暗号資産同士の交換非課税の展望

結論

暗号資産同士の交換非課税は令和8年度税制改正大綱に盛り込まれなかった。現行法では交換時点で課税される取扱いが当面継続する。

  • 理由① 現行法では暗号資産同士の交換は「譲渡」に該当し、交換時点の時価で損益を認識する。日本円に換金していなくても、BTC→ETHのスワップだけで課税イベントが発生する。DeFiでのスワップが頻繁なユーザーほど課税インパクトが大きい。
  • 理由② 業界団体(JCBA等)は継続的に交換非課税を要望しているが、分離課税20%の導入が優先され、交換非課税は改正項目から外れた。分離課税と交換非課税は別論点であり、分離課税が実現しても交換時の課税は残る。
  • 条件 交換非課税が将来実現した場合、交換時の取得価額をどう引き継ぐか(簿価引継ぎの方法)が新たな論点となる。制度設計次第では計算の複雑さがむしろ増す可能性もあり、「非課税=簡素化」とは限らない。

所得税法第36条第1項・第2項 / 国税庁FAQ 1-3 / 令和8年度税制改正大綱

この記事でわかること

  • 暗号資産同士の交換が課税される現行制度の根拠と計算方法
  • 業界団体(JCBA・JVCEA・JBA)の改正要望の内容と経緯
  • 令和8年度改正で見送られた背景
  • 交換非課税を実現する際に生じる簿価計算の技術的課題
  • 今後の見通しと実務上の対応
目次

現行制度|暗号資産同士の交換は課税対象

【結論】現行の所得税法では、暗号資産を別の暗号資産と交換した場合、日本円に換金していなくても「譲渡」として課税される。受け取った暗号資産の交換時における時価が収入金額となる(所得税法第36条第1項・第2項、国税庁FAQ 1-3)。

国税庁FAQ(1-3)は、暗号資産Aを暗号資産Bと交換した場合について「暗号資産Aで暗号資産Bを購入した」とみなし、暗号資産Aの譲渡に係る所得金額を計算する必要があると明記している(なお、東京地裁令和7年6月3日判決(tains;z888-2768)においても交換時に譲渡に係る所得金額は計算すべきという結論を下している)。

計算例

200万円で購入した10万ADA(取得単価20円)のうち、5万ADAを6ETH(交換時の時価:1ETH=40万円)で交換した場合:

項目計算金額
①収入金額6ETH × 40万円240万円
②取得価額5万ADA × 20円100万円
③所得金額①-②140万円

日本では納税も税額計算もすべて日本円で行うことが大原則である。暗号資産のまま納税することはできず、金銭以外の物や権利で収入した場合は、その取得時における時価を収入金額に算入する必要がある(所得税法第36条第2項)。この考え方はNFTなど暗号資産以外の資産を受け取った場合も同様である。

DeFiユーザーへの影響

暗号資産同士の交換が課税対象であることは、DeFiユーザーに特に大きな影響を与える。DEXでのスワップ、流動性プールへの預入・引出、ラップドトークンへの変換など、DeFi取引では日常的に暗号資産同士の交換が発生する。1回のDeFi運用で数十回の交換が生じることも珍しくなく、その都度の損益計算は極めて煩雑である。

関係法令:所得税法第36条第1項・第2項 / 国税庁FAQ 1-3

業界の改正要望と議論の経緯

【結論】暗号資産同士の交換の非課税化は、2022年から業界団体が継続的に要望している改正項目である。ただし「検討されるべきである」という表現にとどまっており、分離課税のように「確実に実現すべき」とされた項目と比べて優先度は低い位置づけにある。

要望の経緯

時期主体内容
2022年11月自民党web3PT「暗号資産同士の交換による損益を非課税とすることが検討されるべき」と提言
2023年4月自民党web3PTホワイトペーパー「法定通貨に交換した時点でまとめて課税対象とすることが検討されるべき」と継続
2024年7月JCBA・JVCEA共同要望「暗号資産同士の交換時は非課税、法定通貨交換時に課税」を要望項目に含む
2025年7月JBA要望「暗号資産同士の交換時における課税の撤廃」を要望
2025年12月令和8年度税制改正大綱交換非課税は盛り込まれず。分離課税・損失繰越のみ

