個人の法定評価方法は総平均法、法人は移動平均法。届出なしで自動適用される。長期の最終利益額は同じだが、累進税率との組み合わせで総税負担額が変わり得る。
- 理由① 総平均法は年間の平均取得単価で一括計算するため計算がシンプルだが、年末まで取得単価が確定しない。移動平均法は取得のたびに単価を再計算するため精度が高いが、計算の手間が大きい。実務では損益計算ソフトがどちらにも対応しているため、計算負担の差は小さくなっている。
- 理由② 両方法で最終的な利益の合計額は一致するが、各年度への利益の配分が異なる。個人の所得税は累進税率(最大55%)であるため、利益が特定の年度に集中すると税率が上がり、総税負担額が増える。利益を平準化できる方法を選ぶ方が累進課税下では有利。
- 条件 一度届け出た評価方法を変更するには、個人は変更しようとする年の3月15日までに届出が必要。法人は3年経過後に税務署長の承認が必要。いずれも事後的な変更にはハードルがあるため、取引開始時の選択が重要となる。
所得税法第48条の2 / 所得税法施行令第119条の2・第119条の5
この記事でわかること
- 総平均法と移動平均法の計算方法の違い(同一取引データでの比較)
- 個人・法人それぞれの法定評価方法
- 評価方法の届出期限と届出書の提出先
- 評価方法の変更手続き(3年ルール・みなし承認)
- どちらの方法が有利かの判断基準
総平均法の計算方法
【結論】総平均法は、1年間に取得した暗号資産の取得価額の総額を、1年間に取得した数量の合計で除して1単位当たりの取得価額を算出する方法である。年間のすべての取引が確定した後でなければ計算できない(所得税法施行令第119条の2、国税庁FAQ 2-4)。
計算式
年末1単位当たりの取得価額 = 年中取得価額の総額 ÷ 年中取得数量の合計
前年から繰り越した暗号資産がある場合は、取得価額の総額と数量にそれぞれ前年末の評価額と数量を加算する。
計算例(単年度)
以下の取引データで計算する(移動平均法との比較に同じデータを使用)。
| 日付 | 取引内容 | 数量 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 3/1 | BTC購入 | 4BTC | 1,845,000円 |
| 6/20 | BTC購入 | 2BTC | 1,650,000円 |
| 7/10 | BTC売却 | 2BTC | 2,400,000円 |
| 9/15 | BTC購入 | 0.5BTC | 542,800円 |
| 11/30 | BTC売却 | 3BTC | 2,895,000円 |
総平均法による計算:
① 年中取得価額の総額:1,845,000 + 1,650,000 + 542,800 = 4,037,800円
② 年中取得数量の合計:4 + 2 + 0.5 = 6.5BTC
③ 年末1単位当たりの取得価額:4,037,800円 ÷ 6.5BTC = 621,200円
④ 年末保有評価額:621,200円 × 1.5BTC = 931,800円
⑤ 譲渡原価:4,037,800円 − 931,800円 = 3,106,000円
⑥ 所得金額:(2,400,000 + 2,895,000)− 3,106,000円 = 2,189,000円
総平均法では、すべての購入を一括して平均するため、年末に1回計算すれば足りる。計算が簡便であることが最大の利点である。
計算例(複数年度)
より複数年にまたがるケースを見る。
| 日付 | 取引内容 | 数量 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 2017/8/1 | BTC購入 | 10BTC | 300万円(1BTC=30万円) |
| 2021/2/1 | BTC購入(XRP→BTC交換) | 1BTC | 300万円(1BTC=300万円) |
| 2021/4/1 | BTC売却 | 2BTC | 1,300万円(1BTC=650万円) |
| 2021/5/1 | BTC取得(エアドロップ) | 1BTC | 600万円(1BTC=600万円) |
| 2021/11/1 | BTC売却 | 8BTC | 5,600万円(1BTC=700万円) |
2021年12月末のBTC保有数は5BTCである。
① 取得価額の総額:300万 + 300万 + 600万 = 1,200万円
② 取得数量の合計:10 + 1 + 1 = 12BTC
③ 1BTC当たりの取得価額:1,200万円 ÷ 12BTC = 100万円
2017年から2020年の間、BTCの売却や交換は一切行っていないため、この期間の年末時点での取得価額の計算は省略できる。課税イベントが発生していない年度は損益計算の必要がない。
