JPYCの券面額乖離により生じた所得の課税関係(後編)——譲渡原価・所得区分

結論
  

JPYCの券面額乖離により生じた所得は雑所得に区分される。譲渡原価の計算方法には明文の規定がなく、採用した方法を継続適用し、計算根拠を保存することが実務対応の要となる。

  • 理由① 所得税法48条の2(暗号資産の総平均法・移動平均法)は電子決済手段に適用されない。原審(東京高判令和5年5月24日)が外国通貨について示した「総平均法に準ずる方法」が有力な候補だが、唯一の方法ではない。
  • 理由② 受け取ったUSDC・USDTの取得価額は、支払ったJPYCの額ではなく受領時の時価となる(所得税法36条2項)。支払ったJPYCの額で計上すると平均単価が下がり、将来の譲渡益が膨らむ。
  • 理由③ 1号電子決済手段は、発行者が券面額で払い戻す義務を負う通貨建資産(資金決済法2条5項1号・7項)として金銭債権に該当し、所得税基本通達33-1により譲渡所得の基因となる資産から除外される。ゴルフ会員権の預託金返還請求権に関する裁判例も同じ結論を採っている。暗号資産と共通する支払手段としての性質に、金銭債権という独自の根拠が加わる。
  • 条件 受け取ったのがUSDT(暗号資産)であれば、所得税法48条の2の評価方法に従い同一銘柄に合算する。JPYSCなど3号電子決済手段(特定信託受益権)は法的性格が異なるため、同列に扱わない。

所得税法第36条第2項、第48条の2 / 所得税基本通達33-1 / 東京高判令和5年5月24日 / 国税庁FAQ 3-2-1〜3-2-4

本ナレッジベースのDeFi・暗号資産税務の実務解説をベースに、中央経済社より2026年11月に単著を刊行予定です。

この記事でわかること

  • 国税庁FAQ(電子決済手段関係3-2-1〜3-2-4)の到達点と、個人への当てはめの限界
  • JPYC・USDC・JPYSCの法的性格の違い
  • 所得税法48条の2が電子決済手段に及ばないことの影響
  • 譲渡原価の計算方法(「総平均法に準ずる方法」)と受領資産の取得価額
  • 所得区分が雑所得となる理由(所得税基本通達33-1・ゴルフ会員権の裁判例)
  • 計算例と実務対応のチェックポイント

前編の要点:JPYCを券面額超の価値でUSDC・USDT等と交換した場合、所法36条1項・2項により交換時に所得を認識する。「暗号資産に換えれば繰延」「買っただけ」はいずれも成り立たない。最判令和8年6月16日は外貨の事案であり、類推の材料にとどまる。
→ JPYCの券面額乖離により生じた所得の課税関係(前編)——実現時期

課税時期が決まっても、実務はそこで終わらない。いくらを譲渡原価とし、どの所得に区分するか。この2点は、電子決済手段については明文がほとんどない。後編では、この空白をどう埋めるかを扱う。

目次

国税庁FAQ(電子決済手段関係)の到達点

令和7年12月最終改訂版のFAQは、電子決済手段関係として3-2-1から3-2-4の4問を置く。いずれも法人税の取扱いである。

設問内容
3-2-1(取得時)券面額に基づく価額が取得価額。電子決済手段は「要求払預金に類似する性格を有し、金銭債権に該当する」。払込額との差額は取得事業年度の損益
3-2-2(譲渡時)受け取った対価の額と帳簿価額の差額を、移転した事業年度の損益とする
3-2-3(期末時)金銭債権であるため期末時価評価の対象外
3-2-4(外貨建)外貨建電子決済手段は短期外貨建債権以外の外貨建債権に該当し、期末時換算法または発生時換算法による

関係法令は法法22条4項、22条の2、37条、52条1項・2項のみで、電子決済手段固有の特則はない。前編で紹介した林道晴裁判官の補足意見のとおり、法人税は22条4項を導管として会計上の取扱いを取り込めるため、特則を要しない。所得税にはこの導管がない。

JPYC・USDC・JPYSCの法的性格

日本暗号資産等取引業協会の取扱電子決済手段一覧(2026年6月24日更新)で、各銘柄の位置づけを確認できる。

銘柄資金決済法2条5項価値償還請求権
JPYC第1号1円相当あり(日本円)
USDC第1号(外国電子決済手段)1米ドル相当あり(米ドル)
JPYSC第3号(特定信託受益権)1円あり