注目すべきは表現の温度差である。分離課税については2022年時点で「検討されるべきである」とされた後、令和7年度大綱で「見直しを検討する」、令和8年度大綱で具体的な制度設計が示されるという段階を踏んで実現に向かった。一方、交換非課税は「検討されるべきである」の段階から進展しておらず、優先度に明確な差がある。

交換非課税を支持する論拠

業界側が交換非課税を求める主な理由は以下の通りである。

  • 投資の継続性:法定通貨に換金していない段階では「利益を実現していない」とみなすべきである
  • 納税資金の問題:含み益に課税されても、手元に日本円がなく納税資金が確保できないケースがある
  • 計算の煩雑さ:DeFi・DEXでの多数のスワップについて逐一損益計算を行うのは現実的でない
  • web3の利便性阻害:暗号資産が主要な決済手段となる時代に、交換のたびに課税されると利用を躊躇させる

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

関係法令:自民党web3PT「web3関連税制に関する緊急提言」(2022年11月10日)

交換非課税を実現する際の課題

【結論】交換非課税は理論的には検討に値するが、実務上は簿価計算の循環問題・他資産との公平性・損益計算システムの対応など多くの課題がある。特に総平均法における簿価の循環は制度設計上の根本的な障壁であり、これらが令和8年度改正で見送られた背景にあると考えられる。

税法の考え方において、キャピタルゲイン(値上がり益)が確定するのは、その資産を手放した時点とされている。実際には値上がりしている時点で所得は発生しているが、それを都度確認して納税するのが一般人には困難であるため、所得税では手放した時に損益が確定するという便宜が図られている(法人は確認可能と判断されているため期末時価評価課税が適用されている)。交換非課税はこの「手放した時点で課税」という税法の根幹ルールの例外を作ることになり、他の資産への波及も含めて制度設計上のハードルが極めて高い。

簿価計算の循環問題

交換非課税を導入する場合、法定通貨に換金するまで課税を繰り延べるため、交換で受け取った暗号資産には交換前の暗号資産の取得価額を引き継ぐ処理(簿価引継ぎ)が必要になる。JCBA/JVCEAの要望書でも指摘されている通り、この簿価引継ぎと総平均法の組み合わせにより、簿価の確定が不可能になるケースがある。

循環が発生しない単純なケース

まず、交換が一方向であれば問題は起きない。

① BTC(取得価額100万円)→ ETHに交換
   ETHの取得価額 = 100万円(BTCから引継ぎ)

② ETH → SOLに交換
   SOLの取得価額 = 100万円(ETHから引継ぎ)

このように取得価額が順番に引き継がれるだけであれば、計算に支障はない。

循環が発生するケース

問題が生じるのは、交換した暗号資産が元の暗号資産に戻ってくるケースである。以下の取引を考える。

① BTC 1枚を100万円で購入
② BTC → ETHに交換(ETHの取得価額 = BTCの簿価を引継ぎ)
③ BTCをもう1枚、200万円で追加購入
④ ETH → BTCに交換(BTCに戻す)

④の時点で、BTCの総平均法による取得価額を計算しようとすると次の問題が起きる。

BTCの保有内訳取得価額
①で購入した1枚100万円
③で追加購入した1枚200万円
④でETHから戻した分?(ETHの簿価に依存)

BTCの平均取得価額を確定するには、④でETHから戻したBTCの取得価額が必要である。しかし②でETHに引き継がれた取得価額は「BTCの平均取得価額」に依存しているため、次の循環が生じる。

BTCの平均取得価額を確定したい
  → ④のBTC取得価額が必要
    → ETHの簿価(②でBTCから引継ぎ)が必要
      → BTCの平均取得価額が必要
        → ④のBTC取得価額が必要
          → …(無限ループ)

つまり「BTCの簿価を決めるためにETHの簿価が必要」で「ETHの簿価を決めるためにBTCの簿価が必要」という状態になり、どちらの取得価額も確定できなくなる。

注意:上記は2銘柄の最も単純な例だが、DeFiではBTC→ETH→USDT→SOL→MATIC→ETH→BTCのような長い交換チェーンが日常的に発生する。総平均法では年末に1年分の全取引をまとめて平均するため、チェーンが長くなるほど循環の検出と簿価の確定は困難になる。