移動平均法の計算方法
【結論】移動平均法は、暗号資産を取得する都度、その時点で保有する暗号資産の簿価総額を保有数量で除して平均単価を再計算する方法である。年の途中で利益を概算計算できるため、ふるさと納税の控除限度額の把握に活用できる(所得税法施行令第119条の2、国税庁FAQ 2-4)。
計算式
取得時点の平均単価 = 取得時点で保有する暗号資産の簿価の総額 ÷ 取得時点で保有する暗号資産の数量
「年12月31日から最も近い日に算出された取得時点の平均単価」が「年末時点での1単位当たりの取得価額」となる。
国税庁FAQの計算例(単年度・総平均法と同一取引データ)
| ステップ | 計算 |
|---|---|
| 3/1購入後 | 1,845,000円 ÷ 4BTC = 461,250円 |
| 6/20購入後 | (461,250円 × 4BTC + 1,650,000円)÷ 6BTC = 582,500円 |
| 7/10売却 | 売却2BTC → 残4BTC × 582,500円 = 2,330,000円(簿価) |
| 9/15購入後 | (582,500円 × 4BTC + 542,800円)÷ 4.5BTC = 638,400円 |
| 11/30売却 | 売却3BTC → 残1.5BTC |
④ 年末1単位当たりの取得価額:638,400円(9/15が12/31に最も近い取得日)
⑤ 年末保有評価額:638,400円 × 1.5BTC = 957,600円
⑥ 譲渡原価:4,037,800円 − 957,600円 = 3,080,200円
⑦ 所得金額:(2,400,000 + 2,895,000)− 3,080,200 = 2,214,800円
計算例(前提は総平均法の計算例(複数年度)と同じ)
移動平均法では、売却時点で利益を計算できる。
2021年2月1日の購入後の平均単価は以下のとおりである。
(30万円 × 10BTC + 300万円)÷ 11BTC = 545,455円
2021年4月1日に2BTCを1,300万円で売却した時点の利益:
1,300万円 −(545,455円 × 2BTC)= 11,909,090円
総平均法ではこの時点で利益を算出できない(年末まで待つ必要がある)。移動平均法は年の途中で所得金額の概算が把握できるため、ふるさと納税の控除限度額の計算に活用できる。
両者の比較
【結論】同一取引データで比較すると、総平均法の所得金額は2,189,000円、移動平均法は2,214,800円となり、25,800円の差が生じる。長期的にはどちらを使っても最終利益の総額は同じになるが、各年度への利益配分が異なるため、累進税率の下では総税負担額に差が出る(所得税法第48条の2)。
| 項目 | 総平均法 | 移動平均法 |
|---|---|---|
| 法定評価方法 | 個人 | 法人 |
| 計算タイミング | 年末に一括計算 | 取得の都度再計算 |
| 年中の利益把握 | 不可(年末まで待つ) | 可能(売却時に算出) |
| 計算の簡便さ | 簡便 | やや複雑 |
| 年末1BTC当たり取得価額(FAQ例) | 621,200円 | 638,400円 |
| 譲渡原価(FAQ例) | 3,106,000円 | 3,080,200円 |
| 所得金額(FAQ例) | 2,189,000円 | 2,214,800円 |
利益に対する影響の方向は、その年の取引パターン(購入と売却のタイミング・価格推移)によって変わるため、常にどちらが有利とは断言できない。
評価方法の届出と変更手続き
【結論】評価方法の届出期限は、初めて暗号資産を取得した年分の確定申告期限(原則翌年3月15日)である。届出をしない場合は法定評価方法(個人=総平均法)が適用される。変更には申請書の提出が必要で、変更前の方法を3年以上採用していないと却下される可能性がある(所得税法施行令第119条の4、国税庁FAQ 2-5・2-6)。
届出の手続き
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 届出期限 | 初めて暗号資産を取得した年分の確定申告期限(原則翌年3月15日) |
| 届出先 | 納税地の所轄税務署長 |
| 届出書 | 「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」 |
| 届出が必要な場面 | ①初めて暗号資産を取得した場合 ②異なる種類の暗号資産を取得した場合 |
| 届出しない場合 | 総平均法が自動適用(個人の法定評価方法) |
届出書の様式は国税庁のウェブサイト(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/21kasou.htm )から取得できる。
変更の手続き
