
- NFT:取引履歴に出てこない限り存在把握・時価取得が困難であり、高額・特殊なもの以外は記載不要
- LPトークン・債権トークン:記載する(記載しない場合は調整計算の対象か否かを判断する工程で対応)
②ウォレットアドレスの注意点
ウォレットアドレスは、オンチェーン取引履歴を取得するために必要である。ネットワーク名(Ethereum、Polygon、Solana等)とアドレスをセットで記録する。
- 取引所の入送金アドレス:取引履歴で代替可能なため原則不要
- ハードウェアウォレット(コールドウォレット)のアドレス:原則不要
- 秘密鍵:絶対に提出しない。税理士に依頼する場合も同様
③取引履歴の注意点
取引履歴は、取引を開始した年度からすべて必要である。当年分だけでは期首の取得単価が算出できない。
- 年間取引報告書(PDF)は原則使用しない。詳細な損益計算には取引単位のCSVデータが必要である
- 海外取引所のタイムゾーン:UTC表記の場合は日本標準時(JST=UTC+9)との乖離を確認する
- ダウンロード後のファイル操作に注意:CSVを直接開くと文字コードが変更され、損益計算ソフトに取り込めなくなることがある
- APIキーによる取得も推奨:ただし一部取引所ではAPI経由で取得できない履歴がある(例:bitbankの販売所はAPI非対応)
- 取引所閉鎖等で取得不能な場合:調整計算で対応する
DeFi・BCG等の追加資料(取引内容別)
【結論】ステーキング・レンディング・流動性提供・BCG等のDeFi系取引を行っている場合、預入と引出のトランザクションがセットであることを記録した資料が追加で必要となる。これらの取引は通常の取引履歴だけでは処理内容を特定できないため、メモによる紐付けが不可欠である(所得税法第36条第1項)。
DeFi系の取引がある場合、以下の追加資料・メモ記録が必要となる。
| 取引種類 | 必要な追加情報 | メモ記載例 |
|---|---|---|
| ステーキング・レンディング | 預入・引出のセット紐付け | 「2025ステーキング001」「2025レンディング001」 |
| 流動性提供(LP) | 暗号資産預入+LPトークン受取 / 暗号資産引出+LPトークン返却のセット | 「2025流動性提供001」(※解除時も「流動性提供」で統一。「解除」と書くと検索で漏れる) |
| トークン借入・返済 | 借入・返済のセット+借入先情報 | 「2025借入(借入先名)001」 |
| トークン貸付・返済 | 貸付・返済のセット+貸付先情報 | 「2025貸付(貸付先名)001」 |
| ICO参加 | 送金した暗号資産の種類・数量、受取トークンの種類、配布スケジュール | 参加時の契約書・確認メール等 |
| BCG(ブロックチェーンゲーム) | 期首保有数量・期中入金数量・期末保有数量・期中出金数量 | トークン種類ごとに集計(ゲーム内履歴が取得不可のため概算計算) |
| その他の預入・引出 | 内容の説明+セット紐付け | 「2025預入001(サービス名)」 |
なお、借入・返済や貸付・返済がウォレットだけでなくCEX(中央集権型取引所)から行われている場合もある。その場合は別途カスタムファイルを作成して損益計算ソフトに取り込む必要がある。
資料の保存と注意点
【結論】損益計算のために用意した資料は、確定申告後も必ず保管する。税務調査時に計算根拠として提示を求められる可能性があるためである。個人の保存期間は5年(青色申告の帳簿は7年)、法人は7年(欠損金がある場合は10年)となる(所得税法施行規則第102条、法人税法施行規則第59条)。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
保存期間の整理
| 区分 | 保存期間 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| 個人(白色申告) | 5年 | 所得税法施行規則第102条 |
| 個人(青色申告・帳簿) | 7年 | 所得税法施行規則第63条 |
| 法人 | 7年(欠損金あり:10年) | 法人税法施行規則第59条 |
よくある失敗パターン
- 当年の取引履歴しかダウンロードしていない:損益計算には取引開始年度からの全履歴が必要。取引所が閉鎖すると過去履歴を取得できなくなるため、毎年ダウンロードして保管する
- 年間取引報告書で代用する:PDFの年間取引報告書は集計済みデータであり、トランザクション単位の詳細が含まれていない。損益計算ソフトへの取り込みには使用できない
- スクリーンショットを撮っていない:取引所やウォレットの残高表示は日々変動する。期末時点の正確な残高を証明するにはスクリーンショットが不可欠
- DeFi取引のメモを残していない:ステーキング・LP等の預入と引出の対応関係が不明だと、単純な送金・売買として処理され、損益が大きくズレる
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 年間取引報告書があれば取引履歴のCSVは不要ですか?
不要ではない。年間取引報告書(PDF)は集計済みデータであり、トランザクション単位の詳細が含まれていないため、損益計算ソフトへの取り込みには使用できない。取引所からCSV/XLSX形式の取引履歴を別途ダウンロードする必要がある。
Q2. 取引を始めた年の取引履歴も必要ですか?
必要である。暗号資産の取得単価を正確に算出するには、取引を開始した年度からの全取引履歴が必要となる(所得税法第48条の2、所得税法施行令第119条の2)。当年分だけでは期首の取得単価が計算できない。
Q3. ウォレットの秘密鍵やシードフレーズを税理士に渡す必要はありますか?
渡す必要はない。損益計算に必要なのはウォレットアドレス(公開鍵)のみである。秘密鍵やシードフレーズは暗号資産の管理権限そのものであり、税理士を含む第三者に絶対に渡してはならない。
Q4. DeFi取引のメモを残していない場合はどうすればよいですか?
オンチェーンデータから復元を試みる。ウォレットアドレスがあれば、ブロックチェーンエクスプローラー(Etherscan等)で過去のトランザクションを確認し、預入・引出のセットを特定できる可能性がある。ただし取引量が多い場合は復元作業に相当の時間と専門知識が必要となる。
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。
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専門の税理士に依頼する場合
暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。
関係法令
- 所得税法第36条第1項(収入金額)
- 所得税法第48条の2(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)
- 所得税法第120条(確定申告書)
- 所得税法第232条(帳簿書類の保存等)
- 所得税法施行令第119条の2(暗号資産の譲渡原価等の計算方法)
- 所得税法施行規則第63条(青色申告者の帳簿書類の保存)
- 所得税法施行規則第102条(白色申告者の帳簿書類の保存)
- 法人税法第74条(確定申告)
- 法人税法第150条の2(帳簿書類の保存等)
- 法人税法施行規則第59条(帳簿書類の保存期間)
