暗号資産の脱税事件では、手法を問わず有罪判決が下されており、「暗号資産なら把握されない」という認識は通用しない。
- 理由① 海外法人スキームによる所得秘匿、架空経費の計上、単純な無申告のいずれのパターンでも有罪判決が確定している。量刑は懲役1年〜1年2月(執行猶予3年)、罰金800万〜1,800万円が中心。
- 理由② 裁判所は「暗号資産同士の交換でも課税される認識があった」として、ほ脱の故意を広く認定している。「制度が不明確だった」「課税されるとは知らなかった」という弁護側の主張は退けられている。
- 条件 ほ脱犯の法定刑は10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその併科。これに加えて本税+重加算税+延滞税が課されるため、刑事罰と税務ペナルティの二重の制裁を受ける。
所得税法第238条
この記事でわかること
- 海外法人を利用した脱税スキームの手口と裁判所の認定
- 架空経費スキーム(LSI社事件)の仕組みと摘発経緯
- 暗号資産ほ脱事件の量刑水準
- 弁護人の「課税要件不備」主張が退けられた法的論理
- 脱税事件から読み取れる実務上の教訓
海外法人スキームによる脱税事件|東京地裁令和6年判決2件
【結論】ドバイの法人(A社)を利用した脱税スキームでは、暗号資産をA社に帰属するかのように装い、雑所得を除外する方法で所得を秘匿した被告人2名がそれぞれ有罪となった。裁判所は暗号資産の交換時点で含み益が実現し課税対象となると認定し、ほ脱の故意を認めた(所得税法第238条)。
事件の概要
2件の判決は、同一の脱税スキームを利用した別の被告人に対するものである。
| 項目 | 事件①(東京地裁R6.6.3) | 事件②(東京地裁R6.3.21) |
|---|---|---|
| TAINSコード | Z999-9178 | Z999-9177 |
| ほ脱所得 | H29年分:約2,595万円、H30年分:約7,271万円 | H30年分:約8,817万円 |
| ほ脱税額 | H29年分:約938万円、H30年分:約3,037万円 | 約3,588万円 |
| 量刑 | 懲役1年2月(執行猶予3年)・罰金1,100万円 | 懲役1年(執行猶予3年)・罰金800万円 |
| 共謀者 | A社業務執行社員E、取引媒介者L | A社取引媒介者D、業務執行社員E |
スキームの仕組み
裁判所が認定した脱税スキームの実態は以下のとおりである。
ステップ1:暗号資産のBTCへの交換
被告人は自己が保有するADA(エイダ)を自らの計算でBTC(ビットコイン)に交換した。この時点で、ADAの取得価額とBTCの時価の差額(含み益)が実現し、課税対象となる。
ステップ2:A社関連会社の株式との交換を装う
暗号資産とA社関連会社の株式を交換する契約を締結した。しかし裁判所は、この株式は「実質的に価値がなく、経済的に不合理な取引」と認定した。
ステップ3:暗号資産の換金と還流
A社は被告人の暗号資産を速やかに日本円に換金し、一律8%を差し引いた金額を「事業資金」または「貸付金」の名目で被告人に送金した。貸付金については「返済は不要」とA社従業員が説明していた。
ステップ4:後付けの書面作成
被告人への金銭交付の名目が事業資金から貸付けに変更され、後から書面が作成された。
裁判所は「上記の暗号資産譲渡スキームの実態は、被告人の暗号資産を現金化し、手数料を控除して被告人に還流させるもの」と認定した。
ほ脱の故意が認められた根拠
裁判所は、被告人がスキーム利用前から2つの取引所での暗号資産取引を自ら申告していた事実を重視した。すなわち、暗号資産の交換によっても所得が発生し課税され得ることを認識していたにもかかわらず、A社スキームを利用した取引分の所得を除外して虚偽の確定申告を行った以上、ほ脱行為及びその故意は「優に認められる」と判示した。
弁護人の「課税要件不備」主張
事件①では、弁護人が「所得税法第48条の2の施行(平成31年4月1日)に至るまで計算及び評価の方法が明確に定められておらず、課税要件について法律の定めを欠いていた」として、憲法第84条(租税法律主義)違反を主張した。
裁判所はこの主張を次の理由で退けた。
- 平成29年4月の時点で、資金決済に関する法律により暗号資産は支払手段として位置付けられていた
- 同年及び平成30年において、暗号資産が財産的価値を有する資産であることは課税関係の法令においても前提とされていた
- 国税当局によりインターネット上で取得原価の算定方法等のガイドラインが公開されていた
- 所得税法第48条の2は「従前の課税による計算方法等を法律上も明確化したもの」にすぎない
事件②でも、「暗号資産は消費税も課されない単なるデータであり、現実の金銭に換金しなければ所得を認識し得ない」との弁護人の主張に対し、裁判所は「暗号資産はそれ自体投資の対象となり、支払手段としても広く用いられているなど、財産的価値として認識されている」として退けた。
単純なほ脱事件|金沢地裁令和3年3月30日判決
【結論】暗号資産取引で得た約7,400万円の利益を全く申告しなかった被告人(ほ脱率100%)に対し、懲役1年、罰金1,800万円(執行猶予3年)の有罪判決が下された。裁判所は「計算が複雑だから」という言い訳を認めず、「安易に所得を秘匿した」と強く非難した。
この事件は海外法人スキームのような手の込んだ手法ではなく、暗号資産取引の雑所得を申告書から単純に除外したケースである。