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請期限 | 変更しようとする年の3月15日まで |
| 申請先 | 納税地の所轄税務署長 |
| 申請書 | 「所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書」 |
| みなし承認 | 提出した年の12月31日までに承認・却下の通知がなければ承認とみなす |
| 却下の可能性 | 変更前の方法を3年以上採用していない場合等 |
変更申請書の様式は国税庁のウェブサイト(https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/25kasou.htm )から取得できる。
どちらを選ぶべきか(有利不利の判断基準)
【結論】長期的には両者の最終利益総額は同じになる。ただし累進税率が適用されるため、各年度の利益配分によって総税負担額に差が生じる。年ごとの利益の平準化を意識する場合は移動平均法、計算の簡便さを優先する場合は総平均法が適している(所得税法第89条)。
利益額が大きい年ほど税率が高くなる累進税率の仕組みの下では、利益を各年度に平準化した方が総税負担を抑えられる。また、暗号資産の雑所得で赤字が出た場合、その赤字は他の所得と損益通算できず、翌年への繰越もできない(所得税法第69条)。含み損をその年の雑所得の利益の範囲内で実現させるタイミング管理が重要であり、年中に利益額を把握できる移動平均法はこの判断に有利である。
一方、取引回数や取引金額が少ない場合は、計算方法の違いによる実質的な税額差は小さいことが多い。また、計算の手間についても損益計算ソフトを利用している場合はどちらも変わらない。届出をしていない個人の多くは法定評価方法の総平均法がそのまま適用されており、実務上はこれで問題ないケースが大半である。
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よくある質問(FAQ)
Q1. 届出をしなかった場合、どちらの評価方法が適用されますか?
個人は総平均法、法人は移動平均法が自動適用される。届出をしなかった場合の法定評価方法として、個人は総平均法(所得税法施行令第119条の5)、法人は移動平均法(法人税法施行令第118条の6)が定められている。
Q2. 暗号資産の種類ごとに異なる評価方法を選べますか?
選べる。評価方法は暗号資産の種類(銘柄)ごとに選定できる(所得税法施行令第119条の2)。BTCは総平均法、ETHは移動平均法とすることも可能である。ただし、損益計算ソフトが個別のトークンごとに評価方法を変更した場合の損益計算に対応していないことが多いので推奨はしない。
Q3. 評価方法を変更したい場合、いつまでに申請すればよいですか?
変更しようとする年の3月15日までに申請書を提出する。提出した年の12月31日までに承認・却下の通知がなければ承認とみなされる(国税庁FAQ 2-6)。ただし変更前の方法を3年以上採用していないと却下される可能性がある。
Q4. 総平均法と移動平均法で最終的な利益額は変わりますか?
長期的にはどちらを使っても最終利益の総額は同じになる。ただし各年度への利益配分が異なるため、累進税率(所得税法第89条)の影響で年度ごとの税額は変わる。利益が大きい年と小さい年の差が大きいほど、評価方法の選択が税額に影響する。
Q5. 年の途中で暗号資産の含み益を把握したい場合、どちらが便利ですか?
移動平均法が便利である。移動平均法は取得のたびに平均単価を再計算するため、売却時点で所得金額を算出できる。ふるさと納税の控除限度額を概算する際に活用可能である。総平均法は年末まで1単位当たりの取得価額が確定しない。
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関係法令
- 所得税法第48条の2(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)
- 所得税法第69条(損益通算)
- 所得税法第89条(税率)
- 所得税法施行令第101条(評価方法の変更)
- 所得税法施行令第119条の2(暗号資産の評価の方法)
- 所得税法施行令第119条の3(暗号資産の取得価額)
- 所得税法施行令第119条の4(暗号資産の評価方法の届出)
- 所得税法施行令第119条の5(暗号資産の法定評価方法)
- 所得税基本通達47-16の2、48の2-3
- 法人税法施行令第118条の6(法人の法定評価方法=移動平均法)
- 国税庁FAQ 2-4(暗号資産の譲渡原価)
- 国税庁FAQ 2-5(暗号資産の評価方法の届出)
- 国税庁FAQ 2-6(暗号資産の評価方法の変更手続)