1号電子決済手段は、定義上「通貨建資産に限」られる(資金決済法2条5項1号)。通貨建資産とは、本邦通貨・外国通貨をもって表示され、又はこれらをもって債務の履行・払戻し等が行われることとされている資産をいう(同条7項)。文言上は法定通貨で表示されていれば足りるようにも読めるが、解釈上は表示だけでは足りず、発行者等が利用者に対して券面額と同額の法定通貨で払い戻す等の義務を負っていることも必要とされている(事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)17 電子決済手段等取引業者関係 Ⅰ-1-1⑤)。 したがってJPYC・USDCの保有者は、発行者に対して券面額と同額の円・米ドルでの払戻しを求める権利を持つ。FAQ3-2-1が電子決済手段を「金銭債権に該当する」とするのは、この定義上の構造を確認したものといえる。一方、暗号資産の定義(同条14項)は通貨建資産を除いており、払戻義務の有無が電子決済手段と暗号資産を分ける。 ただし、通貨建資産には国債・社債や金額表示型の前払式支払手段も含まれ、通貨建資産であることがそのまま金銭債権であることを意味するわけではない。JPYSCは3号の特定信託受益権であり、通貨建資産ではあっても法形式は信託受益権である。同じ円建てステーブルコインでも、法的性格は同じではない。

所法48条の2は電子決済手段に及ばない

所法48条の2は対象を「資金決済に関する法律第2条第14項に規定する暗号資産」に限定している。所令119条の2(総平均法・移動平均法)、119条の5(法定評価方法)も同様であり、電子決済手段に対応する規定は置かれていない。

USDTUSDC・JPYC
資金決済法上の区分暗号資産(2条14項)電子決済手段(2条5項1号)
所法48条の2適用適用外
譲渡原価の計算総平均法が法定、届出により移動平均法明文なし
評価方法の届出必要(所令119条の3)制度なし

同じ取引でUSDTを受け取ったかUSDCを受け取ったかで、翌年以降の計算ルールが分岐する点に注意したい。

譲渡原価はどう計算するか

原審が示した「総平均法に準ずる方法」

明文のない領域で手がかりになるのが、前編で扱った事件の原審である。複数時点で取得した外国通貨を支払に用いた場合の取得価額について、次のように判示した。

いつの時点で取得した外国通貨を同取引の支払に用いたかを特定することができない一方で、これらの外国通貨は代替性を有するものであることから、相互に等価とみなして計算する方法(総平均法に準ずる方法)……によって算定するのが合理的である

要点は2つある。代替性があり個別特定できない資産は平均法で計算すること。計算のタイミングが期末ではなく支払に供した時点であり、実質的には移動平均法に近いこと。

電子決済手段は代替性の点で外国通貨と変わらず、合理的な候補といえる。ただし、外国通貨についてこの方法の合理性が認められたことと、電子決済手段について唯一の方法であることは別であり、個別法その他の方法を排除するものではない。48条の2が適用されない以上、届出によって移動平均法を選ぶという選択肢も存在しない。

受領資産の取得価額が将来の税負担を左右する

  • 受取時時価で認識する場合:既存保有分と合算しても、平均単価はほぼ変わらない
  • 支払ったJPYCの額で認識する場合:平均単価が下押しされ、将来の譲渡益が膨らむ

後者は課税の繰延にすらならない。雑所得である限り損失の繰越控除も損益通算もできず、否認されれば加算税・延滞税の分だけ不利になる。受け取ったのがUSDTであれば48条の2により同一銘柄プールに合算されるため、影響は既存保有分にも及ぶ。

USDC(外貨建電子決済手段)という第二の空白

法人にはFAQ3-2-4と法法61条の9による換算ルールがあるが、個人には相当する規定がない。所法57条の3は「外国通貨で支払が行われる」取引に限られ、USDCは入口で外れる。もっとも、個人には期末評価も期末換算も求められず、他の資産に交換した時点で36条2項により受領資産の円換算額で収入金額を測るため、申告実務で障害になる場面は想定しにくい。

所得区分|暗号資産と共通の理由に、金銭債権という根拠が加わる

暗号資産が雑所得とされる理由

平成31年3月20日の参議院財政金融委員会で、政府は次の見解を示した。暗号資産は資金決済法上「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる」財産的価値であり、消費税法上も支払手段に類するものとして位置付けられている。そのため暗号資産の譲渡益は資産の値上がりによる増加益とは性質を異にし、暗号資産は「資産」ではあるが「譲渡所得の基因となる資産」には該当しない。

