個人と法人どちらが有利?|税率比較と分離課税後の見通し

結論

現行法では暗号資産の利益が年間900万円超で法人が税率面で有利になる。ただし改正所得税法(令和8年3月31日成立)により分離課税20%が導入されたため、施行後はこの損益分岐点が大きく変わる。

  • 理由① 個人の暗号資産利益は総合課税(最大所得税45%+住民税10%=55%)が適用される一方、法人税等の実効税率は約30〜34%で頭打ちとなる。利益が大きいほど個人と法人の税率差が開き、年間900万円超が法人化検討の目安となる。
  • 理由② 改正所得税法(令和8年3月31日成立)により分離課税20%(所得税15%+住民税5%)が導入された。施行後は個人の税率が法人税等の実効税率を下回り、税率面では個人が有利となるケースが大幅に増える。
  • 条件 税率比較だけで法人化を判断すべきではない。法人は設立・維持コスト(年間数十万円〜)、社会保険料負担、役員報酬の設計、期末時価評価課税の影響がある。分離課税導入後に法人を解散するコストも含めた総合判断が必要。

所得税法第89条 / 所得税法等の一部を改正する法律(令和8年3月31日成立)

この記事でわかること

  • 個人の累進税率(所得税+住民税、最大約55%)と法人実効税率(約30〜34%)の比較
  • 暗号資産の利益水準ごとの個人・法人の税負担シミュレーション
  • 分離課税20%が導入された場合に個人・法人比較がどう変わるか
  • 税率以外に考慮すべき法人化のコスト・リスク
  • 「特定暗号資産」に該当しない暗号資産の取扱い
目次

現行法における個人の税率構造

【結論】個人が暗号資産取引で得た利益は原則として雑所得に区分され、他の所得と合算して5%〜45%の累進税率(住民税10%を加えると最大約55%)が適用される(所得税法第89条、第35条)。

個人の暗号資産の利益は「雑所得」として総合課税の対象となる(国税庁FAQ 2-2)。総合課税では、給与所得や事業所得など他の所得と合算した課税所得金額に対し、超過累進税率が適用される。

所得税の速算表(所得税法第89条)

課税所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0円
195万円超〜330万円以下 10% 97,500円
330万円超〜695万円以下 20% 427,500円
695万円超〜900万円以下 23% 636,000円
900万円超〜1,800万円以下 33% 1,536,000円
1,800万円超〜4,000万円以下 40% 2,796,000円
4,000万円超 45% 4,796,000円

上記に住民税10%と復興特別所得税(所得税額×2.1%、令和19年まで)が加わる。暗号資産の利益だけで課税所得が4,000万円を超える場合、所得税45%+住民税10%となる。

所得税45%+住民税10%=合計約55%

関係法令:所得税法第89条、第35条 / 国税庁FAQ 2-2

法人の実効税率

【結論】法人の実効税率は、資本金1億円以下の中小法人で所得800万円以下の部分が約22〜24%、800万円超の部分が約33〜34%である。個人の最高税率(約55%)と比較すると、所得が大きいほど法人が有利になる(法人税法第66条)。

法人が暗号資産取引で利益を得た場合、その利益は法人の所得として法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税の5税目が課される。

法人実効税率の目安(中小法人・標準税率ベース)

所得区分 法人税率 実効税率(目安)
年800万円以下の部分 15%(軽減税率) 約22〜24%
年800万円超の部分 23.2% 約33〜34%

※資本金1億円以下の中小法人、標準税率ベース。法人住民税・事業税の超過税率は自治体により異なる。

※令和8年4月1日以後開始事業年度からは防衛特別法人税(法人税額から500万円控除後×4%)が加わり、実効税率は約0.8〜0.9%上昇する見込み。

関係法令:法人税法第66条

所得水準別の税負担比較

【結論】暗号資産の利益のみで比較した場合、課税所得が約900万円を超えるあたりから法人の実効税率が個人の税率を下回り始める。利益が4,000万円を超えると、個人(約55%)と法人(約33〜34%)の差は20ポイント以上に広がる(所得税法第89条、法人税法第66条)。