移動平均法では循環は発生しない

この循環問題は総平均法に固有の問題である。移動平均法では取引を時系列順に1つずつ処理するため、同じ取引パターンでも循環は生じない。

① BTC 1枚を100万円で購入
   → BTC移動平均:100万円【確定】

② BTC → ETHに交換
   → ETHの取得価額 = 100万円(①時点で確定済みの値を引継ぎ)
   → BTC残高:0枚

③ BTC 1枚を200万円で追加購入
   → BTC移動平均:200万円【確定】

④ ETH → BTCに交換
   → ETHの簿価 = 100万円(②時点で確定済み)
   → BTC移動平均 =(200万 + 100万)÷ 2 = 150万円【確定】

②の時点でBTCの移動平均はすでに確定しており、ETHに引き継がれる値は固定される。④でETHがBTCに戻っても、参照するのは過去に確定済みの値であるため循環しない。

ただし、移動平均法には循環とは別の実務上の困難がある。DeFiでは同一ブロック内に複数のスワップが記録されるケースがあり、その場合の処理順序の確定が難しい。また、不可能とまでは言わないがマルチチェーンでの取引を正確な時系列に再構成する作業や、年間数万件の取引を逐次計算する計算コストも課題となる。

その他の実務課題

  • 他資産との公平性:株式や不動産の交換は課税対象であるのに、暗号資産だけ非課税にすることは税制の整合性を欠く
  • 対象範囲の線引き:外国通貨建てステーブルコイン(USDT等)への交換は「法定通貨への交換」に準じるか、「暗号資産同士の交換」に該当するか
  • 損益計算の複雑化:非課税で繰り延べた含み益を法定通貨換金時に正確に算出するために、従来よりさらに複雑な計算が必要になる可能性がある
  • システム対応:損益計算ツールが交換非課税ルールに対応するには循環検出アルゴリズムの実装が必要であり、開発コストが大きい

暗号資産の損益計算や税制改正への対応について専門家に相談したい場合は「暗号資産の損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

関係法令:所得税法第36条第1項・第2項 / 所得税法施行令第119条の2(総平均法・移動平均法)/ 国税庁FAQ 1-3

よくある質問(FAQ)

Q1. 暗号資産同士の交換は現在も課税されますか?

課税される。暗号資産を別の暗号資産と交換した場合、税務上は「暗号資産を譲渡して新しい暗号資産を購入した」とみなされ、譲渡した暗号資産の所得金額を計算する必要がある(所得税法第36条第1項・第2項、国税庁FAQ 1-3)。

Q2. 分離課税が実現すれば交換も非課税になりますか?

ならない。令和8年度税制改正大綱で示された分離課税は、課税方式(総合課税→分離課税)と税率(最大55%→20%)の変更であり、交換時の課税タイミング自体は変わらない。交換のたびに損益を計算する必要がある点は現行制度と同じである。

Q3. 暗号資産同士の交換が非課税になる見通しはありますか?

短期的には実現の可能性は低い。業界団体が継続的に要望しているが、令和8年度改正では分離課税・損失繰越が優先された。簿価計算の循環問題や他資産との公平性の論点が残っており、分離課税の施行・定着後に改めて議論される可能性がある。

Q4. DEXでのスワップも課税対象ですか?

課税対象である。DEXでのスワップも暗号資産同士の交換に該当し、受け取った暗号資産の交換時の時価で収入金額を計算する(所得税法第36条第2項)。国内取引所・海外取引所・DEXの区別なく同じルールが適用される。

損益計算や申告を専門家に依頼したい場合は「暗号資産・DeFiの損益計算を依頼する(Cryptorch)」をご覧ください。

関連記事・サービスページ

関連記事

専門の税理士に依頼する場合

暗号資産の確定申告の全体像・最新情報は「暗号資産の確定申告ガイド【2027年版】」をご覧ください。

関係法令

  • 所得税法第36条第1項・第2項(収入金額)
  • 所得税法施行令第119条の2(総平均法・移動平均法)
  • 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」1-3(暗号資産同士の交換)
  • 自民党web3PT「web3関連税制に関する緊急提言」(2022年11月10日)
  • 令和8年度税制改正大綱(令和7年12月19日)
必要に応じてご共有ください
  • URLをコピーしました!
目次