令和4年4月19日の質問主意書(MONAコイン)に対する答弁書では、支払手段としての性質のほかに資産の価値の増加益が生じる性質があるとしても、その性質について一般に独立した経済的価値が認められて取引の対象とされているとは考えていない、との見解が示された。値上がり益を生む性質を併せ持つ暗号資産であっても、その性質が独立して取引の対象になっていない限り、譲渡所得は認められないという整理である。

支払手段としての性質という点では、JPYCも変わらない。電子決済手段は資金決済法2条5項1号で同じく「代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ」るものと定義され、消費税法上も暗号資産と同様に支払手段に類するものとして譲渡が非課税とされている。券面額を超える価格が付いた局面はあったが、その値上がり益が支払手段としての性質から独立した経済的価値として取引の対象になっているとはいいがたい。暗号資産についての政府見解の論理は、JPYCにもそのまま及びうる。

所基通33-1と裁判例による除外

電子決済手段には、これとは別の除外根拠もある。所基通33-1は、譲渡所得の基因となる資産から「金銭債権」を除外している。1号電子決済手段は、発行者が券面額での払戻義務を負う通貨建資産として、資金決済法の定義の段階で金銭債権の性格を備えており、FAQ3-2-1もこれを明示している。ここで外れる。裁判所も、ゴルフ会員権が預託金返還請求権のみとなった局面で同じ結論を採っている。

裁判例判断
東京地判平成19年6月7日(確定)所法33条の「資産」は増加益の発生が見込まれる資産。預託金返還請求権のみが残った場合は資産の譲渡に当たらない
名古屋地判平成17年7月27日・名古屋高判平成17年12月21日預託金返還による差損は譲渡所得ではなく、損益通算できない
東京高判平成27年1月28日施設利用権が行使できなくなった後の会員権の第三者への譲渡は、譲渡所得の基因となる資産の譲渡に当たらない

通達は法源ではない。論拠として重要なのは、同じ結論が裁判所によっても示されていることである。

ただし論理の内側には検討の余地が残る。金銭債権が譲渡所得の基因となる資産から除外される趣旨は、①金銭債権の譲渡による利益は実質的に金利に相当すること、②金銭債権の譲渡による損失を譲渡損失として扱うと、貸倒損失について税制上の恩典を与えるのと同じ不合理が生じること、の2点にある。 JPYCの券面額乖離は、①には当てはまりにくい。JPYCの払戻額は券面額で固定されており、市場で付いた上乗せは期間の経過に応じて生ずる金利ではなく、需給の偏りによる一時的な価格乖離だからである。 一方、②はむしろ直接に当てはまる。券面額を超える価格でJPYCを取得した者が、価格が券面額に戻った後に手放せば損失が生じる。これを譲渡所得の損失として他の所得と通算できるとすれば、②が想定する不合理がそのまま生じる。資産に当たるかどうかは資産ごとに判断されるもので、利益が出た場合だけ譲渡所得とし、損失が出た場合は除外するという扱いは採りえない。そのため、②の趣旨は除外を維持する方向に働く。 したがって除外の結論は維持されると考えるが、①の趣旨が妥当しにくい局面である以上、議論の余地は残る。上記の裁判例はいずれも償還・退会または権利喪失後の事案であり、債権額を上回る価格が付いた金銭債権の譲渡を判断したものではない。

経路の比較

暗号資産電子決済手段
発行者の払戻義務なし(定義上、通貨建資産を除く・資金決済法2条14項)あり(券面額と同額の法定通貨での払戻義務・同条5項1号、7項)
金銭債権該当性なしあり(1号。FAQ3-2-1も同旨)
雑所得とされる理由消費税法上の支払手段類似の位置付け(資金決済法の定義)を下敷きに、譲渡益は値上がりによる増加益と性質を異にするとされる同じく消費税法上の支払手段類似の位置付けに加え、金銭債権として通達・裁判例により譲渡所得から除外
実定法上の足場所法48条の2なし

JPYCの券面額乖離により生じた所得は雑所得(その他雑所得)に区分される。反復継続して裁定取引を行う場合の事業所得該当性は、所基通35-1・35-2に沿った事実認定の問題となる。