暗号資産の利益を「課税所得」と仮定し、個人と法人の税負担を比較する。個人は所得税+住民税+復興特別所得税、法人は実効税率ベースで試算する。

個人vs法人 税負担比較(概算)

暗号資産の課税所得 個人の税率(所得税+住民税) 法人の実効税率(中小法人) 有利な形態
300万円 約20%(所得税10%+住民税10%) 約22〜24% 個人
500万円 約30%(所得税20%+住民税10%) 約22〜24% 法人
900万円 約33%(所得税23%+住民税10%) 約30〜34% ほぼ同等
1,800万円 約43%(所得税33%+住民税10%) 約33〜34% 法人
4,000万円 約50%(所得税40%+住民税10%) 約33〜34% 法人
4,000万円超 約55%(所得税45%+住民税10%) 約33〜34% 法人

※個人の税率は暗号資産の利益のみを前提とした概算。給与所得等がある場合は合算後の税率が適用されるため、より低い利益額でも高い税率帯に入る。

※法人の実効税率は所得800万円超の部分の概算値。自治体により異なる。

この税率差だけを見ると、利益が大きい場合に法人が圧倒的に有利に見える。しかし、暗号資産は時価の変動が極めて激しく、今後も安定的に利益を出し続けられるかの予測は困難である。共著書籍では「法人設立そのものが博打となる」と指摘されている。単年の利益だけを根拠に法人設立を判断することのリスクは、十分に認識すべきである。

分離課税20%が導入された場合の比較

【結論】改正所得税法(令和8年3月31日成立)により、「特定暗号資産」の譲渡所得等に対する申告分離課税(税率20%:所得税15%+住民税5%)が導入された。施行後は個人の税率が法人の実効税率(約30〜34%)を下回るため、税率差を動機とした法人化のメリットは大幅に縮小する。

改正所得税法(令和8年3月31日成立)は、金融商品取引法改正を前提に、「国民の資産形成に資する暗号資産」(特定暗号資産)の取引から生ずる所得を分離課税の対象とすることを規定した。

分離課税後の個人vs法人 税負担比較

暗号資産の課税所得 個人の税率(分離課税) 法人の実効税率(中小法人) 有利な形態
300万円 20% 約22〜24% 個人
900万円 20% 約30〜34% 個人
1,800万円 20% 約33〜34% 個人
4,000万円 20% 約33〜34% 個人
1億円 20% 約33〜34% 個人

分離課税が施行されれば、利益がどれだけ大きくても個人の税率は一律20%に固定される。法人の実効税率(約30〜34%)を10ポイント以上下回るため、純粋な税率比較では個人が有利となる。

分離課税の対象と注意点

分離課税の対象となる「特定暗号資産」は、金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等に限定される。以下の点に注意が必要である。

  • 「特定暗号資産」の具体的な範囲は、金融商品取引法改正の内容次第であり、国税庁の通達・FAQも未公表のため詳細は今後明確化される
  • 暗号資産取引業(仮称)を行う者に対して譲渡等をした場合に適用される
  • DEXトークンやDeFiプロトコルのガバナンストークン等が「特定暗号資産」に含まれるかは不明
  • 適用開始は金商法改正の施行日の属する年の翌年1月1日以降であり、具体的な年は金商法改正の国会審議次第

「特定暗号資産」に該当しない場合

特定暗号資産以外の暗号資産については、分離課税後もなお総合課税の対象となるが、改正法により以下の三重の制限が新たに設けられた。ただし、あくまでもこれは仮にその暗号資産が譲渡所得に該当する場合のみの話なので、雑所得に該当する場合は今まで通りである。

  • 譲渡所得の特別控除額(50万円)が控除されない
  • 5年超保有の長期譲渡所得の1/2課税措置が適用されない
  • 他の総合課税所得との損益通算が適用されない

このため、保有する暗号資産が「特定暗号資産」に該当するか否かが、個人・法人比較の前提条件として極めて重要となる。

税率以外の判断要素

【結論】個人と法人の有利不利は税率だけで判断できない。法人には設立・維持コスト、期末時価評価課税(法人税法第61条第2項)、社会保険料負担、経理・申告コストなどの追加コストがあり、これらを加味した総合判断が必要である。