裁判所は量刑理由として以下を指摘した。
- ほ脱額は合計7,400万円余りと多額、ほ脱率は100%と極めて高率
- 莫大な利益を得ていながら、計算方法が複雑であることや資料の取寄せに時間を要することなどから、税務当局に問い合わせるなどの適切な措置をとることなく安易に所得を秘匿した
- 国民に課せられた納税義務を誠実に果たそうとする姿勢に欠けており、「強い非難に値する」
一方、税務調査後に修正申告を行い本税及び過少申告加算税(合計約1,500万円)を納付したこと、事実を認めて反省の弁を述べたこと、前科がないことが酌量事由として考慮された。
架空経費スキーム(LSI社事件)
損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産の税務調査に関するご相談はこちら」をご覧ください。
【結論】利益圧縮のためにコンサルティング会社(LSI社)から架空の経費請求書を取得し、暗号資産取引の利益を8,000万円減額して申告した事案も摘発されている。このスキームは節税ではなく脱税であり、コンサルティング料として支払った約1,347万円も損失となった。
LSI社の手口は以下のとおりである。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ①資金の循環 | 利益を減らしたい顧客に対し、減額したい金額と同額の請求書を発行。顧客がLSIに振込み、手数料を控除して現金で還流 |
| ②資金の融通 | 顧客が資金を用意できない場合、LSIが現金を用意し顧客に渡して振り込ませることもあった |
| ③経費の偽装 | 「節税コンサルティング」のパンフレットを作成し、スキームの概要やコンサルティング料を記載 |
本件の被告人は、暗号資産取引で利益を得ていたところ、LSIの担当者から「適法である」と説明を受けて利用を決めた。平成30年2月15日にLSIから現金8,000万円を受け取り、自己の口座に入金した上でLSIに8,000万円を振り込み、さらにコンサルティング料として約1,347万円を現金で支払った。LSIからは8,000万円を経費とする請求書が送付され、被告人はこれを基に確定申告で経費計上した。
国税局の調査を受け、被告人は修正申告を行った。LSIの「節税コンサルティング」は実際には顧客の税金を減額する効果のないものだった。
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脱税事件の量刑水準まとめ
【結論】暗号資産の脱税事件の量刑は、ほ脱額3,000万〜7,400万円の範囲で懲役1年〜1年2月(いずれも執行猶予3年)、罰金800万〜1,800万円に分布している。初犯で修正申告・納付済みの場合に執行猶予が付く傾向がある。
| 事件 | ほ脱税額 | ほ脱率 | 懲役 | 罰金 | 執行猶予 |
|---|---|---|---|---|---|
| 東京地裁R6.6.3 | 約3,976万円(2年分合計) | — | 1年2月 | 1,100万円 | 3年 |
| 東京地裁R6.3.21 | 約3,588万円 | — | 1年 | 800万円 | 3年 |
| 金沢地裁R3.3.30 | 約7,400万円 | 100% | 1年 | 1,800万円 | 3年 |
量刑に影響する要素として、裁判所は以下を考慮している。
重くなる要素:ほ脱額が多額、ほ脱率が高い、手の込んだスキームの利用、犯行後の罪証隠滅工作
軽くなる要素:前科がない、修正申告を行い本税を納付、事実を認めて反省
よくある質問(FAQ)
Q1. 暗号資産の脱税で逮捕されることはありますか?
ほ脱犯として刑事訴追される可能性がある。所得税法第238条に基づき、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはその併科に処される。本稿の事例はすべて懲役刑(執行猶予付き)と罰金の併科となっている。
Q2. 海外法人を使えば暗号資産の税金を合法的に減らせますか?
海外法人に暗号資産を帰属させる名目の脱税スキームは、実態がなければ仮装行為として否認される。東京地裁令和6年判決2件では、海外法人(A社)との取引は実質的に暗号資産の現金化と還流にすぎないと認定され、有罪判決が下されている。
Q3. 「計算方法がわからなかった」は脱税の言い訳になりますか?
ならない。金沢地裁令和3年判決では「税務当局に問い合わせるなどの適切な措置をとることなく安易に所得を秘匿した」として、計算の複雑さは免責事由にならないと明確に判示された。不明な場合は税務当局への問い合わせや専門家への相談が必要。
Q4. 修正申告すれば刑事罰は免れますか?
修正申告と納付は量刑の酌量事由にはなるが、刑事罰自体を免れる根拠にはならない。金沢地裁判決では修正申告・納付済みでも懲役1年・罰金1,800万円の有罪判決が下されている。ただし、自主的な期限後申告の場合は無申告加算税が5%に軽減される等、行政罰のレベルでは有利になる。
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関係法令
- 所得税法第238条(ほ脱犯)
- 所得税法第36条第1項(収入金額)
- 所得税法第48条の2(暗号資産の譲渡原価等の計算及びその評価の方法)
- 憲法第84条(租税法律主義)
- 資金決済に関する法律(暗号資産の定義・支払手段性)