計算例

JPYCの取得価額100万円、受取USDC 1万枚、受取時時価1USDC=150円とする。

項目金額
①JPYCの取得に要した金額(譲渡原価)1,000,000円
②受取USDCの受取時円換算額(収入金額・所法36条2項)1,500,000円
③所得金額(②−①)500,000円

受領したUSDCの取得価額は②の1,500,000円であり、支払ったJPYCの額(1,000,000円)ではない。後日USDCを1,600,000円で譲渡した場合の所得は100,000円となり、同じ利得に二重に課税されることはない。実現時期の議論は課税の有無ではなく帰属年度の問題である、と関与先に説明する際、この対応関係を示すと理解が早い。

実務対応のチェックポイント

  • 交換時刻・数量・約定内容と、同時刻の他市場の価格を記録として残す
  • JPYC・USDCの譲渡原価の計算方法を決め、継続適用し、計算根拠を保存する
  • USDTを受け取った場合は、48条の2の評価方法(届出の有無)に従い同一銘柄プールへ合算する
  • JPYSCなど3号電子決済手段は法的性格が異なるため、同列に扱わない

よくある質問(FAQ)

Q1. JPYCの譲渡原価は総平均法と移動平均法のどちらで計算すべきですか?

個人の電子決済手段には所法48条の2が適用されず、法定の評価方法も届出制度もない。原審が外国通貨について示した「総平均法に準ずる方法」(支払時点ごとの平均)が有力な候補だが、他の方法を排除するものではない。採用した方法を継続適用し、根拠を保存しておくことが重要である。

Q2. JPYCの券面額乖離により生じた所得は譲渡所得になりますか?

譲渡所得にはならず、雑所得に区分される。JPYCなど1号電子決済手段は、発行者が券面額で払い戻す義務を負う通貨建資産であり、金銭債権に該当する。所基通33-1は金銭債権を譲渡所得の基因となる資産から除外している。ゴルフ会員権の預託金返還請求権に関する裁判例も同じ結論を採っている。

Q3. JPYCでUSDCを取得した場合、USDCの取得価額はいくらになりますか?

受け取った時点のUSDCの時価(円換算額)が取得価額となる。支払ったJPYCの取得価額を引き継ぐわけではない。所法36条2項が収入金額を「取得する時における価額」としていることと整合する。

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監修者・運営情報

本記事の監修者は、税理士 藤本剛平(カオーリア会計事務所 代表/近畿税理士会吹田支部・登録番号147244)。中央経済社『事例でわかる!NFT・暗号資産の税務』共著者で、2026年11月に同社より暗号資産(仮想通貨)・NFT・DeFi税務の単著を刊行予定です。

本記事は、暗号資産(仮想通貨)・NFT・DeFiの税務、海外取引所の損益計算、税務調査対応を専門とするカオーリア会計事務所が、個人投資家・法人・税務調査対応の実務を踏まえて作成しています。本稿は所得税法の一般規定からの解釈を述べたものであり、確立した取扱いを紹介するものではありません。個別案件への適用にあたっては、事実関係に即した検討が必要です。

関係法令

  • 所得税法33条2項、35条1項、36条1項・2項、37条1項、48条の2、57条の3第1項
  • 所得税法施行令119条の2、119条の3、119条の5
  • 法人税法22条4項、22条の2、37条、52条、61条の9
  • 資金決済に関する法律2条5項、2条7項、2条14項
  • 所得税基本通達33-1、35-1、35-2
  • 平成31年3月20日参議院財政金融委員会における政府答弁、令和4年4月19日質問主意書(MONAコイン)に対する答弁書
  • 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(令和7年12月最終改訂)3-2-1〜3-2-4
  • 東京高判令和5年5月24日(最判令和8年6月16日の原審)
  • 東京地判平成19年6月7日税資257号順号10724、名古屋地判平成17年7月27日判タ1204号136頁、名古屋高判平成17年12月21日税資255号順号10249、東京高判平成27年1月28日税資265号順号12596
  • 一般社団法人日本暗号資産等取引業協会「取扱電子決済手段一覧」(2026年6月24日更新)
  • 「事務ガイドライン(第三分冊:金融会社関係)17 電子決済手段等取引業者関係 Ⅰ-1-1⑤」
  • 「高見柊『資金決済法の実務Q&A』(中央経済社)Q5-6」
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