法人化を検討する際、税率比較だけでなく以下の要素を総合的に評価する必要がある。

法人化のメリット(税率以外)

  • 経費の範囲が個人より広い(役員報酬による所得分散、出張旅費日当、社宅等)
  • 欠損金の繰越控除が10年(個人の雑所得は繰越不可。分離課税後は特定暗号資産につき3年繰越が可能)
  • 暗号資産以外の事業との損益通算が可能

法人化のデメリット・リスク

  • 期末時価評価課税:活発な市場が存在する暗号資産は、法人では期末に時価評価し、含み益にも課税される(法人税法第61条第2項)。個人にはこの課税はない
  • 設立費用:登録免許税・定款認証費用等で最低約20〜25万円
  • 維持コスト:法人住民税の均等割(赤字でも年約7万円)、決算・申告の税理士費用、社会保険料
  • 個人から法人への暗号資産の移転:移転時に個人側で含み益に課税される(時価での譲渡扱い。所得税法第59条第1項参照)
  • 利益の変動リスク:暗号資産の時価変動は激しく、翌年以降に利益が出ない場合でも法人の維持コストは継続的に発生する

分離課税後の展望

以上から今後は暗号資産投資用法人設立のニーズは減少されることが予想される。ただし、分離課税の対象となるトークンは基本的に上場から一定時間経過して安全性が確認されたものになることから、HYPEやADAのような何十倍もの利益を狙う人には向かない(安く入手できるタイミングを逃す)。よって一攫千金を狙うユーザーやガチ勢にとっては、今後も暗号資産投資法人は一定の選択肢となり得る。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産法人の税務を依頼する」をご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 暗号資産の利益がいくらを超えたら法人化を検討すべきですか?

現行法では、年間の課税所得が900万円を超えるあたりが目安となる。所得税率23%+住民税10%が法人実効税率(約33〜34%)とほぼ同等となるラインであり、これを超えると法人が税率面で有利になる(所得税法第89条)。ただし、10倍以上の利益や税率以外のコスト・リスクを含めると、利益が1,000万円以上で安定的に見込める場合に検討すべきケースが多い。

Q2. 分離課税が施行されたら法人化するメリットはなくなりますか?

税率差を動機とした法人化のメリットは大幅に縮小する。分離課税20%が施行されれば、個人の税率が法人の実効税率(約30〜34%)を常に下回るため、税率面では法人化する理由がなくなる(改正所得税法・令和8年3月31日成立)。ただし、経費の範囲や所得分散など税率以外の要素でメリットがある場合は、引き続き法人化が有効なケースもある。

Q3. 法人で暗号資産を保有すると期末に含み益に課税されるのですか?

課税される。活発な市場が存在する暗号資産(市場暗号資産)のうち、特定自己発行暗号資産・特定譲渡制限付暗号資産に該当しないものは、法人の各事業年度末に時価評価し、評価損益を益金または損金に算入する(法人税法第61条第2項)。個人にはこの期末時価評価の制度はない。

Q4. すでに法人で暗号資産を保有していますが、分離課税後に個人に戻すことはできますか?

法人から個人への暗号資産の移転は可能だが、移転時に法人側で譲渡損益が認識される。法人が保有する暗号資産を役員個人に移転する場合、移転時の時価と帳簿価額の差額が法人の益金または損金となる。また、時価よりも低い価額で移転すると、役員賞与として法人側で損金不算入、個人側で給与所得課税が生じるリスクがある。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産法人の税務を依頼する」をご覧ください。

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関係法令

参考文献

  • 所得税法第35条(雑所得)
  • 所得税法第89条(税率)
  • 所得税法第59条第1項(みなし譲渡)
  • 所得税法第69条第1項(損益通算)
  • 法人税法第61条第2項(暗号資産の期末時価評価)
  • 法人税法第66条(法人税率)
  • 国税庁FAQ 2-2(所得区分)
  • 国税庁FAQ 2-11(損失の取扱い)
  • 所得税法等の一部を改正する法律(令和8年3月31日成立・同日公布・4月1日施行)
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